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ツイン・ピークス The Return 考察 後半 (第9章~第16章) まとめ解説 シンクロニシティ

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 今週の第16章で、とうとうクーパーが現実世界で復活しました。それを待っていたかのように、今までバラバラだったパズルのピースが全て "ツイン・ピークス" に集まろうとしています。

 本国アメリカでは旧シリーズの放送形態を再現するかのようにラスト2話(第17章と第18章)を連続で放送していました(旧シリーズの時は第28話と第29話を連続で放送)。ここ日本では通常通り1話ずつ放送するようなので、この "ラストを連続で放送する" という形態にあまり意味はないのかもしれません。しかし、パズルのピースが最終章の手前で全て集まってきているということを考えると、どうも意図的に構成しているのではないかとも思うのです。

 今まで放送された内容を見ると第8章以前と第8章以降では明らかにテイストが違うポイントが3つあります。まず1つは "BANG BANG BAR" ことロードハウスのシーン。第8章以前のロードハウスは現実に即したツイン・ピークスの住人たちが次々と登場していましたが、第8章以降になると物語とはなんの脈略もない人物たちが登場して、わけの分からない会話をボックスシートで繰り広げていました。第9章とか第12章辺りでは、これはもうオマケみたいなものなのかなと思っていたのですが、第14章でビリーの話題が出てきたことで、ちょっと見方が変わりました。それについては後述します。

 もう1つは第8章以降、進化した "腕" が全く登場しないことです。この理由については最終回を迎えてみないとなんとも言えませんが、明らかに第8章が何かの軸になっていることを現わしています。

 そして、最後の1つは "時間軸" 。特にツイン・ピークスを舞台にしたシーンは、どの順番が正規の時系列なのかが全くわかりません。この構図は『マルホランド・ドライブ』のシレンシオ以前と以降、もしくは『インランド・エンパイア』のシルクのハンカチを覗き見る以前と以降と同じ形をしています。『ロスト・ハイウェイ』の入れ替わりシーンも然りです。その構図は前半(第1章~第8章)と同じように、あるテーマを各章ごとに繰り広げるため、あえてシーンをぶつ切りにしてコラージュのように各章にまとめた印象があります。云わば "連想ゲーム" のような姿をしているのです。

 その理由を探るべく、まずは前半考察と同じように、各章の大まかなテーマとロードハウスで何が起きていたかを確認してみます。

 

 【第9章】

テーマ:ガーランド・ブリッグス少佐

ロードハウス:腋が痒い女 エラ

 

 【第10章】

テーマ:愛

ロードハウス:レベッカ・デル・リオ 「No Stars」

 

 【第11章】

前半テーマ:座標と "ゾーン"

後半テーマ:ミッチャム兄弟

 

 【第12章】

テーマ:青いバラ

ロードハウス:アンジェラの話題

 

 【第13章】

テーマ:時間軸

ロードハウス:ジェームズ・ハーリー 「Just You」

 

 【第14章】

テーマ:夢

ロードハウス:ビリーの話題

 

 【第15章】

テーマ:真相

ロードハウス:四つん這いで叫ぶ女 ルビー

 

 【第16章】

テーマ:復活

ロードハウス:オードリーのダンス

 

 こうして大まかに並べていくと各章のテーマとロードハウスはどこかシンクロしているように見えてきます。また一部で話題となっているのが『The Return』に隠されたシンクロニシティです。第1章のサム&トレイシーと第3章のクーパー帰還のシーンは見事なシンクロをしています(Twin Peaks mauve zone - YouTube)。これに限らず、ジャコビー先生のシーンやゴードンのローラ幻視など、ピーカーたちが発見したシンクロは各章に散りばめられ『The Return』と『Fire Walk With Me』までが25年の時を超えて対になっていることまで現わしています(ただし、それがどこまで意図的に製作されているのかはわかりませんが...)。

