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深読みツイン・ピークス⑤ ドッペルゲンガー section 1

さて、思いつきで始めた旧ツイン・ピークスを巡るこのシリーズも、いよいよ最後となりました。締めを飾るのはもちろん「ツイン・ピークス第29話」。言わずと知れた旧シリーズの最終話です。

通常の物語であれば、もしくはサスペンスやミステリーであれば、最終話で描かれるのは当然、今まで散りばめられた謎や伏線を回収する、とっておきのストーリー展開になるはずだと誰もが期待してやまないはずです。あの謎はいったいどういう意味だったのか?あの伏線はいったい何につながっていくのか?自分の予想は当たるのか?もしくは遥か上を超えて驚愕の事実が明かされるのか?そうやって期待するのが至極当然だと思います。しかし、既にご存じの通り、実際はというと何一つ解決されないという。いや、解決されないどころか、さらに謎は深まり、挙句の果てには永遠の放置プレイにさらされるという。誰かこの縄をほどいてくれぇ!いや、やっぱほどかないでくれぇ!みたいな。

例えば「ウサギとカメ」という童話になぞらえるなら、競争したって勝つに決まってると高を括ったウサギはひたすら余裕ぶっこいて昼寝をはじめ、その間、えっせらえっせらと健気に歩みを進めるのはドジでのろまなカメさん。そこに突如、宇宙人がミヨーンミヨーンとやってきて、昼寝しているウサギに「パンプルピンプルパムポップン!」と魔法をかけると、あら不思議、ウサギはカメになってしまいます。そして、カメはカメで突然ボワーンと森の道にできた落とし穴にはまり込んで、ゴロゴロゴロッと不思議な世界へと転がり落ちていく。さてさて、どちらが先にゴールをするのか?というところで絵本がおしまい。続きは25年後で~す、ジャーンケン・ポン!こんな感じなのです。意味がわからない上に結局、結末も物語の意図もなにもわからない。それをそこそこのファンが、あの宇宙人は観世音菩薩の化身で、ウサギは己の罪を供養するためにカメになった、さらにはカメが落ちた穴はアリスが落ちたウサギの穴と一緒で、要は精神世界へのワームホールなんだと、もっともらしく考察している。それが当ブログです(笑)

んなわけで、妄想が甚だしい僕が、今から約30年前に世界中を驚愕の渦に巻き込んだ世紀の最終回を、今さらのように徹底解読してみせましょうと。ホンット、今さらですが...。しかし、姐さん。ウサギがカメになっちまったら、結局どちらがゴールしたって、勝者はカメなようですよ。いったい、どっちが本当のカメなんだろう?

 

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

第5章「次に会う時の私は私ではない」

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1.それぞれの結末

◆ アンディ&ルーシー

妊娠しているなんてお構いなしでミス・ツイン・ピークス・コンテストのステージで激しいダンスを披露し、その後、DNA的な真実なんてどうでもいい、私はアンディを父親に選ぶわ!としおらしく大きな決断をしたルーシー。それを聞いたリチャード・"ディック"・トレイメンはあからさまにゲス喜び。からの、コンテスト会場の大混乱。肝心のアンディは洞窟の絵は "地図" だったんだと伝えるため、ルーシーなんて探しもせずにクーパーを追い求めたわけですが、結果、最終的にルーシーも助けたらしく、二人はめでたくゴールイン。

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wisteria-valleyによる私的解釈:

序章ではローラが殺害された廃列車を発見し、レオの家では偶然とはいえ隠されたブーツも発見、そして、フクロウの洞穴ではあろうことか飛び回るフクロウを刺し殺そうとピッケルを振り回し古代の隠された仕掛けを発見、さらには洞窟の絵が "地図" であることも解明したアンディ。『The Return』ではビリーらしき人物と接触し、ホワイトロッジに招かれ消防士と面会。とぼけた感じで、さりげなく重要どころを押さえています。アンディが動くところに謎の解明ありです。

