that passion once again

日々の気づき。ディスク・レビューや映画・読書レビューなどなど。スローペースで更新。

苦しゅうない、苦しゅうない

なにげなくtricotが好きで、

去年からずっとヘビロテ状態だったんですが、

来たる5月19日にニューシングル「potage」が発売されると、

そんなニュースを知りましてですね、

「ブームに乗って」をまた聴くかなぁ♪と久々にYoutubeに行ったのです。


tricot "ブームに乗って" MV

そしたらですよ。

ヒモ付きで "ジェニーハイ" なんて見知らぬバンドが出てくるじゃないですか。

自動再生をオフにしていなかったので、

なんだよ、変なの始まったぞ...、とそのままにしていたら、

なんか、いっきゅうさんが歌っとるやん!

しかも小籔座長がドラム叩いて、くっきーがベース弾いとる!

で、ゲス極のえのんくんに、

耳の聞こえるベートーベンの幽霊さんまでおるやんけ!

なんだ、このクセがありすぎる面子は!

ていうか、いっきゅうさん、なにやっとるん!

 

どうやらスカパーの企画バンドみたいなんですが、

それにしても、なんでそこにいっきゅうさんがおるんやろ、と。

事の経緯を調べるのもなんか面倒だし、

まあ、次の新曲までの時間潰しにはいいなぁとは思うんですが、

それよりもショックだったのが再生回数ですよ。

tricotのPVでも「爆裂パニエさん」が300万、

99.974℃」でも100万ちょっと、

ここ最近のPVでは50万~10万ぐらいなのに、

ジェニーハイ、公開1週間であっさり200万超え。

マジか。

やっぱくっきーか?くっきーなのか?

なにげにベース上手いし!

ゲスの課長さんもビックリしとったし。

この勢いがtricotまで普及していかないかなぁ。

無理かなぁ...。

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ちなみにジャケットでは白目を向いてるいっきゅうさん(笑)

3rdアルバムの「エコー」みたいな感じで、

乙女系のボーカルを披露しているのがええです。

「ブレードランナー2049」は続編ではなくマッシュアップである

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「The Return」と同じように観るのが怖かった「ブレードランナー2049」。

映画という産業がここまでネタ切れを起こしているのか...と、

薄ら寒さを通り越して完全に凍りついてしまったのですが。

DVD/BDレンタルが始まったので、もう恐る恐る観ました。

...

...

...

...

...

やっちまったよ...。

どうすんだよ、これ...。

 

本家、ブレードランナーについては、

今さら僕みたいな映画ファンの底辺がブチブチ語っても、

誰かが言ってたことの焼き直しにしかならへんので、あれですが。

「ワシ、ブレラン公開当時に映画館で観たんやでぇ」とか、

「二つで充分なんはエビなんやでぇ」とか、

デッカードは〇〇リ〇ン〇なんやでぇ」とか、

なんだろ、こう得意げに語っている人はあまり好きではありません。

「2049」の映画レビューやamazonレビューでも、

こういう人をよく見かけるんですが、

逆にこういう人が多いと言うことは本家を超えていないということです。

 

肯定派・称賛派のレビューを見ると、

 ◆よくぞブレラン続編に挑んだ!

 ◆長年の謎が解けた!

 ◆映像がスゴイ!

 ◆CGがスゴイ!

 ◆ラヴ、欲しい!

 ◆ラヴ、欲しい!

 ◆ラヴ、欲しい!

こんな感じ。

 

否定派・難癖派はもっと単純で、

 ◆クソつまんねぇ!

 ◆寝落ち!

 ◆金返せ!

 ◆単調 or 冗長

 ◆ハリソン・フォードを水に沈めるな!

こんな感じ。

 

この中から、あなたの感想を一つ選びなさいと言われたら、

僕は「ハリソン・フォードを水に沈めるな!」です。

いたいけなご老人をあんな目に合わせて、

75才ですよ!75才!

映画観ながら変な心配してストーリーどころではないですわ。

やる方もやる方ですけどね...。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴという監督さんも、あまり好きになれません。

2016年の最高傑作と評論家先生たちが大絶賛した「メッセージ」も、

なんでしょう「未知との遭遇」の焼き直しなんですよね。

あれをなんであそこまで大絶賛するのかがわからないのですが、

そう言わないと売れないからですかね?

だとしたら、完全にステマじゃないですか。

 

一昔前にマッシュアップというのが流行ったんですけど、

Aの曲とBの曲を混ぜ合わせて一つの曲にしちゃうという、

「2049」はまさにコレです。

ブレードランナー」という曲と、

ドゥニ・ヴィルヌーヴ」という曲を混ぜ合わせた、

言わばリバイバル・リメイクみたいな感じです。

 

ブレードランナー」が好きな人は、

やっぱ元の方がいいねってことになって原曲に戻る。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ」が好きな人は、

ブレードランナー」をネタにした最新曲ということで、

それなりに楽しめると。

 

たぶん、ディックが生きていたら、

こんな作品、絶対に許さなかったんじゃないかなぁ...と思います。

ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第3回「ツイン・ピークス シーズン1を深読みするための8つのキーワード」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 1

第1話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第2話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第3話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / ハーリー・ペイトン

第4話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第5話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / マーク・フロスト

第6話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン

第7話:監督 / マーク・フロスト 脚本 / マーク・フロスト

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comが一番端的だと思います。

ツイン・ピークス シーズン1 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

そんなわけで時間潰しシリーズ第3回目です。ここまで来ると、なんていうんでしょうか、今さら「東京ラブストーリー」を紐解いて「anone」を考察するようなものとでも言いましょうか。他者を求めるという人間が抱えるコミュニティへの飢餓感を描いている点は同じだとしても、両者の間に横たわる時代感が半端なく隔絶されているのです。それでも「アンナチュラル」のように第1話から仕込まれていた伏線が最終回で爆発するようなカタルシスも、ほんのちょっとはあるわけでして。まあ、片や3ヶ月のワンクール内の話で、片や30年近くの年月が流れているわけですけれども...。いずれにしても、今さらオードリーが片目のジャックに辿り着いた!とか、ジョシーが二重帳簿を盗み損ねた!なんて書き連ねるつもりはさらさらありません。

なので、今回も前回同様、あまり触れられていない部分に焦点を当てながら旧シリーズと「The Return」の比較をしていこうかと思います。ちなみに上記の監督&脚本のリストを見てお分かりの通り、テレビシリーズに関してはデイヴィッド・リンチの影響下は最初の2話のみで、あとのほとんどはマーク・フロストの独断場になっております。物語や映像の骨格はリンチ・テイストを踏襲してはいるのですが、第3話以降はハーリー・ペイトンやロバート・エンゲルスなどそれぞれの作家性が反映された作品になり、リンチ・ワールドをそれぞれに解釈した云わば大衆向けのデイヴィッド・リンチの世界となっているのです。

今から30年前に「ツイン・ピークス」が大ブームを巻き起こしたのも、たぶん、このオドロオドロしい "あちらの世界" を、マーク・フロストが大衆文化にまでひっぱり降ろしてきたからではないかと個人的には思っています。その功績は「Xファイル」から「セブン」さらには「ダヴィンチ・コード」まで広がっていきます。シーズン1ではまだ鳴りを潜めていますが、フリーメイソンなど都市伝説系の話題も「アイズ・ワイド・シャット」などの元祖みたいな括りと捉えることもできます。旨そうなコーヒーとチェリーパイ、茶目っ気たっぷりのクーパー捜査官、そして、森の奥に潜む得体の知れない人間の狂気、それらを一大エンターテイメントに仕立て上げたのがマーク・フロストではないかと。まるで「あなたの知らない世界」など呪いや心霊現象がメインだった宜保愛子氏に変わって、風水やパワースポットなどを巧みに使い "あちらの世界" をポジティブに変換した江原啓之氏みたいな。霊魂とか憑依とかいう言葉を "スピリチュアル" って言ってしまうと、あまり怖く感じないどころか、逆にパワースポットを巡ってそういう類のパワーを貰い受けてますみたいなね。これも一つの体験型のエンターテイメントと括ることが可能ではないかと。

