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ツイン・ピークス The Return 考察 第13章 時は乱れて

1.ダギー・ジョーンズ(デイル・クーパー)は現代の救世主なのか?

 唐突に幸福のファンファーレから始まったThe Return 第13章。先々週の "幸せのチェリーパイ" の後、どうやらクーパーは一晩中ミッチャム兄弟たちとお楽しみをしていたようで、ずいぶんと陽気にラッキー7保険の社内に姿を現わします。アルコールも廻っているのか、両頬にキスマークまでつけてだいぶご機嫌な様子。ラッキー7保険の社長ブッシュネルに贈り物を渡すと、彼らは騒ぎに戻っていくのですが、それを戦々恐々と見つめているのが同僚のアンソニーです。ダンカン・トッドからの命令でクーパー殺しをミッチャム兄弟たちにけしかける計画でしたが、完全に真逆の結果を目の当たりにして混乱しています。すぐさまトッドに連絡を取り指示を仰ぐのですが、返答はずいぶんと冷遇なものでした。

 "幸せのチェリーパイ" は第11章での出来事。先週の第12章では、ダギーの息子サニージムと裏庭でキャッチボールをしているシーンが描かれていました。とは言っても、サニージムが単にボールを投げつけ、クーパーの肩に当たるだけという、なんとも微笑ましくも可笑しいシーンなのですが、ここで少し時間軸に歪みが生じます。

 第11章の "サンティーノ" のシーンで、ミッチャム兄弟たちが「子供には遊具セットを与えるべきだ」と語った通り、今週、ジョーンズ家の裏庭に豪華な遊具セットが贈られてきました。サニージムは大喜びで遊んでいるのですが、なぜかBGMは "白鳥の湖" です。あまり深い意味はないのでしょうけど、"夜になると悪魔の呪いが解けるオデット姫" という物語が、このシーンに何かしらの暗示をしているようにも感じます。

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 もとい、そんな遊具セットで遊ぶサニージムをうっとりと眺めているジェイニーEが一言、「ゆうべ帰らないから悪い想像をした」とクーパーに囁きます。その "ゆうべ" というのは、ミッチャム兄弟たちと一晩中お楽しみをしていた夜のことを指すようです。となると、"幸せのチェリーパイ" から "ブッシュネルへの贈り物" まで、クーパーはミッチャム兄弟たちと共に過ごしていたことになり、先週のキャッチボールが、いつの日のどのタイミングなのかがはっきりしません。これもあまり深い意味はないのでしょうけど、こんな時間軸のズレがちょいちょい出てきますので、なんとなく引っかかる感じがします。

 ダンカン・トッドからの命令を実行しようと、アンソニーはラスベガス警察のクラーク刑事のもとを訪ね、足のつかない毒 "アコニチン" を5000ドルで手に入れます。そして翌日、出社してくるクーパーを "サイモンズ・コーヒー" に誘い、彼がチェリーパイに気を取られている隙に毒をコーヒーに仕込みます。しかし、クーパーはアンソニーの肩に散らばった "フケ" に気を取られ、まるでツボでも押すかのようにフケをいじくりだすのです。極度の緊張状態にあったアンソニーの心は、クーパーの何気ない行為に脆くも崩れ去り、暗殺を断念、ブッシュネル社長に全てを懺悔するという流れに行きつきます。

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 ちなみに小ネタですが、サイモンズ・コーヒーでチェリーパイを運んでくるウェイトレスの名札には「Leslie(レズリー)」とあります。"Leslie" の名前の由来は "柊の庭" です。"柊" というのはギザギザした葉が特徴で、その刺々しい葉が魔除けになるとして庭や玄関先に植えられることでも有名です。そこから読み取れるのは、このウェイトレスがクーパーを守護する天使のような存在だった、なんていう深読みも出来そうな感じがします。

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 ※ちなみにクリスマスリースにも使われる柊ですが、このリースにも意味があり「赤い実」は "太陽の炎" や "キリストの血" 、「緑の葉」は "永遠の命" や "神の愛" を、そして、「花輪・冠 (リース)」は "始まりもなく終わりもない永遠の状態" を現わします。このクリスマカラーである "赤と緑" と聞いて、ピンと誰かを思い浮かべた方は、かなりのThe Return マニアだと思いますが、そうです、ダイアンがいつも着ている服が決まって "赤" か "緑" なのです。どうも意味深ですよね。

