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ガンズ・アンド・ローゼズの名盤『アペタイト・フォー・ディストラクション』が発売された1987年とは何だったのか?

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今月、6月29日に発売されるガンズ・アンド・ローゼズのデビュー・アルバムにしてロック・アルバムの金字塔『アペタイト・フォー・ディストラクション』のリマスター&ボックスセット。「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」「パラダイス・シティ」「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」など往年の超名曲に加え、ファンの間では昔から愛されていた至極のロック・チューン「シャドウ・オブ・ユア・ラヴ」や『GN'Rライズ』に収録されていたライブの定番曲「ムーヴ・トゥ・ザ・シティ」「ママ・キン」のアコースティックなどもコンパイル。販売形態は下記の全5種類。

 ①アペタイト・フォー・ディストラクション [1CD]

 ②デラックス・エディション [2CD]

 ③スーパー・デラックス・エディション [4CD+1BR]

 ④ロックト・アンド・ローデッド・エディション [4CD+1BR+7LP+7'inc]

 ⑤アペタイト・フォー・ディストラクション [2LP]

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amazonではストリーミングのみの扱い値引きなしの普通扱い、タワレコなどのレコード・ショップではネット通販の取り扱いあり、メーカー直発送のユニバーサルで予約注文すると発売日前の6月27日に発送してくれるみたいなので、たぶん、これが一番手っ取り早いかも。未発表曲たっぷりのスーパー・デラックス・エディションは25,000円もするので(同梱されているアイテムは当時のライブ告知の復刻や大型ポスターなどかなり豊富)、そこそこのファンの人(僕を含め)はデラックス・エディションが妥当なところではないかと思います。ちなみにSHM-CDでの発売は国内盤のみで、輸入盤は普通のCDのようです(これで音がどれだけ変わるのかはわからないけど、プラシーボ効果で良く聞こえるのは確かだと思う)。

 

で、もうかれこれ30年間ひたすら聴き倒したガンズの名盤を今さら告知したくてブログを書いているわけでは決してなくてですね、この『アペタイト・フォー・ディストラクション』と同じ1987年に発売されたロックの名盤が他にも2枚あるんだよね、ということに注目したいと(2枚どころじゃねぇだろ!というツッコミは置いといて...)。

まず1枚は去年のライブ・ツアーも話題になったU2の『ヨシュア・トゥリー』

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商売上手なU2は既に2007年に20周年盤ボックスセットを、去年2017年には30周年盤を発売し、それに付随したヨシュア・トゥリー・ツアーを北米やヨーロッパ、中南米で全51公演開催しています。ツアーに同行したノエルが羨ましい!と、相変わらずの兄弟喧嘩をふっかけていたリアムはどうでもいいとして、アジア圏はビジネスの対象にならないとU2から完全に斬り捨てられたのが、極東の島国に住む僕としては一番ショックでした(その点、ガンズはちゃんとベビメタ同伴で来日してくれたんだから言うことなしです)。

この言わずと知れた超名盤2枚が同じ1987年に発売されたこと、そして、その余波が1991年のビッグバンを巻き起こしたことを考慮すると、ガンズとU2というバンドがいかに偉大かを物語っているのではないかと思うのです。収録されている「ホエア・ザ・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム(約束の地)」と同じように「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」や「パラダイス・シティ」も、この30年間、0.001mmも変わらない高揚感を僕たちに提供し続けてくれているのです。

では、そんな名盤2枚が生まれた1987年の背景には何があったのでしょうか?

一つは1980年にジョン・レノンが銃弾に倒れてから始まった、いわゆる商業ロックの隆盛への反動と読み取ることができます。カリカチュアされたポップスも普段の生活を彩るカンフル剤として有効活用することはもちろん可能なのですが、そのエンターテイメントに重きを置きすぎるとロックもパロディ化されてしまう。80年代ロックがいつまで経ってもその対象とされてしまうのは、その万人向けのエンターテイメントが重視され過ぎたが故に、ロックの本質である "反骨精神" が薄れてしまったためではないかと。

このみんながみんな中流階級という同列に並び、企業という企業がコンプライアンスを気にする21世紀に "反骨精神" なんて言っても立て板に水みたいなものですが、今から30年前には確実に僕たちの精神的支柱になり、このクソみたいな生活から抜け出るためのサウンドトラックとして『アペタイト~』も『ヨシュア・トゥリー』もこの上なく機能していたのです。そうなんです、1987年は飾られ過ぎた世界を壊すことが始まった年、ことの本質を見据え始めた年ではないかと思うのです。

1987年に発売された他のアルバムを見ても、

Prince - 『Sign o' the Times

The Jesus and Mary Chain - 『Darklands』

Aerosmith - 『Permanent Vacation』

R.E.M. - 『Document』

Pet Shop Boys - 『Actually』

Depeche Mode - 『Music for the Masses』

など後にブレイクするバンドのターニングポイントになるアルバム、もしくは既にブレイクしたバンドが自身の本質に切り込んだアルバムが多く見られます。世間的に見るとマイケル・ジャクソンの『BAD』が発売された年とも言えますし、売上的には『スリラー』には届かなかったものの、マイケル自身が過去の自分を超えた瞬間であるとも言えるのです。

ここでもう1枚の名盤が出てくるのですが、それがスティングの『ナッシング・ライク・ザ・サン

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ロックの名盤と言ってもいいんですが、ジャズ界の巨匠ギル・エヴァンスブランフォード・マルサリスが参加していることから、一概にロックとは括れないスティングらしいワールド・ワイドな名盤と言えます。他にもエリック・クラプトンやポリスのメンバーであるアンディ・サマーズも参加、とにかく豪華なアルバムです。

このアルバムで、スティングもマイケルと同じように過去の自分を超えることに成功しています。母親の死をきっかけに内省的で悲観的なメロディが生まれ、南米訪問時のショックは名曲「フラジャイル」へと昇華されました。アメリカでの疎外感を歌にした「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は、先の「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」や「ホエア・ストリーツ・ハヴ・ノー・ネイム」同様、この30年の月日を感じさせない永遠のスタンダード・ナンバーとして輝き続けています。

 

スマホで写真を撮れば簡単に加工できるし、はちゃめちゃなことをすればネットで袋叩きにあってしまう。そんな炎上を避け、大人しく長いものに巻かれて、過去の実績を検証しながら石橋を叩いて渡ることが要求される時代に、30年前のような突拍子もない熱いエネルギーを放出することは難しいのかもしれません。

あの頃から比べたら、今の生活水準はかなり良いものであることは間違いないし、交通は便利になったし、情報は取り放題だし、道端を徘徊しているのは野良猫ぐらいで、ワンワン追いかけてくる野良犬や熱くて道端で干からびたミミズなんて最近トンと見ていません。外灯もLEDになって虫がたかることもなくなり、郵便受けにエロビデオのチラシが投げ入れられることもなくなりました。そんな便利さに満足してしまって(どんな便利だ?)、僕らは何か大事なものをどこかに置き忘れてきてしまったのではないか。

ガンズの『アペタイト~』の再発を機に、もう一度、このクソみたいな世界を一点突破するエネルギーを充填しよう。1987年のあの時のように。なんとなく、そんなことを梅雨入りの夜に思いました。