てなわけで姐さん、今回はちょっとマーク・フロスト寄りの都市伝説的な内容になりそうな感じがします。ほとんどが噂レベルの話になるかもしれませんが、まあ、それもエンターテイメントです。それではいってみましょう。

 

1.マリリン・モンロー

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ツイン・ピークス」の第1話の冒頭、パイプに逆さ吊りになって瞑想していたクーパー捜査官はダイアンに向かってこう呟きます。「ダイアン、気になることが2つほどあるんだ。これはFBI捜査官としても僕個人としても非常に興味深い問題だ。ケネディ兄弟とマリリン・モンローの関係とはなんだったのだろうか?そして、大統領を暗殺した本当の犯人はいったい誰なのか?」

この壮大なミステリーの冒頭に語られたモノローグは、ある意味、マーク・フロストの所信表明だったと断言できるほど、「ツイン・ピークス」にはマリリン・モンローへのオマージュというか、モチーフがいたるところに散りばめられています。ざっと列挙してみると。

 ①本名:ノーマ・ジーン・モーテンソン

 ②思春期に受けた性的虐待

 ③セックス・シンボル

 ④有力者との不倫

 ⑤薬物乱用

 ⑥精神科医との会話のテープ

 ⑦全裸での死

 ⑧睡眠薬の過剰摂取

 ⑨死の直前の電話

 ⑩秘密の赤い日記(手帳)

 ⑪ジュディ・ガーランドとの交友

 ⑫宇宙人との接触

さて、いかがでしょう。ピーカーならどれも思い当たる節があるものばかりではないでしょうか。まあ、最後の二つは半分お遊びみたいな感じでもありますが、それにしてもこの数は相当なものです。そして、マリリン・モンローの自殺は、ご存じの通り未だに謎が謎のまま取り残されているわけです。ケネディ暗殺と共に、表面的にはマリリン・モンローは自殺、ジョン・F・ケネディはオズワルドの単独行動により殺害された、ということになってはいますが、両者とも根強く残っているのが何かしらの陰謀によって殺害されたという説です。そして、その陰謀の背景として語られている内の一つに "ブルーブック計画" で掴んだ宇宙人の存在を世に公表しようとしたためという説があるのです。

まあ、この辺の深掘りはここまでにして、もう一つ気になるのがマリリン・モンローの容姿です。おわかりですよね。これです。

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この富士額、この眉毛、そして位置こそ違いますがこのホクロ。もともとマリリン・モンローはブロンドではなく茶褐色の髪だったというのも暗に匂わせていますし、そもそもの初登場シーンのモンローウォークはあからさまに狙っているとしか言えません。

そんな、みんな大好きオードリー・ホーンですが、その境遇を見るとローラ・パーマー以上に不幸なのではないかと思えるのは僕だけでしょうか。

 ◆パパが悪人

 ◆パパに存在を否定される

 ◆パパにやられそうになる

 ◆ママは構ってくれない

 ◆ママはいつも不機嫌

 ◆弟はアッパラパー

 ◆学校にあまり友達がいない

 ◆なぜか男連中も振り向かない

 ◆ホテルの従業員からも煙たがられてる

結論、ツイン・ピークスの住人の中でオードリーは誰よりも "孤独" だった、そう断言できるほど彼女の立ち位置は可哀相な状況にあります。だけど、ローラのように売春やドラッグに走る訳でもなく、パパのコネを使って裏社会を牛耳ろうとするわけでもない。そもそもオードリーのキャラクターに悲壮感というものは皆無で、どこまでも純粋で、誰かがこの世界から別の世界に連れ立ってくれるものと信じていつも夢見ている。その誰かとはもちろんクーパー捜査官なんですけど、彼は子供扱いしてちっとも振り向いてくれない。そこがまた悩ましいんでしょうね、肉食系丸出しでオードリーはクーパーに言い寄るわけです。さらには、ちょっと悪さに手を出すといってもタバコを吸うぐらいのレベルで、とてもローラの比にはならないし。町の有力者のお嬢様という恵まれた環境なのに、金に物を言わせることもなく、あろうことかシーズン終盤まで処女だったという稀に見るウブな女の子だったりもするのです。このアンバランス加減が人気の要因だったのではないかとも思うのですが。

しかし「The Return」になると状況は一変します。その辺の考察は総論でも語りましたが(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)、そこで語ったアルコール依存症というキーワードがマリリン・モンローとの妙な符合を見せます。そして、3度の離婚を経験しているマリリン・モンローのように、オードリーも決して幸せな結婚生活を送っていたわけではなさそうです。ファーザー・コンプレックスという面も見過ごしてはいけません。両者は父親からの愛情というものを充分に享受していない面があり、その欠落が不倫という行為に走らせていると読み取ることもできるのです。

生前、マリリン・モンローはこんな名言を語っていました。その言葉が彼女の人生、如いては、彼女をモチーフにした「ツイン・ピークス」という物語の全てを語っているような気がします。

 

ほら、星たちを見て。

あんなに高くきらきら輝いているわ。

だけど、一つひとつがとても孤独なのね。

私たちの世界とおんなじ。

見せかけの世界なのよ。

 

2.精神科医の戯言

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よく語られているのがカイル・マクラクランデイヴィッド・リンチの化身という役目を担っているという話ですが、ではマーク・フロストの化身は誰か?と聞かれたら、間違いなくこのヘッポコ精神科医ジャコビー先生ではないかと思います。

序章ではなぜか耳栓をし、普段は3Dメガネをかけ、ハワイアンで手品師、どこをどう切り取っても胡散臭さしか残らないという、この強烈なイカサマ師がマーク・フロストの代弁者になるわけですが、彼には彼なりのポリシーというか、別の世界から覗き込んでいるツイン・ピークスという世界があるのです。

「ファイナル・ドキュメント」でも「シークレット・ヒストリー」でも、マーク・フロストはジャコビー先生についてはかなり事細かに書き記しています。その中でも特に注目したいのがエドの銃で左目をケガしたネイディーンを診察したカルテです。時は1987年11月29日。テレサ・バンクス事件が発生する3ヶ月前になります。そこでジャコビー先生は、開口一番、ネイディーンは自ら "直観" を遮断するために左目を犠牲にしたと語っています。なんのことやらさっぱりなんですが、要は下記の図になります。

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人間の脳の、右脳は直観を司り、左脳は理論を司ると言われています。そして、ジャコビー先生が言うには、右側に赤色の偏光レンズをかけると赤色の波長が左脳を司る理論的な活動を若干低下させると、逆に左側に青色の偏光レンズをかけると青色の波長が右脳を司る直観や空間認識の活動を低下させる。そうすると普段はそれぞれに分かれて活動している右脳と左脳が一体感を持つようになり、脳梁、すなわち右脳と左脳を結ぶ神経線維が活性化し、大脳全体が同時に活動するようになるらしいのです。そして、それは現実をより深く覗き込むことができる超次元への入り口なのだと。さらに、この3Dメガネを通して見る世界というのは、スミレ色の世界、うっすら紫がかって見える世界なのだそうです。

