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深読みツイン・ピークス④ ホワイト ロッジ

やっと発売&レンタル解禁された『ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ』ですが、目玉の特典映像集『インプレッションズ』を見てみたら、まあ、ビックリです。未公開シーンなんて何ひとつないじゃないか!マジか!

要するに本編が全てということらしいのです。本編から全てを読み解けと。いや、薄々は気づいていましたよ。ガマンできずにYouTubeを覗いてみたら、なんか舞台裏を追っている映像ばかり出てるなぁと。訳わかんないオッチャンがドキュメンタリーっぽくリンチを追ってるなぁと。で、頭をよぎりましたよ。もしかしたら、たぶんこれが全てなのかもしれへんなぁと。嫌な予感というのは当たるものです。バッチリ、予想通りでした。それが全てでしたよ。ちきしょう!

『リミテッド』と同時に滝本大先生監修の『決定版ツイン・ピークス究極読本』なんてものまで発売されましたが、こちらもズッコケました。情報量は膨大ですが、肝心の滝本大先生はストーリーなんてわかるわけがないと早々にサジを投げて美女・美女・美女とヨダレを垂らすだけ。町山氏に至っては遠まわしに退屈と斬り捨てておしまい。唯一作品と正面きってタイマンはっている高橋ヨシキ氏も、ストーリーラインをなぞるだけに留まり、内藤仙人さまのような独自の解釈というものが皆無でした。悪魔主義者らしい、とことんディープなダーク・ツイン・ピークス・ワールドを覗き見たかったのですが、なんか残念です。書籍としてはゲームの攻略本のような小さな気づきをちょいちょい与えてくれる良書だとは思います。

レンタルランキングを見てみると海外ドラマ部門では1位のようですが、全体的なランクで言うと82位とけっして話題作と騒がれるほどのものではなく、ライトユーザーの感想も大方が「意味がわからない」と呆気に取られておしまいのようです(ソースは7月17日時点でのGEOランキング。20日になるとドラマ部門で7位、総合では136位。ちなみにTSUTAYAでは79位)。まあ、至極当然の感想だと思います。僕だってデイヴィッド・リンチなんていう変態おじさんを好きにならなければ、こんな訳わかんないものの何が面白いんだと、箸にも棒にもかからなかったと思います。

ただ、このソフト発売のタイミングでいろいろと解禁された情報も多々あります。そのほとんどが作品に出演された裕木奈江さんのインタビューから垣間見えるものではあるのですが、ナイドと異次元の謎を探る重要なテキストであることは間違いありません。その辺は巡礼の旅シリーズの最終回でまとめて語るつもりでいます。

とりあえずはシーズン2に残された2つの重要なキーワード「ホワイトロッジ」と「ドッペルゲンガー」について語っていくつもりでいるのですが、前回のトレモンド夫人とその孫があまりにも濃厚すぎました。二つ合わせて30,000文字というブログを通り越して完全にキチガイ論文になっていたので、ここからはサクッと2,000文字ぐらいでまとめていきまっせ、姐さん。

 

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

第4章「結論、夢見人の正体はジャック・ラビット・パレス」

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てなわけで、いきなり結論からいきましたが、これはWOWOW放送当時から変わらない僕の妄想です。どこかでひっくり返らないかと思ってはいたのですが、どうもひっくり返る兆しがないので、これを結論といたします。

そもそも「ホワイトロッジ」というのは旧シリーズでブリッグス少佐とその機関が追い求めていた世界のことです。そのタイムラインを大まかに要約すると、1945年の人類初の核実験トリニティが行われた2年後、同じニューメキシコ州にあるロズウェルに未確認飛行物体が落下。アメリカ政府は極秘裏にそれを回収し、当時のアメリカ大統領であるトルーマンはMJ-12という調査委員会を設置、地球外生命体とのコンタクトを開始したと言われています。その後も未確認飛行物体の目撃情報は後を絶たず、1952年、アイゼンハワー大統領は本格的なUFO研究機関としてブルーブック計画を発足、その機関に在籍していたのがブリッグス少佐であり、ウィンダム・アールでした。しかし、ケネディが暗殺され、ニクソンが大統領に就任すると突如UFOなんてものは存在しなかったと政府が公表し、1969年、ブルーブック計画は終焉を迎えます。しかし、実際それは隠れ蓑であり、UFO研究は密かに行われ続け、1983年、ブルーパイン計画としてツイン・ピークスの森奥深くに政府の秘密施設が建設されました。そこに派遣されてきたのがブリッグス少佐であり、深宇宙探査と並行して行われた研究がゴーストウッドの森深くにある何かしらのエネルギー情報の収集でした。

