that passion once again

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永井真理子『会えて よかった』

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前作『W』から、わずか9か月という、まるでご懐妊してから赤ちゃんが誕生してくるまでの期間のような、そんな短いスパンで届けられたナガマリ最新作『会えて よかった』。もう、もう、もう、とりあえず5月6日までは、このミニ・アルバムを聴いて、なんとかかんとか "STAY HOME" をし続けますよ!ていうか、この未曽有の現状を乗り越えてですね、アルバム・ジャケットのように、解放宣言された暁には、みんなで手をつないでスキップしようじゃありませんか!ほれっ、ラッタ~、ラッタ、ル~ルル、ル~♬ってね。(ん?歩いてるだけっすか?)

振り返ること去年のファン感謝祭。なんの前触れもなく、あの前田克樹さんがいきなりステージに登場!ま、ま、前田先生!?!?!?あの "3D Nightへおいで" の前田先生っすか?あの "黄昏のストレイシープ" の前田先生っすか?あの "Way Out" の前田先生っすかぁぁぁ!!!(他に挙げるべき名曲は腐るほどあるだろっ!)で、当然のように往年のナガマリ・フリークは狂喜乱舞の阿鼻叫喚。嬉しすぎてアワを吹いて失神する者、感激しすぎてお留守番ワンコのように失禁する者で会場は溢れかえり、救急車や清掃車が大量に駆けつけたとか駆けつけなかったとか。

事の真意はともかく、その後のアナウンスで「コラボアルバム」というキーワードがTwitterでたびたび登場。さらに、うん十年ぶりに永井真理子&前田克樹というゴールデンコンビが復活するらしいと。ほう、ほう、ほう。これはアレですな。なにかの企画アルバムに参加するとか、そういった話ってことかしら?前田さん絡みのコラボ企画みたいな、そんな話ってことかしら?他に参加するアーティストさんはどんな人たちなん?アルバムリリース記念ライブって、ほぼフェスみたいになるんじゃない?

はい。わたくし、まるまるナガマリが歌うアルバムがリリースされるなんて微塵も想像できていませんでした。いや、マジ、先行配信のアナウンスで「なにっ!コラボアルバムって、ナガマリのアルバムのことだったのか!」と慌ててポチッた次第なのです。もう~、それさぁ、早く言ってよぉ~(by 松重豊さん)。

てなわけで、春のどしゃ降り嵐の中、クロネコヤマトのお兄さんがポストに投函してくれました、ナガマリ最新CD(天気も世間も大変な時に、ホントにありがとうございます)。で、聴いてみました。ふん♪ふん♪ふん♪ さらに、聴いてみました。ふん♪ふん♪ふん♪ で、思いました。ヤバッ、これって、また傑作じゃん!姐さん、どんだけ傑作を作り続ければ気が済むんすか!天才かっ!

前作の『W』は活動停止前の『Sunny Side up』以来のフルアルバムでしたが、この『会えて よかった』は、1991年に発売された『WASHING』以来の、なんて言うんでしょ、み~んなが知っている永井真理子の最新アルバムになっています。もう、ナガマリって言ったらコレだよね、みたいな。京都って言ったら八つ橋だよね、みたいな。大阪って言ったら肉吸いだよね、みたいな。滋賀って言ったらとんちゃん焼きだよね、みたいな。そんな感じ。

いや、ホント、冗談抜きで約30年ぶりのナガマリ&前田先生は感動ものです。マシコさんも素晴らしすぎます。まるで男性版の辛島美登里さん的な、もしくは藤井宏一さん的というか吉川忠英先生的というか。もう "ありがとうを言わせて…" みたいな。そして、JJとコージ兄貴のお遊びコンビもいい塩梅になっております。

そんな傑作アルバム『会えて よかった』の全曲レビュー、またまた、やっちまいます。

 1.「Restart」

みなさんは覚えていますか?ナガマリ復活後のABCラジオで行われたあの伝説的な人気投票のことを。あの幸福オレンジな人気投票のことを。あの至福のWクローバーな人気投票のことを。そのトップ10を振り返ってみると、こんな感じ。

1位 私の中の勇気

2位 Ready Steady Go

3位 Mariko

4位 One Step Closer

5位 Keep On "Keeping On"

6位 少年

7位 Life is beautiful

8位 キャッチボール

9位 23才

10位 日曜日が足りない

この順位、実に半数以上が前田さんの楽曲。しかも、上位4曲を完全独占という、この愛されっぷり。いかにナガマリ・ファンが前田さんの作り出すメロディーに鼓舞されてきたか、いかに前田さんのメロディーにナガマリ・ファンが癒されてきたか、いかに前田さんのメロディーでナガマリ・ファンがストレスを解消したてきたか、いかに……、ああ、止まらない。とにかくナガマリ・ファンは前田さんが大好きなんです。

で、あの "私の中の勇気" や "こんな人生もありよ" 以来の約30年ぶりの前田ソングが、この "Restart" になるわけですが、もうね、アガるよっ!アゲまくりだよっ!