それはこんなんだったり。

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こんなんとか。

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さらにはこんなとか。

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そんな風にジャコビー先生には見えているらしいのです。そして、その元となった体験がシャーマニズムに則ったフィールドワークからくるものだそうで、インディアンが万能薬として霊的な治癒力を施すペヨーテや、南米で伝統的に使用されているアヤワスカなどを取り入れた結果からくるものなのだそうです。どれも強烈な幻覚剤に使用されているものばかりなんですが、まあ、簡単に言ってしまうとジェリーと一緒で単にブッ飛んでいるだけという。ただ、これらは変性意識状態を作りだし、自我の忘却を誘い、宇宙や神との一体感を経験できることから、アルコール依存症うつ病などの改善に役立つとも言われ、ある意味、深い瞑想状態と同じ効力があるらしいのです。未知の力を引き出すとでも言いましょうか。超神水を飲んだ孫悟空みたいな感じです。

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こんなことを、まさか30年前のツイン・ピークス第1話から設定していたのかどうかはわかりませんが(たぶん完全なる後付けだと思いますが)、いずれにしても第1話からジャコビー先生が3Dメガネをかけていたのは事実であり、大麻大国ハワイ出身というのもなかなか考え抜かれていたキャラクターとも言えるのです。

で、ちょっとだけ「The Return」の話になりますが、先の第3章で次元の狭間に落ちていくクーパーはジャコビー先生が言う超次元の紫雲に飲み込まれ、ナイドのいる紫がかった部屋に辿り着くわけですが、ここで気になるのがこれです。

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もともと "15" と書かれていたコンセントがナイドのレバー切り替えで "3" に変わりました。この紫がかった世界もレバー切り替えを境に紫霧が晴れて通常の世界になります。放送当時はナイドが感電していたのと、上記の機械がコンセントの形状をしていたので、電圧か何か "電気" にまつわるものがレバー切り替えで下がったのではないかと思っていました。なので、この数字も電圧というか電力みたいなものを現わしているのではないかと。ただ、このジャコビー先生の理論を照らし合わせてみると、この数字、電圧や電力の数値ではなく "次元の数" を現わしているのではないかと思い始めています。

映画「インターステラー」の話は前にも書いたのですが、その元となっているのが物理学の超弦理論、スーパーストリング理論になります。ブラックホールという非常に大きな重力の先に広がっている世界は10次元を操れる多次元の世界という。それが最終話のオデッサにつながるのではないかと。まあ、数学や物理の本は好きでよく読んでいるのですが、それを全て理解したかと聞かれると、ほんのちょびっとしかわからないんですが...。世の中にはどうやら多次元の世界が存在するらしいと。そして、上記の数字は、紫がかった世界が "15次元の世界" 、そしてクーパーが現実に戻るため、ナイドは僕らが生きている "3次元の世界" に切り替えたのではないかと。そして、それがジャコビー先生の "3D" にもつながる。3D=現実、みたいな。はい、真意の程はDVD/BDが発売されるまでお預けでございますが、発売されたところで解明するのか?と聞かれると、たぶん、何も解明されないような気もします。

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さらにジャコビー先生つながりで、先のネイディーンの "直観" に話を戻します。もともと彼女の母親は精神病院に入院するほどの重度の精神病患者で、父親は典型的なアルコール中毒者だった。彼女自身も躁鬱病統合失調症であり、自分の周りで起きている "見たくない" ことを持ち前の直観で察知することに疲れ果て、自ら左目にケガを負ったとジャコビー先生は分析しています。そうすることによって強制的に理論的な左脳をフル稼働させることになり、その代償行為が "音のしないカーテンレール" を産み出す行為に走らせていると。彼女にとって、見たくない何かを遮る際に "音" が出るというのが、なによりも気に食わない現象だったのです。そして、念願叶って(エドがグリスをこぼしたおかげで)音の出ないカーテンレールに辿り着き、もう見たくないものを静かに遮ることができた瞬間、ネイディーンは一番見たくないものを目撃することになります。結局は誰も自分を受け入れてくれないという "絶望" がのしかかってきたのです。その顛末が睡眠薬の過剰摂取。今見ても、なかなか練られたストーリー展開だと思いますが、大半の人は不思議ちゃん扱いで終わっていたのではないかと思います。まあ、偉そうにこんなことを書いている自分が、当時は一番、ネイディーンを不思議ちゃん扱いしていたのですけど...。

いずれにしても「The Return」でネイディーンはドクター・アンプのクソ掘りシャベルによって開眼、このクソみたいな世界に気づくことによって、自分自身が一番クソな存在だと知り、中堂よろしくエドを解放するに至りました。まあ、ムーミン好きはスナフキンだと思っていればガマンできるようですが、ネイディーンにはドクター・アンプがいます。先述したペヨーテやアヤワスカを摂取したような精神の解放が彼女の残りの人生を意義あるものにし、ドクター・アンプもまたこの上ない精神の宝の持ち主を得たと。落ち着くところに落ち着いたということみたいです。

 

3.コーヒーは旨かったのか?

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「The Return」の第4章、現世に帰ってきて一夜明けた朝、ルンルンのジェイニーEが煎れたコーヒーを一口含んだ途端、ブハーッ!と吐き出したクーパー/ダギー。当時はコーヒーがクソまずくて吐き出したものとばかり思っていましたが(ジェイニーEがダギーにコーヒーを出したのは後にも先にもこのシーンだけです)、久しぶりに旧ツイン・ピークスを観直したら、どうもクソ旨かったんじゃないかという気がしてきました。それが旧シリーズの第2話、伝説のチベット占い捜査のシーンです。

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クーパー、しっかり吐き出してます。んでもって、ルーシーに向かって「すげえ旨い!で、熱い!」と熱弁しているわけです。たぶん、ピートが煎れた魚入りのコーヒーが生臭い上にぬるいという極上のマズさだったため、なおさらスゲエ旨かったのかもしれませんが、これに対するオマージュというかパロディが「The Return」ではないかと。

だとしたらジェイニーEも、チョコレートケーキだけじゃなくてコーヒーもセットにしてあげてればよかったのになぁ。

 

4.胃の中にあったものの意味とは?

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「The Return」でブリッグス少佐の胃から検出されたダグラス・ジョーンズの結婚指輪。検察官のコンスタンスが嬉々としてデイブやドン・ハリソン刑事に報告をしていましたが、二人とも「それがなにか?」みたいな態度でした。ゴードン・コール一行がバックホーンに到着した際も同じで、ブリッグス少佐の遺体には興味を示すのですが胃の中から出てきたものについてはスルーしていました。

たぶん、25年も経っているのでアルバートもゴードンもすっかり忘れてしまっていたのかもしれませんが、かのローラ・パーマーの胃からも同様に異物が検出されていたのです。それがこれ。

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片目のジャックのコインの欠片。そもそもこの欠片を発見したのはアルバートであり、完全にコンスタンスと対比になっているのです。そして、事件の核心に迫る重要なアイテムという点でも見事なシンクロ率を誇っています。

この "コインの欠片" がなぜローラの胃の中にあったのかはシーズン1の第7話でジャック・ルノーが語っていますが、事の経緯はローラが自ら噛み砕いて飲み込んだというのが真相になっています。これらが「The Return」でも同様であるとするなら、やはりブリッグス少佐は結婚指輪を自ら飲み込んだのだと推測することができます。その辺の考察は総論を参照してもらえればと(ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?)。

 

5.片目のジャック

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コインの話題が出たので、続いて "片目のジャック" についてちょっとしたトリビアを。自分も調べるまではぜんぜん知らなかったのですが、どうやら片目のジャックは二人いるみたいなのです。どういうことか?というと、次のトランプの絵札を見て頂くとしてですね。

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ご覧の通りダイヤとクローバーのジャックには目が二つあります。ハートとスペードのジャックだけが片目なんです。トランプは今まで腐るほどしてきましたが、こうやって絵札をまじまじと見たのは人生で初めてかもしれません。さらには、ハートのジャックは "愛" の象徴であるハートのマークをガン見しています。逆にスペードのジャックは "剣" や "死" の象徴であるスペードから完全に背を向けています。これにも意味があるらしいのですが、まあ、ツイン・ピークスとはあまり関係がなさそうなので、ここは割愛します。