 

◆ホーク&丸太おばさん

クイーンに選ばれたアニーをさらったウィンダム・アールの行き先を探り、クーパーとハリーは洞窟の絵からそのヒントを探ろうとします。

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そこに現れたピートが "12匹のニジマス" とつぶやいたところでハリーは光明を得ます。"グラストンベリー・グローブ" という聞きなれない単語が出てくると、ホークは「血染めの布とローラの日記の一部を発見した場所だ」と合点。そこへクーパーの依頼で "焦げたオイル" を保安官事務所に持参した丸太おばさん。このオイルは、夫であるサム・ランターマンが、亡くなる直前の夜に持ち帰ったもので、丸太おばさんにこう告げたらしい。「このオイルは "門" への入り口だ」。このオイルの臭いは、ジャコビー先生がジャック・ルノーがリーランドに殺された夜に嗅いでいた臭いであり、ロネット・ポラスキーもローラが殺された夜にやはりこの臭いを嗅いでいた。

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wisreria-valleyによる私的解釈:

序章から変人扱いされていた丸太おばさんですが、徐々にその存在は森のメッセンジャーとして超重要人物へと変貌していきました。最終的にはブラック・ロッジへの道先案内人として旧シリーズでの役目を終えています。ホークはさらりと「ローラの日記の一部を見つけた」と語っていますが、これについては詳細が30年近く経っても未だに不明。"血染めの布" はローラが殺された廃列車から800m離れた場所で彼が発見していましたが、その場所が "グラストンベリー・グローブ" になるようです。森の奥深くという割には、ちょっと近いような気もしなくもないですが...。いずれにしても、この2人が『The Return』では森の代弁者として、再び語り部として登場しています。ある意味では "夢見人" の代弁者、それがこの2人なのかもしれません。そういう視点で旧シリーズと『The Return』を観直してみると、その言動や行動にはなかなか興味深いものがあります。

 

◆ビッグ・エド&ノーマ・ジェニングス

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音のしないカーテンレールを開発し億万長者を夢見ていたネイディーンは、その夢が破れると大量服薬で自殺を図りましたが、奇跡的に一命を取り留め、昏睡状態から復帰すると17才の怪力女子に変貌していました。そんなネイディーンに投げ飛ばされ、締上げられ、挙句の果てには "妖艶な快楽の世界" まで味わってしまったマイク。しかし、コンテスト会場ではなんの因果かウィンダム・アールの砂袋攻撃を受けてしまいます。彼女が襲われなければいけない理由は何一つないのですが、どうもアールの癪に障ったようで、この野郎!とばかりに砂袋を脳天に喰らってしまうという...。それがきっかけで正気に戻り、エドとノーマのロマンスはまたもや延長戦となってしまうのでした。

wisteria-valleyによる私的解釈:

ツイン・ピークスが大ブームになった要因の一つは、このビッグ・エドとノーマの決して結ばれることのないロマンスという "メロドラマ" が物語の随所に存在していたからだと個人的には思っています。シェイクスピアの時代から、なんだかんだ小難しいことを言ったって、結ばれそうで結ばれないもどかしい感じが、結局みんな大好きなんです。さらにアクが強すぎるネイディーン、数々の事件に関与していそうなハンク・ジェニングス。この四つ巴戦にシェリーとレオ、片目のジャック、ジョシー・パッカードと香港マフィア、そして、おとぼけマイクが加わることによって、ローラ事件とは別に、ツイン・ピークスという町の人間模様に最大限の華を咲かせていたわけです。

『The Return』では、そういえばこの2人こんなんなったよと、最後の方でお情け程度のエピソードしか描かれませんでしたが、いいんです、この2人に限ってはそれで十分なんです。どちらかと言うと、不運なビッグ・エドの結末を、あのデイヴィッド・リンチがあんな形で、暖かく、そしてハッピーに描いていたことに、ツイン・ピークスへの愛情がどれほどのものか窺い知ることができると言えるのではないでしょうか。

