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ツイン・ピークス The Return 考察 第12章 不機嫌な薔薇たち

 先週の "幸せのチェリーパイ" から打って変わり、今回の第12章は一見するとどこか間延びしたような、取り留めのない回だったという印象を受けます。もともと「ツイン・ピークス」やデイヴィッド・リンチに先週のような幸福感は求めていなかったのですが、不思議なもので、脳内に大量のセロトニンが一度でも放出されると、それが忘れられなくてまた同じ現象を求めてしまいがちです。一種の "多幸感" に近い状態、それが第11章であったと思うのです。それに比べると、今週はまず主人公が不在でサイドストーリーだけが語られていたということ、かつシーン数も極端に少ないというドラマシリーズとしては第8章同様、なかなか特殊な回だったのではないかと思います。旧シリーズを見てもクーパー捜査官がちょろっとしか登場しない回なんて、まずありませんでした。全18章の総体の中で第12章がどんな位置づけになるのかは、最終回を迎えないと俯瞰することができませんが、いずれにしても主人公を差し置いてでも語らなければならない人物たちが登場したという回になるのかもしれません。

 

1.やさぐれている女たち

 今回の第12章、大きなポイントとして挙げられるのが、不思議な共通点を持つ3人の人物が描かれていたことではないでしょうか。その3人とは「オードリー・ホーン」「セーラ・パーマー」「ダイアン・エヴァンス」です。そこにどんな共通点があるのかと言うと、3人が3人とも「F※%K」を連発するということ。吹き替え版で言うと「クソ」や「クソ野郎」を口走るということです。これはなかなか聞いていて心地良いものではありません。この3人は、どうしてここまで不機嫌なのでしょう。さらに、今回登場したばかりのオードリーはまだ確定できませんが、セーラとダイアンは2人ともかなりのヘビースモーカーとして描かれています。とにかくやたらめったらタバコを吸っているのです。不機嫌を抑えるためにタバコを吸っているのか、もしくは不安定な精神を落ち着かせるためにタバコを吸っているのか。いずれにしても、ここで描かれている "不機嫌" というキーワード、なぜこの3人に共通しているのでしょうか。

 

 ①セーラ・パーマー ~娘と夫を亡くした女性の末路~

 ローラ・パーマーの母親であるセーラ。英語表記では "Sarah" ですので、サラ・パーマーとカタカナ表記をしても間違いではありません。たぶん、訳す時に娘が "ローラ" なので、同じようなニュアンスで "セーラ" で設定したのではないかと思います。僕的には "サラ" の方がしっくりとくるのですが、ここではWOWOWの訳に従って "セーラ" で呼ぶようにいたします。旧シリーズでの字幕も "セーラ" 表記ですし。

 で、先ほど書いたようにセーラは旧シリーズの時点からとんでもなくヘビースモーカーでした。事あるごとにタバコに火をつけています。新シリーズ第2章のシーンでもテーブルの上の灰皿は溢れんばかりになっていましたので、この25年間のどこかで禁煙したと言うわけではなさそうです。不安の表れとも、口寂しさからくる甘えの表れとも両義的に汲み取ることができる設定ではありますが、旧シリーズを振り返ると、どこか不安気なところがあり、なんだかんだ言ってリーランドに甘えるという女性的な面もちょいちょいありましたので、そのまんまヘビースモーカーらしい性格と言えそうです。それが娘を失い、夫を失い、さらに長い期間を一人であの広い家で暮らしていたと思うと、その不安や甘えに "孤独" が覆い被さり、現状のセーラの状態になったのではないかと推察します。 

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 さらにセーラと言えば、旧シリーズでの "叫び" があまりにも特徴的です。序章で娘の不幸を電話越しに悟った時の叫びと言ったら、当時、そこだけ事前に身構えてテレビの音量を落としていたほどです。ローラの部屋でボブを目撃した時も同様でした。その娘であるローラも、映画「FIRE WALK WITH ME」でやたらめったら叫んでいましたので、親子の "叫びDNA" は綿々と受け継がれているようです。

