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ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第3回「ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 1

第1話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第2話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第3話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / ハーリー・ペイトン

第4話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第5話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / マーク・フロスト

第6話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン

第7話:監督 / マーク・フロスト 脚本 / マーク・フロスト

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comが一番端的だと思います。

ツイン・ピークス シーズン1 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

そんなわけで時間潰しシリーズ第3回目です。ここまで来ると、なんていうんでしょうか、今さら「東京ラブストーリー」を紐解いて「anone」を考察するようなものとでも言いましょうか。他者を求めるという人間が抱えるコミュニティへの飢餓感を描いている点は同じだとしても、両者の間に横たわる時代感が半端なく隔絶されているのです。それでも「アンナチュラル」のように第1話から仕込まれていた伏線が最終回で爆発するようなカタルシスも、ほんのちょっとはあるわけでして。まあ、片や3ヶ月のワンクール内の話で、片や30年近くの年月が流れているわけですけれども...。いずれにしても、今さらオードリーが片目のジャックに辿り着いた!とか、ジョシーが二重帳簿を盗み損ねた!なんて書き連ねるつもりはさらさらありません。

なので、今回も前回同様、あまり触れられていない部分に焦点を当てながら旧シリーズと「The Return」の比較をしていこうかと思います。ちなみに上記の監督&脚本のリストを見てお分かりの通り、テレビシリーズに関してはデイヴィッド・リンチの影響下は最初の2話のみで、あとのほとんどはマーク・フロストの独断場になっております。物語や映像の骨格はリンチ・テイストを踏襲してはいるのですが、第3話以降はハーリー・ペイトンやロバート・エンゲルスなどそれぞれの作家性が反映された作品になり、リンチ・ワールドをそれぞれに解釈した云わば大衆向けのデイヴィッド・リンチの世界となっているのです。

今から30年前に「ツイン・ピークス」が大ブームを巻き起こしたのも、たぶん、このオドロオドロしい "あちらの世界" を、マーク・フロストが大衆文化にまでひっぱり降ろしてきたからではないかと個人的には思っています。その功績は「Xファイル」から「セブン」さらには「ダヴィンチ・コード」まで広がっていきます。シーズン1ではまだ鳴りを潜めていますが、フリーメイソンなど都市伝説系の話題も「アイズ・ワイド・シャット」などの元祖みたいな括りと捉えることもできます。旨そうなコーヒーとチェリーパイ、茶目っ気たっぷりのクーパー捜査官、そして、森の奥に潜む得体の知れない人間の狂気、それらを一大エンターテイメントに仕立て上げたのがマーク・フロストではないかと。まるで「あなたの知らない世界」など呪いや心霊現象がメインだった宜保愛子氏に変わって、風水やパワースポットなどを巧みに使い "あちらの世界" をポジティブに変換した江原啓之氏みたいな。霊魂とか憑依とかいう言葉を "スピリチュアル" って言ってしまうと、あまり怖く感じないどころか、逆にパワースポットを巡ってそういう類のパワーを貰い受けてますみたいなね。これも一つの体験型のエンターテイメントと括ることが可能ではないかと。

てなわけで姐さん、今回はちょっとマーク・フロスト寄りの都市伝説的な内容になりそうな感じがします。ほとんどが噂レベルの話になるかもしれませんが、まあ、それもエンターテイメントです。それではいってみましょう。

 

1.マリリン・モンロー

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ツイン・ピークス」の第1話の冒頭、パイプに逆さ吊りになって瞑想していたクーパー捜査官はダイアンに向かってこう呟きます。「ダイアン、気になることが2つほどあるんだ。これはFBI捜査官としても僕個人としても非常に興味深い問題だ。ケネディ兄弟とマリリン・モンローの関係とはなんだったのだろうか?そして、大統領を暗殺した本当の犯人はいったい誰なのか?」

この壮大なミステリーの冒頭に語られたモノローグは、ある意味、マーク・フロストの所信表明だったと断言できるほど、「ツイン・ピークス」にはマリリン・モンローへのオマージュというか、モチーフがいたるところに散りばめられています。ざっと列挙してみると。

 ①本名:ノーマ・ジーン・モーテンソン

 ②思春期に受けた性的虐待

 ③セックス・シンボル

 ④有力者との不倫

 ⑤薬物乱用

 ⑥精神科医との会話のテープ

 ⑦全裸での死

 ⑧睡眠薬の過剰摂取

 ⑨死の直前の電話

 ⑩秘密の赤い日記(手帳)

