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深読みツイン・ピークス② トレモンド夫人

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる②」

 

第2章「トレモンド夫人」

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さて、トレモンド夫人です。ツイン・ピークスの顔と言ったらご存じ丸太おばさんですが、その双璧を成すのがこのトレモンド夫人ではないでしょうか。それを証明でもするかのように映画『ローラ・パーマー最期の7日間』のエンドクレジットでは、ローラ・パーマーでもデイル・クーパーでもなく、トレモンド夫人と丸太おばさんが仲良く肩を並べ、先陣をきってクレジットされているのです。それだけこの両者の存在がツイン・ピークスに強いインパクトを与えている、もしくはリンチ監督の中でも特別なキャラクターとして位置づけられていると言えそうなのですが、しかし、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、テレビシリーズでトレモンド夫人が登場したのは第9話のたった1話のみとなっています。まるで「お前はもう死んでいる」と言い放ったケンシロウのセリフは、実は『北斗の拳』の中でたった一度しか言っていなかったみたいな感じで、そのインパクトの度合いというか、ファンの認識度の高さは他のキャラクターと比べても群を抜いているのです。

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今回はそんな謎すぎるトレモンド夫人の存在について深読みしていきます。そもそも映画『ローラ・パーマー最期の7日間』で登場していたトレモンド夫人は、実は夫人でもなんでもなく "チャルフォント" である可能性が非常に高いのではないかと思うのです。エンドクレジットでも "トレモンド夫人(チャルフォント)" と表記されていたし、上記の画像を見てお分かりの通り、テレビシリーズでは病床のご婦人だったはずの彼女は、映画ではシャキッと凛々しい立ち姿を披露しているのです。給食サービスを受ける必要なんてどこにもない上に、あろうことか給食サービスに出かけようとしたローラの邪魔をし、そのとばっちりがシェリーに及んでいたりするのです。というか、テレビシリーズでは給食サービスで訪問していたはずのローラですが、映画ではまるで初対面であるかのように描かれています。この辺もトレモンド夫人とチャルフォントの棲み分けになりそうです。さらに今回は『The Return』のラストが、なぜトレモンド夫人に帰結したのかにも迫っていきたいと思います。

 

1.3人のトレモンド夫人

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ツイン・ピークスという作品には3人のトレモンド夫人が登場します。旧シリーズ第9話で初登場するトレモンド夫人、その後、第16話でハロルド・スミスの自殺の真相を探るため再度訪れた際に登場するまったく別人のトレモンド夫人。そして新シリーズ第18章でセーラ・パーマーを訪ねた際に登場するトレモンド夫人です。

ここで注目したいのがトレモンド夫人のその名前です。エンドクレジットなどで表記されている正式名称は "Mrs.Tremond" です。まず "Mrs." ミセスと付いていることから既婚女性だということがわかります。孫のピエールがいるのですから誰かしらと思われるご主人がいて、その間に息子か娘がいて、その子供が孫のピエールになることがわかります。ただし、劇中ではそのご主人や息子や娘が登場することはありませんでした。

さらにトレモンドという名前です。"Tre" はイタリア語で "3" を現わします。"Mond" はドイツ語で "月" を、オランダ語では "口" を意味します。表記は少し変わりますが "Tres Monde" というフランス語にすると "普通じゃない世界" という意味に捻じ曲げることもできるのです。いずれにしても "モンド" という単語は "~の世界" と意味されることが多く、そこから容易に想像できるのが、トレモンド夫人は何かしらの世界の存在を暗喩しているのではないかということです。それが意図的であれ、無意識であれ、彼女の存在はツイン・ピークスという作品に幾重もの階層的な世界があることを暗にほのめかしている。それを体現している不思議な名前であると定義することができるのです。

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旧シリーズでは、ドナをハロルド・スミスのもとに導き、そして彼を破滅に追いやった人物としても描かれています。特筆すべきは第16話です。ダブルRでブツブツとハロルド・スミスの遺言を独りごちていたアンディー、それを聞いたドナがあることに気づきます。初めてトレモンド夫人のところに給食サービスで訪れた際、孫のピエールがつぶやいていた言葉、それがハロルド・スミスの遺言だったのです。ハロルドの死にトレモンド夫人も関わっているのではないか、そう結論づけたドナはクーパー捜査官と共に夫人の家を再訪します。しかし、家の中から出てきたのはまったくの別人でした。

この "再訪したら別人だった" というストーリー展開はサスペンスやミステリーなどでよく見かける展開だったりします。ことツイン・ピークスで語ると、なぜかヒッチコック映画がちょいちょい顔を覗かせるのです。先のハロルド・スミスは『サイコ』の主人公ノーマン・ベイツと妙なシンクロを果たし、ローラとマデリーンの関連性は『めまい』のマデリンとジュディを否が応でも彷彿させます。ジョシーの元旦那であるアンドルー・パッカードが死んだとされるボート事故は『レベッカ』、小さな町で起きた殺人事件のドタバタ劇という見方をすれば『ハリーの災難』、今回の再訪したら別人だったというシチュエーションも『北北西に進路を取れ』と酷似しています。

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特に『北北西に進路を取れ』は、タイトルの "North by Northwest" とツイン・ピークスの原題である "Northwest Passage" が "Norethwest" つながりであったり、有名なアシュモア山の攻防を彷彿させるかのように『The Return』でアシュモア山が(写真だけですが)登場したり、真夜中のドライブであったり、事の発端であるキャプランという人物が架空の存在であったりと、こじつけネタが多いのが特徴です。

スパイ合戦の目くらましとして登場したキャプラン同様、トレモンド夫人(チャルフォント)も、彼女に遭遇したドナやローラ以外の人物からすると架空の存在であると言えます。映画『ローラ・パーマー最期の7日間』では、トレイラーハウスの管理人であるカール・ロッドだけが、テレサ・バンクスのそばにチャルフォントというご婦人と孫が住んでいたことを目撃しています。しかも、そのトレーラーには二人続けてチャルフォントという人物が住んでいたことも明らかになっているのです。そして、チェット・デズモンド特別捜査官が失踪したのも、トレモンド夫人が住んでいたであろうトレイラーの下に "翡翠の指輪" を発見したからでした。

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これらのことからトレモンド夫人は "ロッジの餌食になる人間" のそばに現れる存在と言えます。ローラ・パーマー、テレサ・バンクス、ハロルド・スミスはいずれもトレモンド夫人の監視下にあり悲劇的な最期を迎えました。チェット・デズモンドの失踪については映画以外で語られることはなく、その所在についても『シークレット・ヒストリー』や『ファイナル・ドキュメント』で言及されることはありませんでした(ちなみにデズモンド捜査官に同行していたサム・スタンリーは、テレサ・バンクス事件の後、原因不明の心身衰弱に倒れ休職、今現在も職務に復帰できない状態であることが明らかになっています)。『The Return』に至っては、ローラママに成り代わり、パーマー家の住人としてごく普通に生活しているという離れ業まで見せています。

ここで一つの疑問が出てきます。トレモンド夫人と直接やり取りをしていたドナは、なぜ何事もなく過ごすことができたのでしょうか?厳密に言うと "何事もない" わけではないのですが、ローラやテレサのように命を落とすような悲劇に見舞われることはありませんでした。しかし、トレモンド夫人と接触したことにより、ドナにはある意味で命を落とすよりも悲劇的な状況が訪れたのです。それは『The Return』で登場したトレモンド夫人が、自らの事を "アリス・トレモンド" と語った所以でもあります。それはいったい何かというと「アイデンティティの喪失」です。

 

2.「Who are You?」

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よく言われているのがツイン・ピークスと『不思議の国のアリス』の関係です。海外のTPファンサイトでは、事細かにツイン・ピークスとアリスの共通項を洗い出しているブログがありますが、読んでいると「なるほど」と思うところも多々あります(中には僕のブログと一緒で、それはあまりにもこじつけすぎるんやないか?と思うものもありますが...。たぶん同じように確信犯なのかもしれません)。そんな中でも、やはり重要と思われるのが、この「Who are You?」ではないでしょうか。

不思議の国のアリス』の話をすると、ご存知の方も多いとは思いますが、白ウサギを追いかけて穴に落ちたアリスは、小瓶の飲み物やお菓子を食べて身体が小さくなったり大きくなったりし、訳が分からないと大泣きしたら部屋は大粒の涙で池になってしまい、その池を泳ぎ渡り、濡れた服をコーカス競争で乾かし、白うさぎの家でまた身体が大きくなってしまいフン詰まり状態に、出てけ!と投げられた小石のお菓子を食べたらまた身体が小さくなり、なんなんやこれは...と森を彷徨っていたらキノコの上で水タバコを吸っているイモムシに出会うのです。その場面が上記の挿絵になります。

イモムシは開口一番「あんたは誰だね?」とアリスに訪ねます。しかし、聞かれたアリスは答えることができません。身体が大きくなったり小さくなったりを繰り返して頭が混乱し、もしかしたら自分は頭の悪いメイベルになってしまったのかもしれないと疑い、もう自分が何者なのかもわからなくなっている時に、また気色の悪いイモムシが「あんたは誰だね?」と聞いてくるのです。アリスは正直に答えます。「わたしはわたしがクソみたいにわかりません」

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このイモムシとの問答に限らず、作者であるルイス・キャロルは作品の中で何度もアリスのアイデンティティの危機を描いています。首が伸びたり、チェシャ猫に出会ったり、助けた子供がブタだったり、お茶会に出席したりと、自分の意志や存在がことごとく危機的状況に陥っていくのです。先ほどのイモムシの「Who are You?」に対して、アリスは「あなたにしても、そのうちサナギになって、そのあとで、今度はチョウに変わったら、やはりなんだかおかしな感じがなさいませんか?」と質問返しをしますが、イモムシは「ちっとも、そんなこたぁない」とあっさり否定します。イモムシは自分が今イモムシの状態であることがわかっていて、環境が変わりサナギになったとしても、やはり自分がサナギであることを理解している。イモムシのアイデンティティはしっかり確立して揺るぎないのです。

では、ツイン・ピークスに話を戻します。第9話でトレモンド夫人のもとに給食サービスを届けに来たドナ。そこでトレモンド夫人は、新顔のドナに対して「あなたは誰?(Who are You?)」と質問します。ドナは答えます。「ローラの代わりに来ました」

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なぜドナはトレモンド夫人の質問に対して「ドナ・ヘイワードです」と答えず「ローラの代わり」と答えたのでしょうか?いろいろと解釈はできそうですが、素直に読み解くならドナはローラになりたいという "変身願望" を抱えていたからと仮定することができます。旧シリーズの第8話を見ると、ローラのサングラスをかけ、タバコを吸い、牢屋にいるジェームズに「私じゃ、おっ起たない?」とばかりに迫ります。これらの行動はローラそっくりのマデリーンへの嫉妬が招いたものですが、この時点でドナのアイデンティティは既に崩壊しています。トレモンド夫人を介してハロルド・スミスに出会うと、そのアイデンティティはさらにグズグズになっていきます。ローラの真似事をしてハロルドをたぶらかし、隠された秘密に迫ろうとするのですが、その結果、ハロルドは自殺、マデリーンは殺害されてしまいます。ドナ自身は "ローラごっこ" をすることにより、ローラ事件の何かの役に立ちたいという正義感じみたもの、そして、離れそうになるジェームズの気を取り戻そうとしていました。あわよくば「一番の親友だった私が事件を解決したのよ」という自尊心をも満たしたかったと解釈できるのですが、結果は真逆でした。結局、ドナはドナでしかなく、摸倣だったローラになることができなかった。さらには身近だった二人の人物が死を迎え、ジェームズは放浪に旅立っていく。踏んだり蹴ったりな結末を迎えてしまったのです。

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ドナのアイデンティティはシリーズ後半になるとさらに喪失していきます。屋根裏から出てきたドナママとベンジャミン・ホーンの親しげな写真を発見すると、自分の出生までが何かに隠されたものではないかと疑い始めるのです。今まで信じてきた自分の存在そのものがデタラメであって、アリスのセリフを拝借するなら「わたしはわたしがクソみたいにわかりません」という状態になっていきます。そうなるとジェームズさえもどうでもよくなって、今までずっと騙されていたという被害者意識みたいなものが芽生えてきます。その結果、ヘイワード家は壊滅的な崩壊を迎えます。ドナの疑心暗鬼は最終的に人間不信にまで発展し、それに輪をかけるようにベンジャミン・ホーンの "善い行いをしたい" という、これまた "善人ごっこ" というアイデンティティが、ヘイワード家にとどめの一発をブチ込んだのです。

『ファイナル・ドキュメント』では第29話以降のヘイワード家やドナのその後が綴られています。それを読むと、なぜ『The Return』にドナが登場しなかったのかの理由がわかるのですが、話は単純明快で、ツイン・ピークスにもう住んでいないからでした。ただ、最終的にドナは自らのアイデンティティを確立し、アリス的な物言いをするなら "不思議な夢の世界" から目覚めたことがわかります。この "不思議な夢の世界" というキーワードが『The Return』でかなり重要となり、モニカ・ベルッチが語っていた "夢見人" とも関連してくると僕は考えているのですが、それについては後述いたします。いずれにしても、ツイン・ピークスに登場するためには、この "不思議な夢の世界" に住んでいなければならず、アイデンティティを確立して現実と折り合いをつけてしまった "大人" は、ツイン・ピークスという舞台に立つことはできないのです。

 

3.トレモンド夫人が渡した物

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すっかりトレモンド夫人ではなくドナの話になってしまいましたが、上記の "不思議な夢の世界" への道先案内人のような役目を果たしているのが、このトレモンド夫人ではないかと思います。『不思議の国のアリス』のイモムシと同義であると捉えるなら、身体のサイズを大きくしたり小さくしたりできる "キノコ" を授けたのがイモムシであり(こうやって書くとまるでスーパーマリオですが...)、それによってアリスはハートの女王が住む美しい庭へ進むことが出来ました。では、トレモンド夫人はどんなアイテムを取り出したでしょうか?