 今回のシーンではスーパーマーケットでウォッカを買い漁ってる姿が描かれています。ウォッカと言っても "スミノフ" オンリーのような感じで、他の棚に並ぶウォッカを飲むつもりはないようです。

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 このウォッカというキーワードもダイアンと共通しています。ダイアンは登場時からウォッカを飲み漁り、今回の第12章でもウォッカまみれです。この2人、相当お酒が強そうですが、それも何かの意図を孕んでいるのでしょうか。タバコをガンガン吸い、ウォッカを水のように飲む。まるで屈強なロシア人のようです。

 さらにスーパーのレジでビーフジャーキーを見ると一気に様子がおかしくなります。

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 レジのお姉ちゃんは「新商品のターキーです」と言ってましたが、セーラが聞きたかったのはビーフジャーキーについてです。それは新シリーズ第2章のシーンともつながります。そこではテレビのアニマル番組を見ているだけというものでしたが、そのテレビに映っていたのは水牛を貪るライオンの姿でした。インドでは牛は神聖なものとして崇められていますが、聖書の中での牛は "生贄" などに象徴されるように肉としての意味、そして、"しもべ" という暗喩もあります。ビーフジャーキーの横に並んでいたのは "ターフジャーキー" 七面鳥です。クリスマスにみんなが食べるものです。そこからも "生贄" というキーワードが導かれます。そこから推察できるのは、セーラは何かを従えているのではないかと、しかも己の欲望を満足させる何かを従えている、もしくは従えたいと目論んでいる、そんなニュアンスが読み取れないでしょうか。その表れが "牛" であった。とにかく "牛" を見ると欲望がうずいてしまうのではないかと。

 しかも、"牛" というキーワードが出てきたのは、なにもセーラの登場シーンだけではありません。そうです。月を飛び越えちまったやつです。「The Return」の中で "牛" というキーワードがどれだけ重要なのかは、まだ計り知ることができませんが、さらっと語るなら仏教法話の「十牛図」が少しは絡んでくるのかもしれません。"十牛図" では悟りへの道の比喩として登場する "牛" を、従えるのではなく食べちまうという観念。まるで神が不在の現世を嘲笑っているかのようです。

 様子がおかしくなったセーラは、幻視でも見たのか、レジのお姉ちゃん(名札にヴィクトリアと書かれています)に唐突に警告を発します。

  〇部屋の様子が変わっている

  〇男たちがやってくる

  〇気を付けなさい

  〇何かが起きる

  〇それは私にも起きたこ

 そのすぐ後に「セーラ、こんなことはダメ」と自分で自分を戒めています。その様子は、まるで「ロード・オブ・ザ・リング」のスメアゴルのようです。

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 長い孤独の末に二重人格者のような行動を取り、善の性格と悪の性格が一つの人格の中で会話をしているという異様な魂の形をしているスメアゴル。セーラも彼同様、長い孤独の中で自己対話をし過ぎたためか、欲望が赴くままの性格とそれを抑えようとする理性的な性格が一つの人格の中で分離してしまったように見えます。そして、車のキーを探しながら「あのクソッタレな車」と悪態をつくのです。その悪態は、スーパーでの騒ぎを聞きつけ、様子を見に来たホーク保安官にも向けられます。独り暮らしのはずなのに奥のキッチンから物音がしたり、「ひどい話だよ!」と何について苛立っているのかはわかりませんが、とにかく異様なオーラをプンプンと周りに放っているのです。