 

◆ドナ&ベン・ホーン

ドナについては第2章「トレモンド夫人」で散々語ったので、ここではベン・ホーンについて。

ツイン・ピークスという町を発展させた事実上の名士として君臨していたアンドルー・パッカード。彼が所有していた製材所やゴーストウッドの森は妻であるジョシーが相続することになりましたが、アンドルーの実の妹キャサリンはそれが気に入らない。そこで森林事業とは別に、カジノやホテル、デパートなどサービス業で町の名士に成りあがったベンジャミン・ホーンを利用し、ジョシーから兄の遺産を奪い返そうとする。

はたまたジョシーも、実は香港マフィアの副首領の父を持つ娘で、裏切りを犯し島を追われた身であり、食いつなぐためにアンドルーの財産に目を付け、トーマス・エッカートを利用してわざと結婚をしていた。その秘めたる妖艶さの裏には隠し持った顔があるという、ツイン・ピークスという作品の重大なテーマ "二面性" をたったワンシーンで描ききったのが "序章" のオープニング。鏡越しで始まった物語は、最終的に鏡越しで終わるという、これまたとんでもない構成になっているのですが。

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ベンジャミン・ホーンは、そんなジョシーとパッカード家の抗争に巻き込まれた憐れな操り人形だったと言えます。あたかも自分が画策してゴーストウッドの森を我がものにし、その地を転売することによって大金をせしめようとしていたわけですが、結果、キャサリンに騙されてショボーンおじさんになってしまいます。そこから南北戦争の妄想に憑りつかれ、私は南軍のリー将軍である!四の五の言わず奴隷は私に従えっ!金儲けは好きにさせろっ!とアメリカの歴史を書き換えようとしますが、その野望も "たいまつの火" によって解毒されてしまいます。"火の力" によって逆に悪人から聖人へと変貌したベン・ホーンは、経営不振に陥ったホーン産業の立て直しに着手し、ブラジルからジョン・ジャスティス・ウィーラーを呼び戻す。果てはガラにもなく森林保護を訴え、己の悪事を白日の下にさらすことによって黒歴史の浄化を果たそうとしますが、その結果、怒りのヘイワード・パンチで一発KOされてしまいます。

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wisteria-valleyによる私的解釈:

"グレート・ノーサン・ホテル" "ホーン・デパート" "片目のジャック" など、ベン・ホーンが手がけた施設はローラ・パーマーの謎を探る重要な場所として、特にシーズン1では物語の舞台としてこの上なく機能していたのですが、第17話以降はパタリと閉店休業。その後、『シークレット・ヒストリー』では、結局、ベン・ホーンはパッカード製材所とゴーストウッドの森をキャサリンから買い受けることに成功し、『ファイナル・ドキュメント』では、あろうことかその森に民間刑務所を建設していたことが明らかになっています。この民間刑務所で起きたストロベリー殺人事件が『The Return』での "犬の脚" 、そして、"ジョー・マクラスキー" との関連を仄めかしていますが、具体的に何があったのかは本編でも書籍でも明らかになっていません。

仮説ではありますが、レイ・モンローやリチャード・ホーンが逃げ込んだ施設 "ファーム" がその民間刑務所の天下り施設になっていて、何かしらの犯罪シンジケートとの伝達中継地点になっていたのではないかと思われます。そこを裏切って、てい良く政府運営のヤンクトン連邦刑務所の所長に出世したのがドワイト・マーフィーであり、彼の本名が "ジョー・マクラスキー" であると。結局、悪クーパー/ウィンダム・アールは、ベン・ホーンが建設した刑務所さえも利用して、何かしらの犯罪シンジケートを組織立てていたのではないかと推測できるのです。

