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深読みツイン・ピークス① リンドバーグ事件

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 2

『ハロルド・スミス編(巨人の予言)』

第8話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第9話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / ハーリー・ペイトン

第10話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第11話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ジェリー・スタル、フロスト&ペイトン&エンゲルス

第12話:監督 / グレアム・クリフォード 脚本 / バリー・プルマン

第13話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

『リーランド・パーマー編(ローラ事件の真相)』

第14話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト

第15話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / スコット・フロスト

第16話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

『エブリン・マーシュ編(南北戦争ごっこ)』

第17話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / トリシア・ブロック

第18話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / バリー・プルマン

第19話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第20話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ハーリー・ペイトン

第21話:監督 / ウーリ・エーデル 脚本 / スコット・フロスト

第22話:監督 / ダイアン・キートン 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

ウィンダム・アール編(ミス・ツイン・ピークス)』

第23話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / トリシア・ブロック

第24話:監督 / ジェームズ・フォーリー 脚本 / バリー・プルマン

第25話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第26話:監督 / ジョナサン・サンガー 脚本 / マーク・フロスト&ハーリー・ペイトン

第27話:監督 / ステファン・ジレンハール 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第28話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / バリー・プルマン

第29話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comへ。

ツイン・ピークス シーズン2 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

「The Return」のDVD/BD発売までの時間潰しシリーズ第4回目です。この連続コラムを思いついた当初は、この序文じみた冒頭に「とうとう発売日決定!」と書いてですね、第5回目をDVD/BD発売後にでもアップできればと目論んでいたのですが、まあ、ご存じの通りびっくり仰天な展開です。このまま永遠に発売されないんじゃないかと思うほど、云とも寸とも言わないシカト状態が続いているわけでして、10年前のシーズン2DVDボックスの悪夢が再び!みたいな感じです。それとも、とんでもないサプライズがこのあと用意されていたりするのでしょうか?だとしたら嬉しいんですけどね。

てなわけで、シーズン2です。前回同様、監督&脚本のリストを上記に挙げてみましたが、それだけではイメージしづらい部分もありますので、勝手に〇〇編みたいに区切ってみました。これが適当かどうかは脇に置いておくとして、ある程度の目安になればとは思います。で、この中で "エブリン・マーシュ編" が本当に退屈で、今でもあまり好きになれません。それもそのはずで、ABCテレビの重役から早くローラ殺しの犯人を描きたまえ!と迫られたリンチ&フロストは、たぶん伝説の第16話で完全に燃え尽きた、もしくは完全にヘソを曲げてしまい、第17話からは作品をドブに捨てた状態になっていたのではないかと思うのです。そんな中でも「ツイン・ピークス」らしさを損なわなかった、もしくは後々につながる謎が散りばめられていたのは、ひとえにハーリー・ペイトンの功績が大きいのではないかと。

シーズン1のブログ同様、今回もあまり触れられていない部分に焦点を当てながら「The Return」と比較をしていくつもりでいます。さらに今回は「The Return」もしくは「ツイン・ピークス」の根幹というか核心にまつわる自論も展開していこうかと思っています。なので、いつも以上に重要なネタバレが含まれております。いつも以上に妄想が激しくなっております。いつも以上に文字数も増えております。そんなわけでして、この第4回目については、各テーマごとに記事を小分けにしてですね、その分、DVD/BD発売までのカウントダウンができればいいなぁ、なんて目論んでおります。

では、姐さん。もうこうなったら「The Return」のインポート版を買っちゃおうかななんて思ってたりもしますが、買った途端に国内版が出るのもイヤなので、とりあえずシコシコまた過去を振り返ることにいたします。

 

第1章「リンドバーグ愛児誘拐事件」

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シーズン1第1話の冒頭でケネディ兄弟とマリリン・モンローについて語っていたクーパー捜査官ですが、シーズン2の前半でも彼はある実際の事件について口にしています。それが「リンドバーグ愛児誘拐事件」。クーパーはこの事件について「できれば僕が事件を解決したかった」とダイアンに語っています。このたった一言のセリフを今回は拡大解釈していこうかと思います。

 

1.事件の概要

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1932年3月1日、ニュージャージーにあるチャールズ・リンドバーグの自宅から生後20ヶ月の息子が何者かに誘拐されるという事件が発生します。もぬけの空になった子供部屋には犯人からの置手紙があり、そこには身代金として5万ドルを支払えば子供を返すという旨が書かれていました。リンドバーグと警察は子供の安全を第一とし、要求された5万ドルもの身代金の支払いに応じます。しかし、誘拐から2か月後の5月12日、リンドバーグ宅から程近くの木立ちの中に息子の遺体が発見されてしまうのです。

犯人の行方がわからぬまま時が過ぎ、誘拐事件発生から2年後、1934年9月に突如、容疑者としてリチャード・ハウプトマンというドイツ人が逮捕されます。身代金として支払った5万ドルには通し番号がつけられ、ハウプトマンはその番号がついたお金をガソリンスタンドに支払っていたのが逮捕の決め手になったのです。

まだ1才半にしかならない子供が殺されたというセンセーショナルな事件は、当時の壮絶なマスコミの追及を正義の鉄槌と許し、わずか半年後の1935年2月に殺人罪の有罪判決と死刑が確定。無罪を主張するも控訴はことごとく棄却され、逮捕から2年後の1936年4月、ハウプトマンは電気椅子にて処刑、事件は解決したとされています。

 

2.なぜ「リンドバーグ事件」なのか?