 このような様子を見ていると、セーラは「ツイン・ピークス」という世界の中で、一番、孤独に蝕まれている存在といえそうです。そして、ボブとも一番長く共存、もしくは身近だった存在ともいえるのです。発売されている書籍「ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー」によると、1989年の時点でセーラ・ノヴァク・パーマーは44才。政治学専攻の出身で、夫であるリーランド・パーマーとは学生時代からの恋人であったとされています。リーランドはワシントン大学を首席で卒業とありますので、セーラも同じワシントン大学だった可能性が高いです。そして、結婚生活21年目に娘と夫を続けて失うという運命を背負わされてしまうのです。これは生きながらえる宿命の中で一番辛い状況ではないでしょうか。さらに、リーランドとボブがどの時点で同一化したのかは定かではありませんが、おそらく恋人同士であった学生時代の頃からボブという存在をどこかで認識し(窓から男たちがやってきた)、潜在的に脅かされる結婚生活の果てに、ボブに全てを奪われてしまった唯一の被害者とも言えるのです。

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 ②ダイアン・エヴァンス ~不確かな存在~

 第6章で初めてその姿を現わし、第7章で悪クーパーとご対面、第9章では悪クーパーと密かにつながっていることが明らかになったダイアン。第11章ではヘイスティングスが殺される様を見ても助けることもなく、むしろ、してやったりの表情を浮かべていました。黒いおっちゃんを目撃していることからも、タミー捜査官とは確実に違う、どちらかと言うとクーパーやローラのような一種の "あっち側" の世界を経験している人物と言えそうです。

 前述したようにセーラとの共通点は「F※%Kの乱用」「タバコ」「ウォッカ」そして「ボブ」です。悪クーパーとつながっている、イコール、ボブともつながっている、それはロッジともつながっていると拡大解釈してもいいのかもしれません。悪クーパーの計画にどれほど加担しているのかは、現時点で推し量ることは難しいですが、これまでの印象としてはどうも行き当たりばったりな感じも見受けられます。サウスダコタの刑務所でたまたま再会したのを機に、二人はやり取りを始めたような感じがするのです。それらが全て悪クーパーの計画通りだとするなら、ゴードンやアルバートを含めかなりの範囲が悪クーパーの手の平の上だと言えそうですが、まあ、それはまずありえないでしょう。

 そもそもダイアンが実在していたという時点で、何とも言えない違和感を感じます。ゴードンも、第7章でのダイアンの抱擁に違和感を感じ、抱きつかれても抱き返すことをしませんでした。あまりにも感傷的すぎたのか、もしくは、いつものダイアンらしくないと感じたのか、その辺の説明というものがもう少し欲しいところではあるのですが、リンチ作品なので全くされないという。とにかく "違和感" だけは感じたと。なかなか、もどかしいところではあるのですが、かと言って、この違和感の正体、僕もうまく説明することができません。片腕の男のセリフではありませんが「何かが、おかしい」のです。

 ですが、そんなダイアンをゴードンは「青いバラ事件」の調査に誘います。事の理由はクーパーから何かしらの報告を聞いていたはずだから、ということだけです。それに対してダイアンは「Let's Rock!(さあ、やろうぜ!)」と返答します。この「Let's Rock!」というセリフ、意味するところが深すぎて、とてもどれを指しているのかわかりません。旧シリーズ、そして映画、いずれも「Let's Rock!」が登場するシーンはとても重要なシーンだからです。

 

 【「Let's Rock!」の登場シーン①】

 旧シリーズの第2話、ベッドに入り夢を見ているクーパー捜査官。その夢の中で「ツイン・ピークス」で初めて "赤い部屋" が登場します。そして、小人(別の場所から来た小さな男)が初めて語るセリフが「Let's Rock!」なのです。その夢の内容をクーパー捜査官はボイスレコーダーでダイアンに報告していた。だから、ダイアンは「Let's Rock!」と応えたというのが一つあります。

 ただ、この "赤い部屋" のシーン、生粋のツイン・ピークス・フリークの方ならとっくに周知のことですが、テレビシリーズでは抜けているものが "インターナショナル版" ではちゃんと表示されているのです。それは「25年後」というテロップです。旧シリーズでの第3話でも、夢の内容を語るクーパー捜査官は「25年後、僕は "赤い部屋" にいた」とハリーに説明しています。

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 この "赤い部屋" のシーン、よく見るとクーパーはかなり老けています。1989年当時、カイル・マクラクランが25年後になると、こんなおじさんになっているのではないかというメイクがされているので、現状と比べるのも一つの楽しみです。そして、この "25年後" が、実際に今展開されている舞台というのがあまりにも意味深です。"赤い部屋" が「青いバラ事件」と何かしらの関連があると解った上で、ダイアンは口にしたのでしょうか?

