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【連続テレビ小説「なつぞら」】第5週 今頃、俺たちのことをすっかり忘れてるかもしれないな。

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番長の玉砕プロポーズから始まり、柴田おんじの策略結婚で幕を閉じた『なつぞら』第5週目。その間にいろんなことがありました。いろんな方が出てきました。とにかく豪華絢爛。そして、物語の構成も、これでもかと言うくらい緻密に計算し尽している印象も受けます。伏線があちこちに散りばめられている感じがします。なんか『ワンピース』でも読んでるみたいな気分になってきました。トッカチ・カワムーラヤ編みたいな。

 

まずは伸さん。さわやかでしたねぇ。キラキラしてましたねぇ。律儀でしたねぇ。昔から居たんですかねぇ、あんなスケートの羽生くんみたいな出来すぎた子が...。東京生まれで親が医者だと、やっぱり育ちの良さみたいなものがにじみ出ちゃうんですかねぇ...。

孤児院の指導員の人たちがいい人ばかりで、自分の将来のことも大事に考えるようになったと。働きながら定時制の高校に通い、今は新聞配達をしながら夜間の大学に通っている。自分の力で三度三度のご飯を食べていくために今できる最善の努力を惜しまない。かぁぁぁっ!聞きました?なんなんですか、このまっとうな正論!杓子定規も相手が直線すぎてビックリしてますよ。夕見子ちゃんなんか目が点になっちゃってるじゃん。(関係ないですけど、富士子さんと夕見子ちゃんって似てるなぁ~と感慨深げに見てしまいました。絶妙なキャスティングですね)

そんな伸さんの登場により、柴田家に変化が訪れます。お兄さんに合わせてあげたいという親心で富士子さんはなっちゃんと東京に、照男兄ちゃんは「東京」という都会出身者にどこか天陽くんのお父さんと同じようなコンプレックスと土地に縛られている自分の立ち位置に疑問が...、夕見子ちゃんは特に影響を受けて、「努力すること=勉強すること+大学に行って将来を考える」という一次方程式に「努力すること=今自分にできることをやる+広い視野を持つ」という連立方程式が成立してしまったようです。その未知数の中からどんな解が導き出されるのか、今後の展開が楽しみです。

 

お兄ちゃんを探しに東京は新宿にやってきたなっちゃん。そこで待ち構えていたのは、どこか異国情緒のあるパン屋さん「川村屋」。なにやら怪しげな支配人の野上さん、呼ばれてやってきたのは妖艶なマダム。おおっ、一気に世界観が変わってしまった!北海道の大自然、素朴な人々、そんな人里離れたアルムの山小屋から一変、セバスチャンに連れられて大都会フランクフルトにやってきたみたいではないですか!ということは、マダムはロッテンマイヤーさんなのか?なっちゃんのことをアーデルハイド、いや、奥原氏なんて言い始めるのか?

はい、そんな心配は杞憂だったようです。マダム、なにげに天然ちゃんです。マダム、なにげにお人好しです。マダム、なにげにボンクラです...。野上さん、たぶんマダムが好きなんだろうなぁ...。そのために一生懸命に店を切り盛りしてマダムのことを支えてるんだろうなぁ。カレーではなく "カリー" ですって訂正したら「面倒くさいっ!」って言われた時のあのショック顔。絶対、惚れてるでしょ。

まあ、そんな一従業員の恋心は脇に置いといて、この「川村屋」、どうやら中華まんで有名な中村屋がモデルのようです。昔は中村屋のお向かいに紀伊国屋書店があったようで、そのあたりもマダム目当てにサロンに通っている角筈屋書店の茂木社長と一致します。そのことが物語にどこまで絡んでくるのかはわかりませんが、当時の「新宿」という街を表現するための、ちょっとしたトリビア程度のものでしかないかもしれません。また、帯広の和菓子屋「雪月」の小畑さんも「川村屋」で修業していたというのも、今後への伏線です。雪次郎もマダムに惚れちゃうのかなぁ。

 

伸さんの奔走によりやっと見つけることができた咲太郎兄ちゃん。演じるのは岡田将生くん。人それぞれ彼へのイメージはあると思いますが、僕にはどうにもこうにも『リーガル・ハイ シーズン2』の羽生くんにしか見えません。嫌われ役を一身に受けたためでしょうけど、それにしても嘘くさくて腹に一物を抱えていそうで、お前、いったいマチコちゃんに何を企んでいるんだ!と首根っこひっつかんで問い質したくなるのです。なので当然、可愛いはずの妹なっちゃんも裏切るんだろうなぁと。

そんな予感は半分当たって半分外れました。外れたのは大衆劇場ムーランルージュ新宿座を買い戻すために借金をしていたということ。その借金の保証人に天然マダムが一枚噛んでいたということでした。そこから垣間見えるのは、マダムと一緒で咲坊もお人好しだったということ。演劇が好きで、芝居が好きで、森繁久彌さんが好きで、料理人だった父親が作った天丼が世界一うまかったと豪語する。そんな人物像には好感が持てます。おお、とうとう羽生くんも人情ってもんがわかるようになったのかと。

しかし、当たってしまった方はあまりにも切ない...。

「忘れてくれ...」

嘘でしょ。戦争で両親も住む家も無くし、兄妹は散り散りになり、それでも必ず迎えに行くと約束し、なっちゃんはそれを9年間ずっと待っていました。なのに、それを忘れてしまえと断絶する。

 

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス忘却曲線を発見し、人間の脳は物事を忘れていくようにできていると発表しました。「人は不快な記憶を忘れることによって防衛する」と語ったのはフロイトでした。記憶であれ、感情であれ、僕たちは "忘れていく" ことにより、日々を生きていくことができます。平成から令和に変わった今、数々のテレビ番組で平成30年史を振り返っていましたが、その出来事の多くを僕はすっかり忘れていました。懐かしんで思い出したのは、あの頃にやっちまった思い出したくもない恥ずかしい経験ばかりです。思い出す度に「あああああっっっ!」と頭を掻きむしって記憶を消し去りたくなります。そんな経験があったから、二度と恥ずかしい思いはしないようにと学びます。

しかし、いくら人間が忘れていく生き物だとしても、血縁関係まで忘れろと言われたら、それはちょいと話が違うんじゃないかいと否定したくなります。あまりにも、あまりにもなっちゃんが可哀そすぎる。まるでロビンちゃんと母オルビアのようで、そのうち「お兄ちゃんと呼んでもいいですか?」なんてセリフまで出てきそうです。

 

来週はそんななっちゃんを励ますのか、大自然の雪国でまたひと悶着が起きそうです。裏切り咲坊は浅草で好きに生きていけばいい、なっちゃんにはおんじがいるんです。そんなおんじの策略がどう転ぶのかも見ものです。しゃあない、番長、お前、なっちゃんのために一肌脱いでやれ。それくらいの男気は持ち合わせてるだろっ!