片目のジャックは表向きはカジノですので、上記の看板にあるようにブラックジャックの絵札とも絡めてスペードのジャックがあしらわれています。しかし、裏ではハートも楽しめるというダブルミーニングになっているのが素晴らしいではないですか。

さらにトランプつながりで話を続けていくと、ちょいとシーズン2のネタになってしまいますが、これです。

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 スペードのクイーン(男勝り)・・・シェリー・ジョンソン

 ダイヤのクイーン(贅沢好き)・・・オードリー・ホーン

 クローバーのクイーン(お人好し)・・・ドナ・ヘイワード

 スペードのキング(ダビデ)・・・デイル・クーパー

ここに足りないのはハートのクイーンであり、ご存じの通りそれはアニー・ブラックバーンを指していました。それぞれのカードの意味が各キャラクターに微妙なニュアンスで割り振られているのも面白いところです。そして、スペードのキング。ペリシテ人の巨人兵士ゴリアテをたった一つの石で倒した羊飼いの少年ダビデ、彼がモデルとなっているカードがクーパーに割り当てられています。先述したようにスペードは "死" の象徴でもあり、キングが手に持っている剣はゴリアテの首を切った勝利の剣です。ウィンダム・アールは、そんな英雄気取りのクーパーを仕留め、ハートのクイーンを生贄に祀り上げようとしていたのです。

トランプつながりでさらに話を続けると、これです。

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その昔、トランプには税金が課せられていたそうで、印刷局を経て製造されたカードであることを証明するために、スペードのエースだけは国が管理をしていたそうです。そういう意味ではトランプの中でも特別なカードであり、さらにはトランプの中でも最強を意味するカードでもあります。その上、何度も言うようにスペードは "死" の象徴であり、"A" は全ての始まりを意味します。悪クーパーがトランプのカードを使っているというのも、上記のクイーンと一緒で、悪クーパーがウィンダム・アールであることを暗に示しています。ここまでそれらしい意味がお膳立てされていて、これがエクスペリメントのことではなくて他の事を意味するとしたなら、その方がビックリしてしまいます。

 

6.ブックハウス・ボーイズ

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トランプつながりで記号の話を続けると、ハリーやエド、ホークが在籍しているブックハウス・ボーイズのシンボルも "スペード" と同じ意味を持っています。こちらはあからさまに剣の姿があしらわれていますが、その周りにベイマツ(ダグラスモミ)の枝葉が描かれているのも興味深いところです。

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BANG BANG BARと同じ敷地内にある小さな小屋を根城にしていたブックハウス・ボーイズの面々。序章ではボビー&マイクからドナを助け出しジェームズの元に送り届け、第3話ではジャック・ルノーの弟ベルナールを捕獲、ジャックの居所を教えろと脅迫していました。同じ第3話でハリーはブックハウス・ボーイズの役目について次のように語っています。

「変な話をするが信じて欲しい。ここツイン・ピークスは余所と違う、時代に取り残された別世界だ。それがこの町の良さだ、俺たちはそこを気に入っている。でもここには隠れた部分もあって、それも余所とは違っているんだ。"負" の部分。なにか邪悪なものの存在があるんだ。深い森の奥には非常に奇妙なものがひそんでいる。闇というか魔物というか、なんとでも呼べばいいが、いろんな姿をしているんだ。しかし、それは昔から常にそこにいて、我々は常にそれと戦ってきた。祖先たちも子孫たちも、みんな戦ってきた」

語り部はその "悪" をカナダから運び込まれてくる麻薬としていましたが、シーズン2や「The Return」を経た今となっては、その対象がダグパスでありジュディであることを僕たちは知っています。

また、かのジェームズもブックハウス・ボーイズのメンバーであり、そのメンバーの特徴がバイカーであることを考慮すると、彼もそのメンバーだったのではないかと推測ができます。

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アンディとルーシーの息子ウォリー。マーロン・ブランドと同じ誕生日だからと、ハリーが名付け親になった彼は「The Return」の第4章にしか登場しないのですが、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーではないかと匂わせるのが下記の3点。

 ①アンディがブックハウス・ボーイズのメンバー(フランクも同じ)

 ②バイクに乗ってライダースを着ている

 ③自分が使っていた子供部屋を両親の書斎(ブックハウス)にしていいと伝える

短い出番ながら、アメリカを横断したルイス・クラーク探検隊に言及したり、自分のダーマ(法)は "道" だと言ってみたり、なかなか口達者な若者です。では、彼がブックハウス・ボーイズのメンバーなら、いったい何と戦っていたのでしょう。「The Return」でも「ファイナル・ドキュメント」でも、その辺については何も具体的なことが描かれていません。ですが、あえて仮説を立てるとするなら、暗い森の奥に光を射し込もうとしていた、隠れているものを白日の下にさらそうとしていた、そんなことをしようとしていたのではないかと。未開の地だったアメリカ北西部を明らかにしたルイス・クラークのように、ウォリーも何かの陰謀と戦っていたのかもしれません。

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さらには「The Return」でボブ玉を粉砕したフレディも、ジェームズの誘いによってブックハウス・ボーイズに加入していた可能性があります。だとしたら、その活躍と功績は完全にツイン・ピークス部外者にお株を取られた感じでもあります。

 

7.マーロン・ブランド

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先のウォリーもそうですが、何かとマーク・フロストはマーロン・ブランドをフューチャーしています。

旧シリーズの第4話でも、クーパー捜査官のために情報を私にちょうだいよとドナにけしかけるオードリーですが、その際のやり取りの中で "片目のジャック" の話をすると、ドナは「映画の題名でしょ?」と答えています。この「片目のジャック」という映画も、マーロン・ブランドが主演、さらには監督までしている作品なのです。

先のブックハウス・ボーイズのバイカーたちもマーロン・ブランド譲りのファッションですし、かの「ゴッドファーザー」でアカデミー主演男優賞を受賞した際も、受賞スピーチを拒否した挙句、壇上でインディアンの活動家にスピーチをさせたという逸話もあります。

日本に住んでいる僕がこんなことを言うのもなんですが、アメリカの歴史の中で黒人の奴隷解放や人種差別はずいぶんと大きく取り上げられていますが、先住民であるインディアンを根絶やしにしたことにはあまり触れたがりません。人種差別がアメリカという国の中でどれほどの問題意識としてあるのかは知りようがありませんが、そんな中でメインキャストに先住民である "ホーク" を配置していることには、大きな意義があるのではないかとは思います。

 

8."真の男" を助ける者たち

ツイン・ピークス」と「The Return」の対比が描かれている中で特筆したいのが、トルーマン兄弟の危機を救うこの二人です。

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片やジャック・ルノーにやられそうになるハリーを、片や悪クーパーにやられそうになるフランクを助けているわけですが、前回のブログで書いたように、普段はトボけている両者が、次元の分岐点に存在しているだけでなく "真の男" を守っているというのが、なかなかにしびれる展開です。

どこまでの意図があるのかは解釈しづらいところではありますが、たぶん、そんなに深い意味はないと思います。

 

他にもいろいろとセルフ・パロディというか、オマージュというか伏線というか、そんなものがありそうなんですが、とりあえずシーズン1については、ここまでにします。いずれにしてもシーズン2の時にも触れるかもしれませんが、ローラ殺しが解決した後のグダグダ感は半端なく、それは視聴者だけでなく、作品に携わったスタッフやキャストも口を揃えて "最悪" だったと語っているのです。そういう意味でも、謎が謎のまま残っているシーズン1は素晴らしく、続きがめちゃめちゃ気になるという点でも突出している作品だと言えるのです。そして、その作品を作り上げたのは監督や脚本家だけでなく、このメインキャストたちの素晴らしいクリエイティブぶりがあってこそだとも思うのです。

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巡礼の旅シリーズ 第4回「シーズン2」

なぜ、デイヴィッド・リンチは、原点である「インターナショナル版」に回帰したのか?