旧シリーズの第16話でトレモンド夫人のもとを再訪したドナ。その際に手渡されたのがハロルド・スミスからの手紙であり、その中身は "ローラの日記" でした。そこには2月22日と23日の日記が記されていたわけですが、この日記については『The Return』の第7章のブログで詳しく考察済です(ツイン・ピークス The Return 考察 第7章 PART.1 失われたローラ・パーマーの日記を徹底解読!次元のゆがみがハンパないっ!)。ここで自論をまた繰り返すつもりはありませんが、一つ言及したいのが、このトレモンド夫人から渡されたローラの日記は果たして本物なのか?という疑問が出てくることです。もっと言えば、本当にハロルド・スミスは家から外に出て、この手紙をトレモンド夫人のポストに投函したのだろうか?と。

勝手に妄想を広げようと思えば、ローラの秘密を知られたくない何者かがハロルド・スミスの家に押し入り、彼を自殺に見せかけて殺した挙句、フランス語の遺書やローラの日記を拵えたと想像することもできますが、本編ではそんなトンデモ疑惑は微塵も出てきませんでした。どちらかと言うと、真偽の程は定かではありませんが、この "ローラの日記" によって、クーパーが見た夢を、実はローラも夢で見ていたのだと明かされたことの方が重要なのです。

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ここで語られる夢というのは、旧シリーズの第2話でクーパーが見た赤い部屋の夢、もしくはインターナショナル版のエンディング部分を指します。その夢の中でローラは自分を殺した犯人が誰であるかをクーパーに耳打ちしたわけですが、その夢を二人が共有していたという事実は、今まで何度も語ってきたように "集合的無意識" の世界で二人はつながっていると解釈できるのです。トレモンド夫人が渡したアイテムは、そのことをクーパーに知らせるために登場したものであると。それによって "ボブ" の正体が暴かれ、ローラ事件は一気に解決を見ることになります。この第16話で登場したトレモンド夫人の役割をまとめるなら、ローラ事件の犯人がリーランドであることをクーパーに示唆するため、あえて "ローラの日記" をドナに渡したということになります。

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続いてトレモンド夫人は、映画『ローラ・パーマー最期の7日間』で "扉の絵" をローラに渡します。「壁に飾ると素敵よ」と半ば飾りなさいと強要している感もありますが、その結果、ローラは夢の中でコンビニエンスストアの2階に迷い込むこととなりました。ここでもトレモンド夫人は道先案内人としての役目を果たし、この扉の先にお入りなさいとばかりにローラに手招きをします。その先にはピエールがいて、パチンと指を鳴らすと火の手が上がり、そこから赤い部屋にある台座へと場面は移ります。"翡翠の指輪" が置かれた台座に小人とクーパーが現れ、クーパーは「指輪を受け取ってはいけない」とローラに宣告をします。左腕が痺れた状態で目を覚ましたローラ、その横にはアニーが寝そべり、「私はアニー、デイルとローラと一緒にいるの。善いデイルはロッジにいて、そこから出られない。あなたの日記にそう書いておいて」と告げます。一度視線を外し、再びアニーに目を向けると彼女の姿はなく、痺れた左手には "翡翠の指輪" が握りしめられていたのです。不審がって部屋の扉を開け、家の廊下を眺めても人の姿はありません。ベッドに戻ろうとすると、扉の絵の中に自分の姿を目撃します。それは紛うことなきローラのドッペルゲンガーであり、翌朝目覚めると、ローラは全てが夢だったと悟るのでした。

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映画で渡されたアイテムでも、やはりローラとクーパー、さらにはアニーまでが "集合的無意識" の世界で出会っています。時間軸も、このシーンで出てくるアニーは第29話のロッジから救出された後の状態であり、ローラが生きていた時間軸とはかなりかけ離れています。さらにはアニーが着ている服がキャロラインと一緒ということは、「私はアニー」と言いながら、実はキャロラインであるという穿った見方もできます。クーパーに至っては、小人のことをわからないと言っていることから、ロッジに閉じ込められる前の状態ではないかと推測できますが、もちろん第29話以降のロッジで25年間を過ごしている間のワンシーンであると捉えることも可能です。さらには小人(別の場所から来た小さな男)が自分の事を "腕" であると初めて明らかにしたのも、このローラの夢のシーンになります。「私はこんな音がする」と、まるでインディアンが合図を送るかのように口をアワアワさせるのも然りです。

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驚くべきことは、これらのシーンは『The Return』の第7章でローラの日記として再び登場することです。事の発端は丸太おばさん(厳密には丸太おばさんが抱きかかえているダグラスモミの丸太)から「クーパーに関係する失くし物を探しなさい」という預言がホークに与えられたからでした。この発見された日記から示唆されるのは "クーパーは二人いる" という事実であり、フランク・トルーマンが25年前のクーパー失踪の謎に本腰を入れるきっかけにもなったのです。

ここでもトレモンド夫人は間接的にローラの日記、さらには "ボブ" と一体化している悪クーパーの存在を炙り出す道先案内人の役目を果たしています。この記事の前半で、トレモンド夫人は "ロッジの餌食になる人間" のそばに存在する監視役であると定義しましたが、こうして見ていくと監視役でありながら、ロッジに導く役割も果たしていることがわかります。"不思議な夢の世界" への道先案内人であると。では、最後に登場するトレモンド夫人は、いったい何を渡したでしょうか?

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ご存じの通り、彼女は何も渡しませんでした。しかし、今まで見てきた二つのキーワード "ロッジの餌食になる人間" と "不思議な夢の世界" を彼女に当てはめてみると、ぼんやりと見えてくるものがあります。

まずは誰が "ロッジの餌食" になったのか?ということですが、これはローラママであるセーラ・パーマーではないかと仮定することができます。元々この家に住んでいたローラママが消えた、もしくは失踪してしまい、その後釜にトレモンド夫人が住んでいる事実は、今までのハロルド・スミスやテレサ・バンクス、チェット・デズモンドと通じるところがあります。さらには、後日アップする予定のピエールの章でも触れますが、『The Return』でのローラママは完全にジャンピングマンと同一であるとされています。詳しいことは後日になりますが、トレモンド夫人の孫であるピエールがジャンピングマンの化身であり、そのジャンピングマンが憑依したのがローラママであるなら、そのローラママに成り代わってトレモンド夫人が登場したということは、ジャンピングマンが不要になった、もしくはジャンピングマンの目的が達成されたことを意味しています。つまり前者の解釈だとトレモンド夫人はジャンピングマン、如いてはロッジから解放されたと定義することができますし、後者の解釈なら、全てが完遂されたことを伝えるためにトレモンド夫人が現れたということになります。

"不思議な夢の世界" を当てはめてみるとどうなるか?ですが、まずは "アリス・トレモンド" という名前が全てを物語っています。この部分だけを『The Return』に当てはめてみるとします。『不思議の国のアリス』のラストは、襲い掛かってくる女王に対して「あなたたちなんて、ただのトランプじゃない!」と言い放ち、舞い上がるトランプに叫び声を上げると、川べりに座っているお姉さまの膝の上でアリスが夢から覚めるという物語になっています。『The Return』では、「ローラ」というセーラ・パーマーの呼び声に、キャリー・ペイジがけたたましい叫び声を上げると、全ての電気が消え、物語は終幕を迎えます。

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『The Return』のオチ解釈の一つとして有力な候補として上がっているのが『不思議の国のアリス』と同じ "夢オチ" ではないかとする意見です。しかし、だとするなら、夢である意味がどこにあるのか?という疑問が僕にはあって、どうも釈然としないのです。確かに、映画『ローラ・パーマー最期の7日間』では、フィリップ・ジェフリーズが「オレたちは夢の中で生きている!」と叫んでいました。それと同じセリフを『The Return』第17章のぼんやりクーパーもつぶやいています。これらのことから容易に想像できるのは、白ウサギやイモムシやチェシャ猫や帽子屋たちが "夢見人" であるアリスが創り出した不思議なキャラクターなのと一緒で、ツイン・ピークスの世界も "夢見人" である誰かが見ている夢の世界ということになるのです。となると、単純に考えて、アリスと名乗るトレモンド夫人が "夢見人" なのか?ということになるのですが、では、その意味はなんなのか?と考えると、どうもうまく説明がつきません。

仮にトレモンド夫人が見ている "夢" がツイン・ピークスの物語であるなら、それは『The Return』での話であって、旧シリーズとは別物であると考えなければいけません。でなければ、ローラ・パーマー事件もマデリーン・ファーガソンの殺害もハロルド・スミスの自殺も、果てはミス・ツイン・ピークスの大騒ぎや銀行爆破事件も、全てが夢だったことになってしまいます。これは物語としてはあまりにも横暴ですし、極論を言ってしまえば全てのフィクションが夢で片づけられてしまいます。では『The Return』だけがトレモンド夫人の夢なのか?と結論づけてみても、結局は総論で僕が妄想したように、ラスベガス以外も夢(もしくは幻)だったことになり、物語は根も葉もない空論になってしまいます。

なので "夢見人" がトレモンド夫人である可能性は極めて低いと結論づけても差支えないと思うのですが、ここで "夢" から発想の転換をして "現実に戻る" と仮定してみるとどうでしょうか?特に『The Return』では、例えばヘイスティングス校長が作っていたブログ「ゾーンを探して」が実際に我々が住む現実の世界にも存在していたり(The Search For The Zone)、書籍『シークレット・ヒストリー』が実際の歴史をなぞりながら、あたかもツイン・ピークスや "翡翠の指輪" が現実に存在しているように描いていたり、第14章でローラママが "Truck You" の首を噛み千切った "エルクス #9 ポイント・バー" のフェイスブックまで存在します(Elk's #9 Point Bar - Facebook)。グレート・ノーザン・ホテルやスノコルミーの滝、ダブルRダイナーが現実の観光地として有名なのはご存じの通りです。果ては、ここで登場するアリス・トレモンド夫人を演じたのは、実際にこの家に住んでいるご婦人であったりもするのです。

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第18章の後半、リチャード捜査官とキャリー・ペイジが真夜中のドライブで立ち寄る "VARELO" というガソリンスタンドも現実に存在する企業です。こうやって見ていくと『The Return』はミズモトアキラさんが考察していたように、メタフィクションとして虚構と現実が曖昧になっていく過程を描いていると読み解くことができます。というよりも、フィクションであるツイン・ピークスという虚構(テレビの中)から、2017年の現実の世界にキャラクターが飛び出してきたという印象さえ受けます。ある意味、貞子みたいな感じとでも言いましょうか。

このように捉えると "アリス・トレモンド" という存在は、『不思議の国のアリス』で、夢の中の不思議な体験をがっつりとネタバレしている "アリスのお姉さま" みたいな存在と言えるのかもしれません。草がガサガサしていたのは白ウサギが走ってきたからではなく単に風が吹いていたから、キチガイなお茶会のカチャカチャした食器の音は羊の首からぶら下がった鈴の音がしたからとか、にせウミガメが泣いていたのは遠くで牛が鳴いていたからとか、アリスのお姉さまはことごとく「そんなものは全て夢じゃ!」とばかりに不思議な世界をぶった切っていきます。同じようにアリス・トレモンド夫人も、FBIだからなんぼのもんじゃいと微塵も物怖じせず、ローラママなんて知ったことか、貸家だと?ふざけるな立派な持家じゃい!、チャルフォント夫人じゃ、チャルフォント!と、ママに会わせてあげるよとはるばるオデッサから連れてきたキャリーの目の前で、リチャード捜査官をことごとくぶった切るのです。

そういう意味で見ると、アリス・トレモンド夫人が渡した物は "現実" という見方が出来るのかもしれません。最後の最後で突き付けられたものが "現実" であり、それは当然メタフィクションという見方ができます。しかし、アリスによってリチャード捜査官(クーパー)が現実に目覚めたのか?と問うと、決してそうではありません。どちらかというと却って混乱を招いた結果になっているのです。いや、そんな生易しいものではないかもしれません。ここで描かれているのは "世界の終わり" であって、それは極めてネガティブな力によって引き起こされた現象なのかもしれません。

 

4.アリス・トレモンドはジュディなのか?

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今までトレモンド夫人を介して "夢" という集合的無意識の世界でしか意志を共有することができなかった二人ですが、『The Return』のクライマックスでは、無意識という虚構の世界を飛び出し、リチャード捜査官(クーパー)は、キャリー・ペイジ(ローラ)をセーラ・パーマーのいる "家" に送り届けることが最大の目的となりました。ローラとセーラを引き合わせることによって、いったいどんな化学反応を起こそうとしていたのかは定かではありませんが、兎にも角にもクーパーはローラを "家" に連れて帰ることしか考えていません。そして、そこで待ち構えていたのがトレモンド夫人になります。

『The Return』第17章では、フィリップ・ジェフリーズに1989年2月23日に飛ばしてもらうよう願い出て、難なくタイムスリップしたクーパーですが、その際にジェフリーズは「ここで君はジュディを見つけるだろう。おそらく誰かがいる」と忠告をしています。その "ジュディ" がこの後の1989年の森でローラをさらった何かなのか、もしくは第18章のこのアリス・トレモンドなのか、それとも、そのどちらでもないのか、というところを、これから整理していこうかと思います。

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そもそも僕は『The Return』第18章の考察で「ジュディ=アルルのヴィーナス=トレモンド夫人」であると一度結論づけました。"JUDY" は "JOUDY" であり、"JOUDY" は "JUDY" であるということから、トレモンド夫人はチャルフォントであり、チャルフォントはトレモンド夫人であるということとイコールではないかと思ったのが一点、手鏡と林檎を持つ大理石のヴィーナスが "カリカリ音" の正体で、このヴィーナスがローラをさらった張本人であるからイコール "ジュディ" であるというのが二点目、いずれも見た目と本質は違うものであり、それはジェフリーズが発見したシアトルのジュディ、リチャードが発見したオデッサのジュディも包括するという考察でした。三点目は、そうは言っても結局はリンチ作品の話だし、『ファイナル・ドキュメント』やDVD/BDが発売されないことにはなんにもわかんないんや、とそのまま放置したことです。

DVD/BDの特典映像はまだ拝見していないので何とも言えませんが、既に発売されている『ファイナル・ドキュメント』を見ると、"ジョウディ" というのはシュメール神話に登場するウトゥックの中の一つであるということが明かされています。映画『エクソシスト』で言うところのパズズ、もしくはベルゼブブを指します。

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"ジョウディ" は女型で、"バアル" は男型であるとされていますが、それが意味するところは、海外の熱心なピーカー達が議論していたように、バアル=ベルゼブブ "Beelzebub" =BOBが男型であり、それと同じ女型を象徴する何かがあるのではないかという等式に辿り着きます。もちろん、これは完全なる後付ではあると思いますが、Ba'al=Be'zebub=BOBの等式はかなり信憑性があるのではないかと。では、ジョウディ=〇〇〇=〇〇〇には何が入るのか?