 

 【「Let's Rock!」の登場シーン②】

 もう一つは映画「FIRE WALK WITH ME」のファットトラウト・トレイラーパークでのシーンです。失踪したデズモンド捜査官を探しにトレイラーパークを訪れたクーパー捜査官は、今は善きカール管理人に案内されて足取りを追います。そして、あるはずのシャルフォン婦人のトレイラーがなくなり、その近くに放置されていたデズモンド捜査官の車のフロントガラスに赤い口紅で殴り書きされていたのが「Let's Rock!」でした。

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 今回の第12章で、青いバラ計画チームに加入したタミー捜査官。その経緯をアルバートが説明している中で、もともとフィリップ・ジェフリーズをチームリーダーに、アルバート、デイル・クーパー、そして、チェット・デズモンドの3人が召集されたことが明かされました。映画「FIRE WALK WITH ME」で登場した "しかめっ面のリル" が胸に刺していた "青いバラ" を解明しようと、テレサ・バンクスの護送をサムに任せ、一人、トレイラーパークを訪れたデズモンド捜査官は "6の電信柱" に辿り着き、シャルフォン婦人のトレーラー下にあった "翡翠の指輪" を手にした途端に忽然と姿を消します。

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 となると、"青いバラ" と "翡翠の指輪" に何かしらの関連があるように解釈できるのではないかと。先ほどの "赤い部屋" と "翡翠の指輪" は密接な関係にありますので、そこに "青いバラ" までが深く関わってくることが、これらのことから読み取れてきそうなのです。そして、ダイアンは、これらの内容をただ一言「Let's Rock!」で暗示している。これらはダイアンが "赤い部屋" や "翡翠の指輪" に深く関わっていると定義するのに十分なほどの情報ではないでしょうか。

 さらに重要なのが「青いバラ計画」が "ブルーブック計画" の内密な後継捜査チームだったという事実です。ダイアンの話から少しズレますが、そもそも "ブルーブック計画" というのは、以前の第10章の考察でも語った通り、実際にアメリカで行われていた "MJ-12" という委員会の報告書名でした。そして、この "MJ-12" が調査していたのが、アルバートが説明していたようにUFOなど宇宙人関連を調査する組織だったのです。このUFO調査がどこから始まったかというと、1947年、ニューメキシコ州にUFOが墜落したと言われる "ロズウェル事件" が発端なのです。

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 ニューメキシコ州と聞いてピンと来る方が多いと思いますが、そうです、あの第8章のトリニティ実験が行われたのがニューメキシコ州です。1945年に行われた初の原爆実験の2年後にUFOが立て続けに2度も落ちているのです。ちょっと興味本位で「広島 UFO」で検索をしてみると、広島もどうやらUFO目撃が多い地域のようです。長崎も同様みたいですので、なんだかマーク・フロストの都市伝説熱が上がってくるような感じがします。

 ただ、僕が重要だと思うのはUFOについてではありません。青いバラ計画の名前の由来です。アルバートが語る「ある女性が死ぬ前に言った "青いバラ" が計画名になった」という部分です。経緯を整理します。

 

 1945年 トリニティ実験

      ↓

 1947年 ロズウェル事件

      ↓

 1947年 ブルーブック計画始動

      ↓

 1956年 "森の男" がラジオ局を襲う

      ↓

 1970年の数年後 青いバラ事件発生

      ↓

 1970年の数年後 青いバラ計画始動

 

