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『ブレードランナー』をIMAXで観てみたら、とてつもなくスゴかった。金字塔と呼ばれる名作に酔いしれる!

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SF映画の金字塔『ブレードランナー』の舞台設定が "2019年11月のロサンゼルス" ということで、遥か遠い未来だと思っていた2019年の今年、映画が現実に追いついた記念として、『ブレードランナー ファイナル・カット』が2週間限定でIMAX上映されることになりました。

前々からIMAXシアターで映画を観てみたいと思っていたのですが、映画館も上映される作品もかなり限定され、かつ通常のチケット料金よりもIMAXだと500円も高い、それで作品がつまらなかったら元も子もないと、行きたいとは思いながらも、なかなかその一歩を踏み出せずにいました。しかし、『ブレードランナー』と聞けば、もうテッパンです。作品の内容は頭からケツまで全部頭に入っています。であれば、通常の映画館では味わえない、IMAXという映画体験がどういうものかだけを純粋に味わうことができるではないですか。

というわけで、姐さん。『ブレードランナーIMAX体験記ってやつを始めてみようと思います。作品の感想や解説は省いて、純粋にIMAXのスゴさだけを語っていきまっせ。

 

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さて、『ブレードランナー』といえば、まずはこのオープニング映像です。

その昔、プレステ2が発売され、ゲームもできればDVDも観れるという超ハイブリット仕様に、ヒャッホーイ!SONY最高!と狂喜乱舞したものですが...。その恩恵をひときわ享受していたのが『ブレードランナー』ではないかと思います。とにかくビデオで観ていた映像とは比べものにならないぐらいの超ハイクオリティ映像。光の粒の一つ一つがクリアに輝いていて、光と影のコントラストも抜群。画像のシャープ加減もハッキリしているし、細かい輪郭までしっかりと確認することができます。これを映像革命と呼ばずして、いったい今の4K映像を語ることができるでしょうか。

で、IMAXです。DVDの『ブレードランナー』を100点、ビデオの『ブレードランナー』を30点とするなら、IMAXの『ブレードランナー』は80点でした。めちゃめちゃクリアな映像を期待してしまったのですが、まったくの逆でした。めちゃめちゃフィルム感が出ているのです。もう、謝るしかありません。ごめんなさい。忘れていました。『ブレードランナー』って映画だったんですよね。しかも、フィルムで撮影した映画。その根本的な本質を、デジタル時代に生きているがためにすっかりと忘れていました。

映像的な感覚は『ワークプリント』に近い感じです。暗いところは真っ黒でよく見えないけど、光の当たるところはハッキリしている。光と影のバランスが絶妙で、フィルムノワールとしての醍醐味を十二分に味わうことができるのです。

IMAXで堪能できるのは映像だけではありません。音響が度肝を抜くほどスゴイです。オープニングの火柱が吹き上がる「ボォウッ!」という音1つとっても、目の前で火柱が吹き上がっているかのような迫力とリアル感。後ろから前に、前から後ろへと飛んでいくスピナーも然り。ヴァンゲリスの音楽も、まるでライブ会場で生演奏を聴いているような感覚です。これはホームシアターでも、ハイエンドヘッドフォンでも味わえない、映画館だからこそ体験できる音響システムです。

 

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IMAXのスクリーンというのは通常の映画館に比べると約2倍の面積があり、シネマサイズよりもやや正方形に近い形をしています。それぞれの映画館によって違いがあるとは思いますが、座席配置の傾斜も急で、特大スクリーンに合わせて崖のようにシートが並んでいます。極端な話、日本武道館の上の方の座席みたいな感じで、ちょいと高所恐怖症の人だと、うわっ、高っ!となるかもしれません。その際は、真ん中から下の方の座席を選ぶのもありだと思います。まあ、通路も広めに設計されていますし、座席と前の座席との間隔も広めなので、武道館ほどの恐怖を感じることもないと思いますが、とにかく通常の映画館に比べると傾斜が強くて天井高さもある空間になっています。

そして、その巨大スクリーンが湾曲して設置されています。真ん中あたりが奥に引っ込んで湾曲しているのです。これがどんな効果を生むかというと、浮遊感!