僕の結論をこの等式に当てはめると、ジョウディ=アルルのヴィーナス "Venus of Arles" =トレモンド "Tremond" となり、完全に不等式になります。アルルをアリスと言い換えることも可能かもしれませんが、今まで見てきた "ロッジの餌食" と "不思議な夢の世界" というキーワードから考えても、トレモンド夫人が女型の悪魔であると定義づけるにはあまりにも突飛です。前述したように、ジェフリーズは「ここでジュディを見つけるだろう」と忠告をしてはいましたが、それはトレモンド夫人ではなく別の誰かを指していることになり、僕が結論づけた考察は見当違いということになるのです。

では、先ほどのジョウディ等式には誰が当てはまるのか?ということになりますが、海外のピーカーもそこまではまだ煮詰まってはいないようです。シュメール神話やバビロニアアッカド神話、ギルガメシュ叙事詩なんて言われると、僕みたいな母国日本の歴史さえもままならない人間が、今から4000年~5000年も前の海の向こうの話を理解できるわけがなくて、もう到底ついていけるレベルではないんですが、それでもなんとなく思い当たる節が一つだけあるのです。それが先ほどの "アルルのヴィーナス" (Venus of Arles) です。

『The Return』第18章の考察でも "アルルのヴィーナス" は聖書のイヴを暗喩しているのではないか、そしてイヴをそそのかした "蛇" がジュディに該当するのではないかと妄想しました。そこからさらに妄想を膨らましてですね、"蛇" = "蛇女リリス" と拡大解釈してみると、なんとなくジュディの姿が見えてくるのです。

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これです。この画像は『バーニーの浮彫』と言われ、イギリス、ロンドンにある大英博物館に展示されています。ここで描かれている女性のモデルとされているのがリリス、イナンナ、イシュタル、エレシュキガルのどれかではないかと今でも議論されているレリーフなのです。書籍『シークレット・ヒストリー』では "大淫婦バビロン" として紹介されていました。ここで描かれているのが "蛇女リリス" であるなら、イヴをそそのかした蛇ということになり、さらには両脇にフクロウまで従い、極めてネガティブな存在であると定義することができるのです。となると、ジョウディ "JOUDY" =リリス "Lilith" になり、さらにその先に誰が来るのか?ということになります。そこで書籍『ファイナル・ドキュメント』で明らかにされたローラママの本名が出てきます。

セーラ・ジュディス・ノヴァク・パーマー (Sarah Judith Novack Palmer)

完全にジュディが入ってます。もう間違えようがありません。まるで今まで "D" を隠すためにゴールド・ロジャーと呼ばれていた海賊王みたいなもんじゃないですか!ビックリです。

 

そんなわけで、このローラママとジュディ、さらにローラママに憑依したジャンピングマン、その化身であるトレモンド夫人の孫ピエールについて、次回、さらに深読みしていきたいと思います。なんだか、次回のテキストも濃くなりそうな予感でいっぱいです。

深読みツイン・ピークス① リンドバーグ事件

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる①」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 2

『ハロルド・スミス編(巨人の予言)』

第8話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第9話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / ハーリー・ペイトン

第10話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第11話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ジェリー・スタル、フロスト&ペイトン&エンゲルス

第12話:監督 / グレアム・クリフォード 脚本 / バリー・プルマン

第13話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

『リーランド・パーマー編(ローラ事件の真相)』

第14話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト

第15話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / スコット・フロスト

第16話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

『エブリン・マーシュ編(南北戦争ごっこ)』

第17話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / トリシア・ブロック

第18話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / バリー・プルマン

第19話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第20話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ハーリー・ペイトン

第21話:監督 / ウーリ・エーデル 脚本 / スコット・フロスト

第22話:監督 / ダイアン・キートン 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

ウィンダム・アール編(ミス・ツイン・ピークス)』

第23話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / トリシア・ブロック

第24話:監督 / ジェームズ・フォーリー 脚本 / バリー・プルマン

第25話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第26話:監督 / ジョナサン・サンガー 脚本 / マーク・フロスト&ハーリー・ペイトン

第27話:監督 / ステファン・ジレンハール 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第28話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / バリー・プルマン

第29話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comへ。

ツイン・ピークス シーズン2 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

「The Return」のDVD/BD発売までの時間潰しシリーズ第4回目です。この連続コラムを思いついた当初は、この序文じみた冒頭に「とうとう発売日決定!」と書いてですね、第5回目をDVD/BD発売後にでもアップできればと目論んでいたのですが、まあ、ご存じの通りびっくり仰天な展開です。このまま永遠に発売されないんじゃないかと思うほど、云とも寸とも言わないシカト状態が続いているわけでして、10年前のシーズン2DVDボックスの悪夢が再び!みたいな感じです。それとも、とんでもないサプライズがこのあと用意されていたりするのでしょうか?だとしたら嬉しいんですけどね。

てなわけで、シーズン2です。前回同様、監督&脚本のリストを上記に挙げてみましたが、それだけではイメージしづらい部分もありますので、勝手に〇〇編みたいに区切ってみました。これが適当かどうかは脇に置いておくとして、ある程度の目安になればとは思います。で、この中で "エブリン・マーシュ編" が本当に退屈で、今でもあまり好きになれません。それもそのはずで、ABCテレビの重役から早くローラ殺しの犯人を描きたまえ!と迫られたリンチ&フロストは、たぶん伝説の第16話で完全に燃え尽きた、もしくは完全にヘソを曲げてしまい、第17話からは作品をドブに捨てた状態になっていたのではないかと思うのです。そんな中でも「ツイン・ピークス」らしさを損なわなかった、もしくは後々につながる謎が散りばめられていたのは、ひとえにハーリー・ペイトンの功績が大きいのではないかと。

シーズン1のブログ同様、今回もあまり触れられていない部分に焦点を当てながら「The Return」と比較をしていくつもりでいます。さらに今回は「The Return」もしくは「ツイン・ピークス」の根幹というか核心にまつわる自論も展開していこうかと思っています。なので、いつも以上に重要なネタバレが含まれております。いつも以上に妄想が激しくなっております。いつも以上に文字数も増えております。そんなわけでして、この第4回目については、各テーマごとに記事を小分けにしてですね、その分、DVD/BD発売までのカウントダウンができればいいなぁ、なんて目論んでおります。

では、姐さん。もうこうなったら「The Return」のインポート版を買っちゃおうかななんて思ってたりもしますが、買った途端に国内版が出るのもイヤなので、とりあえずシコシコまた過去を振り返ることにいたします。

 

第1章「リンドバーグ愛児誘拐事件」

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シーズン1第1話の冒頭でケネディ兄弟とマリリン・モンローについて語っていたクーパー捜査官ですが、シーズン2の前半でも彼はある実際の事件について口にしています。それが「リンドバーグ愛児誘拐事件」。クーパーはこの事件について「できれば僕が事件を解決したかった」とダイアンに語っています。このたった一言のセリフを今回は拡大解釈していこうかと思います。

 

1.事件の概要

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1932年3月1日、ニュージャージーにあるチャールズ・リンドバーグの自宅から生後20ヶ月の息子が何者かに誘拐されるという事件が発生します。もぬけの空になった子供部屋には犯人からの置手紙があり、そこには身代金として5万ドルを支払えば子供を返すという旨が書かれていました。リンドバーグと警察は子供の安全を第一とし、要求された5万ドルもの身代金の支払いに応じます。しかし、誘拐から2か月後の5月12日、リンドバーグ宅から程近くの木立ちの中に息子の遺体が発見されてしまうのです。

犯人の行方がわからぬまま時が過ぎ、誘拐事件発生から2年後、1934年9月に突如、容疑者としてリチャード・ハウプトマンというドイツ人が逮捕されます。身代金として支払った5万ドルには通し番号がつけられ、ハウプトマンはその番号がついたお金をガソリンスタンドに支払っていたのが逮捕の決め手になったのです。

まだ1才半にしかならない子供が殺されたというセンセーショナルな事件は、当時の壮絶なマスコミの追及を正義の鉄槌と許し、わずか半年後の1935年2月に殺人罪の有罪判決と死刑が確定。無罪を主張するも控訴はことごとく棄却され、逮捕から2年後の1936年4月、ハウプトマンは電気椅子にて処刑、事件は解決したとされています。

 

2.なぜ「リンドバーグ事件」なのか?

シーズン1の考察で語ったように、ケネディ暗殺やマリリン・モンローの自殺は何らかの陰謀によって引き起こされた事件ではないかという見方が、50数年経った今でも言われ続けています。同様にリンドバーグ事件も表と裏がある事件だと言われています。もちろん事の真相については闇の中ですが、根強く言われているのがオズワルドと同じようにハウプトマンも冤罪であった可能性がある説、さらにはリンドバーグの自作自演だったのではないかという説まで浮上しているのです。

シーズン2の冒頭にクーパーがリンドバーグ事件について言及した理由には下記の三点が推察できます。

 ①FBIの管轄が拡大した "リンドバーグ法" 施行のきっかけになった重要な事件だから

 ②冤罪説や自作自演説など真犯人が定まらない難事件だから

 ③当事件をベースにした「オリエント急行殺人事件」と同義にすることで自身を名探偵ポアロと同列にしようとしたから

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1974年公開の「オリエント急行殺人事件」は40年以上経っても名作として輝きを失わない

ここで取り上げたいのは、やはり「オリエント急行殺人事件」です。つい先日もケネス・ブラナージョニー・デップとタッグを組んでリメイクをしていましたが、この極上のミステリー映画が世界に残した足跡はあまりにも巨大です。そのネタバレをここで語るつもりはありませんが、ただ、映画内で語られているリンドバーグ事件は、あからさまにハウプトマン以外の真犯人がいることが大前提になっていて、さらにマスコミに翻弄された事件関係者たちの悲劇までをも浮き彫りにしているのです。

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これらのことから浮かび上がってくるのが "冤罪" というキーワードです。それはツイン・ピークスにも当てはめることができます。ローラ殺しの犯人として真っ先に逮捕されたベンジャミン・ホーン。どう見たって彼は真っ黒ですが、ローラを殺めた訳ではありませんでした。ここにも冤罪のキーワードが隠れています。さらにローラパパ、リーランド。彼は第16話で涙ながらに娘をどれだけ愛していたかを語っていましたが、しかし、その行為を "ボブ" のせいにしたところで世間は納得しません。シーズンを継続させるため、ローラパパが犯人じゃなくて、あくまでも "ボブ" が犯人だと押し通した制作陣ですが、その効果は儚いものでした。それと同じことが「The Return」のロイス・ダフィーにも起こっています。「青いバラ」と言い残し姿を消したロイスが本物だったのか、無実を叫び続け獄中で自害してしまったロイスが本物だったのかは、本編や「シークレット・ヒストリー」で語られることはありませんでした。いずれにしてもどちらかが冤罪であり、どちらかがしてやったということになります。ルース・ダヴェンポート殺害容疑で拘留されていたビル・ヘイスティングスも然りです。彼の真実の叫びは妻に届くこともなく、彼女は悪クーパーによって闇に葬られました。

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オリエント急行殺人事件」との共通点はこれだけではありません。乗客12人全員が容疑者という至極のプロット同様、ツイン・ピークスの住人全員が容疑者というプロットも往年の名作をしっかりと踏襲しています。登場人物それぞれが際立っているという点も同義に見ることができます。名探偵ポアロとクーパー捜査官の対比も然り(もちろんシャーロック・ホームズも忘れてはなりません)。それらのことから言えるのは、ツイン・ピークスが今までにない極上のミステリー・ドラマだと自ら宣言しているということなのです。第16話までは...。

 

3.見え隠れするJ・エドガーの影

上記のケネディ暗殺やモンロー自殺、そして、リンドバーグ事件に共通する或る人物がいます。それが初代FBI長官ジョン・エドガーです。

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彼については映画「ローラ・パーマー最期の7日間」の考察でも触れましたが、このJ・エドガーとツイン・ピークスの共通点は、これまたいろいろと深読みしがいのある所が満載になっているのです。

 ①エドガーを免職しようとしたケネディは暗殺された

 ②ケネディとモンローの関係を盗聴盗撮していた

 ③ロバート・ケネディのFBI締上げ政策にエドガーは憤怒していた

 ④リンドバーグ事件を利用してFBIの管轄を拡大した

上記の①と②はシーズン1のクーパーのダイアローグの暗喩として、④については今回の暗喩として(クリント・イーストウッドの映画「J・エドガー」でも同様に描かれています)、いずれもJ・エドガーを指しているのではないかと深読みすることができます。さらには、

 ⑤服装倒錯者だった

これがツイン・ピークスの何につながるかと言うと、これしかありません。

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女装DEA捜査官デニス・ブライソン。彼、いや...、彼女が「The Return」でどんな立場になっていたかというと、ご存じの通り、FBI首席補佐官というゴードン・コールよりも上の立場に出世しているのです。これは暗にJ・エドガーのパロディであるとしか言いようのない描き方をしています。というのも、エドガーもデニス(デニース)も元は司法省からキャリアをスタートしているという点で共通し、さらには警察機関であるFBIに出世しているというのも全く同じキャリアアップを果たしているのです。

まだ、あります。

 ⑥フリーメイソンのメンバーだった

言わずと知れたフクロウです。この秘密結社がどこまで世界を牛耳っているのかなんてパンピーの中のパンピーである僕にわかるわけがないのですが、ただ、フリーメイソン関係でツイン・ピークスと共通していそうな写真があります。それが先ほどのこの写真。

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このJ・エドガーの写真、海外のツイン・ピークス関連のツイッターでも話題になっていたのですが、その時にピーカーたちが注目していたのが彼のネクタイです。

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なんか見たことあるマークではないですか?そうです、これです。

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さらには、

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フクロウのマークとも酷似しています。ここで注目したいのはフクロウのマークではなく、プルトニウムの記号を匂わせるブリッグス少佐の首筋にあるアザ、そして、ツイン・ピークスの2つの山を現わす丸太おばさんのふくらはぎにあったアザです。

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この2つのマークをクーパーがああじゃないこうじゃないと組み合わせたのが上記のマークであり、「シークレット・ヒストリー」ではツイン・ピークスの2つの山の丁度中心に第三の目が存在していることを仄めかしています。その位置は、

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ホークが示したこの地図とぴったり符合するのです。となると、エクスペリメントが第三の目、要するにフリーメイソンの言う "全てを見通す目" であると定義することができます。ただ、そうなると困った問題が出てくるのです。結局、エクスペリメントは陰で世界を支配する悪い奴なのか?、それとも人類をどこかに導こうとする "神" みたいな存在なのか?という、なんともあやふやなイメージしか捉えることができないのです。神になることもできるし、悪魔になることもできる。善と悪という側面が共存しているとでもいいましょうか。それがJ・エドガーの存在とも共通しているのです。しかし、この定義は僕みたいな深読みをして楽しむファンには通用するテーマなのですが、ことライト・ユーザーになると、なんだかよくわかんないで片づけられてしまう非常に "オタク" 的な考え方なのです。まだ旧シリーズのように「ボブ=悪」という単純明快な図式があればいいのですが、んん、この辺の面白みが少しでも伝わるといいのですが...。

 

4.メビウスの環

リンドバーグ事件に話を戻します。事件の概要にも記載しましたが、リンドバーグの息子を誘拐した際、犯人は手紙を部屋に置いていきました。それがこれです。

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ここで注目したいのが右下に描かれたマークです。犯人は誘拐してから身代金の受け渡しまでの指示書にはこのマークを記載する、故にこのマークのない指示書は偽物であると言い渡しています。

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上記のように犯人からの指示書にはどれも2つの円を重ねた中心に黒い円が塗り潰され、両サイドと黒円の中心に穴があけられているのです。拡大すると下記のような図になります。

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ここまでは実際にあった事件のお話ですが、これ以降は本当に僕の妄想なので、決してリンドバーグ事件の真相であったり、このマークの真の意味を語っている訳ではない事をご了承ください。

 

去年、「The Return」が世界で放映され、フィリップ・ジェフリーズがフクロウのマークをメビウスに変換した際、あるピーカーが "ジュディの軌道" というピクトグラムを発表しました。それが下記になります。

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消防士とジャンピングマンの攻防が赤い部屋を中心に多岐に影響しているという図です。ホワイト・ロッジとブラック・ロッジは表裏一体の関係にあり、緑の点で表示されているジュディは、先述したJ・エドガー同様、善にも悪にも影響を及ぼしているというピクトグラムです。

このマーク、完全にリンドバーグ事件のマークと符合します。そこから何が導き出せるかというと、ここで内藤仙人さまの理論がまた登場するのですが、生と死の狭間の世界がツイン・ピークスの世界であるということです。片腕の男の言葉を借りるなら「2つの世界の狭間から声が放たれる」わけです。

リンドバーグ事件のマークは2つの円が重なっていますが、こちらの方がより象徴的のような気がします。僕らは生と死が重なり合っている世界で生きている、もっと言うなら夢と現実が重なり合っている世界で生きている。意識と無意識が両立している世界で生きている。その世界を映像化したのが「The Return」であり、僕らは自分たちの意志でどちらに転ぶこともできるのだと。シュレディンガーの猫のように、常にどちらの可能性も重なり合っている状態なのだと。

 

そんなわけで旧ツイン・ピークスの第8話、「リンドバーグ事件は僕が解決したかった」の一言からここまで拡大解釈してみました。かなりの力技でこじつけた感もありますが、逆を言うと、ここまでこじつけられるだけの作品もなかなかないと思います。

では、次回はトレモンド婦人の謎に迫ります。

苦しゅうない、苦しゅうない

なにげなくtricotが好きで、

去年からずっとヘビロテ状態だったんですが、

来たる5月19日にニューシングル「potage」が発売されると、

そんなニュースを知りましてですね、

「ブームに乗って」をまた聴くかなぁ♪と久々にYoutubeに行ったのです。


tricot "ブームに乗って" MV

そしたらですよ。

ヒモ付きで "ジェニーハイ" なんて見知らぬバンドが出てくるじゃないですか。

自動再生をオフにしていなかったので、

なんだよ、変なの始まったぞ...、とそのままにしていたら、

なんか、いっきゅうさんが歌っとるやん!