 "ときめくハートビート" と "Step Step Step" と "Ready Steady Go!" を全部グリグリ混ぜ合わせて、レンジでチンして、貯蔵庫で30年寝かして置いたら、なんかとんでもないものができちまったみたいでね。どれどれ?って封印の扉を開いた途端に、ドヒューン!って、なにかがニコニコしながら明日に突っ走っていっちまったんですよ。なに、あれ?ナガマリじゃね?みたいな。

この気持ち良すぎて昇天しまくりの疾走感、たまらんですわぁ。

リリックも "One Step Closer" へのアンサーソング的な部分があり、何かの色に染め上げなければいけないという若かりし頃の使命感から、いやいや、一色なんてムリでしょと、思いのままに色付けていきましょうやと。この与えられた白いキャンバス、まだまだ、いろんな色に染め上げることができますよと。カラフルな未来に向かって、ここからまた新たに出発してみましょうかと。

ああ、たまらんですわぁ。

2.「春風の言葉」

前田さんとのコラボはナガマリ・ファンとしては、もう鉄板、間違えようがないという安心感があるのですが、他の方とのコラボとなると、ボクたちにはとんでもないトラウマがあります。 みなさんは覚えていますか?あの "真夏のイヴ" を。

育児休暇からの復帰第一弾として世にアナウンスされた永井真理子×中村正人という世紀のコラボ・シングル。蓋を開けてみたら、なんじゃい、ただのドリカムじゃないか、このスットコドッコ~~イ!!!と全国のナガマリ・フリークがスッ転んで大地震につながってしまったという、かの有名なズッコケ大地震。思い返せば、あれは1997年の夏でした。

それからボクたちは渋~い秋を迎え、やっぱりスイーツは秋だよねぇなんて言いながら呑気にカフェでお茶をしていたら、とてつもなく長~い冬を過ごすことになってしまう訳なんですが、それも2017年までの話。やっと雪が解け始め、あっちでは名前も知らない白い花が咲き乱れ、こっちではオレンジをカゴいっぱいに売り出し、新緑が気持ちいいねぇ、四つ葉のクローバー見つけたよ♪ なんて感動していたら、とうとう桜前線までやってきましたよ。やっほ~い!花見だ、花見だ、ワッショイワッショイ。

マシコさんとha-jさんというジャニーズ・ヒット曲コンビによる、21世紀型の "日曜日が足りない" 的な行進曲。確かに、こんな満開の桜を目の前にしたら週7が日曜日だとしても飲み足らないくらいですな。よっしゃ、酒樽ごと持ってこい!飲み干してやらぁ!

ていうかね。あのひねくれ者のロケンローラーなナガマリがですよ、素直になれよと言われると平気で嘘をついちまうあのナガマリがですよ、こんな "ZUTTO" 的なJ-POPど真ん中の歌を、これほどナチュラルに歌っているということがね、本当の意味での桜前線が訪れてきたことを証明してると言えませんか?これは大事件ですよ。

お~い、ナガマリがJ-POPに戻ってきたぞぉ~!宴だ、宴だ、ワッショイワッショイ。

3.「ヘッドフォン」

さて、伝家の宝刀、 必殺ミディアム・ナンバーの登場。

先ほどの人気投票ベスト10でもわかるように、前田さんのミディアムといったら、それはもう名曲だらけ。バラードの辛島さん、ミディアムの前田さん、キャッチーな藤井さんといえば「ナガマリ三定理」として、みなさん中学校で根岸先生に教わりましたよね。えっ?集合関数の不定積分である谷口さんが抜けている?はいはい、その解説はもうちょっと待っててくださいね。

てなわけで、タイトルトラックにもなっているこの "ヘッドフォン"。なんなんでしょ、このAメロが流れ始めた時のスッと心に入ってくる心地よい響きは。ホント、チュルッと入ってきちゃう。まるでトコロテンみたい。チュルチュルチュル。

