that passion once again

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【dele #2】確執と溶解

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『dele (ディーリー)』

第2話「ダイイングメッセージの真相」

監督:常廣丈太

脚本:渡辺雄介

 

前回、クールな思考回路で綿密な計画性を組み立て、巧みな車椅子捌きで悪徳刑事をギャフンと言わせたケイ。相棒の祐太郎くんとは真逆で、感情表現をまったく表に出さない彼ですが、今回、なんとヘッドフォンで音楽を聞きながらノリノリではないですか。しかも、そのノリがえげつない。こういう人いるよね、セカイに入っちゃってる人。

「ニワトリがいますよ」と舞さんにLINEする祐太郎くん。首がコケッコケッと動くからニワトリなのか、そもそもの弱虫くんをもじってチキン呼ばわりしたのかは謎ですが、いずれにしてもニワトリやハトって、なんで首をクイクイ動かしながら歩くんでしょうね。疲れたり、肩が凝ったりしないのかなぁ。

今回の依頼人は宮内詩織さん(コムアイ)。死亡確認のために自宅まで行ってみたら、部屋には音楽機材がビッシリ。そんな中で無残に倒れている彼女の手元には "エンディングノート" があり、そこには走り書きのメッセージが...。

この "エンディングノート" は、以前、舞さんのもとに遺言書の相談で詩織さんが訪れた時に作成されたものらしい。「25才になったら遺言を残そうと思っていた」と語る詩織さん。病を抱えていたのか、それとも自殺を企てていたのか、いずれにしても "死" を覚悟していたことは明らかです。

身元を確定するためネットで詩織さんのことを調べてみると、その昔、ピアノコンクールで優勝するほどの実力者だったことが判明。父親はフィルハーモニー交響楽団の指揮者で、数々の賞を受けるほど。自宅にも賞状やトロフィーが飾られています。ですが、そこに華やかさは存在しません。友人と偽って訪れてきた祐太郎くんに、詩織さんのお母さんはお通夜に他の友人を連れてきて欲しいとお願いします。しかし、それを快く思わない父親の影も...。どこか不穏な空気を感じます。

頼まれると断れない祐太郎くん。ボールペンの名入れから "bar GAFF" というガールズバーに辿り着き、そこで詩織さんが働いていたことが明らかになります。しかし、バーにいる人たちはどこか他人行儀で...。

 

てなわけで、2話目にして "エンディングノート" が登場。通常は高齢者の方々が子供や近親者に、例えば遺言書の有無、延命処置の有無、借金はいくらあって、葬儀には誰々を呼んで欲しい、助かるのはネットなどのIDやパスなど、急に旅立ってしまった時に残処理がしやすいように残したりするものらしいのですが、それをまだ20代の詩織さんが考えているというのは、明らかに何かしらの "死" を感じさせる理由があったからだと思われます。

物語後半で明らかになる "生前葬" も、バラエティ番組の企画で往々にして第二の人生をスタートするために半分おふざけで行ったり、死期が迫った大御所の方々が感謝の意を込めて執り行うものですが、そこにも "死" を予感させる何かがあります。

詩織さんと両親の間にどんな確執があったのか、具体的なシーンや物語はあえて表現されていませんでしたが、この "迫りくる死" が何かしらの要因になっていたのではないかと推測することができます。そして、詩織さんの母親も、その "迫りくる死" を知っていた。

祐太郎くんには「小さい頃から身体が弱かった。急性心不全だった」と語っていますが、たぶん "迫りくる死" の正体は心臓病であり、それを知っていた母親は、だから友人がいたのなら、お通夜に来て欲しいと切に願ったのかもしれません。知らなかったのは交響楽団の仕事で忙しかった父親だけみたいな...。そして、自分と同じ道を歩ませようとする父親に反発し、詩織さんは残された限りある時間の中で、自分のやりたい音楽を創作するため家を飛び出た。母親はそれを父親が理由で音楽が嫌いになったからだと思っていた。この辺の夫婦のすれ違いも物語が進むことによって溶解していきます。

 

ニワトリ ケイが酔狂していた音楽が伏線となってガールズバーにまとまっていくのも楽しかったですね。バンド名は "The Mints"。単純にミントの複数形と解釈することもできますし、"新しいもの" "解毒" なんていうちょっと穿った意味をねじ込めることもできそうです。

そんな "The Mints" の曲が「Pretend」。ケイが「刺激物だらけのデザートみたいな音楽が多い中、本当の音楽をやろうとしている稀有な存在。この曲を初めて聴いた時、衝撃で逆に立ち上がってしまうかと思った」と熱く語るほどの名曲らしいのですが、この曲の作詞を担当していたのが詩織さんの友人である紗也加さん。「偽ります」なんていう曲名をつける辺り、過去の確執から姿を隠して生きていく姿が垣間見えてきますが、それは詩織さんも一緒だったようです。

 

最終的に、詩織さんの想いは家族や友人たちに、ほんわかとした暖かな溶解を与えるのですが、ケイが最後に放った一言がやけに突き刺さります。

「復讐」

父親が思い描いていたように生きる道ではなくても、私は立派に幸せだったんだ。その想いはケイにも通じるものがあるようです。"The Mints" の曲と同じように。