しかも小籔座長がドラム叩いて、くっきーがベース弾いとる!

で、ゲス極のえのんくんに、

耳の聞こえるベートーベンの幽霊さんまでおるやんけ!

なんだ、このクセがありすぎる面子は!

ていうか、いっきゅうさん、なにやっとるん!

 

どうやらスカパーの企画バンドみたいなんですが、

それにしても、なんでそこにいっきゅうさんがおるんやろ、と。

事の経緯を調べるのもなんか面倒だし、

まあ、次の新曲までの時間潰しにはいいなぁとは思うんですが、

それよりもショックだったのが再生回数ですよ。

tricotのPVでも「爆裂パニエさん」が300万、

99.974℃」でも100万ちょっと、

ここ最近のPVでは50万~10万ぐらいなのに、

ジェニーハイ、公開1週間であっさり200万超え。

マジか。

やっぱくっきーか?くっきーなのか?

なにげにベース上手いし!

ゲスの課長さんもビックリしとったし。

この勢いがtricotまで普及していかないかなぁ。

無理かなぁ...。

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ちなみにジャケットでは白目を向いてるいっきゅうさん(笑)

3rdアルバムの「エコー」みたいな感じで、

乙女系のボーカルを披露しているのがええです。

「ブレードランナー2049」は続編ではなくマッシュアップである

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「The Return」と同じように観るのが怖かった「ブレードランナー2049」。

映画という産業がここまでネタ切れを起こしているのか...と、

薄ら寒さを通り越して完全に凍りついてしまったのですが。

DVD/BDレンタルが始まったので、もう恐る恐る観ました。

...

...

...

...

...

やっちまったよ...。

どうすんだよ、これ...。

 

本家、ブレードランナーについては、

今さら僕みたいな映画ファンの底辺がブチブチ語っても、

誰かが言ってたことの焼き直しにしかならへんので、あれですが。

「ワシ、ブレラン公開当時に映画館で観たんやでぇ」とか、

「二つで充分なんはエビなんやでぇ」とか、

デッカードは〇〇リ〇ン〇なんやでぇ」とか、

なんだろ、こう得意げに語っている人はあまり好きではありません。

「2049」の映画レビューやamazonレビューでも、

こういう人をよく見かけるんですが、

逆にこういう人が多いと言うことは本家を超えていないということです。

 

肯定派・称賛派のレビューを見ると、

 ◆よくぞブレラン続編に挑んだ!

 ◆長年の謎が解けた!

 ◆映像がスゴイ!

 ◆CGがスゴイ!

 ◆ラヴ、欲しい!

 ◆ラヴ、欲しい!

 ◆ラヴ、欲しい!

こんな感じ。

 

否定派・難癖派はもっと単純で、

 ◆クソつまんねぇ!

 ◆寝落ち!

 ◆金返せ!

 ◆単調 or 冗長

 ◆ハリソン・フォードを水に沈めるな!

こんな感じ。

 

この中から、あなたの感想を一つ選びなさいと言われたら、

僕は「ハリソン・フォードを水に沈めるな!」です。

いたいけなご老人をあんな目に合わせて、

75才ですよ!75才!

映画観ながら変な心配してストーリーどころではないですわ。

やる方もやる方ですけどね...。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴという監督さんも、あまり好きになれません。

2016年の最高傑作と評論家先生たちが大絶賛した「メッセージ」も、

なんでしょう「未知との遭遇」の焼き直しなんですよね。

あれをなんであそこまで大絶賛するのかがわからないのですが、

そう言わないと売れないからですかね?

だとしたら、完全にステマじゃないですか。

 

一昔前にマッシュアップというのが流行ったんですけど、

Aの曲とBの曲を混ぜ合わせて一つの曲にしちゃうという、

「2049」はまさにコレです。

ブレードランナー」という曲と、

ドゥニ・ヴィルヌーヴ」という曲を混ぜ合わせた、

言わばリバイバル・リメイクみたいな感じです。

 

ブレードランナー」が好きな人は、

やっぱ元の方がいいねってことになって原曲に戻る。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ」が好きな人は、

ブレードランナー」をネタにした最新曲ということで、

それなりに楽しめると。

 

たぶん、ディックが生きていたら、

こんな作品、絶対に許さなかったんじゃないかなぁ...と思います。

ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第3回「ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 1

第1話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第2話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第3話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / ハーリー・ペイトン

第4話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第5話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / マーク・フロスト

第6話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン

第7話:監督 / マーク・フロスト 脚本 / マーク・フロスト

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comが一番端的だと思います。

ツイン・ピークス シーズン1 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

そんなわけで時間潰しシリーズ第3回目です。ここまで来ると、なんていうんでしょうか、今さら「東京ラブストーリー」を紐解いて「anone」を考察するようなものとでも言いましょうか。他者を求めるという人間が抱えるコミュニティへの飢餓感を描いている点は同じだとしても、両者の間に横たわる時代感が半端なく隔絶されているのです。それでも「アンナチュラル」のように第1話から仕込まれていた伏線が最終回で爆発するようなカタルシスも、ほんのちょっとはあるわけでして。まあ、片や3ヶ月のワンクール内の話で、片や30年近くの年月が流れているわけですけれども...。いずれにしても、今さらオードリーが片目のジャックに辿り着いた!とか、ジョシーが二重帳簿を盗み損ねた!なんて書き連ねるつもりはさらさらありません。

なので、今回も前回同様、あまり触れられていない部分に焦点を当てながら旧シリーズと「The Return」の比較をしていこうかと思います。ちなみに上記の監督&脚本のリストを見てお分かりの通り、テレビシリーズに関してはデイヴィッド・リンチの影響下は最初の2話のみで、あとのほとんどはマーク・フロストの独断場になっております。物語や映像の骨格はリンチ・テイストを踏襲してはいるのですが、第3話以降はハーリー・ペイトンやロバート・エンゲルスなどそれぞれの作家性が反映された作品になり、リンチ・ワールドをそれぞれに解釈した云わば大衆向けのデイヴィッド・リンチの世界となっているのです。

今から30年前に「ツイン・ピークス」が大ブームを巻き起こしたのも、たぶん、このオドロオドロしい "あちらの世界" を、マーク・フロストが大衆文化にまでひっぱり降ろしてきたからではないかと個人的には思っています。その功績は「Xファイル」から「セブン」さらには「ダヴィンチ・コード」まで広がっていきます。シーズン1ではまだ鳴りを潜めていますが、フリーメイソンなど都市伝説系の話題も「アイズ・ワイド・シャット」などの元祖みたいな括りと捉えることもできます。旨そうなコーヒーとチェリーパイ、茶目っ気たっぷりのクーパー捜査官、そして、森の奥に潜む得体の知れない人間の狂気、それらを一大エンターテイメントに仕立て上げたのがマーク・フロストではないかと。まるで「あなたの知らない世界」など呪いや心霊現象がメインだった宜保愛子氏に変わって、風水やパワースポットなどを巧みに使い "あちらの世界" をポジティブに変換した江原啓之氏みたいな。霊魂とか憑依とかいう言葉を "スピリチュアル" って言ってしまうと、あまり怖く感じないどころか、逆にパワースポットを巡ってそういう類のパワーを貰い受けてますみたいなね。これも一つの体験型のエンターテイメントと括ることが可能ではないかと。

てなわけで姐さん、今回はちょっとマーク・フロスト寄りの都市伝説的な内容になりそうな感じがします。ほとんどが噂レベルの話になるかもしれませんが、まあ、それもエンターテイメントです。それではいってみましょう。

 

1.マリリン・モンロー

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ツイン・ピークス」の第1話の冒頭、パイプに逆さ吊りになって瞑想していたクーパー捜査官はダイアンに向かってこう呟きます。「ダイアン、気になることが2つほどあるんだ。これはFBI捜査官としても僕個人としても非常に興味深い問題だ。ケネディ兄弟とマリリン・モンローの関係とはなんだったのだろうか?そして、大統領を暗殺した本当の犯人はいったい誰なのか?」

この壮大なミステリーの冒頭に語られたモノローグは、ある意味、マーク・フロストの所信表明だったと断言できるほど、「ツイン・ピークス」にはマリリン・モンローへのオマージュというか、モチーフがいたるところに散りばめられています。ざっと列挙してみると。

 ①本名:ノーマ・ジーン・モーテンソン

 ②思春期に受けた性的虐待

 ③セックス・シンボル

 ④有力者との不倫

 ⑤薬物乱用

 ⑥精神科医との会話のテープ

 ⑦全裸での死

 ⑧睡眠薬の過剰摂取

 ⑨死の直前の電話

 ⑩秘密の赤い日記(手帳)

 ⑪ジュディ・ガーランドとの交友

 ⑫宇宙人との接触

さて、いかがでしょう。ピーカーならどれも思い当たる節があるものばかりではないでしょうか。まあ、最後の二つは半分お遊びみたいな感じでもありますが、それにしてもこの数は相当なものです。そして、マリリン・モンローの自殺は、ご存じの通り未だに謎が謎のまま取り残されているわけです。ケネディ暗殺と共に、表面的にはマリリン・モンローは自殺、ジョン・F・ケネディはオズワルドの単独行動により殺害された、ということになってはいますが、両者とも根強く残っているのが何かしらの陰謀によって殺害されたという説です。そして、その陰謀の背景として語られている内の一つに "ブルーブック計画" で掴んだ宇宙人の存在を世に公表しようとしたためという説があるのです。

まあ、この辺の深掘りはここまでにして、もう一つ気になるのがマリリン・モンローの容姿です。おわかりですよね。これです。

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この富士額、この眉毛、そして位置こそ違いますがこのホクロ。もともとマリリン・モンローはブロンドではなく茶褐色の髪だったというのも暗に匂わせていますし、そもそもの初登場シーンのモンローウォークはあからさまに狙っているとしか言えません。

そんな、みんな大好きオードリー・ホーンですが、その境遇を見るとローラ・パーマー以上に不幸なのではないかと思えるのは僕だけでしょうか。

 ◆パパが悪人

 ◆パパに存在を否定される

 ◆パパにやられそうになる

 ◆ママは構ってくれない

 ◆ママはいつも不機嫌

 ◆弟はアッパラパー

 ◆学校にあまり友達がいない

 ◆なぜか男連中も振り向かない

 ◆ホテルの従業員からも煙たがられてる

結論、ツイン・ピークスの住人の中でオードリーは誰よりも "孤独" だった、そう断言できるほど彼女の立ち位置は可哀相な状況にあります。だけど、ローラのように売春やドラッグに走る訳でもなく、パパのコネを使って裏社会を牛耳ろうとするわけでもない。そもそもオードリーのキャラクターに悲壮感というものは皆無で、どこまでも純粋で、誰かがこの世界から別の世界に連れ立ってくれるものと信じていつも夢見ている。その誰かとはもちろんクーパー捜査官なんですけど、彼は子供扱いしてちっとも振り向いてくれない。そこがまた悩ましいんでしょうね、肉食系丸出しでオードリーはクーパーに言い寄るわけです。さらには、ちょっと悪さに手を出すといってもタバコを吸うぐらいのレベルで、とてもローラの比にはならないし。町の有力者のお嬢様という恵まれた環境なのに、金に物を言わせることもなく、あろうことかシーズン終盤まで処女だったという稀に見るウブな女の子だったりもするのです。このアンバランス加減が人気の要因だったのではないかとも思うのですが。

しかし「The Return」になると状況は一変します。その辺の考察は総論でも語りましたが(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)、そこで語ったアルコール依存症というキーワードがマリリン・モンローとの妙な符合を見せます。そして、3度の離婚を経験しているマリリン・モンローのように、オードリーも決して幸せな結婚生活を送っていたわけではなさそうです。ファーザー・コンプレックスという面も見過ごしてはいけません。両者は父親からの愛情というものを充分に享受していない面があり、その欠落が不倫という行為に走らせていると読み取ることもできるのです。

生前、マリリン・モンローはこんな名言を語っていました。その言葉が彼女の人生、如いては、彼女をモチーフにした「ツイン・ピークス」という物語の全てを語っているような気がします。

 

ほら、星たちを見て。

あんなに高くきらきら輝いているわ。

だけど、一つひとつがとても孤独なのね。

私たちの世界とおんなじ。

見せかけの世界なのよ。

 

2.精神科医の戯言

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よく語られているのがカイル・マクラクランデイヴィッド・リンチの化身という役目を担っているという話ですが、ではマーク・フロストの化身は誰か?と聞かれたら、間違いなくこのヘッポコ精神科医ジャコビー先生ではないかと思います。

序章ではなぜか耳栓をし、普段は3Dメガネをかけ、ハワイアンで手品師、どこをどう切り取っても胡散臭さしか残らないという、この強烈なイカサマ師がマーク・フロストの代弁者になるわけですが、彼には彼なりのポリシーというか、別の世界から覗き込んでいるツイン・ピークスという世界があるのです。

「ファイナル・ドキュメント」でも「シークレット・ヒストリー」でも、マーク・フロストはジャコビー先生についてはかなり事細かに書き記しています。その中でも特に注目したいのがエドの銃で左目をケガしたネイディーンを診察したカルテです。時は1987年11月29日。テレサ・バンクス事件が発生する3ヶ月前になります。そこでジャコビー先生は、開口一番、ネイディーンは自ら "直観" を遮断するために左目を犠牲にしたと語っています。なんのことやらさっぱりなんですが、要は下記の図になります。

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人間の脳の、右脳は直観を司り、左脳は理論を司ると言われています。そして、ジャコビー先生が言うには、右側に赤色の偏光レンズをかけると赤色の波長が左脳を司る理論的な活動を若干低下させると、逆に左側に青色の偏光レンズをかけると青色の波長が右脳を司る直観や空間認識の活動を低下させる。そうすると普段はそれぞれに分かれて活動している右脳と左脳が一体感を持つようになり、脳梁、すなわち右脳と左脳を結ぶ神経線維が活性化し、大脳全体が同時に活動するようになるらしいのです。そして、それは現実をより深く覗き込むことができる超次元への入り口なのだと。さらに、この3Dメガネを通して見る世界というのは、スミレ色の世界、うっすら紫がかって見える世界なのだそうです。

それはこんなんだったり。

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こんなんとか。

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さらにはこんなとか。

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そんな風にジャコビー先生には見えているらしいのです。そして、その元となった体験がシャーマニズムに則ったフィールドワークからくるものだそうで、インディアンが万能薬として霊的な治癒力を施すペヨーテや、南米で伝統的に使用されているアヤワスカなどを取り入れた結果からくるものなのだそうです。どれも強烈な幻覚剤に使用されているものばかりなんですが、まあ、簡単に言ってしまうとジェリーと一緒で単にブッ飛んでいるだけという。ただ、これらは変性意識状態を作りだし、自我の忘却を誘い、宇宙や神との一体感を経験できることから、アルコール依存症うつ病などの改善に役立つとも言われ、ある意味、深い瞑想状態と同じ効力があるらしいのです。未知の力を引き出すとでも言いましょうか。超神水を飲んだ孫悟空みたいな感じです。