シーズン1の考察で語ったように、ケネディ暗殺やマリリン・モンローの自殺は何らかの陰謀によって引き起こされた事件ではないかという見方が、50数年経った今でも言われ続けています。同様にリンドバーグ事件も表と裏がある事件だと言われています。もちろん事の真相については闇の中ですが、根強く言われているのがオズワルドと同じようにハウプトマンも冤罪であった可能性がある説、さらにはリンドバーグの自作自演だったのではないかという説まで浮上しているのです。

シーズン2の冒頭にクーパーがリンドバーグ事件について言及した理由には下記の三点が推察できます。

 ①FBIの管轄が拡大した "リンドバーグ法" 施行のきっかけになった重要な事件だから

 ②冤罪説や自作自演説など真犯人が定まらない難事件だから

 ③当事件をベースにした「オリエント急行殺人事件」と同義にすることで自身を名探偵ポアロと同列にしようとしたから

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1974年公開の「オリエント急行殺人事件」は40年以上経っても名作として輝きを失わない

ここで取り上げたいのは、やはり「オリエント急行殺人事件」です。つい先日もケネス・ブラナージョニー・デップとタッグを組んでリメイクをしていましたが、この極上のミステリー映画が世界に残した足跡はあまりにも巨大です。そのネタバレをここで語るつもりはありませんが、ただ、映画内で語られているリンドバーグ事件は、あからさまにハウプトマン以外の真犯人がいることが大前提になっていて、さらにマスコミに翻弄された事件関係者たちの悲劇までをも浮き彫りにしているのです。

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これらのことから浮かび上がってくるのが "冤罪" というキーワードです。それはツイン・ピークスにも当てはめることができます。ローラ殺しの犯人として真っ先に逮捕されたベンジャミン・ホーン。どう見たって彼は真っ黒ですが、ローラを殺めた訳ではありませんでした。ここにも冤罪のキーワードが隠れています。さらにローラパパ、リーランド。彼は第16話で涙ながらに娘をどれだけ愛していたかを語っていましたが、しかし、その行為を "ボブ" のせいにしたところで世間は納得しません。シーズンを継続させるため、ローラパパが犯人じゃなくて、あくまでも "ボブ" が犯人だと押し通した制作陣ですが、その効果は儚いものでした。それと同じことが「The Return」のロイス・ダフィーにも起こっています。「青いバラ」と言い残し姿を消したロイスが本物だったのか、無実を叫び続け獄中で自害してしまったロイスが本物だったのかは、本編や「シークレット・ヒストリー」で語られることはありませんでした。いずれにしてもどちらかが冤罪であり、どちらかがしてやったということになります。ルース・ダヴェンポート殺害容疑で拘留されていたビル・ヘイスティングスも然りです。彼の真実の叫びは妻に届くこともなく、彼女は悪クーパーによって闇に葬られました。

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オリエント急行殺人事件」との共通点はこれだけではありません。乗客12人全員が容疑者という至極のプロット同様、ツイン・ピークスの住人全員が容疑者というプロットも往年の名作をしっかりと踏襲しています。登場人物それぞれが際立っているという点も同義に見ることができます。名探偵ポアロとクーパー捜査官の対比も然り(もちろんシャーロック・ホームズも忘れてはなりません)。それらのことから言えるのは、ツイン・ピークスが今までにない極上のミステリー・ドラマだと自ら宣言しているということなのです。第16話までは...。

 

3.見え隠れするJ・エドガーの影

上記のケネディ暗殺やモンロー自殺、そして、リンドバーグ事件に共通する或る人物がいます。それが初代FBI長官ジョン・エドガーです。

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彼については映画「ローラ・パーマー最期の7日間」の考察でも触れましたが、このJ・エドガーとツイン・ピークスの共通点は、これまたいろいろと深読みしがいのある所が満載になっているのです。

 ①エドガーを免職しようとしたケネディは暗殺された

 ②ケネディとモンローの関係を盗聴盗撮していた

 ③ロバート・ケネディのFBI締上げ政策にエドガーは憤怒していた

 ④リンドバーグ事件を利用してFBIの管轄を拡大した

上記の①と②はシーズン1のクーパーのダイアローグの暗喩として、④については今回の暗喩として(クリント・イーストウッドの映画「J・エドガー」でも同様に描かれています)、いずれもJ・エドガーを指しているのではないかと深読みすることができます。さらには、