 このシンクロニシティは、第14章の "夢見人" で考察した "集合的無意識" と深い関わりがあります。僕たちの "意識" や "夢" は、海底よりも深い精神世界で誰もがつながっているという概念が集合的無意識で、それをベースにして例えばAさんはBさんと全く同じ経験を次元の離れた全く違う場所で体験したというのがシンクロニシティになります。それは客観視して初めてわかることであり、主観だけではシンクロしているのかどうかわからないのです。もっと簡単に言うと "正夢" と言い換えることもできるかもしれません。正夢で語ってしまうと "デジャヴ" ということになり、どちらかというとニュアンスが "幻" になってしまいますが、それを既視感ではなくタイムスリップしているような感覚、それがシンクロニシティだと言えるのです。そして、この概念を利用してデイヴィッド・リンチはある人物の物語を他の人物の物語とシンクロさせてストーリーを組み立てているのです。まるで『ロスト・ハイウェイ』のフレッドとピート、『マルホランド・ドライブ』のダイアンとベティ、『インランド・エンパイア』のスーザンとニッキーのような感じです。

 例えば、ロードハウスで腋を掻きむしっていたエラ。彼女の存在はかなり理解に苦しんだのですが、シンクロしているという視点で見てみると、誰とシンクロしているのかが、なんとなくぼんやりと見えてくるのです。彼女はハイになったまま仕事に行ったためクビになったと言っていました。これと同じ境遇のキャラクターは一人しかいません。スティーヴンです。彼はハイになった状態で面接を受けて見事に落ちています。この二人の共通キーワードは "仕事中にハイになっている" こと。ただ、エラは女性でブロンドです。そして、ハンバーガーを売ってる。スティーヴンの妻ベッキーはダブルRダイナーにパンを届けていました。そして、彼女もブロンドです。となると、エラ=ベッキーというのが、なんとなくぼんやりと見えてきます。第15章でスティーヴンは自ら命を絶ったであろう描写がありました。その後のベッキーがどうなったかは描かれていませんが、もしかしたら、その未来の姿がエラなのかもしれません。

 かなりこじつけ感が強くて、自分で書いててもホントかよ?と思ってしまってるのですが、それでも可能性はゼロではないような感じもします。いずれにしても『The Return』の中には共通ワードを持つキャラクターというのがちょいちょい存在するのです。このシンクロニシティが残り2話でどのような結末を迎えるのかはわかりませんが、いずれにしても登場するキャラクターや場所が相互作用しながら、非常に精神性の高い物語がなにかしらの収束を迎えることは確実です。

 エンターテイメントという性質上、リンチ監督は誰もが楽しめる娯楽として物語を紡いでいる一方で、『インランド・エンパイア』からの10年で積み上げてきたインスピレーション、もっと言えばあのカンヌ映画祭での世紀の大ブーイングへの逆襲を、この『The Return』で成し遂げようとしている感じもするのです。

 

 では、第8章以降、各キャラクターたちがどのような道を歩んできたかも最終章の前にざっと振り返ってみたいと思います。

 

◆デイル・クーパーFBI特別捜査官

 第7章でスパイクによる暗殺を撃退したクーパーはラスベガス警察で指紋やDNAを採取される。この頃から妙にコンセントが気になり始めています。警察から解放されたクーパーは、そのままダギーが交通事故に遭った時からの掛かりつけの医師のもとに行き検査を受ける。その夜、ジェイニーEと体を結びオーガズムを味わう。翌日、ミッチャム兄弟から呼び出しを受けてチェリーパイを届けると、相手は大喜びで一晩中大騒ぎをする。家に帰るとジェイニーEは「天国にいるみたい」とクーパーに抱きついて離れない。その翌日、今度は同僚のアンソニーがコーヒーをご馳走してくれる。家に帰りチョコレートケーキを食べながらテレビをつけると「ゴードン・コール」の名前。持っていたフォークをコンセントに差し込み感電。目が覚めるとクーパーに戻っていた。ツイン・ピークス保安官事務所に向かう。