 いずれにしても現世に戻ってきてからのクーパーは何かと暗殺の危機を何気ない行為で回避しています。全てをここに列挙するのは控えますが、用意周到なはずの計画は全て見えない何かによってなし崩しにされ、関わる人物は全員が全員、クーパーの行為によって "改心" していくのです。ジェイニーE然り、ブッシュネル社長然り、ミッチャム兄弟もアンソニーもそうです。それはまるで方々を伝道し、数々の奇跡を起こしたイエス・キリストのようでもあります。デイヴィッド・リンチ、もしくはマーク・フロストは、現代の救世主は "白痴" の姿をしているとでも言いたいのでしょうか。ただ、ジェイニーEが感じていた「まるで天国にいるみたい」というのは、かなり俗物にまみれた世界とも言えます。ミッチャム兄弟も3000万ドルの小切手がなければ、ここまで手の平を返すことはしなかったはずです。六道輪廻の世界で言うと "餓鬼道" の世界。それは欲望や物惜しみなどの苦しみを責められる世界なのですが、その欲望をクーパーによって満足させることができたために、彼ら彼女らは地獄ではなく "天国" にいるような錯覚を覚えたとも解釈できるのです。

 

2.結局、レイ・モンローとはなんだったのか?

 第9章以来、4話ぶりの登場となった悪クーパー。第8章でレイに撃たれ、第9章でハッチ&シャンタルと合流して以降、しばらく姿を見せませんでした。今回、モンタナ州の西部にある "ファーム (The Farm)" にやってくるのですが、そこはレイやリチャードが所属するごろつき達が集まる組織でした。

 第8章でサウスダコタ刑務所を出た後、悪クーパーとレイはファームを目指すことにするのですが、その時の会話で「それが一番よさそうだが黙って逃がしはしねぇだろう。ヤツらだってすぐに追いかけてくる」とレイは言っていました。あの時点でファームに行って何をしようとしていたのかは不明ですが、経緯から察するに、刑務所を出て、まず安全な場所は "ファーム" になるからそこに行こう、その後の事は現地に着いてから考える、それくらいのニュアンスだったのかもしれません。

 ファームにやってきた悪クーパーはレイを引き渡せと要求し、ボスであるレンゾとアームレスリングで対決することになります。ある程度の世代の人なら、なんでここでスタローン映画「オーバー・ザ・トップ」になるんだ?と、どうせならベースボールキャップまで被ったら?ぐらいに思うかもしれませんが、このアームレスリング、アメリカでは結構、屈強な男たちの象徴になっているようです。そして、14年間無敗とされているレンゾを悪クーパーはいとも容易く打ち負かし、ワンパンチでレンゾを殴り殺してしまいます。まるで漫画「ワンピース」でハイエナ・ベラミーを倒すルフィのようです。素手でも人を殺せる悪クーパーの最強っぷりは、もう七武海を通り越して四皇レベルと言っても過言ではないでしょう。そうするとボブ玉は一種の "悪魔の実" とも言えるのかもしれません。閑話休題

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 圧倒的な強さを目の当たりにして、レンゾからあっさりと悪クーパーに鞍替えをする手下達ですが、そんなことには見向きもせず、悪クーパーはレイを問い詰めます。そこで語られる内容は、裏切り行為の全てはフィリップ・ジェフリーズからの指示だったということでした。そして、レイはポケットから "翡翠の指輪" まで取り出します。悪クーパーを殺した際に、この指輪を嵌めさせロッジ送りにしろということらしいのです。そうするとフィリップ・ジェフリーズ、もしくはフィリップを名乗る何者かは、何かしらの思惑のために悪クーパーとボブを現世からロッジに戻そうとしているのがわかります。ブリッグス少佐について探りを入れる悪クーパーですが、レイはそこまでは深く関わっていないようです。フィリップの居場所を問い質すと「"ダッチマン" って店にいるらしい」とレイが語りますが、「この世にそんな場所はねえ」と言うと、それ以上語るなとばかりに悪クーパーはレイにとどめを刺します。

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 新シリーズ第1章から登場していたレイ・モンロー。そもそもの第1章に登場したあの山奥の小屋がなんなのかがはっきりしませんが、ダーリャと共に呼び出された時点では、まだフィリップ・ジェフリーズとはつながっていなかったように思えます。純粋に悪クーパーの手下として、座標を手に入れる仕事に従事していたはずなのです。それがヘイスティングスの秘書ベティに近寄り始めてから様子がおかしくなり、連行された理由が銃の不法所持なのかどうかの真偽は不明ですが、結果、ヤンクトン刑務所のマーフィー所長とも間接的にグルでした。悪クーパーからすると、レイもダーリャも単なる捨て駒のような感じで、座標さえ手に入れば後は用無しだったようではあります。となると、最強っぷりを発揮する悪クーパーに一矢報いたという点では、今のところレイの功績はかなり大きいのですが、いかんせん相手が悪すぎました。彼が「金」に成りあがるにはあと一歩のところではあったのですが、"ボブ" という飛車・角を落とすには、あまりにも援護射撃が少なかったようです。