 ⑤服装倒錯者だった

これがツイン・ピークスの何につながるかと言うと、これしかありません。

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女装DEA捜査官デニス・ブライソン。彼、いや...、彼女が「The Return」でどんな立場になっていたかというと、ご存じの通り、FBI首席補佐官というゴードン・コールよりも上の立場に出世しているのです。これは暗にJ・エドガーのパロディであるとしか言いようのない描き方をしています。というのも、エドガーもデニス(デニース)も元は司法省からキャリアをスタートしているという点で共通し、さらには警察機関であるFBIに出世しているというのも全く同じキャリアアップを果たしているのです。

まだ、あります。

 ⑥フリーメイソンのメンバーだった

言わずと知れたフクロウです。この秘密結社がどこまで世界を牛耳っているのかなんてパンピーの中のパンピーである僕にわかるわけがないのですが、ただ、フリーメイソン関係でツイン・ピークスと共通していそうな写真があります。それが先ほどのこの写真。

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このJ・エドガーの写真、海外のツイン・ピークス関連のツイッターでも話題になっていたのですが、その時にピーカーたちが注目していたのが彼のネクタイです。

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なんか見たことあるマークではないですか?そうです、これです。

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さらには、

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フクロウのマークとも酷似しています。ここで注目したいのはフクロウのマークではなく、プルトニウムの記号を匂わせるブリッグス少佐の首筋にあるアザ、そして、ツイン・ピークスの2つの山を現わす丸太おばさんのふくらはぎにあったアザです。

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この2つのマークをクーパーがああじゃないこうじゃないと組み合わせたのが上記のマークであり、「シークレット・ヒストリー」ではツイン・ピークスの2つの山の丁度中心に第三の目が存在していることを仄めかしています。その位置は、

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ホークが示したこの地図とぴったり符合するのです。となると、エクスペリメントが第三の目、要するにフリーメイソンの言う "全てを見通す目" であると定義することができます。ただ、そうなると困った問題が出てくるのです。結局、エクスペリメントは陰で世界を支配する悪い奴なのか?、それとも人類をどこかに導こうとする "神" みたいな存在なのか?という、なんともあやふやなイメージしか捉えることができないのです。神になることもできるし、悪魔になることもできる。善と悪という側面が共存しているとでもいいましょうか。それがJ・エドガーの存在とも共通しているのです。しかし、この定義は僕みたいな深読みをして楽しむファンには通用するテーマなのですが、ことライト・ユーザーになると、なんだかよくわかんないで片づけられてしまう非常に "オタク" 的な考え方なのです。まだ旧シリーズのように「ボブ=悪」という単純明快な図式があればいいのですが、んん、この辺の面白みが少しでも伝わるといいのですが...。

 

4.メビウスの環

リンドバーグ事件に話を戻します。事件の概要にも記載しましたが、リンドバーグの息子を誘拐した際、犯人は手紙を部屋に置いていきました。それがこれです。

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ここで注目したいのが右下に描かれたマークです。犯人は誘拐してから身代金の受け渡しまでの指示書にはこのマークを記載する、故にこのマークのない指示書は偽物であると言い渡しています。

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上記のように犯人からの指示書にはどれも2つの円を重ねた中心に黒い円が塗り潰され、両サイドと黒円の中心に穴があけられているのです。拡大すると下記のような図になります。

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ここまでは実際にあった事件のお話ですが、これ以降は本当に僕の妄想なので、決してリンドバーグ事件の真相であったり、このマークの真の意味を語っている訳ではない事をご了承ください。

 

去年、「The Return」が世界で放映され、フィリップ・ジェフリーズがフクロウのマークをメビウスに変換した際、あるピーカーが "ジュディの軌道" というピクトグラムを発表しました。それが下記になります。

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消防士とジャンピングマンの攻防が赤い部屋を中心に多岐に影響しているという図です。ホワイト・ロッジとブラック・ロッジは表裏一体の関係にあり、緑の点で表示されているジュディは、先述したJ・エドガー同様、善にも悪にも影響を及ぼしているというピクトグラムです。

このマーク、完全にリンドバーグ事件のマークと符合します。そこから何が導き出せるかというと、ここで内藤仙人さまの理論がまた登場するのですが、生と死の狭間の世界がツイン・ピークスの世界であるということです。片腕の男の言葉を借りるなら「2つの世界の狭間から声が放たれる」わけです。

リンドバーグ事件のマークは2つの円が重なっていますが、こちらの方がより象徴的のような気がします。僕らは生と死が重なり合っている世界で生きている、もっと言うなら夢と現実が重なり合っている世界で生きている。意識と無意識が両立している世界で生きている。その世界を映像化したのが「The Return」であり、僕らは自分たちの意志でどちらに転ぶこともできるのだと。シュレディンガーの猫のように、常にどちらの可能性も重なり合っている状態なのだと。

 

そんなわけで旧ツイン・ピークスの第8話、「リンドバーグ事件は僕が解決したかった」の一言からここまで拡大解釈してみました。かなりの力技でこじつけた感もありますが、逆を言うと、ここまでこじつけられるだけの作品もなかなかないと思います。

では、次回はトレモンド婦人の謎に迫ります。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「トレモンド夫人」