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さらに、わざわざブラジルから呼び寄せ、最終的にオードリーの処女を奪っていったジョン・ジャスティス・ウィーラー。彼はベン・ホーンの "友人" という紹介しかされていませんが、傾き始めたホーン産業の経営再建のためにやってきたという割には、なんだか久しぶりに田舎に帰郷した青年がのんびり夏休みを過ごしているリア充にしか見えません。その間にブラジルでは友人が何者かに殺害されてしまい、ジョンは急遽ブラジルへと帰国していきます。そして、25年後...。

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悪クーパーはブラジルのリオデジャネイロの郊外にある大豪邸でパパラッチされています。この意味するところにジョンが関係しているのかどうかは明らかにされていませんが、こう推測することは可能ではないかと思います。

もともとリオデジャネイロで事業を成功させていたジョンは、ベン・ホーンと同じように表の顔と裏の顔を使い分けている人物で、裏の顔は当然のように何かしらの犯罪組織とグルになっていた。その犯罪組織を取りまとめていたのが旧シリーズで殺害されてしまったジョンの友人であり、その組織改編のために急遽帰国することになった。しかし、それもウィンダム・アールの罠であり、帰国したジョンは何者かに殺害されてしまう。リーダーを失った組織を取りまとめたのが悪クーパー/ウィンダム・アールであり、ラスベガスと同じようにリオデジャネイロでも何かしらの犯罪シンジケートを組織立てたのだった。

全ては憶測でしかありませんが、こうして見ていくとベンジャミン・ホーンの周辺はウィンダム・アールらしき人物(悪クーパーに憑依している人物)にことごとく利用されている形跡があります。さらには旧シリーズの第27話、ジョンがブラジルに帰国すると知るや否や慌ててその後を追いかけようとするオードリーに、ベン・ホーンは待ってくれ、ミス・ツイン・ピークスの打合せをしようと引き止めますがムダに終わります。オードリーが部屋を出ていった直後、急に部屋にキーンという甲高い音が鳴り響き、ベンは何者かの気配を感じて振り返ります。

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この "キーン" という音は、『The Return』でグレート・ノーザン・ホテルに鳴り響いていた謎の音と同じで、クーパー復活の時はラスベガスの病院で鳴り響き、その音に誘導されるようにブッシュネル社長は病室を出ていきました。結果として、この音は "異世界" への入口から鳴り響く音だったのですが、これが旧シリーズの時点でベン・ホーンに迫っていた意図は明らかにされていません。

もしかすると、この時点でオードリーに子が宿ること、さらには銀行爆破事件に巻き込まれることが、後のベン・ホーンの人生をさらに狂わせていくことを暗に予言していたのかもしれません。もしくは後述する "ジョシーの呪い" を単に描いていたのかもしれませんが...。

 

◆オードリー・ホーン&アンドルー・パッカード

憧れのクーパー捜査官のため、ローラ・パーマーがいかに売春とドラッグの世界に溺れていったかを身をもって体現したオードリー・ホーン。その魔の手から危機一髪で救い出されても、父であるベンジャミンは「実の娘はとうの昔に死んでいる」とオードリーを完全否定。にもかかわらず、父が南北戦争の妄想に憑りつかれると、ボビーと共に現実に連れ戻す方法を模索、その結果、ジョンと出会い、彼女は大人の愛の世界に足を踏み入れることになります。ミス・ツイン・ピークスで森林保護を訴え、それでもゴーストウッドの森を利用して金儲けを企んでいる父を制止するため、オードリーは父が利用している信託銀行の貸金庫に我が身を縛り、ゴーストウッド計画の廃止を訴える。

その信託銀行に現れたのは2年前のボート事故で命を落としたアンドルー・パッカード。彼は妻ジョシーに疑惑を抱き、事故を装って姿をくらますと、ジョシーの背後にいる組織を調査、トーマス・エッカートという南アフリカ出身の貿易商に辿り着く。華麗なる復活を遂げ、ジョシーとエッカートへの復讐を見事に果たすと、アンドルーのもとにエッカートの秘書から贈り物が届く。その中身は中国製のパズルボックスだった。

