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【連続テレビ小説「なつぞら」】第17週 競争じゃないべ、生きるのは。

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菓子職人の修業のために上京してきた雪次郎くんは、亀山蘭子の主演作『人形の家』を観劇すると、兼ねてからくすぶり続けていた胸の内に秘めた「夢」に開眼しました。葛藤に葛藤を重ねて出した結論は、敷かれたレールからはみ出し、新たな道、役者という道を歩いていくことの決断でした。

訛りという挫折を努力で乗り越え、当たり役に恵まれるチャンスも掴み、雪次郎くんは着々と新たな道を突き進んでいきます。そして、とうとう蘭子さんと名前を並べるまでに成長。その記念すべき作品がチェーホフの『かもめ』でした。

 

脚本家の大森先生は、もしかしたら主人公のなっちゃんよりも雪次郎くんに思い入れが強くなってしまったのかな?と思うほど、人間ドラマとしてのダイナミズムを雪次郎くんにぶつけているような気がします。夕見子ちゃん好き好きもそうだし、蘭子さん好き好きも、押入に隠れるのも、涙しながら本音を語るのも、なっちゃん以上のドラマチックさがあるような...。逆になっちゃんが冷めてるようにも見えてしまう。そして、それを演じる山田裕貴さんも役柄とのシンクロ率100%と断言するほど "普通" に演じている。スゴイなぁと思います。

 

劇中劇としてセレクトする作品がどれもドンピシャなのもスゴイと思います。『人形の家』で意識の目覚め・フェミニズムの勃興を謳い、『かもめ』では第四幕のコンスタンチンのセリフ「問題は新しいとか古いとか形式にあるんじゃない。魂から奔放に流れ出てくるものを書くことが大切なんだ」と語られているように、雪次郎くんの心情を的確に捉えたものとなっているのです。

劇団仲間から新しい世界に一緒に行こうと誘われ、イッキュウさんからは蘭子さんを新しい境地に導くことができるのは雪次郎くんしかいないと太鼓判を押され、その蘭子さんからは「あんたほどの大根役者は見たことがない!」と突き放されます。

新しい世界に飛び込みたい気持ちと、古くても今まで大事にしてきた気持ちとの間で、雪次郎くんは引き裂かれてしまいます。それは以前、天陽くんがなっちゃんを描いた絵を赤い絵の具で塗り裂いたのと同じ境遇のような気がするのです。

 

恩人であり憧れでもある蘭子さんを押し退けてまで新しい世界を開拓するぐらいなら、その世界を捨てて、自分の原点に帰ろう。とんでもなく中途半端な道だったけど、もう一度、もう一度だけ、新たなレールの上を進んでいこう。それが "魂" が求める道なんだから。そんな覚悟を決めた雪次郎くんに涙が止まりませんでした。

主人公のなっちゃんみたいに、誰も彼もが己の道を邁進していけるわけではないと思います。時に迷い、時に惑わされ、時に勘違いし、時に己惚れる。そんな風に右往左往しながら、僕らの人生は進んでいくような気がするのです。そんな僕らに天陽くんは優しく語りかけてくれます。

「競争じゃないべ」

 

自分のペースで、自分だけのゴールテープに向かって進んでいこう。

そのゴールテープを争う人はいないんだよ。