 

◆クーパーのドッペルゲンガー(悪クーパー)

 第8章でレイに撃たれるが生き返る。ハッチ&シャンタルが待つ農家へ向かう。ダンカン・トッドが計画通りに事を済ませていないことを知りハッチに始末を命令する。農場(ファーム)に行き、レイから座標を受取り、フィリップ・ジェフリーズの裏切りを知る。コンビニエンス・ストアを訪れ、フィリップに裏切りの理由を問い詰めるがスルーされてしまう。外にいたリチャードを連れて、ジュディと関係があるらしい場所へ向かうが、そこは罠だった。ダイアンに座標の全てを教えてもらい、ジャック・ラビット・パレスの奥へと向かう。

 

 第8章以前は対照的に描かれていたクーパーと悪クーパーだが、第8章以降は出番が極端に減ってしまいました。その理由は先ほどのシンクロニシティが関係あると思うのですが、それはさて置き、そもそもの目的であった "座標" を手に入れた悪クーパーは、順当に駒を進めている印象です。その最終的なゴールは "ジュディ" 。逆に悪クーパーをロッジに強制送還させるため現生に帰ってきたクーパーは、ダギー・ジョーンズという別の人生を味わうことによって十二因縁を経験することになりました。やっと本来の姿に戻り、いかに悪クーパーを強制送還させることができるのか?が最終章の見所となりそうです。

 

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 次はゴードン・コールを中心としたFBIの面々。

 第7章で悪クーパーと対面したダイアン。FBI一行は一路フィラデルフィアへ帰途しようとするが、国防総省長官からブリッグス少佐の情報が入り、サウスダコタ州バックホーンへ向かう。首のない少佐の遺体と対面し、身体の状態が40代のままであることに疑問を抱く。一緒に発見されたルース・ダヴェンポートの殺害容疑で署に拘留されているビル・ヘイスティングスを事情聴取すると、"ゾーン" という不可思議な空間の話が出てくる。その夜、ダイアンが悪クーパーとメールのやり取りをしていたことが発覚、時同じくしてニューヨークのペントハウスに悪クーパーが訪れていた写真も発見される。

 翌日、ビルの案内によってシカモアという地名の空地を訪れ、ゴードンは "ゾーン" に接近、近くにルース・ダヴェンポートの遺体を発見、ホームレスのような "木こり" の存在にも触れる。ルースの遺体に書かれていた "座標" がツイン・ピークスを指していることも明らかになった。その不可思議な現象の数々に触れた日の夜、ゴードンとアルバートは "青いバラ特捜チーム" にタミーを加入させる。

 トルーマン保安官から連絡をもらっていたゴードンは25年ぶりにツイン・ピークス保安官事務所と連絡を取る。そこでクーパーが2人いるという情報が入る。同じ頃、タミーはアルバートから "青いバラ事件" の顛末を聞き "トゥルパ" の存在を知る。ダイアンが悪クーパーと会った最後の夜、彼はブリッグス少佐の話をしていたことも明らかになった。さらに少佐の遺体から出てきた結婚指輪の話をすると、指輪に彫り込まれていた人物の名がダイアンの姉妹であることが判明、ゴードンはラスベガスのFBIにダギー・ジョーンズの情報収集を命令する。

 ゴードンはその日見た "モニカ・ベルッチ" の夢を語る。その夢の中で1989年2月16日、FBIフィラデルフィア支部にフィリップ・ジェフリーズが現れた時の事を思い出す。

 あくる日、部屋を訪れてきたダイアンは悪クーパーと最後に会った夜のことを告白する。そして、様子がおかしくなった彼女は「私は保安官事務所にいる」と告げるとゴードンに銃を向ける。アルバートとタミーによって撃たれたダイアンは一瞬にして姿を消してしまう。それは "青いバラ事件" の再来のようであった。

 