 

3.ラスベガスの黒幕だったダンカン・トッド

 風貌的にはミッチャム兄弟がラスベガスの黒幕のように見えましたが(「マルホランド・ドライブ」のカスティリアーニ兄弟のように)、この第13章でダンカン・トッドがその黒幕だったことが明らかになりました。それはラスベガス警察の刑事まで取り込んだ、かなり大規模な裏組織のようです。保険金詐欺を謀り、宿敵ミッチャム兄弟を貶めるために新築のホテルに火をつけることも厭わない。そのやり口はかなり大胆で問答無用なようです。

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 第11章でブッシュネル社長が語っていた汚職警官の話は、もしかしてフスコ三兄弟がその汚職に絡んでいるのか?と思っていましたが、どうやら今週登場したクラーク刑事とその相棒のことのようで、なぜか安心したような、それでいてガッカリしたような気分です。そのフスコ三兄弟、今回もまたもやおバカなやり取りに花を咲かせていました。第9章で手に入れたクーパーの指紋の検査結果が出たのですが、失踪中のFBI捜査官という結果を一笑に付し、ゴミ箱にポイ捨てしてしまうのです。これはちょっとヤバイ結果を招きそうです。というのも、バックホーン警察でコンスタンス鑑識員がブリッグス少佐の指紋をヒットさせただけで国防総省がすっ飛んできました。となると、クーパーの指紋やDNAともなるとFBIが黙ってはいないでしょう。しかも、先週の第12章でダイアンのもとには "ラスベガス" のショートメールまで飛んできているのです。なんとも相変わらず底の浅い考えで物事を判断している、それがフスコ三兄弟とも言えるのですが...。1997年以前のダギー・ジョーンズの過去がないとか、証人保護かもしれないという疑惑は、結局どうなったのでしょう。

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 ちなみに、また小ネタですが、このフスコ三兄弟が登場するシーン、部屋の奥でなにやら女性が取締中に粗相をして騒いでいる様子が描かれています。はっきりとは言えませんが、たぶん、ここで騒いでいる女性はクーパー転送時の空き家の向かいに住んでいた「119!」と叫ぶヤク中の母親ではないかと思います。第5章でダギーの車が爆破して以来、この親子の登場がなくなってしまいましたが、それも第6章で屋根の上に吹っ飛んだ車のナンバーを警官が発見した際に、この119親子も発見されたからではないかと思うのです。それ以降、あの栄養失調気味だった息子くんがどうなったかが心配ですが、サニージムのように、どこかで楽しく暮らしていたらいいなと思います。 

 息子くんと言えば、先週の第12章で無残にも目の前で父親を射殺されてしまったマーフィー所長の息子。その後、どうなってしまったのかは描かれていませんが、きっちりと使命を果たしたハッチ&シャンタルは "U.S. Route 189" を南下、ユタ州ユタ湖湖畔の町プロボまで辿り着き、着々とラスベガスに向かっています。第9章で悪クーパーが "ダブルヘッダー" だと言っていましたので、第1試合がダンカン・トッド、そして、第2試合がダギー・ジョーンズことデイル・クーパーではないかと推察します。トッドもクーパーもシャンタルのお色気攻撃には目もくれなさそうなので、ハッチの悪魔の照準からいかに逃げ果せることができるのか?が見所になりそうです。さらに、ブッシュネル社長を筆頭に「トッドの悪事を白日の下にさらすチーム」、フスコ三兄弟がうっかり開けてしまった「クーパーの指紋に気づいたFBIチーム」、そして「射撃王ハッチとお色気シャンタルチーム」という、ダンカン・トッドを巡っての三つ巴戦が、このラスベガスで壮大に繰り広げられそうな感じがしてくるじゃないですか。黒幕トッドは白日の下にさらされるのか?救世主クーパーはどのようにして射撃王を改心させるのか?今後、ラスベガスが熱くなりそうな予感がします。

 