 ⑪ジュディ・ガーランドとの交友

 ⑫宇宙人との接触

さて、いかがでしょう。ピーカーならどれも思い当たる節があるものばかりではないでしょうか。まあ、最後の二つは半分お遊びみたいな感じでもありますが、それにしてもこの数は相当なものです。そして、マリリン・モンローの自殺は、ご存じの通り未だに謎が謎のまま取り残されているわけです。ケネディ暗殺と共に、表面的にはマリリン・モンローは自殺、ジョン・F・ケネディはオズワルドの単独行動により殺害された、ということになってはいますが、両者とも根強く残っているのが何かしらの陰謀によって殺害されたという説です。そして、その陰謀の背景として語られている内の一つに "ブルーブック計画" で掴んだ宇宙人の存在を世に公表しようとしたためという説があるのです。

まあ、この辺の深掘りはここまでにして、もう一つ気になるのがマリリン・モンローの容姿です。おわかりですよね。これです。

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この富士額、この眉毛、そして位置こそ違いますがこのホクロ。もともとマリリン・モンローはブロンドではなく茶褐色の髪だったというのも暗に匂わせていますし、そもそもの初登場シーンのモンローウォークはあからさまに狙っているとしか言えません。

そんな、みんな大好きオードリー・ホーンですが、その境遇を見るとローラ・パーマー以上に不幸なのではないかと思えるのは僕だけでしょうか。

 ◆パパが悪人

 ◆パパに存在を否定される

 ◆パパにやられそうになる

 ◆ママは構ってくれない

 ◆ママはいつも不機嫌

 ◆弟はアッパラパー

 ◆学校にあまり友達がいない

 ◆なぜか男連中も振り向かない

 ◆ホテルの従業員からも煙たがられてる

結論、ツイン・ピークスの住人の中でオードリーは誰よりも "孤独" だった、そう断言できるほど彼女の立ち位置は可哀相な状況にあります。だけど、ローラのように売春やドラッグに走る訳でもなく、パパのコネを使って裏社会を牛耳ろうとするわけでもない。そもそもオードリーのキャラクターに悲壮感というものは皆無で、どこまでも純粋で、誰かがこの世界から別の世界に連れ立ってくれるものと信じていつも夢見ている。その誰かとはもちろんクーパー捜査官なんですけど、彼は子供扱いしてちっとも振り向いてくれない。そこがまた悩ましいんでしょうね、肉食系丸出しでオードリーはクーパーに言い寄るわけです。さらには、ちょっと悪さに手を出すといってもタバコを吸うぐらいのレベルで、とてもローラの比にはならないし。町の有力者のお嬢様という恵まれた環境なのに、金に物を言わせることもなく、あろうことかシーズン終盤まで処女だったという稀に見るウブな女の子だったりもするのです。このアンバランス加減が人気の要因だったのではないかとも思うのですが。

しかし「The Return」になると状況は一変します。その辺の考察は総論でも語りましたが(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)、そこで語ったアルコール依存症というキーワードがマリリン・モンローとの妙な符合を見せます。そして、3度の離婚を経験しているマリリン・モンローのように、オードリーも決して幸せな結婚生活を送っていたわけではなさそうです。ファーザー・コンプレックスという面も見過ごしてはいけません。両者は父親からの愛情というものを充分に享受していない面があり、その欠落が不倫という行為に走らせていると読み取ることもできるのです。

生前、マリリン・モンローはこんな名言を語っていました。その言葉が彼女の人生、如いては、彼女をモチーフにした「ツイン・ピークス」という物語の全てを語っているような気がします。

 

ほら、星たちを見て。

あんなに高くきらきら輝いているわ。

だけど、一つひとつがとても孤独なのね。

私たちの世界とおんなじ。

見せかけの世界なのよ。

 

2.精神科医の戯言

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よく語られているのがカイル・マクラクランデイヴィッド・リンチの化身という役目を担っているという話ですが、ではマーク・フロストの化身は誰か?と聞かれたら、間違いなくこのヘッポコ精神科医ジャコビー先生ではないかと思います。

序章ではなぜか耳栓をし、普段は3Dメガネをかけ、ハワイアンで手品師、どこをどう切り取っても胡散臭さしか残らないという、この強烈なイカサマ師がマーク・フロストの代弁者になるわけですが、彼には彼なりのポリシーというか、別の世界から覗き込んでいるツイン・ピークスという世界があるのです。