 フィクションとノンフィクションが織り交ざっていますが、これら全てがニューメキシコ州を中心に動いている事実と解釈するのなら、先ほどの "青いバラ" と言い残して死んでしまった女性というのは、第8章でトビガエルを口にしたあの少女のことを指すのではないかと思うのです。そうすると、唐突に描かれたような印象があった第8章のトリニティ実験と "森の男" と真っ黒いおっちゃん達ですが、それらはゴードンが追いかけていた "青いバラ事件" の発端を描いていたと解釈できないでしょうか?そして、その事件解明を手伝ってほしいと誘われたダイアンが放った一言が「Let's Rock!」。要は "赤い部屋" やロッジともつながっていると。

 これらはアルバートが語った内容とそれに対するダイアンのリアクションから推察しただけですので、この考察がどこまで的を得ているのかはわかりません。ただ、書籍「ツイン・ピークス シークレット・ヒストリー」に "ロズウェル事件" についての記事も掲載されているので、そんなにズレた話ではないような気もするのです。

 さらに悪クーパーからの「ラスベガス」についてのショートメール、これはゴードンたちがダギー・ジョーンズまで辿り着いているかの確認メールになります。たぶんですが、悪クーパーとダイアンのやり取りは、ゴードンたちにハッキングされているとわかった上でのやり取りのような気がします。でなければ、ルース・ダヴェンポートの座標をさっさとメールで送っているはずなのです。さらにその座標がツイン・ピークスを指し示したことも明らかになりました。この発覚が、今後ダイアンの動きにどう絡んでくるのか、裏切りダイアンのスパイ活動も「The Return」の重要なカギになりそうです。

 

 ③オードリー・ホーン ~不可思議な空間~

 新シリーズの第12章でようやく姿を現わしたオードリー。ツイン・ピークスのマドンナの登場を待ち焦がれていたピーカーも多かったようですが、その不可思議な状況とあまりの不機嫌さにショックを受けた方も少なくなかったようです。その不機嫌ぶりは、旧シリーズのあの愛らしい姿からは到底想像できないほどで、ある意味、新シリーズで一番の変貌ぶりではないでしょうか。

 これまでの状況から明らかになっているのは、25年前、父であるベンジャミン・ホーンのゴーストウッド計画を阻止しようと銀行の貸金庫室で抗議を謀ったところ、爆発事故に巻き込まれ意識不明の重症を負ったということ。そして、病院の集中治療室で生死の境をさまよっているところに、なぜか悪クーパーが訪れているということのみです。

 今回のシーンでは状況を把握するしかできないのですが、会話の内容を整理する前に、まずはチャーリーという男性と一緒にいる "部屋" の状況があまりにも前時代的であることに着目したいと思います。今まで例えばトルーマン保安官がスカイプを使ったり、森を彷徨うジェリーがiPhoneであったりタブレットを使っていたりするのに、このオードリーがいる部屋には一切そういう類のものがありません。列挙してみると、

 〇電話は黒電話のみ

 〇書斎にパソコンがない

 〇時計が一切ない

 〇腕時計もしていない

 〇カレンダーがない

 〇写真の類がない

 〇ペーパーレスの時代に机の上が紙だらけ

 〇紙が飛ばないように分銅まで置いている

 〇名刺フォルダーが机の上にある

 〇古い本ばかりが積み上がっている

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 こんな様子から察すると、どうもオードリーがいる時間軸は現在の時間軸とズレている可能性が大いにあります。しかも、登場して最初のセリフが「もう電話が鳴るのを待つなんて耐えられない」です。携帯で電話するもメールするもLINEするも自由なこの時代に、黒電話が鳴るのをただひたすら待っているという状況は、あまりにも不可思議です。さらにチャーリーはオードリーの夫という設定ですが、不思議なのは二人とも結婚指輪をしていないということです。「私は君の夫だ。良き夫を努めてきた」と語るチャーリーが結婚指輪をしていないと言うのが、どうにも理解できません。

 会話の内容を整理してみるとオードリーとチャーリー以外に4人の人物が出てきます。

  〇ビリー・・・・・2日前から行方不明、オードリーの愛人?