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こんなことを、まさか30年前のツイン・ピークス第1話から設定していたのかどうかはわかりませんが(たぶん完全なる後付けだと思いますが)、いずれにしても第1話からジャコビー先生が3Dメガネをかけていたのは事実であり、大麻大国ハワイ出身というのもなかなか考え抜かれていたキャラクターとも言えるのです。

で、ちょっとだけ「The Return」の話になりますが、先の第3章で次元の狭間に落ちていくクーパーはジャコビー先生が言う超次元の紫雲に飲み込まれ、ナイドのいる紫がかった部屋に辿り着くわけですが、ここで気になるのがこれです。

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もともと "15" と書かれていたコンセントがナイドのレバー切り替えで "3" に変わりました。この紫がかった世界もレバー切り替えを境に紫霧が晴れて通常の世界になります。放送当時はナイドが感電していたのと、上記の機械がコンセントの形状をしていたので、電圧か何か "電気" にまつわるものがレバー切り替えで下がったのではないかと思っていました。なので、この数字も電圧というか電力みたいなものを現わしているのではないかと。ただ、このジャコビー先生の理論を照らし合わせてみると、この数字、電圧や電力の数値ではなく "次元の数" を現わしているのではないかと思い始めています。

映画「インターステラー」の話は前にも書いたのですが、その元となっているのが物理学の超弦理論、スーパーストリング理論になります。ブラックホールという非常に大きな重力の先に広がっている世界は10次元を操れる多次元の世界という。それが最終話のオデッサにつながるのではないかと。まあ、数学や物理の本は好きでよく読んでいるのですが、それを全て理解したかと聞かれると、ほんのちょびっとしかわからないんですが...。世の中にはどうやら多次元の世界が存在するらしいと。そして、上記の数字は、紫がかった世界が "15次元の世界" 、そしてクーパーが現実に戻るため、ナイドは僕らが生きている "3次元の世界" に切り替えたのではないかと。そして、それがジャコビー先生の "3D" にもつながる。3D=現実、みたいな。はい、真意の程はDVD/BDが発売されるまでお預けでございますが、発売されたところで解明するのか?と聞かれると、たぶん、何も解明されないような気もします。

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さらにジャコビー先生つながりで、先のネイディーンの "直観" に話を戻します。もともと彼女の母親は精神病院に入院するほどの重度の精神病患者で、父親は典型的なアルコール中毒者だった。彼女自身も躁鬱病統合失調症であり、自分の周りで起きている "見たくない" ことを持ち前の直観で察知することに疲れ果て、自ら左目にケガを負ったとジャコビー先生は分析しています。そうすることによって強制的に理論的な左脳をフル稼働させることになり、その代償行為が "音のしないカーテンレール" を産み出す行為に走らせていると。彼女にとって、見たくない何かを遮る際に "音" が出るというのが、なによりも気に食わない現象だったのです。そして、念願叶って(エドがグリスをこぼしたおかげで)音の出ないカーテンレールに辿り着き、もう見たくないものを静かに遮ることができた瞬間、ネイディーンは一番見たくないものを目撃することになります。結局は誰も自分を受け入れてくれないという "絶望" がのしかかってきたのです。その顛末が睡眠薬の過剰摂取。今見ても、なかなか練られたストーリー展開だと思いますが、大半の人は不思議ちゃん扱いで終わっていたのではないかと思います。まあ、偉そうにこんなことを書いている自分が、当時は一番、ネイディーンを不思議ちゃん扱いしていたのですけど...。

いずれにしても「The Return」でネイディーンはドクター・アンプのクソ掘りシャベルによって開眼、このクソみたいな世界に気づくことによって、自分自身が一番クソな存在だと知り、中堂よろしくエドを解放するに至りました。まあ、ムーミン好きはスナフキンだと思っていればガマンできるようですが、ネイディーンにはドクター・アンプがいます。先述したペヨーテやアヤワスカを摂取したような精神の解放が彼女の残りの人生を意義あるものにし、ドクター・アンプもまたこの上ない精神の宝の持ち主を得たと。落ち着くところに落ち着いたということみたいです。

 

3.コーヒーは旨かったのか?

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「The Return」の第4章、現世に帰ってきて一夜明けた朝、ルンルンのジェイニーEが煎れたコーヒーを一口含んだ途端、ブハーッ!と吐き出したクーパー/ダギー。当時はコーヒーがクソまずくて吐き出したものとばかり思っていましたが(ジェイニーEがダギーにコーヒーを出したのは後にも先にもこのシーンだけです)、久しぶりに旧ツイン・ピークスを観直したら、どうもクソ旨かったんじゃないかという気がしてきました。それが旧シリーズの第2話、伝説のチベット占い捜査のシーンです。

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クーパー、しっかり吐き出してます。んでもって、ルーシーに向かって「すげえ旨い!で、熱い!」と熱弁しているわけです。たぶん、ピートが煎れた魚入りのコーヒーが生臭い上にぬるいという極上のマズさだったため、なおさらスゲエ旨かったのかもしれませんが、これに対するオマージュというかパロディが「The Return」ではないかと。

だとしたらジェイニーEも、チョコレートケーキだけじゃなくてコーヒーもセットにしてあげてればよかったのになぁ。

 

4.胃の中にあったものの意味とは?

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「The Return」でブリッグス少佐の胃から検出されたダグラス・ジョーンズの結婚指輪。検察官のコンスタンスが嬉々としてデイブやドン・ハリソン刑事に報告をしていましたが、二人とも「それがなにか?」みたいな態度でした。ゴードン・コール一行がバックホーンに到着した際も同じで、ブリッグス少佐の遺体には興味を示すのですが胃の中から出てきたものについてはスルーしていました。

たぶん、25年も経っているのでアルバートもゴードンもすっかり忘れてしまっていたのかもしれませんが、かのローラ・パーマーの胃からも同様に異物が検出されていたのです。それがこれ。

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片目のジャックのコインの欠片。そもそもこの欠片を発見したのはアルバートであり、完全にコンスタンスと対比になっているのです。そして、事件の核心に迫る重要なアイテムという点でも見事なシンクロ率を誇っています。

この "コインの欠片" がなぜローラの胃の中にあったのかはシーズン1の第7話でジャック・ルノーが語っていますが、事の経緯はローラが自ら噛み砕いて飲み込んだというのが真相になっています。これらが「The Return」でも同様であるとするなら、やはりブリッグス少佐は結婚指輪を自ら飲み込んだのだと推測することができます。その辺の考察は総論を参照してもらえればと(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)。

 

5.片目のジャック

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コインの話題が出たので、続いて "片目のジャック" についてちょっとしたトリビアを。自分も調べるまではぜんぜん知らなかったのですが、どうやら片目のジャックは二人いるみたいなのです。どういうことか?というと、次のトランプの絵札を見て頂くとしてですね。

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ご覧の通りダイヤとクローバーのジャックには目が二つあります。ハートとスペードのジャックだけが片目なんです。トランプは今まで腐るほどしてきましたが、こうやって絵札をまじまじと見たのは人生で初めてかもしれません。さらには、ハートのジャックは "愛" の象徴であるハートのマークをガン見しています。逆にスペードのジャックは "剣" や "死" の象徴であるスペードから完全に背を向けています。これにも意味があるらしいのですが、まあ、ツイン・ピークスとはあまり関係がなさそうなので、ここは割愛します。

片目のジャックは表向きはカジノですので、上記の看板にあるようにブラックジャックの絵札とも絡めてスペードのジャックがあしらわれています。しかし、裏ではハートも楽しめるというダブルミーニングになっているのが素晴らしいではないですか。

さらにトランプつながりで話を続けていくと、ちょいとシーズン2のネタになってしまいますが、これです。

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 スペードのクイーン(男勝り)・・・シェリー・ジョンソン

 ダイヤのクイーン(贅沢好き)・・・オードリー・ホーン

 クローバーのクイーン(お人好し)・・・ドナ・ヘイワード

 スペードのキング(ダビデ)・・・デイル・クーパー

ここに足りないのはハートのクイーンであり、ご存じの通りそれはアニー・ブラックバーンを指していました。それぞれのカードの意味が各キャラクターに微妙なニュアンスで割り振られているのも面白いところです。そして、スペードのキング。ペリシテ人の巨人兵士ゴリアテをたった一つの石で倒した羊飼いの少年ダビデ、彼がモデルとなっているカードがクーパーに割り当てられています。先述したようにスペードは "死" の象徴でもあり、キングが手に持っている剣はゴリアテの首を切った勝利の剣です。ウィンダム・アールは、そんな英雄気取りのクーパーを仕留め、ハートのクイーンを生贄に祀り上げようとしていたのです。

トランプつながりでさらに話を続けると、これです。

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その昔、トランプには税金が課せられていたそうで、印刷局を経て製造されたカードであることを証明するために、スペードのエースだけは国が管理をしていたそうです。そういう意味ではトランプの中でも特別なカードであり、さらにはトランプの中でも最強を意味するカードでもあります。その上、何度も言うようにスペードは "死" の象徴であり、"A" は全ての始まりを意味します。悪クーパーがトランプのカードを使っているというのも、上記のクイーンと一緒で、悪クーパーがウィンダム・アールであることを暗に示しています。ここまでそれらしい意味がお膳立てされていて、これがエクスペリメントのことではなくて他の事を意味するとしたなら、その方がビックリしてしまいます。

 

6.ブックハウス・ボーイズ

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トランプつながりで記号の話を続けると、ハリーやエド、ホークが在籍しているブックハウス・ボーイズのシンボルも "スペード" と同じ意味を持っています。こちらはあからさまに剣の姿があしらわれていますが、その周りにベイマツ(ダグラスモミ)の枝葉が描かれているのも興味深いところです。

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BANG BANG BARと同じ敷地内にある小さな小屋を根城にしていたブックハウス・ボーイズの面々。序章ではボビー&マイクからドナを助け出しジェームズの元に送り届け、第3話ではジャック・ルノーの弟ベルナールを捕獲、ジャックの居所を教えろと脅迫していました。同じ第3話でハリーはブックハウス・ボーイズの役目について次のように語っています。

「変な話をするが信じて欲しい。ここツイン・ピークスは余所と違う、時代に取り残された別世界だ。それがこの町の良さだ、俺たちはそこを気に入っている。でもここには隠れた部分もあって、それも余所とは違っているんだ。"負" の部分。なにか邪悪なものの存在があるんだ。深い森の奥には非常に奇妙なものがひそんでいる。闇というか魔物というか、なんとでも呼べばいいが、いろんな姿をしているんだ。しかし、それは昔から常にそこにいて、我々は常にそれと戦ってきた。祖先たちも子孫たちも、みんな戦ってきた」

語り部はその "悪" をカナダから運び込まれてくる麻薬としていましたが、シーズン2や「The Return」を経た今となっては、その対象がダグパスでありジュディであることを僕たちは知っています。

また、かのジェームズもブックハウス・ボーイズのメンバーであり、そのメンバーの特徴がバイカーであることを考慮すると、彼もそのメンバーだったのではないかと推測ができます。

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アンディとルーシーの息子ウォリー。マーロン・ブランドと同じ誕生日だからと、ハリーが名付け親になった彼は「The Return」の第4章にしか登場しないのですが、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーではないかと匂わせるのが下記の3点。

 ①アンディがブックハウス・ボーイズのメンバー(フランクも同じ)

 ②バイクに乗ってライダースを着ている

 ③自分が使っていた子供部屋を両親の書斎(ブックハウス)にしていいと伝える

短い出番ながら、アメリカを横断したルイス・クラーク探検隊に言及したり、自分のダーマ(法)は "道" だと言ってみたり、なかなか口達者な若者です。では、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーなら、いったい何と戦っていたのでしょう。「The Return」でも「ファイナル・ドキュメント」でも、その辺については何も具体的なことが描かれていません。ですが、あえて仮説を立てるとするなら、暗い森の奥に光を射し込もうとしていた、隠れているものを白日の下にさらそうとしていた、そんなことをしようとしていたのではないかと。未開の地だったアメリカ北西部を明らかにしたルイス・クラークのように、ウォリーも何かの陰謀と戦っていたのかもしれません。

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さらには「The Return」でボブ玉を粉砕したフレディも、ジェームズの誘いによってブックハウス・ボーイズに加入していた可能性があります。だとしたら、その活躍と功績は完全にツイン・ピークス部外者にお株を取られた感じでもあります。

 

7.マーロン・ブランド

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先のウォリーもそうですが、何かとマーク・フロストはマーロン・ブランドをフューチャーしています。

旧シリーズの第4話でも、クーパー捜査官のために情報を私にちょうだいよとドナにけしかけるオードリーですが、その際のやり取りの中で "片目のジャック" の話をすると、ドナは「映画の題名でしょ?」と答えています。この「片目のジャック」という映画も、マーロン・ブランドが主演、さらには監督までしている作品なのです。

先のブックハウス・ボーイズのバイカーたちもマーロン・ブランド譲りのファッションですし、かの「ゴッドファーザー」でアカデミー主演男優賞を受賞した際も、受賞スピーチを拒否した挙句、壇上でインディアンの活動家にスピーチをさせたという逸話もあります。

日本に住んでいる僕がこんなことを言うのもなんですが、アメリカの歴史の中で黒人の奴隷解放や人種差別はずいぶんと大きく取り上げられていますが、先住民であるインディアンを根絶やしにしたことにはあまり触れたがりません。人種差別がアメリカという国の中でどれほどの問題意識としてあるのかは知りようがありませんが、そんな中でメインキャストに先住民である "ホーク" を配置していることには、大きな意義があるのではないかとは思います。

 

8."真の男" を助ける者たち

ツイン・ピークス」と「The Return」の対比が描かれている中で特筆したいのが、トルーマン兄弟の危機を救うこの二人です。

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片やジャック・ルノーにやられそうになるハリーを、片や悪クーパーにやられそうになるフランクを助けているわけですが、前回のブログで書いたように、普段はトボけている両者が、次元の分岐点に存在しているだけでなく "真の男" を守っているというのが、なかなかにしびれる展開です。

どこまでの意図があるのかは解釈しづらいところではありますが、たぶん、そんなに深い意味はないと思います。

 

他にもいろいろとセルフ・パロディというか、オマージュというか伏線というか、そんなものがありそうなんですが、とりあえずシーズン1については、ここまでにします。いずれにしてもシーズン2の時にも触れるかもしれませんが、ローラ殺しが解決した後のグダグダ感は半端なく、それは視聴者だけでなく、作品に携わったスタッフやキャストも口を揃えて "最悪" だったと語っているのです。そういう意味でも、謎が謎のまま残っているシーズン1は素晴らしく、続きがめちゃめちゃ気になるという点でも突出している作品だと言えるのです。そして、その作品を作り上げたのは監督や脚本家だけでなく、このメインキャストたちの素晴らしいクリエイティブぶりがあってこそだとも思うのです。

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なぜ、デイヴィッド・リンチは、原点である「インターナショナル版」に回帰したのか?

