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【dele #7】猜疑と拠所

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『dele (ディーリー)』

第7話「死刑囚の告白」

監督:常廣丈太

脚本:徳永富彦

 

巷では「結局、犯人は誰なんだ?」とモヤモヤしてる人が多発しているようですが、そんなモヤモヤを解消するため、今さらのように5年前の未遂事件を引き出して、犯人に祀り上げられてしまったのが今回の笹本清一だったと言えます。物的証拠もなく、地域住民の証言だけで死刑判決が下され、8年間、ひたすら無実を訴えても棄却され続け、挙句の果てには死刑が執行されてしまう。世間的にはこれで事件は解決、悪者は始末された、とスッキリしているのが現状だと。やっぱり犯人はあいつだった。めでたし、めでたし。しかし、裏を返すと、5年前の未遂事件で被害者は一命を取り留めており、今回の毒物混入事件が冤罪だとしたなら、笹本清一という男は誰一人殺してもいないのに死刑が執行されたことになります。それに対して祐太郎くんは「すっげえ、気持ち悪い!」と吐き捨てます。ホンット、このドラマいいですね。

 

ミステリーという性質上、どうしても誰が真犯人なのかを考えたくなります。ドラマを見てパッと思いつくのが下記の4点。

①「余所から来た」と女の子が言っていたからやっぱり笹本隆が真犯人。小瓶には処方された薬を入れていたと父親が言っていたのは嘘で、あれが青酸だった。

②最後に笑っていた5人が共謀してそれぞれのターゲットを殺害した。その様子をスマホで撮影していた笹本隆は女の子に「飲むと死んじゃうよ」と忠告した。

③女の子にジュースを飲むように勧めたおばちゃんが真犯人。上記の5人の裏事情を知り、それぞれのターゲットに致死量の青酸入りジュースを当時配り歩いた。

④笹本隆を自殺に見せかけて殺害した13年前の未遂事件の被害者が真犯人。あえて犯人を登場させず、物語の裏で物語が流れているというのが狙い。

こんな風に、あいつが怪しいとか、あの時のあの言動が裏付けだとか、そういえばあの時こんなLINEをしていたとか、いろいろ疑うその "猜疑心" が今回のテーマだったと言えます。それをミステリーという道具を使って視聴者をうまくミスリードした徳永脚本が秀逸だったと。

 

では、今回の物語に登場した人物たち、それぞれに焦点を当ててみます。

 

◆笹本清一(自称・派遣社員

2005年、自身が経営していたメッキ工場が倒産寸前になり、従業員である一人の工員に青酸を飲ませ保険金をだまし取ろうとするが未遂に終わる。殺人未遂として懲役5年の実刑判決を受け、出所後、児童施設に預けられていた息子の隆を引き取り、埼玉県川本市に移り住む。2010年8月、町のバザー会場で発生した毒物混入事件の容疑者として逮捕され、取り調べに対して犯行を自供する。しかし、裁判が始まると無罪を主張し、一審では証拠不十分として無罪判決になるが、検察側の控訴による二審で逆転有罪になり死刑判決が下される。弁護側が上告するも最高裁がそれを棄却し、2018年、刑が執行される。享年53才。

【猜疑的解釈】

物語で語られていたように自身の身を守るためなら従業員を殺害してでも生き延びようとする卑劣な男として見ることができる。舞さんも面会した後「信用できる人間かどうか正直わからなかった」と語っている。人を威圧するところがあり、マスコミに対して暴力を振るう様子が撮影されていることからも、前科者として世間から蔑まされていた腹いせに犯行に及んだと解釈することができる。

【拠所的解釈】

そもそも従業員殺害未遂の犯行が笹本ではなく、役員など笹本の部下による犯行だった場合、部下の罪を被って自らが実刑判決を受けた可能性もある。今回のバザー毒物混入事件も、息子の隆の犯行だと知り、息子の罪を被る為、同じように犯行を自供したのかもしれない。しかし、前科者だと罵られ、世間からの冷たい視線に怒りを覚えた笹本は、裁判になると町の住民たちのせいだと語り始めた。息子が罪を犯すまでに追い詰めた町の住民たちが悪いのだと。

 

◆上野兼人(レストラン経営)