「ファイナル・ドキュメント」でも「シークレット・ヒストリー」でも、マーク・フロストはジャコビー先生についてはかなり事細かに書き記しています。その中でも特に注目したいのがエドの銃で左目をケガしたネイディーンを診察したカルテです。時は1987年11月29日。テレサ・バンクス事件が発生する3ヶ月前になります。そこでジャコビー先生は、開口一番、ネイディーンは自ら "直観" を遮断するために左目を犠牲にしたと語っています。なんのことやらさっぱりなんですが、要は下記の図になります。

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人間の脳の、右脳は直観を司り、左脳は理論を司ると言われています。そして、ジャコビー先生が言うには、右側に赤色の偏光レンズをかけると赤色の波長が左脳を司る理論的な活動を若干低下させると、逆に左側に青色の偏光レンズをかけると青色の波長が右脳を司る直観や空間認識の活動を低下させる。そうすると普段はそれぞれに分かれて活動している右脳と左脳が一体感を持つようになり、脳梁、すなわち右脳と左脳を結ぶ神経線維が活性化し、大脳全体が同時に活動するようになるらしいのです。そして、それは現実をより深く覗き込むことができる超次元への入り口なのだと。さらに、この3Dメガネを通して見る世界というのは、スミレ色の世界、うっすら紫がかって見える世界なのだそうです。

それはこんなんだったり。

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こんなんとか。

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さらにはこんなとか。

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そんな風にジャコビー先生には見えているらしいのです。そして、その元となった体験がシャーマニズムに則ったフィールドワークからくるものだそうで、インディアンが万能薬として霊的な治癒力を施すペヨーテや、南米で伝統的に使用されているアヤワスカなどを取り入れた結果からくるものなのだそうです。どれも強烈な幻覚剤に使用されているものばかりなんですが、まあ、簡単に言ってしまうとジェリーと一緒で単にブッ飛んでいるだけという。ただ、これらは変性意識状態を作りだし、自我の忘却を誘い、宇宙や神との一体感を経験できることから、アルコール依存症うつ病などの改善に役立つとも言われ、ある意味、深い瞑想状態と同じ効力があるらしいのです。未知の力を引き出すとでも言いましょうか。超神水を飲んだ孫悟空みたいな感じです。

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こんなことを、まさか30年前のツイン・ピークス第1話から設定していたのかどうかはわかりませんが(たぶん完全なる後付けだと思いますが)、いずれにしても第1話からジャコビー先生が3Dメガネをかけていたのは事実であり、大麻大国ハワイ出身というのもなかなか考え抜かれていたキャラクターとも言えるのです。

で、ちょっとだけ「The Return」の話になりますが、先の第3章で次元の狭間に落ちていくクーパーはジャコビー先生が言う超次元の紫雲に飲み込まれ、ナイドのいる紫がかった部屋に辿り着くわけですが、ここで気になるのがこれです。

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もともと "15" と書かれていたコンセントがナイドのレバー切り替えで "3" に変わりました。この紫がかった世界もレバー切り替えを境に紫霧が晴れて通常の世界になります。放送当時はナイドが感電していたのと、上記の機械がコンセントの形状をしていたので、電圧か何か "電気" にまつわるものがレバー切り替えで下がったのではないかと思っていました。なので、この数字も電圧というか電力みたいなものを現わしているのではないかと。ただ、このジャコビー先生の理論を照らし合わせてみると、この数字、電圧や電力の数値ではなく "次元の数" を現わしているのではないかと思い始めています。

映画「インターステラー」の話は前にも書いたのですが、その元となっているのが物理学の超弦理論、スーパーストリング理論になります。ブラックホールという非常に大きな重力の先に広がっている世界は10次元を操れる多次元の世界という。それが最終話のオデッサにつながるのではないかと。まあ、数学や物理の本は好きでよく読んでいるのですが、それを全て理解したかと聞かれると、ほんのちょびっとしかわからないんですが...。世の中にはどうやら多次元の世界が存在するらしいと。そして、上記の数字は、紫がかった世界が "15次元の世界" 、そしてクーパーが現実に戻るため、ナイドは僕らが生きている "3次元の世界" に切り替えたのではないかと。そして、それがジャコビー先生の "3D" にもつながる。3D=現実、みたいな。はい、真意の程はDVD/BDが発売されるまでお預けでございますが、発売されたところで解明するのか?と聞かれると、たぶん、何も解明されないような気もします。