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第2回「なぜ、デイヴィッド・リンチは、原点である「インターナショナル版」に回帰したのか?」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: PILOT

監督:デイヴィッド・リンチ

脚本:マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

日本公開:WOWOW 1991年4月 / TBS 1992年10月

放映時間:116分

 

TVシリーズツイン・ピークス」についての基本情報は下記リンクへ。

Twin Peaks Frequently Asked Questions v3.0-J

ツイン・ピークス - Wikipedia

 

というわけで「The Return」のDVD/BD発売までの時間潰しシリーズ第2回目。今回はツイン・ピークスの原点である "序章" の考察です。というか、前回同様、もうかれこれ20年も30年も映画ファンやリンチ・ファンに考察されまくった作品を、なぜ今さら僕みたいな映画アッパラパーが大風呂敷広げて考察せなあかんのか?という話なんですが、これはしょうがないんです。だって、DVD/BDが発売されないんだもん!WOWOW放送が終わってもう3ヶ月。全米放送が終わってからだと、かれこれ半年だよ!こんなんありえないでしょ!なにやっとんねんって話です。リリース情報出しちゃうとWOWOW加入者が減っちゃうからって、いくらなんでもコレはないでしょ。と言いながら、さて、ここ日本でデイヴィッド・リンチが好きな人はどれくらいいるのか?っていう話もあるんですけどね。そもそも、デイヴィッドなのか、デヴィッドなのか、デビッドなのか、その辺もうちょい統一してくれ!っていう話から始まりそうなんですけど...。まあ、そんなんで愚痴は終わらせておきまして、ここから本題に移ります。

チミは覚えているか?DVDの1stシーズンが発売された時のことを。

チミは覚えているか?ウキウキして観た "序章" のことを。

中途半端な終わり方に衝撃を受けたことを。

そして、いつまで経っても発売されなかった2ndシーズンのことを。

チミは覚えているか?インターナショナル版が観たくても、

もうVHSでしか観ることができない現実に途方に暮れてしまったことを。

内藤仙人さま、ごめんなさい、しっかりとパクりました。しかし、"チミ" で通じる人って、ある程度の世代だってバレバレになってしまいますよね。ヒュ~ヒュ~みたいな。マジ卍。てなわけで、発売されなかったねぇ、2ndシーズン。思えば2002年の冬ですよ。世は「マルホランド・ドライブ」の熱狂真っ只中、そんな中でとうとう「ツイン・ピークス」までDVDになるぞと、まあ速効で購入したはいいものの、続きがぜんぜん発売されない!おったまげましたよ。と、この辺の憤懣はシーズンを振り返るで語ることにしまして、ここで言いたいのは、この「インターナショナル版」が長らく絶版になっていたことです。

大方の評論やブログを観ていると、この「インターナショナル版」のエンディングはクソだと。なんの意味もないし、考慮する必要なんて一切ないと。そもそもこれはワーナーに作れと言われてリンチ監督が即興で作り上げた代物だから、観たきゃ第2話の後半を観ればそれで充分だと。まあ、散々なことを長年の間に言われ続けた作品ではあります。しかし、だとしたら、その30年後に、なぜリンチ監督は、その即興で作り上げたエンディングに舞い戻ってきたのでしょうか?そして「The Return」の第17章は、なぜ「インターナショナル版」を踏襲しているのでしょうか?

ストーリーや作品についてのスタンダード的な考察は前回の「ローラ・パーマー最期の7日間」同様、冒頭のFAQサイトやWikipediaを参照して頂くとして、それ以外のあまり触れられていない部分に照準を合わせて語っていければと思っています。さらには、そこから「The Return」をさらに深読みしていければと、もしくは妄想していければと。ではでは、姐さん、時は1991年!世は平成元年。武田鉄矢氏がトラックの前に飛び出し、宮沢りえ様が衝撃の初ヌードを披露した、あの頃までにタイム・スリップしまっせ。

 

1.ムナオビツグミ

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さて、ツイン・ピークスと言えば、この鳥さんです。名を "ムナオビツグミ" 。胸に帯のような模様があることから、その名がついたそうです。英名は "Varied Thrush" 、学名は "Zoothera Naevia" 。生息地はカナダや北アメリカ。まずこの近辺で拝むことのない鳥さんです。あまり鳴かないために "口を噤む" 、つぐむ、噤み、ツグミと呼ばれるようになったようですが、それは日本での話。海外でのツグミはどうなのかと言うと、マザーグースの「誰がコマドリを殺したのか?」に出てくるように、弔いの讃美歌を歌うようなピィピィ鳥のようです。なので日本の印象と違い、海の向こうではカナリヤのような愛らしい種類のものと思われているようです。

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このオープニング、よく比較されるのが「ブルーベルベット」に登場するコマドリではないかと思います。ある方は「ブルーベルベット」で舞い降りてきたコマドリが「ツイン・ピークス」に辿り着いたと解説していましたが、コマドリツグミは似て非なるもの、意味合いがぜんぜん違うようなのです。と言いながら、僕も鳥に詳しいわけではないので、もちろん上の二つの写真が同じ種類の鳥だと思っていました。お腹のあたりがオレンジというか茶色くなっているのが一緒だし、片方が作り物だから余計に模しているんじゃないかと。ですが、そこはネット社会。昔はいろいろ本なり図鑑なりを調べなければわからなかったことが、今ではググればほとんどわかってしまうという。便利な時代です。

では、次に「ブルーベルベット」の劇中でローラ・ダーン演じるサンディが、"夢" で見たというコマドリについてのダイアローグをかいつまんでみましょう。

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「夢を見たの。あなたと会った晩よ。夢の中ではこの世は闇、それはコマドリがいないからよ。あの鳥は愛の象徴だもの。最初は長い長い間、闇ばかりなの。ところが突然、何千羽ものコマドリが放たれて、愛の光を持って舞い降りてきたの。その愛の力だけが闇の世界を変えるの。光の世界に。悲劇が続くのもコマドリが来るまでよ」

どうでしょう、このセリフ。「ツイン・ピークス」にも「The Return」にも当てはまりそうなセリフではないですか。コマドリは胸のあたりが赤くなっていることから、キリストの血を受けた鳥、キリストのそばにいる鳥として、サンディが語るように "愛の象徴" と比喩されることが多いようです。ところが日本ではコマドリ (駒鳥) 、駒というのは馬を意味するらしく、馬の鳴き声に似ているということからの命名だそうで、欧米のクック・ロビンという呼称とはかけ離れているのです。

では、この「ツイン・ピークス」の冒頭が、なぜツグミで始まるのか?ですが、これはマザーグース論がやはり強いのではないかと。

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Who killed Cock Robin?

先述したようにツグミは殺されたコマドリのために讃美歌を歌います。要するに神を讃えているのです。となると、この冒頭のツグミも殺されたローラ・パーマーのために鳴いている。ローラのために神を讃えていると深読みできます。もちろんリンチ監督のフィルモグラフィーの中で、この「ツイン・ピークス」が「ブルーベルベット」の系譜を辿っていると読み解くことも充分できます。さらに、このマザーグースには「ツイン・ピークス」と共通する動物たちがいくつか出てくるのです。

 ハエ・・・コマドリの死を確認した

 フクロウ・・・コマドリの墓を掘った

 牛・・・コマドリのために鐘を鳴らした

蝿は悪魔ベルゼブブとして、フクロウはイルミナティのシンボル、全てを見通す目を持つものとして、牛は「The Return」で生贄、もしくは真実の探求者として描かれていました。まあ、こんな深読みをしたからと言って、何が理解できるのか?というと、結局はシンボリックな都市伝説的な楽しみ方しかできず、肝心な人間ドラマが希薄になってしまうだけのような気もするのですが...。とは言っても、それもリンチ作品を味わう一つのスパイスであることには変わりないのです。まるで絵画を楽しむような感覚です。

ちなみに「The Return」で鳥のように鳴いていたナイド。その鳴き方がどうもツグミの鳴き方と同じような気がします。渡り鳥であるツグミを牢屋という名の鳥かごに囲う。そもそもツグミに限らず、"鳥" というのは宇宙からの伝達者というスピリチュアルな意味合いがあるようです。となると、ナイドは何を伝達するために地上に舞い降りてきたのか?世界が闇に包まれているから "鳥目" として目が見えない状態なのか?その辺についてのナイド考察は「The Returnを振り返る」で。

 

2.キラー・ボブ

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「インターナショナル版」と「序章」の違いは、ローラママが何を思い出すかによって切替わっていました。そういう意味では「The Return」でトビガエルを飲み込んだローラママは "宇宙の分岐器" という非常に重要な役目を担っているのかもしれません。

上の画像の通り「インターナショナル版」でローラママが思い出すのはベッドの影に隠れていたボブです。そして、その姿はローラママの背後にある鏡にも写っています。リンチ監督、芸が細かいです。これが通常の「序章」になると、割れたハートのネックレスを拾うジャコビー先生に切替わってしまうのです。これがもう、冒頭で語った1stシーズンDVDの話に戻りますが、初めて見た時のその違和感といったら、まるでチョコパイとエンゼルパイぐらいにまったく違うじゃないですか!(両方好きな人はごめんなさい)。そもそも、なんでローラママがネックレスを拾うところを幻視せなあかんのかがさっぱりわかりません。こっちの方がよっぽど不条理な感じがするのですが、ことアメリカではジャコビーver.が通常のようで、日本やヨーロッパの方がおかしいということみたいです。ストーリーの流れ的にはボブver.の方がスムーズのような気がするんですけどね。

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しかし「インターナショナル版」のボブの登場は衝撃的でした。こんなもの思い出した日にはローラママじゃなくたって、誰でも悲鳴を上げたくなります。これもリンチ監督が得意とする "偶然の産物" から生まれたシーンですが、ただの大道具さんだったフランク・シルヴァが一瞬にして悪の象徴へと生まれ変わった劇的な瞬間と言えます。この役者でもないズブの素人を平気で物語に登場させるというのは「The Return」でも継承されていて、ラストのアリス・トレモンド婦人にまで至ります。

さて、そもそもキラー・ボブとはいったいなんだったのでしょうか?「エクソシスト」的な解釈をするなら "悪霊" と定義することができますし、「ジキル&ハイド」的な解釈をするならリーランドのダークサイドがボブであると言えます。しかし、多重人格や解離性同一性障害であると仮定するなら、上記のシーンでローラママが目撃したボブはリーランドだったことになり、グレート・ノーザン・ホテルでミーティングをしていたリーランドと整合性が合わなくなります。なので、素直に「ボブは "悪霊" であり、憑依された人物はシリアルキラーに豹変してしまう」と解釈していいのではないかと思います。

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そして、後述する片腕の男マイクが語っていたように、ボブの左腕上腕には "FIRE WALK WITH ME" と書かれた刺青があります。これは悪魔に身を捧げた証拠であり、この "火" を求める行為が「ツイン・ピークス」という世界の "悪" であるということを示しています。

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突然ですが、世界は「火・風・水・土」の四大元素で構成されており、アリストテレスはそこに「熱・冷・湿・渇」の性質を加え、世界を一元論で説明していました。上の図はアリストテレスの論理を図式化したものですが、僕たちが住む世界はこの4つの元素で成り立っていると考えられています。その中心に人間がいると。僕らはこの奇跡的な自然に囲まれて生きていると。「ツイン・ピークス」という世界を見ると、"風" にそよぐ森があり、滝から流れ注いでいく "水" があり、木を育む "土" があります。ここに足りないのは "火" です。ただ、"火" というのは "太陽" 、要するに "光" と言い表すこともできます。そして、"火" を求めるというのは "光" を求めるとも言い換えることができます。そして "光" を求めるということは "神" を求めるとも読み解けます。

Wikipediaやインターナショナル版のメイキングを観ると、撮影をしている時点ではリーランドが犯人であることは確定していたようですが、ボブというキャラクターまではスクリプトに落とされてはいなかったようです。「ツイン・ピークス」という物語は、あくまでも「ツイン・ピークス」という "町" が主役であり、初期段階では "霊的" なものを描く予定がなかった。まるでドラゴン・ボールの初期、天下一武道会なんていうアクションバリバリの設定を考えていなかった鳥山先生みたいなものです。ボールを7つ集めたら終わる予定だったものが、最終的には宇宙まで広がったみたいな。

その観点で見ていくとリンチ監督にオチを作るように迫ったワーナーブラザーズがスゴイということになります。その圧力がなければ、ボブというキャラクターも産まれなければ、赤い部屋も産み落とされることがなかったのです。

ちょっと偉そうな持論になってしまいますが、アーティストやクリエイターと呼ばれる人には "強烈な制限" がなければいけないんじゃないかと僕個人は思っています。その制限へのストレスや反発から「名作」と呼ばれるものが産まれてきたのではないかと。古くはルネサンスダ・ヴィンチミケランジェロシェイクスピアドストエフスキー。アーティストでもビートルズに始まり、レコード会社と対立しながら切磋琢磨していた数々のバンドが名曲や名演を繰り広げてきました。それがセルフプロデュースなど制限緩和がなされた途端に魅力が半減してしまう。そんなアーティストを今までゴマンと見てきました。誰かが "利益" もしくは "大衆性" というフィルターにかけないと、アーティストの独りよがりになってしまい、例え、それが優れた表現であったとしても、ポピュラリティー、普遍性が伝わりにくいものになってしまうのです。漫画にしたってゲームにしたって、怖い編集者や性能の限界に挑戦したからこそ産まれてきた名作があります。スポーツだってそうです。体罰はもちろんNGですが、だからと言って優しい指導者のもとでいい選手が育つか?と言われたら、まずないと思います。ぬるま湯じゃダメなんです。

話がだいぶ逸れましたが、リンチ監督もワーナーの重役からギュギュギューッと絞めつけられた結果、スポンッと産まれてきた発想が「インターナショナル版」のエンディングになると思うのです。そこから産まれてきたのがボブであり、赤い部屋であると。そして、それは作家の本質を確実に表現したものなのです。その言葉が「FIRE WALK WITH ME」であり、それを体現する世界が「RED ROOM」であると。

 

3.片腕の男 "マイク"

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「"来たるべき過去の闇を見通すのが魔術師の望み。二つの世界の間から声が放たれる。火よ、我とともに歩め"。我々は人間と暮らした。君らの言うコンビニエンスストア、その上に住んだ。言葉通りの意味だ。俺はマイク、彼の名前はボブだ。彼は弱った人間を餌食にする。傷ついた人間を。俺は一年間、見張ってた。ボブが出てくるのを。彼が何かしでかすと君(クーパー)が出てくる。俺も悪魔に魅入られた。左腕にイレズミを。だが神の御前に立って、俺は変わった。腕を元から切断した」

ローラ・パーマーが運び込まれた病院のモルグで片腕の男はこう語っています。このセリフから読み解けるのは下記の3点になります。

 ①コンビニエンスストアの上が現世(人間世界)とつながる唯一の場所

 ②片腕の男がしていたイレズミは "FIRE WALK WITH ME"

 ③悪に魅入られた部分が具現化したのが "別の場所から来た小さな男"

しかし、ここで重要なのはセリフの冒頭です。この "来たるべき過去の云々..." という一連の詩は、25年の月日を経て「The Return」の第17章で突如繰り返されます。旧シリーズの本編ではクーパーの夢に登場した内容になっていますが、「インターナショナル版」でも同様、電話で起こされる場面からが全て夢だとするなら、クーパーが夢で見ていると解釈することも可能です。だとしたら「The Return」の第17章のどこかにも切替り点があるはずです。まるで「マルホランド・ドライブ」の "シレンシオ" みたいな感じに。それがどこかというと、まずここでしょう。