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この流れを見ると、ブルーブック計画、もしくはマンハッタン計画が完全に『The Return』と同じタイムラインを辿っていることがわかります。要はエクスペリメント=宇宙人だと。かなり暴力的にツイン・ピークスを語るなら、原爆実験によって引寄せられた宇宙人が地球で悪さをしているんだよ、それを止めるのが我らがクーパー捜査官なのさっ!と言うことになります。なんともハリウッド的なストーリーではないですか。それをデイヴィッド・リンチが映像化すると『The Return』のようになってしまうと。たぶん、この流れを鳥山明氏がマンガにすると『ドラゴン・ボール』になり、村上春樹氏が小説にすると『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』になり、坂口博信氏がゲームにすると『ファイナル・ファンタジーVII』になります。円谷プロが特撮を撮るなら『ウルトラマン』、ジブリがアニメを作るなら『千と千尋の神隠し』になります。そう考えると『The Return』って純粋なエンターテイメントだと思うのですが、まあ、一般には通用しないですよね...。ていうか、一般どころかピーカーにも通用しないか...。

いずれにしても、1947年のロズウェル事件から綿々と続いている謎の一つが "ホワイトロッジ" になるのです。そして、それがツイン・ピークスにあると断言したのもブリッグス少佐でした。

ローラ事件が解決したその後、旧シリーズ第17話でクーパーと共にキャンプに出かけたブリックス少佐は、突然まばゆいばかりの光に包まれ忽然と姿を消してしまいます。その2日後、第19話の終盤で、ブリッグス少佐はかつてのパイロット姿で、これまた突然と我が家へと舞い戻ってきます。そして、その首筋にはプルトニウムのマークのような3つの三角形が組み合わさったアザができていました。翌日、クーパーらに失踪時の記憶を訪ねられたブリッグス少佐は、自らの目的を告白します。

「我々はここの土地にあるホワイトロッジを探している」

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『The Return』を経験している今となっては、このブリッグス少佐の失踪事件は、ヘイスティングスの "ゾーン" や、アンディが吸い込まれたワームホールと同一のものであるということがわかります。要するにブリッグス少佐はアンディと一緒でホワイトロッジに招かれた人間なのです。ただ、招かれた際にその土地の土をポケットに入れていなかったため、帰り道がわからなくなり、闇の中の光を辿って行き着いた先が愛する家族の元だったという。その経験が『The Return』のメモに反映されていると。

そして、ホワイトロッジに招かれたのはブリッグス少佐だけではありませんでした。ロズウェル事件が起きた1947年にツイン・ピークスでは3人の小学生が森で失踪する事件が発生します。その時に失踪したのが丸太おばさんことマーガレット・コウルソン、同じクラスメイトだったアラン・トラハーン、そして、トレイラーパークの管理人であるカール・ロッドでした。

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旧シリーズ第24話では二人に共通したアザがあることが発覚したわけですが、それと同じようなアザがカール・ロッドにあることも『シークレット・ヒストリー』で明らかにされています。となると、アンディにも、そして、遠く離れたイギリスの地でワームホールに吸い込まれたフレディにもアザが出来ていたのかもしれません。

いずれにしても、ホワイトロッジに招かれた人物たちは揃いも揃って皆、ボブと戦う者、もしくはブラックロッジに抗う者という立ち位置になっています。では、そもそも、このホワイトロッジというのはなんなのか?という話なんですが、僕的な結論は "太古の昔から存在する森の精霊たちが住む場所" ということになります。

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『The Return』のオープニング、第8章で登場した内なる宮殿、そして、第14章でアンディが招かれた面会室、いずれも画像を見てお分かりの通り、ソファには葉のデザインが施され、面会室の壁を見るとまるで樹木の中にいるかのように樹皮がそそり立っています。

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"時をつかさどる劇場" の床は大海原のようでもあり、木星の表面のようでもありますが、地を這う木の根のようでもあります。これらから導き出せるのは、リンチ監督はわかりやすいぐらいに "大樹" のイメージをホワイトロッジに凝縮していることです。監督は違いますが、旧シリーズの第20話でもホワイトロッジは同じイメージで描かれています。

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で、この "大樹" は何かと言うと、冒頭で結論づけたようにジャック・ラビット・パレスになると。

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さらには第8章で描かれていた集合的無意識の海にそびえ立つ顕在意識の島とも酷似しています。放送当時から、この顕在意識の島の持ち主がツイン・ピークスという物語の超重要人物になるのではないかと思っていたのですが、結局、それは人ではなく "木" だったという...。

『The Return』の第14章でモニカ・ベルッチが語っていた夢見人というのは、森の精霊たちが見ている夢の話を指していて、作品の根幹を端的に言ってしまうと、僕たち人間は自然に翻弄されながら生きている儚い存在であると。そして、それと並行して語られているのが、根強い宇宙人説。人類が原爆なんていうとてつもなく大きな "火" を手に入れたのは、そもそも宇宙人が人類にそういった知識を植えつけたから。キューブリックとクラークは、そんな見えない強大な力に "モノリス" という名を与えました。リンチとフロストは "エクスペリメント" という名を。

しかし、これらはツイン・ピークスという物語のある側面でしかありません。側面というよりは、デイル・クーパーという不思議な力を持つ男を描くための、云わば背景でしかありません。

次回は、そんなクーパーや物語の中心にいるローラ・パーマーの二面性に踏み込む "ドッペルゲンガー" について、これもサクッとまとめていこうかと思います。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「ドッペルゲンガー①」