4.「時間の矢」と「砂時計のくびれ」と「メビウスの輪

 僕たちは通常 "時間" というものは過去から未来に向けて一方向にしか進行しないと認識しています。一度放ってしまった矢が弓に戻ってくることはないと知っているし、飛んでいく矢が連続した空間を移動していくことも知っています。砂時計の砂が上から下へ流れていくのが通常であり、決して砂が逆戻りしたり、砂の量が増えたり減ったりすることはないのです。その概念は書物であったり、絵画であったり、映画であったり、いわゆる "物語" を体感している時も、僕たちは一方向に連続して物語が進んでいると思いがちです。砂時計のくびれた部分は常に一定であると思いがちなのです。しかし、こと「ツイン・ピークス The Return」では、その概念が当てはまりません。飛んでいく矢は突然別の場所に移り変わり、移り変わったと思うと次の瞬間には遥か彼方に姿を現わしたりします。砂時計のくびれた場所では、例えば黄色い砂が突然白に変わり、流れ落ちたと思った白い砂がいつのまにか上に戻って黄色くなっていたりするのです。そして、語られるストーリーの中で唯一 "時間の流れ" が歪みまくっている場所、それが「ツイン・ピークス」という町だけという事実。この現象は "ラスベガス" であったり "サウスダコタ" では一切起きていないのです。映画「インランド・エンパイア」でも、物語をまるで1枚のキュビズム画のようにあらゆる面から切り取ったリンチですが、今回の第13章で描かれているツイン・ピークスの住人たちも同じようにキュビズム的な構成で描かれているのです。

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 ダブルRダイナーでてきぱき働いているシェリーのもとにベッキーから電話がかかってきます。スティーヴンが "2日" も帰ってこなくて心配だと泣いているのです。そんなベッキーをクリームたっぷりのチェリーパイでシェリーはなだめます。このシーンは第11章のベッキー銃撃事件の流れ上にあると言えます。まずこれを "A地点" と仮定します。

 続いて、往年のピーカー大喜びのエド&ノーマのツーショットに進みます。ダイナーにやってきたボビー保安官助手はシェリーの帰宅をノーマに確認しているので、どうも彼女と何か話をしたくてお店にやってきたようです。それを見てエドが「ひとりじゃつまんないだろ。一緒に食べよう」とテーブルに誘います。気後れしながらも席に着くボビーは、エドの何気ない質問にこう答えるのです。「親父が残したものが "今日" 見つかった」

 それが指し示すのは第9章で明らかになったブリッグス少佐のメモ "ジャック・ラビット・パレス" についてです。それが "今日" 見つかったということは、このシーンの時間は一気に第9章の時点まで巻き戻されたということになります。このボビーのシーンを "B地点" とします。

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 ボビーの "B地点" は10月1日の2日前になるので「9月29日の夜」ということになります。そして、シェリーを探している様子から察すると、第11章のシェリーとレッドの逢引きが気になって仕方がない、もしくはベッキーのその後が気に掛かりダイナーにやってきたと推定できます。2日も3日も開けて訪ねてくることはないと思いますので、ダブルRダイナーで親子3人で話し合いをした翌日の夜にボビーが再びシェリーを訪ねてきたと仮定できます。となると、ベッキー銃撃事件やダイナー誤発砲事件は前日の夜となりますので「9月28日」になります。ここからシェリーの "A地点" を導き出すと、スティーヴンが家に "2日間" も帰ってこなくて心配でたまらないとベッキーが泣いていたので「9月28日」の2日後である「9月30日」が "A地点" であると定義できます。

 なぜ、このような時間軸の歪みをリンチがしたのかというと、今回初登場したウォルターというマーケティング主義の男と、次のシーンに出てくるジャコビー先生の反利益主義の対比を描こうとしていたからではないかと思うのです。これはかなり緻密に練られた脚本構成をしており、もう感嘆せずにはいられません。しかも、ウォルターの主義主張はノーマの心に1mmも響いてなく、傍から見ているエドはやきもきしていますが、ノーマ自身は "坊や、私はこのお店が存続できれば、それで十分なんだから" と、かなりの大人な女性っぷりです。まるで映画「紅の豚」のジーナさんのようです。

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 続いて、ネイディーンのドレープ屋さん。金のシャベルのディスプレイに気づいたジャコビー先生は感激して店の扉をノックします。と言うよりも、ジャコビー先生、どんな目的で町まで下りてきたのでしょう?まあ、それはさて置きまして、すっかり意気投合してしまっているこの二人、金のシャベルを前に「我々は奴らと戦わねばならない!」と士気を挙げています。ここで言う "奴ら" というのが、先ほどのウォルターのような輩ということになります。こういう輩はいつも俺たちを裏切るんだ!とネット放送で熱弁しているジャコビー先生ですから、ウォルターもダイナーの利益が出なくなるとノーマを裏切るということを暗に示しているようです。そして、新たなキーワードが二人の会話から出てきます。それは "7年前の大きな嵐"。そんな嵐の中で、なぜネイディーンはスーパーでじゃがいもを落として床に這いつくばり、ジャコビー先生はそれを目撃したのでしょうか?