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第2回「なぜ、デイヴィッド・リンチは、原点である「インターナショナル版」に回帰したのか?」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: PILOT

監督:デイヴィッド・リンチ

脚本:マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

日本公開:WOWOW 1991年4月 / TBS 1992年10月

放映時間:116分

 

TVシリーズツイン・ピークス」についての基本情報は下記リンクへ。

Twin Peaks Frequently Asked Questions v3.0-J

ツイン・ピークス - Wikipedia

 

というわけで「The Return」のDVD/BD発売までの時間潰しシリーズ第2回目。今回はツイン・ピークスの原点である "序章" の考察です。というか、前回同様、もうかれこれ20年も30年も映画ファンやリンチ・ファンに考察されまくった作品を、なぜ今さら僕みたいな映画アッパラパーが大風呂敷広げて考察せなあかんのか?という話なんですが、これはしょうがないんです。だって、DVD/BDが発売されないんだもん!WOWOW放送が終わってもう3ヶ月。全米放送が終わってからだと、かれこれ半年だよ!こんなんありえないでしょ!なにやっとんねんって話です。リリース情報出しちゃうとWOWOW加入者が減っちゃうからって、いくらなんでもコレはないでしょ。と言いながら、さて、ここ日本でデイヴィッド・リンチが好きな人はどれくらいいるのか?っていう話もあるんですけどね。そもそも、デイヴィッドなのか、デヴィッドなのか、デビッドなのか、その辺もうちょい統一してくれ!っていう話から始まりそうなんですけど...。まあ、そんなんで愚痴は終わらせておきまして、ここから本題に移ります。

チミは覚えているか?DVDの1stシーズンが発売された時のことを。

チミは覚えているか?ウキウキして観た "序章" のことを。

中途半端な終わり方に衝撃を受けたことを。

そして、いつまで経っても発売されなかった2ndシーズンのことを。

チミは覚えているか?インターナショナル版が観たくても、

もうVHSでしか観ることができない現実に途方に暮れてしまったことを。

内藤仙人さま、ごめんなさい、しっかりとパクりました。しかし、"チミ" で通じる人って、ある程度の世代だってバレバレになってしまいますよね。ヒュ~ヒュ~みたいな。マジ卍。てなわけで、発売されなかったねぇ、2ndシーズン。思えば2002年の冬ですよ。世は「マルホランド・ドライブ」の熱狂真っ只中、そんな中でとうとう「ツイン・ピークス」までDVDになるぞと、まあ速効で購入したはいいものの、続きがぜんぜん発売されない!おったまげましたよ。と、この辺の憤懣はシーズンを振り返るで語ることにしまして、ここで言いたいのは、この「インターナショナル版」が長らく絶版になっていたことです。

大方の評論やブログを観ていると、この「インターナショナル版」のエンディングはクソだと。なんの意味もないし、考慮する必要なんて一切ないと。そもそもこれはワーナーに作れと言われてリンチ監督が即興で作り上げた代物だから、観たきゃ第2話の後半を観ればそれで充分だと。まあ、散々なことを長年の間に言われ続けた作品ではあります。しかし、だとしたら、その30年後に、なぜリンチ監督は、その即興で作り上げたエンディングに舞い戻ってきたのでしょうか?そして「The Return」の第17章は、なぜ「インターナショナル版」を踏襲しているのでしょうか?

ストーリーや作品についてのスタンダード的な考察は前回の「ローラ・パーマー最期の7日間」同様、冒頭のFAQサイトやWikipediaを参照して頂くとして、それ以外のあまり触れられていない部分に照準を合わせて語っていければと思っています。さらには、そこから「The Return」をさらに深読みしていければと、もしくは妄想していければと。ではでは、姐さん、時は1991年!世は平成元年。武田鉄矢氏がトラックの前に飛び出し、宮沢りえ様が衝撃の初ヌードを披露した、あの頃までにタイム・スリップしまっせ。

 

1.ムナオビツグミ

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さて、ツイン・ピークスと言えば、この鳥さんです。名を "ムナオビツグミ" 。胸に帯のような模様があることから、その名がついたそうです。英名は "Varied Thrush" 、学名は "Zoothera Naevia" 。生息地はカナダや北アメリカ。まずこの近辺で拝むことのない鳥さんです。あまり鳴かないために "口を噤む" 、つぐむ、噤み、ツグミと呼ばれるようになったようですが、それは日本での話。海外でのツグミはどうなのかと言うと、マザーグースの「誰がコマドリを殺したのか?」に出てくるように、弔いの讃美歌を歌うようなピィピィ鳥のようです。なので日本の印象と違い、海の向こうではカナリヤのような愛らしい種類のものと思われているようです。

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このオープニング、よく比較されるのが「ブルーベルベット」に登場するコマドリではないかと思います。ある方は「ブルーベルベット」で舞い降りてきたコマドリが「ツイン・ピークス」に辿り着いたと解説していましたが、コマドリツグミは似て非なるもの、意味合いがぜんぜん違うようなのです。と言いながら、僕も鳥に詳しいわけではないので、もちろん上の二つの写真が同じ種類の鳥だと思っていました。お腹のあたりがオレンジというか茶色くなっているのが一緒だし、片方が作り物だから余計に模しているんじゃないかと。ですが、そこはネット社会。昔はいろいろ本なり図鑑なりを調べなければわからなかったことが、今ではググればほとんどわかってしまうという。便利な時代です。

では、次に「ブルーベルベット」の劇中でローラ・ダーン演じるサンディが、"夢" で見たというコマドリについてのダイアローグをかいつまんでみましょう。

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「夢を見たの。あなたと会った晩よ。夢の中ではこの世は闇、それはコマドリがいないからよ。あの鳥は愛の象徴だもの。最初は長い長い間、闇ばかりなの。ところが突然、何千羽ものコマドリが放たれて、愛の光を持って舞い降りてきたの。その愛の力だけが闇の世界を変えるの。光の世界に。悲劇が続くのもコマドリが来るまでよ」

どうでしょう、このセリフ。「ツイン・ピークス」にも「The Return」にも当てはまりそうなセリフではないですか。コマドリは胸のあたりが赤くなっていることから、キリストの血を受けた鳥、キリストのそばにいる鳥として、サンディが語るように "愛の象徴" と比喩されることが多いようです。ところが日本ではコマドリ (駒鳥) 、駒というのは馬を意味するらしく、馬の鳴き声に似ているということからの命名だそうで、欧米のクック・ロビンという呼称とはかけ離れているのです。

では、この「ツイン・ピークス」の冒頭が、なぜツグミで始まるのか?ですが、これはマザーグース論がやはり強いのではないかと。

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Who killed Cock Robin?

