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映画『エイプリルフールズ』からテレビドラマと映画の違いを考えてみた(群像劇映画10選付)

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いつの間にか大ヒットドラマとして扱われている『コンフィデンスマンJP』。確かに審査する方々の評価は高かったものの、世間的にどうだったかを思い返してみても、言うほどでもなかったんじゃないかなぁというのが個人的な印象です。で、その映画プロモーションの一環として、5月17日(金)の封切に合わせ、過去のフジテレビ系古沢良太脚本の映画作品を一挙に只今放送しておりまして。んでもって、映画とは別の『コンフィデンスマンJP 運勢編』なる新作スペシャルドラマも放送されると。さらには『コンフィデンスマンIG』なる五十嵐が主役のミニドラマまで放送...。いくらメディア・ミックスとはいえ、ここまで畳みかけてくるものか?と思うのですが、テレビ離れ・映画離れが甚だしい昨今では、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると、相当に予算とエネルギーとサービス残業をつぎ込んで制作されているようです(え...、残業代はちゃんと払ってる?それは失礼致しました)。

ただ、たぶん僕は映画館には行かないと思います。わからないですけど。もしかしたら、気が向いて行くかもしれないですけど、そもそも邦画を映画館で観たことが今まで一度もないのです。あ...、『魔女の宅急便』は観ました、中学生の時に。ただ、それ以降、話題になった邦画でさえ映画館で観ようとは思えませんでした。ビデオやDVDがレンタルされても観たいと思って手を伸ばすことも少ないです。テレビで放映されても、やっぱり観ません。特に90年代以降の作品はトンと観ません。80年代でも『あぶない刑事』シリーズぐらい(同世代のみんなと同じように柴田恭平さんにめちゃくちゃ憧れたのです)。それより前だと黒澤明監督ものしか興味が湧きません。というよりも橋本忍さんに興味があると言った方が正しいかもしれません。小津さんは眠くなってしまいます。

なので、ドラマ放送時は大絶賛していた『コンフィデンスマンJP』の映画化は完全に嘘であって欲しかったんですが、どうやら先述したように想像以上の予算をつぎ込んだビッグ・プロジェクトとして来週末から公開されるようです。んん...。

 

人それぞれ "映画" に何を求めるかで、その楽しみ方というか満足度というのは変わってくると思うのですが、僕の場合は、とにかくハリウッド病、もしくは海外映画病に若い頃から疾患してしまっているので、普段、目にする景色をわざわざお金を出して映画館で観ようとは思えないし、テレビドラマと邦画の区別もつかないのです。さらにはだいたいの作品が一過性でしかなく、その作品がスタンダードになることも稀だとも思っています。やれ "たまごっち" だ、やれ "エアマックス" だ、やれ "ハンドスピナー" だ、そういう類のものと変わらないのではないかと(エアマックスハンドスピナーの間がだいぶかけ離れてはいますけど...)。

なので、たぶん『コンフィデンスマンJP』も一過性のはずです。いや、もしかしたら『北の国から』のフジテレビです。毎年恒例のスペシャルドラマとして、今後、半期に一度、もしくは年に一度、放映される可能性はあります。そういうポテンシャルを持った自由度の高い作品であるとも言えます。ただ、往々にして俳優さんたちのイメージが役に固定されてしまうと煙たがられる傾向があるので、やっぱり一過性で終わってしまうかもしれません。全ては長澤まさみ様、その腹づもりにかかっています。おぅよ、アタシは一生ダー子でもかまわないゼヨ!と言ってくれるなら、『コンフィデンスマンJP』は向こう10年制作され続けるはずです。それについては私は大賛成です。定期的にエロでキュートでインテリなダー子が拝めて、古沢脚本を楽しめるのなら、それに越したことはありません。『リーガル・ハイ』も捨てがたいですけど...。

 