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この森の心臓からホワイト・ロッジに囚われてしまった悪クーパーが物語の分岐点ではないかと。おわかりでしょうか?悪クーパーが座標の位置に辿り着くまでが正式な物語であり、そこから先は無数のストーリーが存在する。もしくは夢見人が見ている夢の世界になるのです。その一つが「The Return」であった。幾つかある分岐の中で、マーク・フロストとリンチ監督がなぜ「The Return」のこの結末を選んだのかは、また妄想するとして、ここで重要なのは物語の道先案内人が片腕の男 "マイク" であり、その分岐点には必ずこの二人がいたということです。

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アンディとルーシー。信じられないかもしれませんが、このおとぼけコンビが「ツイン・ピークス」の最重要キャラクターなのです。ビックリです。

夢占いの世界では "トランペット" などの管楽器を吹くというのは、恋人や配偶者への深い愛情があることを現わしているらしく、"卓球" の夢は誰かと通じ合いたいという欲求の表れだそうです。そう言われてみるとそう見えなくもないのですが、まあ、いつもの如くこじつけ感が半端ないです。どちらかというと、単純に人の神経を逆なでしているだけと捉える方がスムーズな気がします。

まあ、たぶんこれも偶然の産物だとは思いますので片腕の男に話を戻します。病院の地下ボイラー室に隠れていたボブを撃ち殺したあと、彼は切り落とした腕に痛みを感じ、それを和らげるために "ニッケル" を求めます。ここで既に伝導率の高い "ニッケル" を求めているというのが面白いのですが、片腕の男やボブなどロッジ系のキャラは電荷体質なのかもしれません。そして、息絶える間際に片腕の男はこう言い残します。「ボブ、いつか、お前の時が来る」

それが25年後の「The Return」の世界のような感じもしますが、だとしたらここで撃ち殺されてもボブは死んでいなかったことになります。いや、ここは刑事もののラストシーンのように、わざと悪役が死んだ風に作っている節が強いのです。このわざとらしさは第17章のフレディVSボブ玉と同じ感じです。確信犯ってやつですね。

これらのシーンと「The Return」には驚くほどの共通項があります。

 ①ボイラー室が出てくる

 ②キーンという不思議な音が出てくる

 ③先の "来るべき過去の云々..." の詩

 ④コンビニエンスストアの設定

 ⑤"FIRE WALK WITH ME"

 ⑥悪魔と神

 ⑦「電気はつけないでくれ」

 ⑧赤い糸の縫い目

 ⑨ボブが "銃" で撃たれる

 ⑩"火" が消える

まるで「The Return」は「インターナショナル版」の謎を説明するために制作されたのではないかと思えるほど重要な項目が目白押しなのです。中でも気になるのが②番のキーンという音です。「The Return」ではグレート・ノーザン・ホテルのボイラー室から鳴り響いていましたし、クーパーはその音が鳴る扉に入っていきました。「インターナショナル版」ではキーンという音を耳にした時、ボブはこう語るのです。「気をつけろ、耳を澄ませ!親分が呼んでいる...」

このセリフ、ボブが片腕の男に語りかけているのですが、どう考えても魅入られてイレズミを彫り込んだ悪魔が、その親分であることを指し示しています。この時点では "ジュディ" なんて設定も "ダグパス" なんていう設定もなかったはずですが、これらのことから片腕の男 "マイク" がどういう経緯を辿ってきたのかが見えてきます。

"ジュディ" に魅入られたマイクは左腕に "FIRE WALK WITH ME" のイレズミを彫り込みボブと共に悪行("火" を求めること)を楽しんでいた。ある日、マイクはホワイト・ロッジに辿り着き、神の御前に立つと "火" は必要ない事がわかる。神がその "火" であることを知ったから。そこでマイクは "ジュディ" の呪いを絶つために左腕を切り落とす。切り落とされた腕は "別の世界から来た小さな男" となり、ボブと共にガルモンボジーアを求め続けた。マイクはボブの悪行を止めようと奔走するが、いつも寸でのところでボブを止めることができないでいる。

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穿った見方をすると「The Return」の第17章、フィリップ・ジェフリーズに1989年2月23日に連れて行ってくれと頼んだ後、片腕の男は「電気」と言い残しながら、どこかクーパーと一体化、もしくはシンクロしていく状況が描かれていました。これ、当時はなぜクーパーはローラを助けに行こうとしていたのか、イマイチよくわかりませんでしたが、片腕の男がローラを助けるためにクーパーとシンクロして旅立ったと解釈すると、なぜか腑に落ちてしまうところがあります。完全にストーリーを斜めから見た妄想だとは思いますが、その失敗のあと、さらにオデッサへクーパーを誘う片腕の男は、最初からローラを助けるために動いていたと解釈できます。さらに妄想するなら、神と対峙した時に、ボブを消滅させ、ローラを助けるという使命を背負わされた男、それが片腕の男だったのではないか。真意の程は定かではありませんが、こんな見方も面白いかもしれません。

 

4.メディチ家のヴィーナス

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ツイン・ピークス」の最重要シーンといったらやはりここに辿り着きます。上の画像に登場しているのは25年後のクーパー、ローラ・パーマーのいとこ、別の場所から来た小さな男の三名。小人が呼び出した赤いカーテンの奥に見える影は "鳥" であり、それがフクロウなのかツグミなのかは明らかにされていませんが、この時点ではツグミであった可能性が高いと思います。クーパーが座っているソファの横には "土星" のミニチュアがあり、この部屋が宇宙の一部であることを現わしています。さらには "土星=サターン" 要するに "悪魔" の部屋という暗喩が隠されていると解釈しても間違いではないでしょう。そして、小人とローラの間にあるヴィーナス像。

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これは "メディチ家のヴィーナス" という作品で、恥じらいのヴィーナスの系譜に当たる作品です。リンチ監督が赤い部屋にこの彫像を配置したというのは非常に意味深です。というのも "恥じらい" がテーマであるはずのこの彫像、見る角度によっては恥じらうどころか誘っているようにも見えるからです。隠そうとしているけど、逆に見せようともしているのです。この多角的な視点を有している作品を赤い部屋の中央に配置したというのが、この「ツイン・ピークス」という作品の本質ではないかと思うのです。

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同じ恥じらいのヴィーナスを扱った作品で有名なのがボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」です。ポーズは見てわかる通りメディチ家のヴィーナスとまったく同じで、その意味するところは "恥じらい" です。ボッティチェリのヴィーナスは真っ直ぐこちらを見つめていますが、メディチ家のヴィーナスは横を向き、そこに何かが存在しているように見えます。その視線の先に何があるのかは、鑑賞者の想像に委ねられているのです。まるでデイヴィッド・リンチ作品のスタンスそのものと言えるではないですか。この多義性がリンチ作品の醍醐味なのです。

ただ、ここでボッティチェリの作品をあえて出したのには訳があります。それは「ローラ・パーマー最期の7日間」にも「The Return」にも出てきたシーンですが、翡翠の指輪を置く台座の形です。

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どうも貝の形に見えませんか?仮にこれが貝だとするなら、恥じらいのヴィーナスと組み合わせると、ボッティチェリの絵のようになるのです。では、そうであると仮定して考え進めるなら「ツイン・ピークス」の女神となるのは誰なのか?愛と美を司るものはなんなのか?ということになるのですが、それがローラ・パーマーになるのではないかと。デイヴィッド・リンチはローラ・パーマーを描くことによって "愛" と "美" を表現しようとしている。逆説的に捉えると "愛" と "美" が壊されていくさまを描こうとしている。そう解釈できるのかもしれません。

 

5.ダブルRダイナー

最後にちょっとした小ネタで幕を閉じます。「シークレット・ヒストリー」を読めばわかることなのですが、これ。

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ダブルRダイナーの看板、なんで "T" がデカデカと書かれていると思います?ダブルRなのに、なんでTなんやろ?とずっと思っていたんですが、どうやらコレ「マーティ」のTだそうです。よぉく見ると "mar" って書いてあるんですよ、下に。マジか!って感じです。こんなところからBTTFだったとは!みたいな。ていうか、マーティやったら普通 "M" にするんやないのか!と。なんで語尾を大きくしたんやろ。

ちなみにダブルRも "鉄道 (Rail Road)" からとられているようで「マーティの鉄道カフェ」が正式名称のようです。ツイン・ピークスに鉄道が走っているわけではなく、単に鉄道の食堂車のようなカフェにしたかったからこの名称にしたそうです。お粗末さまでした。

『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する

3月末までWOWOWが「The Return」を独占するみたいなので、DVD/BDの発売アナウンスはさらに先になりそうな感じがする今日この頃。完全に世界から置いてけぼりを喰らってる状態です。たぶん、思ったほど採算が取れなかったため、WOWOWも苦肉の策で何度も放送しないといけない羽目になったような印象を受けるのですが、そもそもデイヴィッド・リンチにエンターテイメントを求めた時点で的外れの感じもします。まあ、ぶっちゃけ、負のスパイラルが半端ないです。

そんなわけで「The Return」のDVD/BDが発売されるまでの時間潰しというわけで、ちょっとした連載コラムを思いつきました。名づけて『「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ』です。今のところ僕の中で予定しているスケジュールは下記になります。

第1回「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する」

第2回「『ツイン・ピークス インターナショナル版』を考察する」

第3回「『ツイン・ピークス シーズン1』を振り返る」

第4回「『ツイン・ピークス シーズン2』を振り返る」

第5回「『ツイン・ピークス The Return』を振り返る」

タイトルなどはその時の気分で変わるかもしれませんが、こんな感じでツイン・ピークスという世界をタイムラインに沿って振り返ってみようと思います。ではでは、姐さん、さっそくいってみましょうか。

 

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「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第1回「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: FIRE WALK WITH ME

監督:デイヴィッド・リンチ

脚本:デイヴィッド・リンチ&ロバート・エンゲルス

日本公開:1992年5月16日

上映時間:135分

 

というわけで、今さらですが、この手垢まみれの26年前の作品を今一度振り返ってみようかと思います。いろんなところでレビューやら考察やらがされているので、とりあえず僕なりの新解釈みたいなものを書き込めていければとは思いますが、その前に僕のツイン・ピークス基本概念みたいなものをご紹介します。というか、僕にとってこのFAQサイトがツイン・ピークスの全てでした。

Twin Peaks Frequently Asked Questions v3.0-J

もう10年も20年も前のサイトがこうして今も残ってくれていることが奇跡ですが、ここのページを読めばだいたいのことは理解できるのではないかと思います。というか、これ以上のTPサイトを教えろと言われたら、あとは内藤仙人さまの曼荼羅話に行くしかありません。その先に待っているのは広大な精神世界ですので、パンピーの僕にはとてもそこを語るなんて事はできません。

上記のFAQサイトを読めば分かる通り、もともと劇場版の尺は3時間半もある長大な作品になる予定でした。なので21世紀に生きている僕らは、劇場版とカット集「The Missing Pieces」を組み合わせれば、もともとの3時間半の姿を垣間見ることができる、とても幸運な時代にいます(欲を言わせてもらえれば、二つをまとめたディレクターズ・カット版があれば最高なんですが、リンチ監督はそんな下世話なことは絶対にしないでしょう)。そして「The Return」の制作にリンチ監督を向かわせたのも、このボックスセット「The Entire Mystery」に特典として付けるために、25年前に遡り「The Missing Pieces」を編集するという久方ぶりの経験があったからではないかと僕個人は思っています。その流れからすると「The Return」には、もともと劇場版をシリーズ化することを前提にしていた内容が、大なり小なり受け継がれているのではないかと思うのです。なので「The Return」を理解するためには、先の25年前の作品をより理解しておかなければ、到底辿り着けない領域があるのではないかと。

とは言え、僕個人の感想としては、劇場版はあまり好きではありません。とにかくローラが泣いてばかりいて可哀相すぎるのです。観ていて辛くなってしまうのです。例えば同じ悲劇的な状況にある「ブルーベルベット」のドロシーですが、彼女はジェフリーという覗き魔的な視点があるため、倒錯的なエロティシズムの対象として観ることが出来ました。「ワイルド・アット・ハート」のルーラになると、悲劇を若さゆえの突破力でメーターを振りきり、完全に笑い飛ばしていました。しかし、劇場版で描かれるローラはひたすら主観なのです。観客はみんなローラと同じ悲劇を追体験しなければならず、そこに救いが何もないのです。1992年当時、まだぜんぜん若かった僕は映画館で作品を観た後、完全に打ちのめされました。テレビシリーズの謎が解決どころかさらに増えて、しかも悲しくなっただけ...。後にも先にも、あれほどショボーンとして映画館から出たのは、あの時が最初で最後だったような気がします。

そんなショボーン映画『ローラ・パーマー最期の7日間』ですが、作品的には第1部と第2部に分けられ、とりわけ「The Return」で重要視されたのが冒頭からの30分強ある第1部 "テレサ・バンクス事件" になります。では、まずその第1部を紐解いていきましょう。

 

【第1部:テレサ・バンクス事件】

◆冒頭

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大まかな流れは今さら事細かにあらすじを起こす必要はないかと思いますので割愛しますが、冒頭で重要なのはテレビを叩き壊すシーンから始まるというのが、この映画のスタンスを如実に現わしているのではないかと思います。要するにテレビシリーズをぶっ壊すという。これ、誰かがブログか何かで書いていたのをそのまま拝借しているのですが、リンチ監督の作家性、もしくは映画への意気込みを表現しているという点で、僕も同意見でしたのであえてパクらせていただきました。放送が終わり、砂嵐になっているテレビを叩き壊す。そこから物語が始まる。めちゃめちゃシビレるじゃないですか。

 

◆スクール・バス 

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そして、問題のスクール・バス!「The Entire Mystery」の特典映像「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』の思い出」内で小道具係のマイク・マローンとサウンド・ミキサー係のジョン・ハックが驚愕のネタバレをしていましたが、このスクール・バスは娼婦を運ぶバスだったことが判明!バスの中で泣き叫んでいた少女たちは、チェット・デズモンド捜査官がいなければ、どこかで売り飛ばされていた女の子たちだったのです!それをあのシーンだけで理解しろなんて、いくらなんでも無理でっせ、リンチ監督!