先述したようにツグミは殺されたコマドリのために讃美歌を歌います。要するに神を讃えているのです。となると、この冒頭のツグミも殺されたローラ・パーマーのために鳴いている。ローラのために神を讃えていると深読みできます。もちろんリンチ監督のフィルモグラフィーの中で、この「ツイン・ピークス」が「ブルーベルベット」の系譜を辿っていると読み解くことも充分できます。さらに、このマザーグースには「ツイン・ピークス」と共通する動物たちがいくつか出てくるのです。

 ハエ・・・コマドリの死を確認した

 フクロウ・・・コマドリの墓を掘った

 牛・・・コマドリのために鐘を鳴らした

蝿は悪魔ベルゼブブとして、フクロウはイルミナティのシンボル、全てを見通す目を持つものとして、牛は「The Return」で生贄、もしくは真実の探求者として描かれていました。まあ、こんな深読みをしたからと言って、何が理解できるのか?というと、結局はシンボリックな都市伝説的な楽しみ方しかできず、肝心な人間ドラマが希薄になってしまうだけのような気もするのですが...。とは言っても、それもリンチ作品を味わう一つのスパイスであることには変わりないのです。まるで絵画を楽しむような感覚です。

ちなみに「The Return」で鳥のように鳴いていたナイド。その鳴き方がどうもツグミの鳴き方と同じような気がします。渡り鳥であるツグミを牢屋という名の鳥かごに囲う。そもそもツグミに限らず、"鳥" というのは宇宙からの伝達者というスピリチュアルな意味合いがあるようです。となると、ナイドは何を伝達するために地上に舞い降りてきたのか?世界が闇に包まれているから "鳥目" として目が見えない状態なのか?その辺についてのナイド考察は「The Returnを振り返る」で。

 

2.キラー・ボブ

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「インターナショナル版」と「序章」の違いは、ローラママが何を思い出すかによって切替わっていました。そういう意味では「The Return」でトビガエルを飲み込んだローラママは "宇宙の分岐器" という非常に重要な役目を担っているのかもしれません。

上の画像の通り「インターナショナル版」でローラママが思い出すのはベッドの影に隠れていたボブです。そして、その姿はローラママの背後にある鏡にも写っています。リンチ監督、芸が細かいです。これが通常の「序章」になると、割れたハートのネックレスを拾うジャコビー先生に切替わってしまうのです。これがもう、冒頭で語った1stシーズンDVDの話に戻りますが、初めて見た時のその違和感といったら、まるでチョコパイとエンゼルパイぐらいにまったく違うじゃないですか!(両方好きな人はごめんなさい)。そもそも、なんでローラママがネックレスを拾うところを幻視せなあかんのかがさっぱりわかりません。こっちの方がよっぽど不条理な感じがするのですが、ことアメリカではジャコビーver.が通常のようで、日本やヨーロッパの方がおかしいということみたいです。ストーリーの流れ的にはボブver.の方がスムーズのような気がするんですけどね。

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しかし「インターナショナル版」のボブの登場は衝撃的でした。こんなもの思い出した日にはローラママじゃなくたって、誰でも悲鳴を上げたくなります。これもリンチ監督が得意とする "偶然の産物" から生まれたシーンですが、ただの大道具さんだったフランク・シルヴァが一瞬にして悪の象徴へと生まれ変わった劇的な瞬間と言えます。この役者でもないズブの素人を平気で物語に登場させるというのは「The Return」でも継承されていて、ラストのアリス・トレモンド婦人にまで至ります。

さて、そもそもキラー・ボブとはいったいなんだったのでしょうか?「エクソシスト」的な解釈をするなら "悪霊" と定義することができますし、「ジキル&ハイド」的な解釈をするならリーランドのダークサイドがボブであると言えます。しかし、多重人格や解離性同一性障害であると仮定するなら、上記のシーンでローラママが目撃したボブはリーランドだったことになり、グレート・ノーザン・ホテルでミーティングをしていたリーランドと整合性が合わなくなります。なので、素直に「ボブは "悪霊" であり、憑依された人物はシリアルキラーに豹変してしまう」と解釈していいのではないかと思います。

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そして、後述する片腕の男マイクが語っていたように、ボブの左腕上腕には "FIRE WALK WITH ME" と書かれた刺青があります。これは悪魔に身を捧げた証拠であり、この "火" を求める行為が「ツイン・ピークス」という世界の "悪" であるということを示しています。

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突然ですが、世界は「火・風・水・土」の四大元素で構成されており、アリストテレスはそこに「熱・冷・湿・渇」の性質を加え、世界を一元論で説明していました。上の図はアリストテレスの論理を図式化したものですが、僕たちが住む世界はこの4つの元素で成り立っていると考えられています。その中心に人間がいると。僕らはこの奇跡的な自然に囲まれて生きていると。「ツイン・ピークス」という世界を見ると、"風" にそよぐ森があり、滝から流れ注いでいく "水" があり、木を育む "土" があります。ここに足りないのは "火" です。ただ、"火" というのは "太陽" 、要するに "光" と言い表すこともできます。そして、"火" を求めるというのは "光" を求めるとも言い換えることができます。そして "光" を求めるということは "神" を求めるとも読み解けます。

Wikipediaやインターナショナル版のメイキングを観ると、撮影をしている時点ではリーランドが犯人であることは確定していたようですが、ボブというキャラクターまではスクリプトに落とされてはいなかったようです。「ツイン・ピークス」という物語は、あくまでも「ツイン・ピークス」という "町" が主役であり、初期段階では "霊的" なものを描く予定がなかった。まるでドラゴン・ボールの初期、天下一武道会なんていうアクションバリバリの設定を考えていなかった鳥山先生みたいなものです。ボールを7つ集めたら終わる予定だったものが、最終的には宇宙まで広がったみたいな。

その観点で見ていくとリンチ監督にオチを作るように迫ったワーナーブラザーズがスゴイということになります。その圧力がなければ、ボブというキャラクターも産まれなければ、赤い部屋も産み落とされることがなかったのです。

ちょっと偉そうな持論になってしまいますが、アーティストやクリエイターと呼ばれる人には "強烈な制限" がなければいけないんじゃないかと僕個人は思っています。その制限へのストレスや反発から「名作」と呼ばれるものが産まれてきたのではないかと。古くはルネサンスダ・ヴィンチミケランジェロシェイクスピアドストエフスキー。アーティストでもビートルズに始まり、レコード会社と対立しながら切磋琢磨していた数々のバンドが名曲や名演を繰り広げてきました。それがセルフプロデュースなど制限緩和がなされた途端に魅力が半減してしまう。そんなアーティストを今までゴマンと見てきました。誰かが "利益" もしくは "大衆性" というフィルターにかけないと、アーティストの独りよがりになってしまい、例え、それが優れた表現であったとしても、ポピュラリティー、普遍性が伝わりにくいものになってしまうのです。漫画にしたってゲームにしたって、怖い編集者や性能の限界に挑戦したからこそ産まれてきた名作があります。スポーツだってそうです。体罰はもちろんNGですが、だからと言って優しい指導者のもとでいい選手が育つか?と言われたら、まずないと思います。ぬるま湯じゃダメなんです。

話がだいぶ逸れましたが、リンチ監督もワーナーの重役からギュギュギューッと絞めつけられた結果、スポンッと産まれてきた発想が「インターナショナル版」のエンディングになると思うのです。そこから産まれてきたのがボブであり、赤い部屋であると。そして、それは作家の本質を確実に表現したものなのです。その言葉が「FIRE WALK WITH ME」であり、それを体現する世界が「RED ROOM」であると。

 

3.片腕の男 "マイク"

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「"来たるべき過去の闇を見通すのが魔術師の望み。二つの世界の間から声が放たれる。火よ、我とともに歩め"。我々は人間と暮らした。君らの言うコンビニエンスストア、その上に住んだ。言葉通りの意味だ。俺はマイク、彼の名前はボブだ。彼は弱った人間を餌食にする。傷ついた人間を。俺は一年間、見張ってた。ボブが出てくるのを。彼が何かしでかすと君(クーパー)が出てくる。俺も悪魔に魅入られた。左腕にイレズミを。だが神の御前に立って、俺は変わった。腕を元から切断した」

ローラ・パーマーが運び込まれた病院のモルグで片腕の男はこう語っています。このセリフから読み解けるのは下記の3点になります。

 ①コンビニエンスストアの上が現世(人間世界)とつながる唯一の場所

 ②片腕の男がしていたイレズミは "FIRE WALK WITH ME"

 ③悪に魅入られた部分が具現化したのが "別の場所から来た小さな男"