で、『エイプリルフールズ』です。世の映画評を眺めてみても、真っ先に上がるのが語るまでもない映画ということです。誰々がカッコいいとか、誰々がカワイイとか、誰々が素敵とか。そもそも映画の内容となんも関係ない感想しか出てきません。コアな映画ファンはクソミソにけなして終わりです。けなす時間さえもったいない感じです。

僕的には、良く言えば「安心して観てられる物語」、悪く言うと「可もなく不可もない有体の物語」となります。どちらにしても "映画" である必要性があまり感じられない。テレビ畑の監督が撮ると、結局はテレビの延長線上にしかならない。そんなことが昔からずっと言われ続けています。

では、テレビと映画の違いはなんなのでしょう。

 ①映像表現の規制が違う

 ②テレビ=不特定多数の視聴者、映画=入場者数

 ③テレビ=日常、映画=非日常(行楽・イベント等)

両者を比べると、そこで描かれている物語性や芸術面、技術面についてはどちらも映像作品を制作しているということに優劣はありません。重要なのは、その "非日常" をどこまで楽しめるか?なのです。テレビをつけたら普通にやっているような内容を映画館で観る必要はない。テレビドラマが映画化されても、あまりパッとしないのはそういうことではないかと。僕たちは貪欲です。お金を払ったら、その対価に応じた非日常を経験できなければ、そこに価値を感じられないのです。

では、『エイプリルフールズ』が2時間ドラマではなく映画でなければならない理由はなんなのでしょう。...、...、...。儲けたいから。それしか考えられません。もちろん、儲けようとすることは非常に大事なことです。それを否定しているわけでは決してありません。ただ、商業映画というのはスタンタードにはならないのです。映画ファンから反感を買うのは、おもしろいでぇ~、おもしろいでぇ~と前評判だけ高めるだけ高めといて、蓋を開けたら単にハトが出てきただけだからなのです。ハトかよ!みたいな。そこらにワンサカいるじゃないかと。せめて、そこはゾウにしてくれよ。コアラにしてくれよ。パンダにしてくれよ、と。

なので『コンフィデンスマンJP』の映画化が非常に心配です。蓋を開けたら得体の知れない未知なるものが出てくることを期待しています。

 

ちなみに、僕は群像劇が大好きです。特にグランド・ホテル形式には目がありません。そんな個人的趣味で選んだ群像劇を10本ここで紹介して『エイプリルフールズ』の物語がどのようなところから生まれてきたのかを語りたいと思います。

 

 1.『グランド・ホテル』(1932年)

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言わずと知れたクラシック映画の金字塔。第5回アカデミー賞の作品賞に選ばれています。ホテルという一幕劇、数々の大スターの出演、それぞれに用意されている人間ドラマ。全てはここから始まっています。ホテルという非日常性も、8人の登場人物それぞれに悲喜こもごもなドラマが展開していくのも魅力です。根本的に、僕は "ホテル" という舞台装置にめっぽう弱いです。

 

2.『駅馬車』(1939年)

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西部劇の名作でもあるし、ジョン・フォード監督やジョン・ウェインの代表作でもあります。前述の "ホテル" という舞台装置を幌馬車に変え、それが移動していく形になります。今から80年も前の映画ですが、ぜんぜん古びないし、ただ単に夫に会いに行くのよっ!というだけの澄ました貴婦人役のルイーズ・プラットが可愛くて好き。そんな貴婦人とあんな狭そうな幌馬車の中にいたら、誰だって恋しちゃいます。

 

3.『オリエント急行殺人事件』(1974年)

群像劇の括りに入れるにはちょっと毛色が違うとは思いますが、まあ、個人的な趣味なので入れちゃいます。キャラクターそれぞれに思惑があるということ、オリエント急行という超セレブな列車の密室劇ということ、そして、当時の主役級の大スター達が大挙していること、どれもが昨今の群像劇の礎になっています。2年前にリメイクもされていますが、僕は断然こっちの方が好きです。

