レディオヘッドの最新作「A MOON SHAPED POOL」を楽しむための3つの過去作品
ゴールデンウィークの5月3日(火)、突如、鳥がさえずりを始めた。
翌日4日(水)、高らかなファンファーレと共に新曲「Burn the Witch」の公開。
全世界のファンがYouTubeに殺到し、瞬く間に再生回数は1000万回を超えた。
巨大な人型の檻の中に、神に捧げる人間を閉じ込め、そのまま焼き殺す人身御供の一種、
「ウィッカーマン - Wikipedia」を描いたこの意味深なパペット・アニメーション。
魔女狩りを喚起させるタイトルと、この欺瞞に満ちた世界。
そして、ここ20年近く聴くことのなかった、レディオヘッドにはありえない程の高揚感。
誰もが、近くアナウンスされるであろう最新アルバムに期待を隠せなかった。
NMEの記事で、制作アニメーターの女性が「このビデオは難民危機問題をテーマにしている」と言及。
お前は魔女だとレッテルを貼り、拷問した挙句に自白させ、火あぶりにする。
その構図はヨーロッパの難民問題に限らず、
ここ日本でも、外国人労働者への偏見や、お隣の国へのナショナリズムなど、
対岸の火事というわけにはいかない深刻な問題だと思う。
レディオヘッド、新曲のビデオは難民危機問題に言及していることが明らかに | NME Japan
そして、ここで確認したいのがレディオヘッド6枚目のアルバムである。
01 Hail to the Thief (2003)
「Burn the Witch」という単語は、既にこのアルバムのアートワークに記載されていた。
どこに書かれているかはご自分で確認して欲しい。(けっこう隅の方に書かれている)
また、パペット・アニメーションではないが、
先行シングルの#9「There There」もアニメーション風の暗喩に満ちた世界を描いている。
映像監督は「Burn the Witch」同様、クリス・ホープウェルによるもの。
当時のブッシュ大統領への皮肉をもじったアルバムタイトル、
痛烈な社会批判に根差した作風。
EMI時代最後、集大成的な作品を今一度ここで再確認しよう。
「Burn the Witch」の興奮冷めやらぬ5月7日(土)、セカンド・インパクトが投下される。
ニュー・アルバムリリースのアナウンスと共に新曲「Daydreaming」が公開されたのだ。
これが久々の泣きのレディオヘッド復活で、世界中が歓喜に涙した。
映画監督ポール・トーマス・アンダーソンによる、白昼夢を具現化した美しい映像。
世界から世界へと次々とドアを開けていくトム・ヨークの痛切なまでの姿。
静謐なピアノのループに身を委ねながら、穴倉へと潜り込み、灯火と共に燃え尽きていく。
をんぶんはのいせんじ(efil ym fo flah)、をんぶんはのいせんじ(efil ym fo flah)、呪文のようなダブ。
トムのプライベートも影響しているのでは?と他のブログで紹介されていたが、
孤独と後悔が痛ましい、なんとも泣きの1曲になっている、
この切なさはレディオヘッドを不動の地位に導いた3枚目のアルバムまで遡らないといけない。
02 OK COMPUTER (1997)
「A MOON SHAPED POOL」と「OK COMPUTER」は似たアプローチが多い気がする。
例えば、映画「ロミオ+ジュリエット」のサントラ参加と映画「スペクター」の主題歌。
かたや曲が良すぎるからサントラには収録しないでくれと言ってアルバムに収録した#4「Exit Music」。
かたやサム・スミスへの負け惜しみのような形で公表したお蔵入りの「Spectre」。
映画への楽曲提供は他にもあるが、依頼されての制作という点で両者は共通しているし、結果は真逆。
先行シングルのPVが両方ともアニメーションで社会風刺がテーマというのも共通している。
#6「Karma Police」#10「No Suprises」など、バンド初の鍵盤の登場も見逃せない。
リリースから20年経っても、未だに最高傑作と讃えられ続けている本作。
レディオヘッドの泣きのメロディをここでもう一度思う存分味わっておこう。
鳥のさえずりから1週間後、5月9日(月)に5年ぶりのオリジナルアルバムが全世界一斉配信。
アルバムタイトルは「A MOON SHAPED POOL」。
訳すと「水溜りのような月」という意味らしい。
それは涙でにじんだ月なのか、はたまた、水溜りに映る月なのか。
収録曲も全11曲。
その中には「True Love Waits」や「Identikit」など既にライブで披露されている曲も含まれている。
それにしても怒涛のような1週間だった。
もともと6月にはアルバムが発売されるだろうというニュース記事があちこちに出ていたが、
結果、開けてみれば6月17日(金)にCD盤が発売されるのだけど、このスピード展開が凄まじく、
インターネット時代、ここまでのスピード感がなければ、誰も注目しないのかと思うと空恐ろしい。
アルバムはトータルで聴くと、かなり静かなアルバムになっている。
既に史上最高傑作!と騒いでいる人もいれば、退屈と切り捨てている人もいる。
僕は最高傑作派で、もうデジタル購入してからリピートしっぱなしだ。
前作「The King of Limbs」のようなリズムアプローチも、
「In Rainbows」のようなロック的なダイナミズムも、このアルバムには皆無。
美しい旋律が、ただただこの現実のサウンドトラックとして、目の前の景色に色付けをしていく。
そんな経験をレディオヘッドファンなら16年前に既にしているはずである。
03 KID A (2000)
この虚無感が最新作に一番通じる音ではないか。
特に#1「Everything in Its Right Place」#2「Kid A」の冷たく横たわる厭世観、
#5「Treefingers」のアンビエントなトリップ、
#10「Motion Picture Soundtrack」の絶望。
バンドが初めてJAZZよりのアプローチを始めたという点、
エレクトロとの融合を果たしながら、ロックバンドでもあるという奇跡。
6月17日のCD発売まで待つという人には、こちらのアルバムがお勧めです。