"Mariko" から始まり "私の中の勇気" に至るまで、前田さんのメロディーに乗せた言葉というのは、それはもう一点突破の猪突猛進、不惜身命の精神と現実逃避の妄想がグチャグチャに絡み合った状態を歌にしてきた訳なんですが、今回の "ヘッドフォン" はそんな歌たちについて歌った歌といえるかもしれません。主観的ではなく客観的というか、なかなか今までなかった視点のような気がします。

ボクたちもナガマリの歌を聴いて<君はできるよ!>と常に励まされてきました。<耳を澄まして>いると、ふと入り込んできた何気ないフレーズが悩みを解決してくれることもありました。そんなアーティストに『会えて よかった』と心の底から思います。

もう、何度言ったかわかりませんが、ホントに、ホントに永井真理子さんが戻ってきてくれてホントに嬉しいです。ありがとうございます。そして、こんな素晴らしいアルバムを届けてくださり、ホントに、ホントに嬉しく思います。

今度、トコロテン贈ります。

4.「大人になるためサヨナラしたの」

では、集合関数の不定積分について解説を始める時間がやってまいりました。そもそもユークリッド空間内の点集合に対して、それを変数として関数fを求めることを不定積分と言いますが、めちゃくちゃ簡単に言ってしまうと "Karma Karma" や "Pepper And Salt" "そよ風のチャンピオン" のように、点集合の中に存在する異分子のことを不定積分の谷口さんといいます。"ミッドナイト・ウィルス" "ガリレオによろしく" も微分方程式の特殊解である馬場さんとしてめちゃくちゃ有名ですよね。

今回のアルバムの括りは「コラボアルバム」というテーマなので、その変数も比較的幅の狭い軸展開になり、大きなアルゴリズムが生まれることはありませんでした。しかし、思い返せばですよ、あの金子さん時代は点集合に対しての変数がやたら角度の大きなものだったので、なんでしょ、わざと関数を掛け合わせていた趣があるんですよね。

そういう意味では、博多のラトルズ(もしくは日本のラトルズ)として、その名を世に馳せているTHE GOGGLES(ゴーグルズ)のベーシストJJ GOGGLEが提供したこの楽曲は、関数になりえる立場ではあっても変数にはなりえない感じ。

アルバム『そんな場所へ』に収録されている "二人のまま" で、既にAbiru名義で楽曲提供済のJJですが、恩返しとばかりにナガマリもトリビュート・アルバムに参加、"HEY DROID" で壮大な宇宙に向かってグランドフィナーレを飾っていました。そのどちらも優しくてちょっぴり切ない英国フレーバーたっぷりのバラード(片っぽは超がつく4人組バンドへのオマージュなので当たり前ですが…)。

で、今回は本名での参加になるJJですが、まあ、兄貴と一緒に遊んでます。なんかスタジオでキャッキャ騒ぎながらレコーディングしている風景が目に浮かぶようです。もんのすごくコアな話をしながらワイワイ盛り上がってそう。

ナガマリ・ソングの中でも比較的マージービートな楽曲と言えば "KISS ME" かなぁと思うのですが、それを軽く凌駕するポップでブリティッシュでドゥワップなキラキラナンバーを構築しているのが本楽曲。達郎さん&まりやさん夫婦にも、黒沢兄弟にも引けを取らない仕上がり。

ゥワッ♪ゥワッ♪ワァ~♪

5.「透明な糸」

ブックレットのコメントで "ピンクの魚よ" が一番好きと語っていたマシコさんですが、まさにそれを体現したかのような泣きのバラードが本楽曲。感覚としては "揺れているのは" に近い感じもあります。

上記の2曲はナガマリ・ディスコグラフィーの中でも特に異彩を放っている2曲で、片や吉川ワールド全開の大パノラマ、その一方では萩田先生の職人技が織りなす繊細な世界と、バラードは "ZUTTO" だけじゃないよぉ~!という金子さんの意地が垣間見える曲順になっています。30年近く経って聞き直してみても、『WASHING』というアルバムがぜんぜん色あせることなく、当時よりもゴージャスに聞こえる所以は、この大御所お二人の存在がかなり大きいのではないかと。

前作の "20時の流星群" が、かの名曲 "Keep On "Keeping On"" を超えたという私見は今も揺るぎないのですが、この "透明な糸" を聴いたら、その当時は気づくことができなかったあることに思い当たりました。それは『OPEN ZOO』以降、辛島さん的なバラードを完全に消し去ろうとしていたところがあったのではなかろうかと。