南鳩山にあるレストラン「ビストロ・プルミエ」の店主。定番メニューはハンバーグ。妻の成美、母の美奈子と暮らしている。8年前の毒物混入事件で娘の幸子(当時5才)を亡くす。穏やかで人当たりが良い。レストランは町内会の会合に利用され、ある日、市議会議員の宮川新次郎が土木会社社長の中山剛から談合を持ちかけられている姿を目撃する。また、その市議会議員の宮川と妻の成美が不倫の関係であることを知り、2010年頃には二人の様子を密かに撮影していた。8年前の事件当日、母に娘を預けていたと語っているが、事件が起きたバザー会場に上野の車が駐車されている様子が撮影されており、サイドミラーが折りたたまれていなかったことから、事件が起きるまで車内に隠れていた疑いがある。

【猜疑的解釈】

妻の不貞をことごとく追い掛け回し撮影していることから陰湿な性格の持ち主なのかもしれないということ、またその写真を利用して市議会議員の宮川を脅していた可能性もある。妻の成美と宮川の不倫がいつから始まったのかは描かれていないが、仮に娘の幸子の父親が宮川であったなら、その関係を終わらせるため、あえて娘の命を奪ったと解釈することもできる。その結果、母親の痴呆が始まり、介護に追われる妻の姿に今では満足している。最後の笑顔は8年前の事件で今の地位を築いたことへの優越感でもあると。

【拠所的解釈】

8年前の事件が起きるまでは妻の不貞に嫉妬し、バザー会場に車を乗り付け見張っていたりもしたが、娘を亡くしたことをきっかけに夫婦仲が戻ったと解釈することもできる。事件を契機に妻と宮川の関係も終焉し、8年の月日が経ったことで、今ではお互いに笑って話せるまでになった。

 

◆和田保(小売店経営)

南鳩山にある食料雑貨店「和田商店」の店主。未婚。上野と同じように表面上は人当たりが良いが、一旦ブチ切れると途端に暴力的になる。近くのアパートで病気がちの母親と暮らしていたが、8年前の事件でその母親を亡くす。店を訪れた祐太郎には8年前のバザー会場には行ってなかったと証言するが、隆が撮影していた映像には会場の準備を手伝う姿が映っていた。また、母親の介護に苛立ち、日常的に家庭内暴力をふるっていた様子も撮影されている。

【猜疑的解釈】

町の小売店を経営していることから町内会の会合に彼も出席していた可能性は十分にあり、そこで宮川や上野と裏で結託し、8年前の事件に関与した疑いがある。未婚である理由も母親の介護に携わっていたからだと決めつけ、人生を母親に奪われたと憤っていると解釈することもできる。地主である宮川から土地を借りていると語っていたが、ラストの仲睦まじい姿は、どちらかと言うとリーダー的存在の宮川とつるむ昔ながらの悪友のようにも見受けられる。

【拠所的解釈】

母親の介護に疲弊し、家庭内暴力をふるっていた事実はあるが、それも8年前のことである。小売店の経営という決して稼ぎが良い状況ではない上に、痴呆を患った母親は上野の母親と同じように商品を勝手に開封したりと、病院の治療費の他にも金銭的に和田を圧迫していた可能性もある。8年前の事件で母親を亡くすことにより、介護からは解放され、保険金が入ったことにより金銭面でも余裕が生まれた。それでも上野の母親への態度から垣間見えるのは、過去の母親の姿を目の前にすると咄嗟に暴力的な態度に出てしまうという、その介護生活が相当のトラウマになっていることである。8年ぶりの町内会バザーへの参加は、そんなトラウマから抜け出す第一歩であると解釈することもできる。

 

◆宮川新次郎(市議会議員)

川本市の市議会議員であり、南鳩山の地主。妻と娘の茜と暮らしている。世間的には町おこしに熱心な人物として人望を集めているが、市議会に出馬した際、地元の有力企業である土木会社社長の中山剛の力を借りて、票を買収していた疑いがある。また、隆が撮影していた映像には、事件の核になるウォータークーラーに不審な粉末を混入していた姿が映っていたが、本人は「ジュースの粉末を入れただけ」と事件への関与を否定した。上野の妻である成美と不倫の関係にあり、その姿を夫の上野や娘の茜に目撃されるなど脇が甘いところがある。

【猜疑的解釈】

長いものには巻かれ、不倫現場がことごとく目撃されていることから、相当な跡取りお坊ちゃんであることは否めない。中山からの圧力、上野からの圧力から解放されるため、ちょうど町に引っ越してきた笹本親子に目をつけ、毒物混入を企てた可能性がある。ジュースの粉末に青酸を紛れ込ませばウォータークーラーに毒物を混入させることが可能で、その結果28名もの町民がその被害にあってしまう。しかし、本当に殺害したい人物には致死量の毒が入ったジュースを渡しており、そのターゲットが土木会社社長の中山と、上野から指示された不倫でできた子供である幸子であった。上野はその行動を監視するためにバザー会場に駐車した車内で宮川を見張り、和田はこの計画を聞きつけ、どさくさに紛れて自分の母親を殺害した。