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さらにジャコビー先生つながりで、先のネイディーンの "直観" に話を戻します。もともと彼女の母親は精神病院に入院するほどの重度の精神病患者で、父親は典型的なアルコール中毒者だった。彼女自身も躁鬱病統合失調症であり、自分の周りで起きている "見たくない" ことを持ち前の直観で察知することに疲れ果て、自ら左目にケガを負ったとジャコビー先生は分析しています。そうすることによって強制的に理論的な左脳をフル稼働させることになり、その代償行為が "音のしないカーテンレール" を産み出す行為に走らせていると。彼女にとって、見たくない何かを遮る際に "音" が出るというのが、なによりも気に食わない現象だったのです。そして、念願叶って(エドがグリスをこぼしたおかげで)音の出ないカーテンレールに辿り着き、もう見たくないものを静かに遮ることができた瞬間、ネイディーンは一番見たくないものを目撃することになります。結局は誰も自分を受け入れてくれないという "絶望" がのしかかってきたのです。その顛末が睡眠薬の過剰摂取。今見ても、なかなか練られたストーリー展開だと思いますが、大半の人は不思議ちゃん扱いで終わっていたのではないかと思います。まあ、偉そうにこんなことを書いている自分が、当時は一番、ネイディーンを不思議ちゃん扱いしていたのですけど...。

いずれにしても「The Return」でネイディーンはドクター・アンプのクソ掘りシャベルによって開眼、このクソみたいな世界に気づくことによって、自分自身が一番クソな存在だと知り、中堂よろしくエドを解放するに至りました。まあ、ムーミン好きはスナフキンだと思っていればガマンできるようですが、ネイディーンにはドクター・アンプがいます。先述したペヨーテやアヤワスカを摂取したような精神の解放が彼女の残りの人生を意義あるものにし、ドクター・アンプもまたこの上ない精神の宝の持ち主を得たと。落ち着くところに落ち着いたということみたいです。

 

3.コーヒーは旨かったのか?

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「The Return」の第4章、現世に帰ってきて一夜明けた朝、ルンルンのジェイニーEが煎れたコーヒーを一口含んだ途端、ブハーッ!と吐き出したクーパー/ダギー。当時はコーヒーがクソまずくて吐き出したものとばかり思っていましたが(ジェイニーEがダギーにコーヒーを出したのは後にも先にもこのシーンだけです)、久しぶりに旧ツイン・ピークスを観直したら、どうもクソ旨かったんじゃないかという気がしてきました。それが旧シリーズの第2話、伝説のチベット占い捜査のシーンです。

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クーパー、しっかり吐き出してます。んでもって、ルーシーに向かって「すげえ旨い!で、熱い!」と熱弁しているわけです。たぶん、ピートが煎れた魚入りのコーヒーが生臭い上にぬるいという極上のマズさだったため、なおさらスゲエ旨かったのかもしれませんが、これに対するオマージュというかパロディが「The Return」ではないかと。

だとしたらジェイニーEも、チョコレートケーキだけじゃなくてコーヒーもセットにしてあげてればよかったのになぁ。

 

4.胃の中にあったものの意味とは?

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「The Return」でブリッグス少佐の胃から検出されたダグラス・ジョーンズの結婚指輪。検察官のコンスタンスが嬉々としてデイブやドン・ハリソン刑事に報告をしていましたが、二人とも「それがなにか?」みたいな態度でした。ゴードン・コール一行がバックホーンに到着した際も同じで、ブリッグス少佐の遺体には興味を示すのですが胃の中から出てきたものについてはスルーしていました。

たぶん、25年も経っているのでアルバートもゴードンもすっかり忘れてしまっていたのかもしれませんが、かのローラ・パーマーの胃からも同様に異物が検出されていたのです。それがこれ。

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片目のジャックのコインの欠片。そもそもこの欠片を発見したのはアルバートであり、完全にコンスタンスと対比になっているのです。そして、事件の核心に迫る重要なアイテムという点でも見事なシンクロ率を誇っています。

この "コインの欠片" がなぜローラの胃の中にあったのかはシーズン1の第7話でジャック・ルノーが語っていますが、事の経緯はローラが自ら噛み砕いて飲み込んだというのが真相になっています。これらが「The Return」でも同様であるとするなら、やはりブリッグス少佐は結婚指輪を自ら飲み込んだのだと推測することができます。その辺の考察は総論を参照してもらえればと(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)。