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月の満ち欠けと星座が記された箱から、アンドルーは "時" を現わすと勘付き、アンドルーの誕生日、エッカートの誕生日、箱が届いた日を入力、すると箱が開き中から鉄製の小さな箱が現れる。万力でもビクともしない箱にしびれを切らしたアンドルーは拳銃で破壊、その小さな箱から出てきたのは貸金庫のカギだった。何が出てくるかとワクワクしながら貸金庫の扉を開けると、それはトーマス・エッカートからの復讐であり、信託銀行は一瞬にして爆炎に包まれたのだった。

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wisteria-valleyによる私的解釈:

銀行爆破事件後のオードリーについてはThe Return 総論で語っていますので、ここでは割愛します。肝心なのはアンドルー・パッカードとジョシーです。旧シリーズを俯瞰すると、ローラ・パーマー殺人事件という大きな縦軸に対して、先述したビッグ・エドとノーマのメロドラマが横軸として加わり、さらに大きな横軸としてジョシー・パッカード(本名:リー・チュン・ファン)の陰謀が描かれているのです。

旧シリーズ第7話でクーパー襲撃事件を起こした犯人はジョシーであり、ベンジャミン・ホーンと手を組んでパッカード製材所に火をつけ、キャサリンを焼き殺そうとしたのもジョシーでした。アンドルーと同様に華麗な復活を遂げたキャサリンにより、ジョシーの計画は頓挫し、最終的には裏切りと嫉妬で煮えくり返っていたトーマス・エッカートを殺害すると、ジョシーは不可解な死を迎えます。

この第23話のジョシーの死は、ピーカーの中でも意見が分かれ、僕のように「リンチが監督してないんだから、フロストがABCに脅されて作ったリンチ的な思わせぶりな話でしょ」と斬り捨てて終わる人もいれば、いやいや、第23話はブラックロッジの思惑を語った非常に重要なシーンなんだと熱く語る人もいます。

ジョシー擁護派の意見はこうです。トーマスを殺害した後、ジョシーはブラックロッジに連れ去られてしまった。そのため、死後、彼女の体重は65ポンド(約30kg)しかなく、目立った外傷もなければ、薬物や毒なども検出されなかった。ロッジでの彼女は復讐に燃えていて、その姿を第27話でベンジャミン・ホーンは奇妙な音と共に目撃し、ピートも同じようにホテルの暖炉で目撃している。

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第29話の最終回では、ブラックロッジ内に登場する予定だったが、リンチ監督によってなぜかカットされてしまった。そもそも『ローラ・パーマー最期の7日間』で語られていた "ジュディ" というのは、ジョシーの姉の設定であり、ジョシーはお姉さんによってブラックロッジに連れ去られてしまったんだ。

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そのブラックロッジがナイトテーブルの引き出しの持ち手なのかどうかは甚だ疑問なのですが、"木" の中に閉じ込められてしまうというのは、ある意味、前回のジャック・ラビット・パレス=夢見人と同じ類のような気もします。となると、ジョシーは "森の精霊" になってしまったのか?とも思うのですが、まあ、100人いれば100通りの解釈があるのがデイヴィッド・リンチの作品なので、これはこれで一つの解釈です。"ジュディ" =ジョシーの姉妹説は『The Return』が公開されるまでは、かなりの有力説でもあったので、逆に "極めてネガティブな存在" として格上げになったことに違和感を感じた人も多かったかもしれません。

そんなジョシーに翻弄された2人の紳士、アンドルー・パッカードとトーマス・エッカートですが、結局はスケベ親父が2人して女を取り合い、お互いに自爆してしまった話で終わってしまいました。しかし、第29話での銀行内のシーンは、僕にとって最高のシーンの一つでもあります。