【拠所的解釈】

市議会に出馬したのは土木会社社長の中山の策略であり、本人は至ってあけっぴろげな不倫に興じているおとぼけ君である可能性もある。ウォータークーラーに入れていた粉末は、本人が言うように本当にジュースの粉末であったが、疑われてもおかしくない行動をわざわざしてしまうところが、宮川のおとぼけ具合を助長している。議員でありながら不倫に興じているのがバレバレなところも然り。事件によって偶発的に中山が死亡すると、カセが外れ、この南鳩山を住みやすい町にしよう!と、これまたお坊ちゃん的な発想で能天気な献身愛を発揮する。根は素直で良い男だが、周りから持ち上げてもらわないと何もできないお坊ちゃん気質は、ある意味、今回の事件をひっかき回した張本人とも言える。

 

◆宮川茜

宮川新次郎の娘。詮索好きで、自宅を訪れたケイに興味を抱く。8年前に方々で撮影をしていた笹本隆を目撃し、ケイに「なんか気持ち悪かった」とつぶやく。父親が車中で浮気をしている現場を目撃し、8年前の事件の首謀者は父親ではないかと疑いを抱く。隆が撮影していた動画の中に売人とドラッグの取引をしていた姿が映っていた。ケイに突然キスをしたかと思うと、次には平手打ちを喰らわすなど、父親に似て自己中心的な典型的なお嬢様気質であることが伺える。

【猜疑的解釈】

ケイが疑いの眼差しを寄せたように、売人との間でトラブルが発生していたとしたなら、もともとの詮索好きが高じて父親の毒物混入計画を知り、和田と同じようにどさくさに紛れて売人を殺害した可能性がある。世間的には仲睦まじい議員の父親とその娘を演じてはいるが、腹の中では何を企んでいるのかわからないところがある。

【拠所的解釈】

父親と同じで根は素直で良い娘である。偶然に父親の浮気現場を目撃してしまったこと、本人が使用していたかどうかは定かではないが、ドラッグの売人と関係があったことなども、父親と同じで世間的な立場を考えないうかつでおとぼけなキャラであるとも言える。見た目は地主という育ちの良さを醸し出しているが、無邪気ですっとぼけているところは、宮川家の血筋なのかもしれない。

 

と、このように毒物混入事件で死亡した4人の被害者にまつわる人物たちには、どちらとも意味が汲み取れるダブルミーニングが用意されています。これらをどちらの視点で世界を覗き見るかで、その見え方は変わってくるのです。そして "猜疑的" な世界はケイの視点、"拠所的" な世界は祐太郎くんの視点で描かれているところも秀逸なのです。

ケイの視点で世界を覗き見てみると、毒物混入事件は宮川を中心にそれぞれがターゲットを殺害したというのが真相であり、笹本親子は無実の罪を背負わされてこの世界から去って行ったことになります。しかし、今さらそんな真相を世間に訴えたところで世界が変わるとはケイは思っていません。消したいと思うなら消せばいい、ない事にしたいならない事にすればいい、オレはそれにほんのちょっとだけ手助けをしているだけ。これがケイのスタンスになります。

祐太郎くんの視点で世界を見ると、世間からの蔑みに耐えかねた笹本隆が、町民への報復のために事件を起こしたというのが真相になります。13年も前から犯罪者の息子として世間から蔑まされ、学校ではいじめられ、母親は過労と心労で死亡、児童施設に預けられても犯罪者の息子という蔑みの視線は変わりませんでした。耐えに耐えかねて毒物混入事件で町民へ報復するのですが、その結果、自分の思いとは裏腹に、父親はマスコミのターゲットにされた挙句、逮捕からの死刑判決を下され、事件で死亡した4人は報復するはずだった町民たちを却ってトラブルから救い出すことになってしまった。事の真相を知っていた父親は息子の身代わりであり、8年もの間、これは町の人間たちのせいだと訴え続けた。その声を聞きながら隆もひっそりと生き続けたが、父親の刑が執行される頃を見計らって、まるで足並みを揃えるように自殺をした。そんな悲しい世界が祐太郎くんには見えているようです。そして、祐太郎くんも、隆と同じように悲しい世界を見てきた青年なのかもしれません。

 

いよいよ来週は最終回だそうです。

ケイと祐太郎くんの過去がとうとう明らかになりそうです。

その結末が笹本隆と同じように悲しい世界でないことを願っています。