 

5.片目のジャック

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コインの話題が出たので、続いて "片目のジャック" についてちょっとしたトリビアを。自分も調べるまではぜんぜん知らなかったのですが、どうやら片目のジャックは二人いるみたいなのです。どういうことか?というと、次のトランプの絵札を見て頂くとしてですね。

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ご覧の通りダイヤとクローバーのジャックには目が二つあります。ハートとスペードのジャックだけが片目なんです。トランプは今まで腐るほどしてきましたが、こうやって絵札をまじまじと見たのは人生で初めてかもしれません。さらには、ハートのジャックは "愛" の象徴であるハートのマークをガン見しています。逆にスペードのジャックは "剣" や "死" の象徴であるスペードから完全に背を向けています。これにも意味があるらしいのですが、まあ、ツイン・ピークスとはあまり関係がなさそうなので、ここは割愛します。

片目のジャックは表向きはカジノですので、上記の看板にあるようにブラックジャックの絵札とも絡めてスペードのジャックがあしらわれています。しかし、裏ではハートも楽しめるというダブルミーニングになっているのが素晴らしいではないですか。

さらにトランプつながりで話を続けていくと、ちょいとシーズン2のネタになってしまいますが、これです。

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 スペードのクイーン(男勝り)・・・シェリー・ジョンソン

 ダイヤのクイーン(贅沢好き)・・・オードリー・ホーン

 クローバーのクイーン(お人好し)・・・ドナ・ヘイワード

 スペードのキング(ダビデ)・・・デイル・クーパー

ここに足りないのはハートのクイーンであり、ご存じの通りそれはアニー・ブラックバーンを指していました。それぞれのカードの意味が各キャラクターに微妙なニュアンスで割り振られているのも面白いところです。そして、スペードのキング。ペリシテ人の巨人兵士ゴリアテをたった一つの石で倒した羊飼いの少年ダビデ、彼がモデルとなっているカードがクーパーに割り当てられています。先述したようにスペードは "死" の象徴でもあり、キングが手に持っている剣はゴリアテの首を切った勝利の剣です。ウィンダム・アールは、そんな英雄気取りのクーパーを仕留め、ハートのクイーンを生贄に祀り上げようとしていたのです。

トランプつながりでさらに話を続けると、これです。

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その昔、トランプには税金が課せられていたそうで、印刷局を経て製造されたカードであることを証明するために、スペードのエースだけは国が管理をしていたそうです。そういう意味ではトランプの中でも特別なカードであり、さらにはトランプの中でも最強を意味するカードでもあります。その上、何度も言うようにスペードは "死" の象徴であり、"A" は全ての始まりを意味します。悪クーパーがトランプのカードを使っているというのも、上記のクイーンと一緒で、悪クーパーがウィンダム・アールであることを暗に示しています。ここまでそれらしい意味がお膳立てされていて、これがエクスペリメントのことではなくて他の事を意味するとしたなら、その方がビックリしてしまいます。

 

6.ブックハウス・ボーイズ

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トランプつながりで記号の話を続けると、ハリーやエド、ホークが在籍しているブックハウス・ボーイズのシンボルも "スペード" と同じ意味を持っています。こちらはあからさまに剣の姿があしらわれていますが、その周りにベイマツ(ダグラスモミ)の枝葉が描かれているのも興味深いところです。

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BANG BANG BARと同じ敷地内にある小さな小屋を根城にしていたブックハウス・ボーイズの面々。序章ではボビー&マイクからドナを助け出しジェームズの元に送り届け、第3話ではジャック・ルノーの弟ベルナールを捕獲、ジャックの居所を教えろと脅迫していました。同じ第3話でハリーはブックハウス・ボーイズの役目について次のように語っています。

「変な話をするが信じて欲しい。ここツイン・ピークスは余所と違う、時代に取り残された別世界だ。それがこの町の良さだ、俺たちはそこを気に入っている。でもここには隠れた部分もあって、それも余所とは違っているんだ。"負" の部分。なにか邪悪なものの存在があるんだ。深い森の奥には非常に奇妙なものがひそんでいる。闇というか魔物というか、なんとでも呼べばいいが、いろんな姿をしているんだ。しかし、それは昔から常にそこにいて、我々は常にそれと戦ってきた。祖先たちも子孫たちも、みんな戦ってきた」