  〇ティナ・・・・・ビリーと最後に会った女性、チャーリーが電話をする

  〇チャック・・・・・先週、ビリーのトラックを盗んだ

  〇ポール・・・・・怪しげな書類に関わっている人物

 リストにしてみても全く何が何だかわかりません。トラックを盗んだと聞くと、チャック=リチャードのような気もするのですが、チャックは "チャールズ" の愛称であり、混乱のもとなのですがチャーリーも "チャールズ" の愛称なのです。これが "リック" であったり "リッチー" であったり、もしくは "ディック" であったりするならリチャードだとすぐわかるのですが、今回の情報だけではどうにもこうにも理解ができません。オードリーが探しているビリーは、第7章のラスト、ダブルRダイナーに現れた「なあ?ビリーを見なかったか?」と突然現れた男が探していたビリーと同一人物のような気もします。その際に起きたダブルRダイナーのお客さん総入れ替えというパラレルが、今回のオードリーがいる部屋とも関連づいていそうですが、となると、この携帯もパソコンもない世界がどこかのパラレルとしてつながっているとしても、それがどこなのかはやはり完全な情報不足になります。

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 さらに、オードリーはしきりにロードハウスに行きたいと騒いでいます。そうするとこの部屋はツイン・ピークスのどこかにありそうな感じもしますが、不思議なのは、もしオードリーが結婚してリチャードを産みツイン・ピークスのどこかで暮らしているとするなら、先に登場しているベンジャミン・ホーンやシルビアが、オードリーの話題を出してもいいのではないかと思うのです。それが一切なく、今回の第12章でトルーマン保安官からリチャードの事件を聞いた後、ベン・ホーンがポロリと呟いたのは「リチャードは父親を知らない」という事実だけです。父親の情報は明らかになっても、母親だと思われるオードリーの話題が一切出ない。しかも、オードリーがツイン・ピークスで暮らしていて、かつリチャードの母親なら、トルーマン保安官はベン・ホーンではなくオードリーを訪ねたに違いないのです。

 いずれにしても、この不思議な状況が残り3分の1となった新シリーズで少しは解明するのか。いろいろな謎が収束に向かっている中で新たに提示された謎は、この「The Return」の中でも特殊な状況下に置かれていると言えそうです。

 

2.その他

 デイヴィッド・リンチはダジャレが好きです。今週のフランス美人とのシーンでも必殺の "カブ" 爆弾が放たれました。それを聞いたアルバートが直立不動で完全に固まってしまったところを見ると、その威力は相当なものです。あまりに効きすぎてしまったので、逆にゴードンがアルバートを心配してしまったほどです。

 第9章で悪クーパーにマーフィー刑務所長を殺せと命じられたハッチ&シャンタル。ハッチはただ撃ち殺すのではなく、どうもいたぶって楽しみたかったようですが、お腹が空いたシャンタルは、早くバーガーが食べたくて、さっさと済ませろと煽ります。それに従うハッチ、見事な腕前でマーフィー所長を仕留めます。

 ジャコビー先生のネット放送がまた始まりました。これはあれですね、どうも毎日毎日19:00に放送をしているようです。ということは、物語内の時間経過を図るのにDr.アンプが登場すると1日が終わると計算できそうです。となると、この夜が明けると、運命の10月1日になりそうです。

 第12章のラスト、BANG BANG BARでのシーン。第9章ではやたらと脇を掻いている女の子が出てきましたが、今回はさらに物語と関係なさそうなシーンです。というのも、BANG BANG BARのシーンはライブもそうですが、どうも各回ゲストコーナーとして扱っている節があり、本編とはあまり関係ない、リンチのお遊び的な面が反映されているように思われるのです。ただ、トリックという男が車の事故に遭って死にそうになったという挿話は、たぶん、車で逃げているリチャードと接触したことを暗にほのめかしているようにも受け取れます。さらに彼の左手は先週のゴードンのように小刻みに震えていました。