しかし、ここで重要なのはセリフの冒頭です。この "来たるべき過去の云々..." という一連の詩は、25年の月日を経て「The Return」の第17章で突如繰り返されます。旧シリーズの本編ではクーパーの夢に登場した内容になっていますが、「インターナショナル版」でも同様、電話で起こされる場面からが全て夢だとするなら、クーパーが夢で見ていると解釈することも可能です。だとしたら「The Return」の第17章のどこかにも切替り点があるはずです。まるで「マルホランド・ドライブ」の "シレンシオ" みたいな感じに。それがどこかというと、まずここでしょう。

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この森の心臓からホワイト・ロッジに囚われてしまった悪クーパーが物語の分岐点ではないかと。おわかりでしょうか?悪クーパーが座標の位置に辿り着くまでが正式な物語であり、そこから先は無数のストーリーが存在する。もしくは夢見人が見ている夢の世界になるのです。その一つが「The Return」であった。幾つかある分岐の中で、マーク・フロストとリンチ監督がなぜ「The Return」のこの結末を選んだのかは、また妄想するとして、ここで重要なのは物語の道先案内人が片腕の男 "マイク" であり、その分岐点には必ずこの二人がいたということです。

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アンディとルーシー。信じられないかもしれませんが、このおとぼけコンビが「ツイン・ピークス」の最重要キャラクターなのです。ビックリです。

夢占いの世界では "トランペット" などの管楽器を吹くというのは、恋人や配偶者への深い愛情があることを現わしているらしく、"卓球" の夢は誰かと通じ合いたいという欲求の表れだそうです。そう言われてみるとそう見えなくもないのですが、まあ、いつもの如くこじつけ感が半端ないです。どちらかというと、単純に人の神経を逆なでしているだけと捉える方がスムーズな気がします。

まあ、たぶんこれも偶然の産物だとは思いますので片腕の男に話を戻します。病院の地下ボイラー室に隠れていたボブを撃ち殺したあと、彼は切り落とした腕に痛みを感じ、それを和らげるために "ニッケル" を求めます。ここで既に伝導率の高い "ニッケル" を求めているというのが面白いのですが、片腕の男やボブなどロッジ系のキャラは電荷体質なのかもしれません。そして、息絶える間際に片腕の男はこう言い残します。「ボブ、いつか、お前の時が来る」

それが25年後の「The Return」の世界のような感じもしますが、だとしたらここで撃ち殺されてもボブは死んでいなかったことになります。いや、ここは刑事もののラストシーンのように、わざと悪役が死んだ風に作っている節が強いのです。このわざとらしさは第17章のフレディVSボブ玉と同じ感じです。確信犯ってやつですね。

これらのシーンと「The Return」には驚くほどの共通項があります。

 ①ボイラー室が出てくる

 ②キーンという不思議な音が出てくる

 ③先の "来るべき過去の云々..." の詩

 ④コンビニエンスストアの設定

 ⑤"FIRE WALK WITH ME"

 ⑥悪魔と神

 ⑦「電気はつけないでくれ」

 ⑧赤い糸の縫い目

 ⑨ボブが "銃" で撃たれる

 ⑩"火" が消える

まるで「The Return」は「インターナショナル版」の謎を説明するために制作されたのではないかと思えるほど重要な項目が目白押しなのです。中でも気になるのが②番のキーンという音です。「The Return」ではグレート・ノーザン・ホテルのボイラー室から鳴り響いていましたし、クーパーはその音が鳴る扉に入っていきました。「インターナショナル版」ではキーンという音を耳にした時、ボブはこう語るのです。「気をつけろ、耳を澄ませ!親分が呼んでいる...」

このセリフ、ボブが片腕の男に語りかけているのですが、どう考えても魅入られてイレズミを彫り込んだ悪魔が、その親分であることを指し示しています。この時点では "ジュディ" なんて設定も "ダグパス" なんていう設定もなかったはずですが、これらのことから片腕の男 "マイク" がどういう経緯を辿ってきたのかが見えてきます。

"ジュディ" に魅入られたマイクは左腕に "FIRE WALK WITH ME" のイレズミを彫り込みボブと共に悪行("火" を求めること)を楽しんでいた。ある日、マイクはホワイト・ロッジに辿り着き、神の御前に立つと "火" は必要ない事がわかる。神がその "火" であることを知ったから。そこでマイクは "ジュディ" の呪いを絶つために左腕を切り落とす。切り落とされた腕は "別の世界から来た小さな男" となり、ボブと共にガルモンボジーアを求め続けた。マイクはボブの悪行を止めようと奔走するが、いつも寸でのところでボブを止めることができないでいる。

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穿った見方をすると「The Return」の第17章、フィリップ・ジェフリーズに1989年2月23日に連れて行ってくれと頼んだ後、片腕の男は「電気」と言い残しながら、どこかクーパーと一体化、もしくはシンクロしていく状況が描かれていました。これ、当時はなぜクーパーはローラを助けに行こうとしていたのか、イマイチよくわかりませんでしたが、片腕の男がローラを助けるためにクーパーとシンクロして旅立ったと解釈すると、なぜか腑に落ちてしまうところがあります。完全にストーリーを斜めから見た妄想だとは思いますが、その失敗のあと、さらにオデッサへクーパーを誘う片腕の男は、最初からローラを助けるために動いていたと解釈できます。さらに妄想するなら、神と対峙した時に、ボブを消滅させ、ローラを助けるという使命を背負わされた男、それが片腕の男だったのではないか。真意の程は定かではありませんが、こんな見方も面白いかもしれません。

 

4.メディチ家のヴィーナス

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ツイン・ピークス」の最重要シーンといったらやはりここに辿り着きます。上の画像に登場しているのは25年後のクーパー、ローラ・パーマーのいとこ、別の場所から来た小さな男の三名。小人が呼び出した赤いカーテンの奥に見える影は "鳥" であり、それがフクロウなのかツグミなのかは明らかにされていませんが、この時点ではツグミであった可能性が高いと思います。クーパーが座っているソファの横には "土星" のミニチュアがあり、この部屋が宇宙の一部であることを現わしています。さらには "土星=サターン" 要するに "悪魔" の部屋という暗喩が隠されていると解釈しても間違いではないでしょう。そして、小人とローラの間にあるヴィーナス像。

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これは "メディチ家のヴィーナス" という作品で、恥じらいのヴィーナスの系譜に当たる作品です。リンチ監督が赤い部屋にこの彫像を配置したというのは非常に意味深です。というのも "恥じらい" がテーマであるはずのこの彫像、見る角度によっては恥じらうどころか誘っているようにも見えるからです。隠そうとしているけど、逆に見せようともしているのです。この多角的な視点を有している作品を赤い部屋の中央に配置したというのが、この「ツイン・ピークス」という作品の本質ではないかと思うのです。

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同じ恥じらいのヴィーナスを扱った作品で有名なのがボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」です。ポーズは見てわかる通りメディチ家のヴィーナスとまったく同じで、その意味するところは "恥じらい" です。ボッティチェリのヴィーナスは真っ直ぐこちらを見つめていますが、メディチ家のヴィーナスは横を向き、そこに何かが存在しているように見えます。その視線の先に何があるのかは、鑑賞者の想像に委ねられているのです。まるでデイヴィッド・リンチ作品のスタンスそのものと言えるではないですか。この多義性がリンチ作品の醍醐味なのです。

ただ、ここでボッティチェリの作品をあえて出したのには訳があります。それは「ローラ・パーマー最期の7日間」にも「The Return」にも出てきたシーンですが、翡翠の指輪を置く台座の形です。

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どうも貝の形に見えませんか?仮にこれが貝だとするなら、恥じらいのヴィーナスと組み合わせると、ボッティチェリの絵のようになるのです。では、そうであると仮定して考え進めるなら「ツイン・ピークス」の女神となるのは誰なのか?愛と美を司るものはなんなのか?ということになるのですが、それがローラ・パーマーになるのではないかと。デイヴィッド・リンチはローラ・パーマーを描くことによって "愛" と "美" を表現しようとしている。逆説的に捉えると "愛" と "美" が壊されていくさまを描こうとしている。そう解釈できるのかもしれません。