語り部はその "悪" をカナダから運び込まれてくる麻薬としていましたが、シーズン2や「The Return」を経た今となっては、その対象がダグパスでありジュディであることを僕たちは知っています。

また、かのジェームズもブックハウス・ボーイズのメンバーであり、そのメンバーの特徴がバイカーであることを考慮すると、彼もそのメンバーだったのではないかと推測ができます。

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アンディとルーシーの息子ウォリー。マーロン・ブランドと同じ誕生日だからと、ハリーが名付け親になった彼は「The Return」の第4章にしか登場しないのですが、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーではないかと匂わせるのが下記の3点。

 ①アンディがブックハウス・ボーイズのメンバー(フランクも同じ)

 ②バイクに乗ってライダースを着ている

 ③自分が使っていた子供部屋を両親の書斎(ブックハウス)にしていいと伝える

短い出番ながら、アメリカを横断したルイス・クラーク探検隊に言及したり、自分のダーマ(法)は "道" だと言ってみたり、なかなか口達者な若者です。では、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーなら、いったい何と戦っていたのでしょう。「The Return」でも「ファイナル・ドキュメント」でも、その辺については何も具体的なことが描かれていません。ですが、あえて仮説を立てるとするなら、暗い森の奥に光を射し込もうとしていた、隠れているものを白日の下にさらそうとしていた、そんなことをしようとしていたのではないかと。未開の地だったアメリカ北西部を明らかにしたルイス・クラークのように、ウォリーも何かの陰謀と戦っていたのかもしれません。

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さらには「The Return」でボブ玉を粉砕したフレディも、ジェームズの誘いによってブックハウス・ボーイズに加入していた可能性があります。だとしたら、その活躍と功績は完全にツイン・ピークス部外者にお株を取られた感じでもあります。

 

7.マーロン・ブランド

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先のウォリーもそうですが、何かとマーク・フロストはマーロン・ブランドをフューチャーしています。

旧シリーズの第4話でも、クーパー捜査官のために情報を私にちょうだいよとドナにけしかけるオードリーですが、その際のやり取りの中で "片目のジャック" の話をすると、ドナは「映画の題名でしょ?」と答えています。この「片目のジャック」という映画も、マーロン・ブランドが主演、さらには監督までしている作品なのです。

先のブックハウス・ボーイズのバイカーたちもマーロン・ブランド譲りのファッションですし、かの「ゴッドファーザー」でアカデミー主演男優賞を受賞した際も、受賞スピーチを拒否した挙句、壇上でインディアンの活動家にスピーチをさせたという逸話もあります。

日本に住んでいる僕がこんなことを言うのもなんですが、アメリカの歴史の中で黒人の奴隷解放や人種差別はずいぶんと大きく取り上げられていますが、先住民であるインディアンを根絶やしにしたことにはあまり触れたがりません。人種差別がアメリカという国の中でどれほどの問題意識としてあるのかは知りようがありませんが、そんな中でメインキャストに先住民である "ホーク" を配置していることには、大きな意義があるのではないかとは思います。

 

8."真の男" を助ける者たち

ツイン・ピークス」と「The Return」の対比が描かれている中で特筆したいのが、トルーマン兄弟の危機を救うこの二人です。

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片やジャック・ルノーにやられそうになるハリーを、片や悪クーパーにやられそうになるフランクを助けているわけですが、前回のブログで書いたように、普段はトボけている両者が、次元の分岐点に存在しているだけでなく "真の男" を守っているというのが、なかなかにしびれる展開です。

どこまでの意図があるのかは解釈しづらいところではありますが、たぶん、そんなに深い意味はないと思います。

 

他にもいろいろとセルフ・パロディというか、オマージュというか伏線というか、そんなものがありそうなんですが、とりあえずシーズン1については、ここまでにします。いずれにしてもシーズン2の時にも触れるかもしれませんが、ローラ殺しが解決した後のグダグダ感は半端なく、それは視聴者だけでなく、作品に携わったスタッフやキャストも口を揃えて "最悪" だったと語っているのです。そういう意味でも、謎が謎のまま残っているシーズン1は素晴らしく、続きがめちゃめちゃ気になるという点でも突出している作品だと言えるのです。そして、その作品を作り上げたのは監督や脚本家だけでなく、このメインキャストたちの素晴らしいクリエイティブぶりがあってこそだとも思うのです。

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