that passion once again

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【dele #3】追憶と喪失

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『dele (ディーリー)』

第3話「28年の逃亡犯と監視された女」

監督:瀧本智行

脚本:青島武

 

前回までもそうでしたが、この「ディーリー」の魅力の一つが "映像美" です。深夜枠のテレビドラマとしては贅沢なくらいに毎回毎回、極上のショートフィルムを観ているような感じ。公式サイトのイントロダクションでプロデューサーさんが語っているようにオムニバス的な短編映画を毎回観ているようで、まあ、とにかく素晴らしいです。

そんな中でも、この第3話はパトリス・ルコントの『髪結いの亭主』『仕立て屋の恋』を彷彿させるヴィジュアルが抜群でした。寂れた港町の商店街があんなに魅力的に見えるものかと。舞台となっているのが写真館とか理髪店というのも雰囲気を冗長させています。さらには余貴美子さんが微妙にエロい。微妙にね。とても還暦を超えてるとは思えない熟女っぷりは、その手の趣味の人にはたまらなかったのではないでしょうか。ひと気のない理髪店で、行かず後家が白衣を着て身体を摺り寄せてくるとあっては...、ねえ?

 

物語は写真館を営む浦田さんが「dele.LIFE」を訪れてくるところから始まります。内容は「パソコンのデータを削除するのと併せて、削除する前にデータをコピーし、バラの花と一緒に江角幸子さんに届けてほしい」というもの。なんともキザな依頼ではないですか。でも、ウブな祐太郎くんは「ロマンチックじゃな~い」と有頂天。若いな。

そもそも冒頭で指名手配のポスターがクローズアップされたところで、この "五藤卓" という人物が何かしらの軸になりますよ、と説明されていたわけでして。で、蓋を開けてみたら、学生運動の "爆弾闘争による革命" を標榜していた過激派組織のメンバーで、彼は1975年に起きた外務省の外郭団体を爆破した事件の容疑者でした。

この "学生運動" と "バラ" というキーワードから思い浮かべることができる人物はただ一人しかいません。そうです、アドリア海飛行艇乗りのマドンナであるジーナさんこと加藤登紀子さんです。その代表曲「百万本のバラ」も物語の重要なキーワードとして登場します。

しかし、その "熱い時代" に何があったのかが描かれることはありませんでした。舞さんが語っていたように「テロ対策にAI導入するご時勢」で、まるでストーカーのようにただただ盗聴を繰り返すだけの捜査は "時代遅れ" なことなのです。

ドストエフスキーの『悪霊』で描かれていたペトルーシャのように、何かしらの革命を起こし名声を欲した季節は既に過去となり、熱く燃え上がった焚き火の跡で静かにくすぶっている仄かな熱は、何気ない日常の繰り返しの中で "幸せ" という時間を愛おしむようになっていく。ケイが疑似体験した28年間の "幸せ" は、そんな時間の積み重ねでした。このシーン、本当によかったなぁ。それが "5本のバラ" につながってくんですもん。

 

ラストの麹町の何気ない人々のシーンがヤバイです。

43年前、時代の変革を志して犯罪に身を賭した結果、果たしてここに存在するのは夢見ていたユートピアなのだろうか?そんな想いに囚われていそうな幸子さんのなんとも言えない表情にグッときます。それを見てケイは祐太郎くんにバラを渡せ!と煽ります。そうなんです。幸子さんの時間は決してムダなものではない。決して時間が止まっていたわけでもない。ここにあなたがいる。それ以上でもそれ以下でもない。それが素晴らしい事なんだと。いいドラマじゃないかぁ...。