that passion once again

日々の気づき。ディスク・レビューや映画・読書レビューなどなど。スローペースで更新。

The Prodigyのキース・フリント訃報について、今さら少し語ってみた

f:id:wisteria-valley:20190703211459p:plain

今年、2019年の上半期を振り返ると、個人的に最大のニュースだったのは、3月11日に急逝したザ・プロディジーのキース・フリントに尽きます。享年49才。死因は自殺と断定されていますが、一部では事故死ではないかとも報じられていたりします。その辺の曖昧さは、1998年に急逝したX JAPANのhideに似たものを感じたりもします。

いずれにしても2018年の11月に前作より3年ぶりになる通算7作目のアルバム「No Tourists」を発売し、イギリスのオフィシャル・チャートでは当たり前のように1位を獲得、アルバムタイトルを冠したワールドツアーも同時にスタートし連日のようにあちこちのアリーナやスタジアムを沸かしていました。そのツアーがどれだけの熱量で迎えられていたかは、次の「We Live Forever」のツアーPVを見れば一目瞭然でしょう!

そのツアーの舞台がヨーロッパからオーストラリアに移り、5月からはアメリカツアーが始まろうとしていた矢先の出来事だっただけに、しかも今年のメモリアル開催となるフジロックサマソニには絶対に来るだろうと思っていた矢先なだけに(ケミブラが登場するフジロックプロディジーも参戦していたら、こんな伝説は二度となかったはずなのに...)、突如として届けられた訃報は世界中のロックファンやレイバーたちを悲しみのどん底に落としました。

プロディジーの中でのキースの役割は、初めてリードシンガーとなった大名曲「Firestarter」を聴けばわかるように、こいつフロントマンなの?と勘違いしてもおかしくないほどの中心的な存在でした。それまではリロイと一緒にステージの上でピョコピョコ跳ねてただけのヤク中なボクちゃんが、ホントにマジで「Firestarter」の1曲だけで文字通りに化けたのです。そこからの「Breathe」や「The Fat of the Land」の快進撃は僕が語るまでもないでしょう。

5作目のアルバム「Invaders Must Die」で復活を遂げ、自主レーベルTake Me to the Hospitalを立ち上げたことで、プロディジーの頭脳であるリアムの創作力は留まるところをしらないものになり、その作品は強靭なビートを叩きつけるだけになりました。それを一辺倒と切り捨てるのは簡単です(6作目「The Day Is My Enemy」や最新作「No Tourists」がどれも似たような曲にしか聞こえない事実は僕も認めます)。しかし、得てして体力が落ち、尖っていたものが丸くなっていくと「ロックなんてダサいよ、これからはEDMさ!」と簡単に鞍替えするクソ共が多い中で、プロディジーだけは「EDMなんか小僧が便所で聞く音楽だ。現実逃避したいなら俺らが本物のロックを聞かせてやる!」といつまでも変わらずに豪語していたのです。このスタンスを貫き通すハートの強さは、そんじゃそこらのアーティストには真似できない、たぶん世界のてっぺんを見たものだけが持ち得るものじゃないだろうかと思うのです。変わろうが変わらなかろうが、過去を振り返るのではなく、あくまでも最新型であることにこだわり続ける。それがプロディジーであり、世界で唯一無二の存在として名を轟かせ続けている所以だったのです。

そんな鉄壁の強さを誇るプロディジーが、キースの(あえて言わせてもらうと)不慮の事故により立ち止まってしまったことは、一音楽ファンとして、とても悲しい出来事です。それでもリアム・ハウレットという稀代の天才は、たぶん遠くない未来に、僕らの前に再びその雄姿を見せてくれるのではないかと思います。こんなクソみたいに悲しい世界を変えられるのは、神でもSNSでもAIでもない、不屈のロック魂だけなんだ。そんな風に僕たちの前に姿を現してくれるはずだと信じています。キースもそれを望んでいるのではないでしょうか。悲しみに屈するな、と。