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銀行の副支配人であるデルバート・ミブラー氏の、ただただコップに水を汲みに行くだけの足取り、そして、どうしたらよいものかと、ただただオロオロしているだけの、なんともスローリーなこのシーンはデイヴィッド・リンチの真骨頂とでも言うべきシーンで、ある意味、『The Return』のただただ真夜中にドライブをしているだけのシーンと妙なシンクロを起こします。何百回観ても、このシーンだけは飽きないんですよね。電話が突然鳴り響いて「ヤッホーイ!産まれたのは男の子か!」と喜んでいる警備員は、後のリチャード・ホーンの誕生を暗に仄めかし、朝っぱらからやることなくて居眠りこいてる新規取引案内係のおばちゃんは、たぶん爆発事件があっても眠り続けていたのではないかと思います。ん...、もしかして、このおばちゃんが夢見人?

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◆ガーランド・ブリッグス&セーラ・パーマー

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ウィンダム・アールの監禁生活から解放され、なぜかダブルRダイナーでラブラブ夫婦ぶりをまき散らしているブリッグス少佐。そんな両親の姿を見てボビーもテンションが上がったのかシェリーにプロポーズ。「ダメよ、私はまだレオの女なんだもの」と急に人妻感を匂わせるところ、リンチ監督お得意のビッチ臭がプンプンなのはご愛嬌。そこに序章以来のハイジが登場。エンジンがかからないとか、時間にうるさいドイツ人とか、ここに来てなんか最終回っぽい展開になってくる。そして、なぜか紳士のようにマントを羽織ったジャコビー先生がローラママを連れてくる。どうやらブリッグス少佐に会うため、ローラママに頼まれてダイナーを訪ねてきたらしい。第17話のリーランドの葬儀以来の登場となるローラママ、どうも様子がおかしい。焦点の合わない視線でブリッグス少佐を見つめると、ウィンダム・アールの声でゆっくりと語り始める。

「今、クーパーと共にブラックロッジにいる。私はここであなたを待っている」

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wisteria-valleyによる私的解釈:

すっかりローラは過去のものとなってしまったボビーと、やっと撮影が終わると解放感いっぱいのメッチェン・アミック、いやシェリー・ジョンソンはひょいと脇に置いとくとして、憐れなレオ・ジョンソンは、この時タランチュラの入ったカゴをくわえてなどいなくて、既にウィンダム・アールの5発の銃弾を受け、この世を去っていました。もしくは、現世に現れた悪クーパーによって射殺されたのかもしれませんが...、もしそうだとしたら『ファイナル・ドキュメント』の冒頭で、いきなり悪クーパー=ウィンダム・アールを決定づけることとなり、僕はちょっとほくそ笑んでしまいます。

それにしてもローラママです。なぜ、ウィンダム・アールはローラママの身体に憑依して、ブリッグス少佐をブラックロッジに誘い出そうとしたのでしょうか?

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順当な解釈としては、ローラママが憑依体質だから、それをアールが利用したと定義づけることができます。まあ、言ってしまえばイタコみたいな感じです。となるとアールはこの時点で "生" の世界から "死" の世界へと移行していて、常人では成し得ない "ダグパス" の力を手に入れていたと結論づけることができます。

しかし、『The Return』を経た今となっては、前回のトレモンド夫人その孫の考察で散々語ったように、蛇女リリスであるローラママが、逆にアールを利用してブリッグス少佐をブラックロッジに引きずり込もうとしていると解釈することもできます。旧シリーズの時点で、既にローラママスメアゴル状態であったと。

いずれにしてもブリッグス少佐がホワイトロッジで享受した啓示をブラックロッジの悪霊たちは手に入れようとしていて、その結果が『The Return』で描かれているのです。

 

というわけで、サクッとまとめるつもりが、あっというまに10,000文字近くになってしまいました。肝心のブラックロッジの解説は次回に続きます。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「ドッペルゲンガー②」