さらに、このシーンには二重の意味があります。もともとの脚本にはクリス・アイザックが演じたデズモンド捜査官なんて存在は皆無で、全てクーパー捜査官を主体に脚本が書かれていたようです。それをカイル・マクラクランが断ったという話は有名ですが、そこから創作されたのがデズモンド捜査官であり、彼の行動はクーパー捜査官がしていたであろう行動にもなるのです。となると、この大量の売春スクールバスに詰め込まれた少女たちを魔の手から救い出したというシーンと、近親相姦の果てに実の父親に殺されてしまったローラが見事に対比しています。クーパー捜査官=デイヴィッド・リンチは、やはりローラ・パーマーを悲劇から救い出したかったのです。

 

◆好奇心の強い女性

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先のFAQサイトの "F.25" でも触れられている氷嚢を右目に当てたこのおばあちゃん。クレジットには "The Curious Woman" とあります。直訳すると "好奇心の強い女性" 。実はこれデイヴィッド・リンチ本人ではないかと言われていましたが、どうやら噂で終わったようです。その証拠が下記のサイト。まあ、似てると言えば似てなくもないですけどね。

Curious Woman interview - David Lynch

僕がここでピックアップしたいのは、ピーカー達がひねり出したアナグラムです。氷嚢ばあちゃんを演じた Ingrid Brucato という女優が存在していなかったため、ピーカー達はそこから "c in our drag bit" (我らが女装の男C) とアナグラムしました。この "女装の男" と聞いてピンときた方は、かなりの The Return 中毒者だと思うのですが、そうです、The Return 第15章に登場したあの女性です。

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その名を "Bosomy Woman" (胸の豊かな女性) 。演じていたのは Malachy Sreenan という男優でした。悪クーパーをフィリップ・ジェフリーズの部屋に案内した、この女装した男性が上記の氷嚢ばあちゃんへのリンチ監督からの解答ではなかろうか?と思うのです。あんたら、人のことを女装した女装したって、女装っていうのはこういうのを言うんやで!みたいな。

いずれにしても、氷嚢ばあちゃんもボソミー君もぜんぜん意味がわからないキャラクターという点で共通しています。そして、意味がわからないからこそ、不安感というか拒絶感のようなものを漂わせているのです。そう、意味なんていらないんです。そこに存在している、それだけで十分なんです。

 

◆J・エドガー

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さて、彼は誰だ?と思われるかもしれませんが、アメリカ連邦捜査局の初代長官であるジョン・エドガー・フーヴァーです。クリント・イーストウッドが監督した映画「J・エドガー」でディカプリオが演じていたのが彼になります。なんで急にそんな人が?と思われるかもしれませんが、カット集「The Missing Pieces」の中で彼の名前が出てきます。テレサ・バンクスの遺体をポートランドに移すため、デズモンド捜査官はディア・メドウの怪力保安官ケーブルと殴り合いの対決をするシーンがあるのですが、そこで一言デズモンド捜査官がつぶやきます。「これはJ・エドガーの分だ」

FBI初代長官のエドガー・フーヴァーは盗聴やスキャンダルを利用して歴代の大統領たちを脅迫、マフィアとも裏でつながり、果ては同性愛者でフリーメイソンのメンバーだった人物のようです。こうやって書くと、なんだかスゴイ人のようですが、ここ日本ではあまり知られていない人物です。デズモンド捜査官が「J・エドガーの分だ」と言ったのは、お前らFBIをなめんじゃねえぞという意味と、ケーブル保安官の隠蔽体質がエドガー・フーヴァーのようであり、それに対しての怒りの鉄拳だったのではないかと推測します。

1990年前後は「ツイン・ピークス」や「羊たちの沈黙」などでFBIという組織が広く世間に知られた頃のように思うのですが、いかんせん、それまでのFBIのイメージが先のゲシュタポや秘密警察じみた組織のイメージだったのかはわからないです。

「The Return」の第18章、オデッサの「ジュディの店」で、リチャード捜査官が「私はFBIだ」と言った途端、ウェイトレスの娘はビビっていました。まるで戦時中に「私は憲兵だ」と言われているような感じだと思うのですが、そのイメージを払拭したのが「ツイン・ピークス」であり「羊たちの沈黙」だったような感じもします(ちなみに「ジュディの店」のウェイトレス役はイーストウッドの娘さんでした。J・エドガーつながりではもちろんないと思いますが、リンチ監督のユーモアセンスはいかようにも解釈できるという一つの好例だと言えないでしょうか)。

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さらに、この青いバラ特捜チームと一緒に写っている額に入った写真の人物、誰かわかりますか?僕もいろいろと調べてみたんですが、どうも明確な答えが出てきません。ですが、たぶん、この方ではないかと思います。

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第34代アメリカ大統領 ドワイト・D・アイゼンハワー。不思議なのは「The Return」のラスベガスFBIの壁にもアイゼンハワー元大統領の写真が飾られていたことです。これは何を意味するのか?

遡ること73年前、第二次世界大戦にて日本の敗戦が目に見えて濃厚になった際、それでも原爆投下を計画していた当時の大統領トルーマンに対して、まだ軍人だったアイゼンハワーは断固として原爆投下に反対。大統領就任後もソ連との冷戦を解決するために「平和のための原子力」演説を行い、退任演説で語られた軍産複合体への批判は映画「JFK」の冒頭でも使用されています。ドナルド・トランプが大統領になった今、密かに再評価されつつあるのがアイゼンハワー元大統領の平和的外交への手腕だそうです。

その一方で、ブルーブック計画などMJ-12(宇宙人問題)の主導権をアメリカ主体からロックフェラー家に譲渡してしまった張本人とも言われています。探ろうと思えばいくらでも出てきそうな感じではありますが、僕的にはリンチ監督の平和主義のアイコンとしてアイゼンハワー元大統領を掲げたのではないかと思っています。

 

◆クリス・アイザックとクリスタ・ベル、そしてデヴィッド・ボウイ

歌手であるということ、そしてリンチ監督の大のお気に入り、さらには三人ともFBI捜査官の役という点で、かなりの共通項があります。クリス・アイザックについては、先述したようにカイル・マクラクランのわがままが故に創作されたキャラクターであり、結果的には功を奏したのですが、そのオマージュとして「The Return」に登場したのがクリスタ・ベルになりそうです。リンチ監督的には、せめて "BANG BANG BAR" に登場させたかったかもしれないクリス・アイザックですが、失踪したFBI捜査官が場末のバーで歌を歌った日には、ジェームズ以上の憤懣が飛び出そうではあります。

 

◆"6" の電信柱と "7" のエレベーター

「The Return」でも不吉の象徴、電気の象徴として描かれていた "6" の電信柱。劇場版ではカール・ロッドが管理人を務めるファット・トラウト・トレイラーパーク内にその電信柱が存在します。

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そして、その電信柱の裏には配電ボックスがあり、そこには "7" の表示があります。

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これは "6" から "7" へ分配されていくという意味がありそうなのですが、それを裏付けるのがフィリップ・ジェフリーズが出てきたエレベーターの階表示です。

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「The Missing Pieces」を観るとフィリップ・ジェフリーズはジュディに会うためブエノスアイレスのホテルにチェックインした後、ベルボーイの案内に従いホテルのエレベーターへと向かいます(実際にエレベーターに乗り込むシーンはありません)。そこでシーンは "6" の電信柱のアップになり、そこからコンビニエンス・ストアのミーティングへと流れていきます。実際にフィリップはそのミーティングを目撃した、もしくは参加し、それを報告するため現世に戻ってくるのですが、その出口が "7" のエレベーターになるのです。

"7" という数字は非常に神秘的な数字です。1週間を現わす単位であったり、音階を現わす単位であったり、虹の色の数であったり、"7" という単位がそれだけで "完成" や "完結" を意味することが多いのです。そして、整数を1から順に並べていくと "7" の次は "8" になり無限大を現わし、その先の "9" になると "6" がひっくり返り、無限のさらなる先は摩訶不思議な世界であることを現わしています。

おわかりでしょうか?

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"6" の電信柱から始まり、"7" から出てくる。そして、"8" に向かった先は無限なのです。これは一つのロジックでしかないかもしれませんが、こう定義することはできるかもしれません。ロッジにいる住人たちは "6" と "7" の狭間の世界で暮らし、"8" の先にある世界がオデッサであると。この続きは「第5回『The Return』を振り返る」で語りたいと思います。

 

【第2部:ローラ・パーマー最期の7日間】

◆ローラの1週間を振り返る

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フィリップ・ジェフリーズが突如姿を現わし、デズモンド捜査官が失踪した日のちょうど1年後から、アメリカ北西部の小さな田舎町ツイン・ピークスに住む一人の少女の物語が始まります。まずはその1週間を振り返ってみたいと思います。(青字の項目は「The Missing Pieces」の部分になります)

 

 ----- 1日目 2月17日 (金) -----

 〇自分のことを愚かな七面鳥だと訴える

 〇天使は遥か彼方に行ってしまったと訴える

 〇日記が破かれていることに気づく

 〇母親からスモーカーになっちゃダメと注意される

 〇ハロルド・スミスに日記を預ける

 〇母親から青いセーターを着ちゃダメと叱られる

 〇夕食の席でノルウェー語を練習する

 〇トラック運転手からドラッグを調達する

 ----- 2日目 2月18日 (土) -----

 〇トレモンド婦人から絵を渡される

 〇ボブと父親が同一人物だと気づく

 〇「天使たちは戻ってくる」とヘイワード先生が告げる

 〇自分がマフィンだと認める

 〇絵の中へと迷い込む

 ----- 3日目 2月19日 (日) -----

 〇シーリングファンに不敵の笑みを浮かべる

 〇ロードハウスに繰り出す

 〇クラブ「権力と栄光」でドラッグパーティ

 ----- 4日目 2月20日 (月) -----

 〇片腕の男にあおられる

 〇テレサの指輪と片腕の男の指輪に気づく

 ----- 5日目 2月21日 (火) -----

 〇今日はジョニー・ホーンの誕生日

 〇ボビーとドラッグの取引場所に行く

 〇殺人現場に居合わせ死を目の当たりにする

 ----- 6日目 2月22日 (水) -----

 〇ボビーからお金を貸金庫に入れるよう頼まれる

 〇ジェイムズの夜の誘いを断る

 〇ジャコビー先生から電話がかかってくる

 〇ボブが父親であることを目の当たりにする

 ----- 7日目 2月23日 (木) -----

 〇父親への嫌悪感を露わにする

 〇ボビーからドラッグを調達する

 〇ジェイムズを迎えに寄こす

 〇絵から天使が消える

 〇山小屋へ

 〇ボブに殺される

 

さて、これらの物語から何を読み取ることができるでしょうか?リンチ作品を精神科医の現実的な視点から読み解いている華沢紫苑さんは、統合失調症精神疾患にかかってしまったローラが、父親との近親相姦を認めたくないためにボブという幻を創り出したという説を発表していました。ボブという幻が父親であることを受容していく物語なのだと。これも一つの見方だと思います。

内藤仙人さまは、華沢先生とは逆にボブという脅威からローラが解放されるまでの過程を描いた作品だと言っています。これは男性視点、女性視点の違いでもあるかと思いますが、どちらかというと精神解放を訴えたい内藤仙人さまらしい読みだと思います。死こそが精神や魂の解放であり、その解放をどう迎えるために今をどう生きていくのかという。

では、僕的にはどうなのかというと、冒頭にも書いたように、ただただ悲しいのです。自らをアホな七面鳥だと語り、親友と言っても心を開くわけでもない、母親は小うるさいし、父親は夜な夜なやってくる。同級生はみんな自分とやりたがるし、大人たちだって同じ。心も身体もボロボロな状態になっているところに、ボブなんていう訳のわかんないおっさんまで出てくる。こんな状況なら鬱病になってもおかしくないし、苦しみからの解放を求めるのだって当たり前。そんな姿を僕たちは2時間近くも観ていなければいけないのです。しかも結末を知っている状態で。

ラストの天使が登場するまでの救いのなさは、当時のデイヴィッド・リンチの精神の投影ではないかと思います。リンチ監督はローラ・パーマーの中に自分を見い出し、そこからの救いを模索するために作品を作り上げた。もがき苦しんでいたのはローラ・パーマーだけではなく、リンチ監督も同じようにもがき苦しんでいたのです。なので、テレビシリーズのようなユーモアは鳴りを潜め、どこまでもシリアスで、暗いトンネルを進んでいるような閉塞感に包まれているのです。そして、そこから見い出した解答が天使だった。最後に光を見い出すことによって、リンチ監督も救われたのではないかと思うのです。その精神的な過程を辿るという意味で物語を観ると、なるほど秀逸だとは思うのですが、ただ、その結末が "死" であることには変わりなく、やはり悲しい気分になってしまいます。せめてボニー&クライドのように、何か突き抜けた感じがあれば、まだ観ていて悲しくならないのですが、もがき苦しむだけのローラはやはり観ていて辛いのです。

 

◆ブリッグス少佐の朗読

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さて、辛い辛いと言ってても仕方がないので次に行きましょう。劇場版ではカットされていたブリッグス少佐が登場の場面です。ここで彼は聖書を朗読しています。朗読している箇所はヨハネの黙示録第11章~14章までになります。詳細については下記リンクへ。

Revelation / ヨハネの黙示録-11 : 聖書日本語 - 新約聖書

特に印象的なのが "1260日間" という単語です。この数字は聖書の解説によると悪魔が活動する期間のことを指すらしく、暗にロッジの住人達の暗躍を仄めかしています。さらに聖書の朗読は、血の海が辺り一面300キロに渡って広がると続きます。これらはローラの今後と、その後のロッジの不気味さを際立たせると同時に、ツイン・ピークスという物語が "神と悪魔の戦い" を描く、一種の神話性を孕んでいることをも指し示しているのです。

 

◆アニー・ブラックバーン

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「The Missing Pieces」ではロッジから救出されたアニーのその後が描かれています。「ファイナル・ドキュメント」では、さらにその後のアニーの人生が描かれていますが、劇場版でもローラの夢に登場しています。ですが、ここで気になるのがその服装です。なぜ、キャロラインと同じ服なのでしょうか?

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ツイン・ピークスの最終話では、キャロラインもアニーもわからなくなるほどクーパーは混乱していましたが、「The Return」を経た今となっては一つの仮説が浮かび上がってきます。

キャロライン=アニー=ダイアン=ジェイニーE。

さてトンデモ理論の始まりです。根拠はありません。ただどうもおかしいのです。特にダイアンの存在です。そして、キャロラインがパッと見、ローラ・ダーンに見えるのもあながち狙っているんじゃないかと思うのです。さらには「The Return」でクーパー=ダグラス・ジョーンズという定義が確定したのなら、ダイアンもジェイニーEも、果てはアニーさえも一つの肉体の中に同時に存在していても不思議じゃないような気がするのです。そして、夢の中と言えども、ローラとクーパー、そしてアニーが出会っているという事は、集合的無意識の世界で出会っている、となると、そこにキャロラインの魂もダイアンの魂もあってよさそうに思えてしまうのです。(詳細はツイン・ピークス The Return 考察 第7章 PART.1 失われたローラ・パーマーの日記を徹底解読!次元のゆがみがハンパないっ!

 

◆ジュディ

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さてラストです。冒頭のFAQサイトにも記載されていますが、映画のラスト、無事クリームコーンを手に入れた小人のあとに、猿が登場し、小さな声で「ジュディ」と呟いています。この『ローラ・パーマー最後の7日間』という映画の最後の台詞が「ジュディ」で終わるって、あまりにも面白すぎます!映画公開前は上手くいけばシリーズ化したいと目論んでいた節があるので、「ジュディ」がその伏線であった可能性は十二分にあると言えるでしょう。そして、それは「The Return」にちゃんと継承されていました。

さて、このお猿さんですが、フィリップ・ジェフリーズが登場する一連のシークエンスで、仮面を被ったトレモンド婦人の孫が、一瞬、このお猿さんになってしまうシーンがあります。仮面自体はジャンピングマンを現わしていると言えそうなので、その中身がこのお猿さんになると解釈することもできそうです。

ただ、悪魔の中に猿がいるというのはどうも解せないのです。どちらかと言うと、このお猿さん、どこかに閉じ込められていて、そこから助けを求めるために「ジュディ」とつぶやいたような印象があります。

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そこでコレです。なんでいきなり絵馬なんだ!と思われるかもしれませんが、仏教が伝来してきたインドでは、猿は馬を導く使者であるとされているようなんです。西遊記でも三蔵法師が乗る馬を導くのは孫悟空という猿ですよね。その名残が日本の絵馬にも残っているという。猿と馬。おわかりですか?

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これですよ、コレ。白い馬。「The Return」でも登場していましたが、この馬、完全に "死" の象徴とされているのです。となると、それを導くお猿さんとなれば、"死" を導く、もしくは操る存在と深読みできるじゃないですか。そして、その存在が「ジュディ」になり極めてネガティブな存在になりますと。

さて、ジュディの正体に迫ることができるのか?続きは第2回のインターナショナル版の考察になります!