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 スーパーと言えば、前回、ビーフジャーキーを見て様子がおかしくなってしまったセーラ。今週はテレビでボクシングの試合を見ています。試合を見ながらウォッカを飲もうとしているのですが、どのビンも空に近い状態でなかなかいい気持ちになれません。この状態も少しおかしいです。先週 "スミノフ" を3本も購入し、様子がおかしくなったかと思うと、買ったものをそのままに家に帰ってしまったセーラ。レジの男の子が「家を知ってる」からと、それを届けると言っていました。本当に届けたのかどうかは描写がないのでわかりませんが、ホーク保安官が様子を見に来るぐらいなので、たぶんですが買ったお酒やタバコは家に届けられていたはずです。だとすると、それを飲み干したとしたならテーブルの上にあるのは "スミノフ" の空き瓶のはずですが、実際は全然違うものです。ここから読み取れるのは2つのパターン。ひとつは男の子は商品を家に届けなかった。だとしたら、そんなに深く考える必要はありません。もうひとつのパターンは、今回のこのシーンが先週のスーパーの前日の夜かもしれないということ。お酒がなくなったので、次の日セーラはスーパーで買い物をして、ビーフジャーキーを見てしまったがためにスメアゴル状態になったという流れです。こうなると、またもや "時間の流れ" が歪んでしまいます。

 そして、歪みはテレビのボクシングの試合まで影響しています。第1ラウンドを永遠にループしているのです。いつまでもいつまでも左耳を殴られてダウンするボクサーが気の毒ですが、これも一種のパラドックスになります。殴られているボクサーからすると左耳を殴られる、ダウンする、立ち上がる、左耳を殴られる、ダウンする、立ち上がる、左耳を殴られる、ダウンする、立ち上がる...と、永遠に左耳を殴られ続けるのです。まるでメビウスの世界をどこまでも飛んでいく矢のようです。どこかで立ち上がるのをやめてダウンしたままでいなければ永遠に続いてしまう。それが次のオードリーとチャーリーの会話に出てくる "実存主義" につながっていくのです。

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 前回のカオス的状況のオードリーに比べると、今回はほぼネタバレに近い内容を話し合っています。曰く「自分がここにいないみたいに感じる」「(本当の自分は)他の場所にいて別人になった気分」「自分で自分がわからない!」これらから容易に推察できるのは、25年前の意識不明の状態からオードリーは未だに目覚めていないということです。そんなオードリーに、チャーリーは「ロードハウスに行ってビリーを探してきなさい」と諭します。先週、あれだけ眠い眠い、仕事仕事と言っていたのに、随分と手の平を返してきました。そして、その意図するところは、先ほどのボクサーがダウンし続けることを選ばないとループから抜け出せないように、オードリーもこの家から出ていかないとループから抜け出せないことを暗示しているのです。でないと「君の物語を終わりにさせる」と言います。これはかなりの意味深発言です。"通り沿いの家に住んでいた少女" というのが誰の事を指すのかは、さっぱりわかりませんが、いずれにしてもオードリーが "異空間" の住人であることが判明しつつあります。

 

5.ジェームズ・ハーレー

 ファンの方はごめんなさい。気を悪くされたらごめんなさい。ジェームズ・ファンの方は、どうかここから下は読まないでください。

 僕はジェームズが嫌いです。旧シリーズの頃から、僕はジェームズが嫌いです。こういう "優男" は絶対にムッツリか、もしくはムッツリか、かろうじてムッツリな奴だと相場が決まっています。ローラ、ローラと言いながらドナに乗り換え、どこか悲劇のヒーローを気取り、正論を振りかざしながら人妻に手を出す始末。やりたいなら、素直にやりたいと言えばいいのに、なんかカッコつけるのです。まだ、よう、シェリー!とボビーの前でキスをするレッドの方が何百倍も気持ちがいいです。ビッグ・エドには申し訳ないですが、僕はジェームズが嫌いです。歌なんか聞きたくないし、それを聞いて泣くなんて信じられません。リンチ作品の中で、このシーンが一番、不条理です。いや、ホント、ダメなんです...。ごめんなさい。