「2つで充分ですよ」と言われても「4つくれ」と頑として譲らないデッカードを、ボスが呼んでるぜと半ば強制的に同行していくガフ。ロサンゼルス市警に向かうスピナーの移動シーンは『ブレードランナー』の名場面の一つでもありますが、IMAXシアターだと、まるでスピナーに乗って実際に飛んでいるような感覚に陥ります。特に下降するシーンの浮遊感はヤバイです。まるで『ブレードランナー』のアトラクションにでも乗ってるような気分。これだけでもプラス500円払う価値、大ありです。

 

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この巨大スクリーンの湾曲は、広い空間の奥行き感も増幅させます。上記のロサンゼルス市警の内部ホールも、IMAXだとさらに広い空間に感じます。そこに先ほどのフィルム感が増幅されるので、デジタル漬けの無菌映像に慣れ親しんでしまっている身からすると、もう、若かりし頃の映画体験を思い出すと言いますか、初めて『ブレードランナー』を観た時のような、この光とスモークの絶妙さにただただ感動するばかり。

まだ映画が映画だった頃を復活させたというか、単純に映像をクリアにして大画面に映写しましたではなく、『ブレードランナー』という "映画" の世界観にこだわって、かなり色彩であったり鮮明さであったりを調整されたのではないかと。映像オタクのリドリー・スコットだからこそ実現できた終末的な世界観に完全に酔いしれます。

 

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タイレル社の応接間も、引きの絵になると、まるでその空間にいるような感覚になります。フィルム感はあるけど、デジタル処理もちゃんとされているので、スクリーンの湾曲と映像への奥行き加工が、大げさに言うと舞台を見ているような気分にさせてくれるのです。映画のセットをまんまステージに作り上げたような、これって夢のような体験だと思いません?

 

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音響の最大の効果は雨の音。鬱屈として退廃的な終末観に満ちている『ブレードランナー』という世界観で、リアルな雨の音に包まれていると、それだけで雰囲気に飲まれてしまいます。プリスの登場シーンもそうだし、ちょくちょく出てくる外でのシーンは、本当に雨が降っているんじゃないかと勘違いするほどのリアルな音です。しかも、街中の細かい音も入念に作られているので臨場感が半端ない。

 

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街中と言えば、美女で野獣のゾーラの追跡シーンは圧巻でした。人々の雑踏、ギュウギュウ詰めの渋滞にクラクション、LEDではなくて蛍光灯だから発するまばゆいばかりのネオンサインとジジジジジという電熱音、ここかしこから響いてくるサイレンや誘導音。なんでしょう、久々に "サイバーパンク" なんていう単語をふと思い出してしまいました。映画の舞台設定として新宿歌舞伎町や香港をモデルにしたことは有名ですが、この無国籍で雑多でゴミだらけの世界に、昔はめちゃくちゃ憧れたものでした。そんな思い出まで蘇らせるチカラを持っているIMAX、恐るべしです。

 

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クライマックスも言わずもがな、その迫力とかつてのフィルム感は、今まで腐るほど観てきた『ブレードランナー』の魅力を、改めて再々々々々認識させてくれます。映像も音響もそうですが、そこから浮かび上がるのが物語の強さです。

プリスやロイの "命" にしがみつく悪あがきが、観ていて妙に胸に突き刺さってきました。生きることにしがみつく。もっと生きたい。もっと生きたい。そう願って命にしがみつく。それはアンドロイドも人間も同じ。

この深淵なテーマが、なんででしょう、今さらのように胸に刺さるのです。デッカードに撃たれジタバタとあがくプリス、動かなくなっていく右手にクギを刺して復活させるロイ。その痛みや苦しみや悔しさや願いが、スクリーンから溢れてくるのです。たぶん、冒頭からスクリーンにくぎ付けになっていたせいで、完全に物語に感情移入してしまったのかもしれません。思い返せば、ここまで真剣に集中してマジマジと『ブレードランナー』を観たのは、もうウン十年ぶり。やっぱり、名作と言われる作品の物語は強い。色あせない。で、IMAXはその感動を提供してくれると。

 

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総じて、IMAXの体験というのは『ブレードランナー』の魅力を再認識する体験だったと言えます。そして、『ブレードランナー』という作品が、そういった時代の移り変わりやテクノロジーの進化に耐えられる、強靭な作品であるとも言えます。

映画を観る前は、IMAXシアターに、どこかアトラクション的なイメージを抱いていました。体験してみて思うのは、ある意味、 "映画" を体験できる最高のアトラクションではないかと。

これがハリウッドの最新作だったり、日本のアニメだったりすると、また別の魅力もあるとは思います。3D上映だと、さらにアトラクション的な要素が強くなるかもしれません。しかし、CGが当たり前になり、撮影も映写もデジタル化され、どこか味気ない映像作品が多い中で、IMAXシアターでさらに魅力が増幅される作品というのは、たぶん、数年か数十年に一本しか現れないのではないでしょうか。

IMAXは、かつての映画体験を何倍にもして蘇らせてくれる素敵なテクノロジーです。そして、それは決して懐古趣味ではなく、今を生きるエネルギーとして、僕らに還元してくれます。去年、同じように2週間限定でIMAX上映された『2001年 宇宙の旅』を体験した人も、たぶん、懐古趣味ではなく、生きた感動として、自身のエネルギーに変換されたのではないかと。

ただ、悲しいかな、それも作品によります。やっぱり、名作には敵わないですよ。