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 映画「Fire Walk With Me」で長年の謎とされてきた "青いバラ" と "フィリップ・ジェフリーズ" が、ツイン・ピークスという物語の非常に重要なキーワードであることが明らかになりました。第8章以前では、25年間失踪していたクーパーの真偽を問うだけに留まりましたが、第8章以降では "ブリッグス少佐" の謎を追う内にゴードンの原点とも言える "青いバラ事件" が重要視されるようになり、さらには身近な存在であるはずのダイアンが悪クーパーと内密なやり取りをし、"トゥルパ" であることも判明したのです。また、この "トゥルパ" もしくは "化身" という単語がチベット用語であることから、旧シリーズと変わらず "密教" が物語に深く関わっていることも明らかになっています。ダイアンが最後に言い残した「保安官事務所にいる」というセリフから、FBIの面々も最終章でツイン・ピークスに向かうことが示唆されています。

 

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 続いてはツイン・ピークス保安官事務所の面々です。

 トルーマン保安官、ホークと共に実家を訪れたボビーは、父親ブリッグス少佐が残したスティック状の筒を受け取る。その中身には2枚の小さなメモが封入され、1枚には2日後の10月1日に "ジャック・ラビット・パレス" で何かが起きることが、そしてもう1枚には記号の羅列の中に "クーパー / クーパー" と印字がされていた。そのメモを頼りに位置を割り出したトルーマン保安官に、ホークは古い地図を広げてみせる。ブルー・パイン・マウンテンが "崇高かつ神聖な場所" であること、そして、山の上に描かれている黒いマークについては何も知るべきではないと語る。

 町の交差点で起きた悲惨なひき逃げ事件、その目撃者が酷い暴力によって重体に陥ってしまった傷害事件の犯人がリチャードであるとわかったトルーマン保安官は、祖父であるベンジャミン・ホーンのもとを訪れる。事の真相を聞かされたベン・ホーンは目撃者の治療費を全額負担することを約束した。そして、たまたま届いた "315号室" の古いルームキーを、ハリーに記念として渡してほしいとフランクに託す。

 10月1日、リチャードとドラッグの闇取引をし、ミリアムからの手紙を隠蔽しようとした罪で、トルーマン保安官たちはチャドを逮捕する。そして、ボビーの案内に従いジャック・ラビット・パレスへと赴く。そこからさらに東へ253ヤード進むとシカモアの梢が立つ少し開けた場所へ出る。そこにはナイドが全裸で横たわっていた。彼女を助け起こそうとした矢先、突如現れたワームホールにアンディが吸い込まれてしまう。その先には "消防士" がいて、アンディに数々のイメージを見せる。その投影が終わると、一行はいつの間にかジャック・ラビット・パレスまで戻されていた。

 保護したナイド、逮捕されたチャド、そして、左頬に傷がある酔っ払いが留置所に拘留されている。さらにロードハウスで騒ぎを起こしたジェームズとフレディまでが拘留されてしまう。酔っ払いはダギー・ジョーンズのように人の言葉をただオウム返しし、ナイドは何か伝播でも送るかのように鳥のような鳴き声を出し続けている。

 

 悪クーパーが求めていた座標、ヘイスティングスやFBIが求めていた座標を、保安官事務所の面々はブリッグス少佐の、ある意味 "遺書" のような小さなメモから、いとも簡単に手に入れました。それは父から子へのメッセージでもあり、宇宙の果て、ないしは森の奥深くから届いたメッセージでもありました。そこに横たわっていたのは第3章で無限空間に放り出されてしまったナイド。その希有な存在は、今、保安官事務所で保護されています。クーパーやゴードンたちが集うであろう場所に、これだけの面子がこの時点で揃われたことには、かなりの意味がありそうです。

 

 その他、オードリーを含めたホーン・ファミリーについてや、もともとのダギー・ジョーンズとは結局何者だったのか?なども妄想していきたいところですが、それは最終回を迎えてからゆっくりと味わいたいと思っています。