"La-La-La" "南へ" "my sweet days" "動かないで" "恋をしてる" "boy" "かたちのないものが好き" "あなたのそばにいて" "願いそこねた流れ星" "同じ時代" "hello" "二人のまま" "ほんの少し" "天国の島" "おやすみ" "Northbridge"。ああ、勢い余って全部あげちまった。これでバラードベスト作れちゃいますけど、この中で唯一、辛島さん的といえるのは遠藤響子さんの "あなたのそばにいて" くらい。それでも、ポロリンポロリンとアコギが並走している辺り、やっぱり『OPEN ZOO』以降のナガマリ感があります。

で、ですよ。ここまでの鍵盤バラードって、それこそ、これまた遠藤響子さんの "泣きたい日もある" 以来、もしくは先述の "揺れているのは" 以来ではないでしょうか。これって、なにを意味しているのかって、やっぱりナガマリがJ-POPのど真ん中に舞い戻ってきたと。そう断言してよいのではないかと。

お~い、宴の続きでぇ!ワッショイワッショイ!

6.「逆転の丘」

きましたよぉ~!1989年の伝説のトレンディードラマ「オイシーのが好き!」以来のテレビドラマ主題歌ですよ、これ。めちゃめちゃキャッチーすぎて藤井さんもビックリ。マシコさんとha-jさん、ホントにありがと!やっぱりナガマリがJ-POPに戻ってきたぁ!

「き~みがなぜ(フゥ!)こ~こに…」

「き~かないで(フゥ!)い~るから…」

まるで嵐の "Love so sweet" のように盛り上がること必至の悩殺昇天チューン。このアゲアゲ感は "YOU AND I" 以来かもしれん。いや "ハートをWASH!" か。

「たんてい~(フゥ!)ひろいん~(ふぅ!)」

「そういう(フゥ!)ときには~」

これですな。

7.「巻き戻したい日」

締めは前田さんのバラードです。

"Donnani" "黄昏のストレイシープ" "Lonely クリスマス" と、初期の初期には結構バラードも手掛けられていましたが、辛島さんのバラード覚醒以降は完全にお株をとられてしまったところもあります。

しかし、ホント、チュルッとメロディーが入ってきますよね。なんの違和感もない。まるで長年の友人に十数年ぶりかで再会したような気分です。よぉっ、久しぶり。だけど、なんか先週も一緒に飲んだっけ?みたいな。確か十数年ぶりだよな?みたいな。

詞の内容も、そんな友人に充てた手紙のよう。

ボクのまわりにいる友人たちは、どうしようもない野郎ばっかりで、歌のような感謝の気持ちなんて、これっぽっちも浮かばないのですが(いつまでもプラプラ遊んでないで、さっさと結婚しろ!)。それでも、なんか若かりし頃のバカやってた楽しい思い出に対して、不思議と「ありがとう」という気持ちになれてしまいます。これもやっぱり前田さんのメロディーとナガマリの歌声があまりにもフィットしているからだと思うのです。

"Mariko" の<大きなシェパード>、"少年" の<子供の頃の指切り>、"23才" で振り返った10才と17才の頃。ノスタルジックだけど、それでいて現実にアドヴァンスもしている。その姿勢が若かりし頃のナガマリでした。いや、ナガマリでなくても、若い頃はみんなそうだったと思います。

歳を重ね、そんなノスタルジックな思いに対してグレイトフルと言えるようになった。それはこのアルバムに対しても同じ気持ち。30年前の『WASHING』へ舞い戻ったからと言って、このアルバムはただの懐かしんでいるだけの同窓会的な作品では決してありません。ちゃんとグレイトフルという気持ちと、未来へのアドヴァンスも盛り込まれているのです。ラストを飾るに相応しい楽曲ですよ。

てなわけで、大げさではなく、マジであの永井真理子がJ-POPのど真ん中に戻ってきました。こんな名盤がインディーズで埋もれていくなんてもったいなさすぎる!

世間ではとんでもない状況が続いていますが、100年前のスペインかぜも、50年前の香港かぜも、なんとか乗り越えてきた世界ですから、必ずこの状況も打破できます。そんな過去の歴史を繰り返さないため、今、ボクたちはウィルスの蔓延を防ぐ行動を取り続けています。今だけ、あとちょっとだけ、いや、みんなが安心できるまで、ボクらは力を合わせなければいけない。

そんな時、音楽のチカラは絶大です。とりあえず鼻歌でも歌っていれば、イヤなことなんてどこかに消えちまいます。ラッタ~、ラッタ、ル~ルル、ル~♬ ほら、少し気持ちが軽くなった。

会えて よかった - EP

会えて よかった - EP

  • 永井 真理子
  • J-Pop
  • ¥816