 

4.『バンカー・パレス・ホテル』(1989年)

フランスの漫画家(向こうではマンガのことをバンド・デシネと言うらしい)エンキ・ビラルの初監督作。これも群像劇というよりは密室劇になるのでグランド・ホテルほどキャラクターそれぞれが掘り下げられているわけではありません。ただ、僕は "ホテル" という舞台設定にめちゃめちゃ弱く、近未来SFにもめちゃめちゃ弱いです。その両方を兼ね備えたこの作品は、今でも僕の神です。

 

5.『デリカテッセン』(1991年)

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これも群像劇と括るにはどうかと思う部分がありますが、アパートの住人全員が濃いキャラクターで、それぞれがそれぞれの役目を果たしているという部分は捨て難い。『アメリ』が空前の大ヒットになってビックリしましたが、そんなジャン=ピエール・ジュネの初長編映画です。この頃ってミニシアターが流行していて、ハリウッド大作って敬遠されていたんですよねぇ。あの頃が懐かしいです。サウンド・トラックも最高です。

 

6.『ショート・カッツ』(1993年)

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ロバート・アルトマンの代表作だと僕は思っているんですけど、どうもそんな意見は少数派みたいです。これぞ、ザ・群像劇!3時間もある大作ですが、レイモンド・カーヴァーミニマリズムな世界観がこれでもかと織り込まれています。後のジュリアン・ムーアの快進撃は、ここから始まったと言っても過言ではありません。登場する人物たちがどこでクロスオーバーするかと思っていたら、最後の大地震だけという...。

 

7.『パルプ・フィクション』(1994年)

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タランティーノの名を世界中に轟かせた名作。群像劇も然ることながら、時間経過さえも縦横無尽に計算し尽くした緻密な脚本が一世を風靡しました。たぶん、この世代の人たちは大なり小なりタランティーノ的なクロスオーバーなことを一度はしてみたいと思うはずです。古沢さんも多分に漏れずではないでしょうか。『20世紀少年』もこれに近いかもしれない。マンガも映画も。とにかく影響されない人はいないはずです。

 

8.『マグノリア』(1999年)

公開当時は『ショート・カッツ』の再来と喝采を浴びていましたが、結局『ブギーナイツ』の方が尖ってるしエロいしということで、なんだか隅に追いやられてしまった作品。でも、僕は大好き。エイミー・マンの歌も、下品なトムクルも、脱がないジュリアン・ムーアも全部好き。物語は伏線だらけで、あっちがこっちとつながって、こっちがあっちとつながってと、何回観直しても発見があります。

 

9.『ラブ・アクチュアリー』(2003年)

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昨今の群像劇は、だいたいがこのイギリス映画の二番煎じです。『エイプリルフールズ』も、『リーガル・ハイ』のチームがドラマ大ヒットのボーナスをもらって、何して遊ぼうか?と思った時にこの映画の二番煎じが思い浮かんだ。ただ、それだけかもしれません。人間ドラマの浅さ、リアリティーの欠如、この映画はそれでもいいんだ、それでも楽しめるんだ、ということを証明してしまいました。

 

10.『クラッシュ』(2004年)

クラッシュ [DVD]

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同じテレビ畑出身のJ.J.エイブラムス同様、稀代の脚本家として注目されていたポール・ハギスの初監督作。『ミリオンダラー・ベイビー』と『クラッシュ』の2年連続アカデミー賞獲得は既に伝説になりつつあります。人種の格差、生活水準の格差、社会的地位の格差、いろんな問題がいろんな角度から描かれていて、いやぁ、アメリカという大国の規模の大きさ、そして、その絡み合ったこじれ具合が凄まじいです。

 

てなわけで、『エイプリルフールズ』は『ラブ・アクチュアリー』の二番煎じという結論しか出てきませんでした...。軽い気持ちで観る分には申し分ないです。