 

5.ダブルRダイナー

最後にちょっとした小ネタで幕を閉じます。「シークレット・ヒストリー」を読めばわかることなのですが、これ。

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ダブルRダイナーの看板、なんで "T" がデカデカと書かれていると思います?ダブルRなのに、なんでTなんやろ?とずっと思っていたんですが、どうやらコレ「マーティ」のTだそうです。よぉく見ると "mar" って書いてあるんですよ、下に。マジか!って感じです。こんなところからBTTFだったとは!みたいな。ていうか、マーティやったら普通 "M" にするんやないのか!と。なんで語尾を大きくしたんやろ。

ちなみにダブルRも "鉄道 (Rail Road)" からとられているようで「マーティの鉄道カフェ」が正式名称のようです。ツイン・ピークスに鉄道が走っているわけではなく、単に鉄道の食堂車のようなカフェにしたかったからこの名称にしたそうです。お粗末さまでした。

 

巡礼の旅シリーズ 第3回「シーズン1」

『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する

3月末までWOWOWが「The Return」を独占するみたいなので、DVD/BDの発売アナウンスはさらに先になりそうな感じがする今日この頃。完全に世界から置いてけぼりを喰らってる状態です。たぶん、思ったほど採算が取れなかったため、WOWOWも苦肉の策で何度も放送しないといけない羽目になったような印象を受けるのですが、そもそもデイヴィッド・リンチにエンターテイメントを求めた時点で的外れの感じもします。まあ、ぶっちゃけ、負のスパイラルが半端ないです。

そんなわけで「The Return」のDVD/BDが発売されるまでの時間潰しというわけで、ちょっとした連載コラムを思いつきました。名づけて『「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ』です。今のところ僕の中で予定しているスケジュールは下記になります。

第1回「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する」

第2回「『ツイン・ピークス インターナショナル版』を考察する」

第3回「『ツイン・ピークス シーズン1』を振り返る」

第4回「『ツイン・ピークス シーズン2』を振り返る」

第5回「『ツイン・ピークス The Return』を振り返る」

タイトルなどはその時の気分で変わるかもしれませんが、こんな感じでツイン・ピークスという世界をタイムラインに沿って振り返ってみようと思います。ではでは、姐さん、さっそくいってみましょうか。

 

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「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第1回「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: FIRE WALK WITH ME

監督:デイヴィッド・リンチ

脚本:デイヴィッド・リンチ&ロバート・エンゲルス

日本公開:1992年5月16日

上映時間:135分

 

というわけで、今さらですが、この手垢まみれの26年前の作品を今一度振り返ってみようかと思います。いろんなところでレビューやら考察やらがされているので、とりあえず僕なりの新解釈みたいなものを書き込めていければとは思いますが、その前に僕のツイン・ピークス基本概念みたいなものをご紹介します。というか、僕にとってこのFAQサイトがツイン・ピークスの全てでした。

Twin Peaks Frequently Asked Questions v3.0-J

もう10年も20年も前のサイトがこうして今も残ってくれていることが奇跡ですが、ここのページを読めばだいたいのことは理解できるのではないかと思います。というか、これ以上のTPサイトを教えろと言われたら、あとは内藤仙人さまの曼荼羅話に行くしかありません。その先に待っているのは広大な精神世界ですので、パンピーの僕にはとてもそこを語るなんて事はできません。

上記のFAQサイトを読めば分かる通り、もともと劇場版の尺は3時間半もある長大な作品になる予定でした。なので21世紀に生きている僕らは、劇場版とカット集「The Missing Pieces」を組み合わせれば、もともとの3時間半の姿を垣間見ることができる、とても幸運な時代にいます(欲を言わせてもらえれば、二つをまとめたディレクターズ・カット版があれば最高なんですが、リンチ監督はそんな下世話なことは絶対にしないでしょう)。そして「The Return」の制作にリンチ監督を向かわせたのも、このボックスセット「The Entire Mystery」に特典として付けるために、25年前に遡り「The Missing Pieces」を編集するという久方ぶりの経験があったからではないかと僕個人は思っています。その流れからすると「The Return」には、もともと劇場版をシリーズ化することを前提にしていた内容が、大なり小なり受け継がれているのではないかと思うのです。なので「The Return」を理解するためには、先の25年前の作品をより理解しておかなければ、到底辿り着けない領域があるのではないかと。

とは言え、僕個人の感想としては、劇場版はあまり好きではありません。とにかくローラが泣いてばかりいて可哀相すぎるのです。観ていて辛くなってしまうのです。例えば同じ悲劇的な状況にある「ブルーベルベット」のドロシーですが、彼女はジェフリーという覗き魔的な視点があるため、倒錯的なエロティシズムの対象として観ることが出来ました。「ワイルド・アット・ハート」のルーラになると、悲劇を若さゆえの突破力でメーターを振りきり、完全に笑い飛ばしていました。しかし、劇場版で描かれるローラはひたすら主観なのです。観客はみんなローラと同じ悲劇を追体験しなければならず、そこに救いが何もないのです。1992年当時、まだぜんぜん若かった僕は映画館で作品を観た後、完全に打ちのめされました。テレビシリーズの謎が解決どころかさらに増えて、しかも悲しくなっただけ...。後にも先にも、あれほどショボーンとして映画館から出たのは、あの時が最初で最後だったような気がします。

そんなショボーン映画『ローラ・パーマー最期の7日間』ですが、作品的には第1部と第2部に分けられ、とりわけ「The Return」で重要視されたのが冒頭からの30分強ある第1部 "テレサ・バンクス事件" になります。では、まずその第1部を紐解いていきましょう。

 

【第1部:テレサ・バンクス事件】

◆冒頭

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大まかな流れは今さら事細かにあらすじを起こす必要はないかと思いますので割愛しますが、冒頭で重要なのはテレビを叩き壊すシーンから始まるというのが、この映画のスタンスを如実に現わしているのではないかと思います。要するにテレビシリーズをぶっ壊すという。これ、誰かがブログか何かで書いていたのをそのまま拝借しているのですが、リンチ監督の作家性、もしくは映画への意気込みを表現しているという点で、僕も同意見でしたのであえてパクらせていただきました。放送が終わり、砂嵐になっているテレビを叩き壊す。そこから物語が始まる。めちゃめちゃシビレるじゃないですか。

 

◆スクール・バス 

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そして、問題のスクール・バス!「The Entire Mystery」の特典映像「『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』の思い出」内で小道具係のマイク・マローンとサウンド・ミキサー係のジョン・ハックが驚愕のネタバレをしていましたが、このスクール・バスは娼婦を運ぶバスだったことが判明!バスの中で泣き叫んでいた少女たちは、チェット・デズモンド捜査官がいなければ、どこかで売り飛ばされていた女の子たちだったのです!それをあのシーンだけで理解しろなんて、いくらなんでも無理でっせ、リンチ監督!

さらに、このシーンには二重の意味があります。もともとの脚本にはクリス・アイザックが演じたデズモンド捜査官なんて存在は皆無で、全てクーパー捜査官を主体に脚本が書かれていたようです。それをカイル・マクラクランが断ったという話は有名ですが、そこから創作されたのがデズモンド捜査官であり、彼の行動はクーパー捜査官がしていたであろう行動にもなるのです。となると、この大量の売春スクールバスに詰め込まれた少女たちを魔の手から救い出したというシーンと、近親相姦の果てに実の父親に殺されてしまったローラが見事に対比しています。クーパー捜査官=デイヴィッド・リンチは、やはりローラ・パーマーを悲劇から救い出したかったのです。

 

◆好奇心の強い女性

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先のFAQサイトの "F.25" でも触れられている氷嚢を右目に当てたこのおばあちゃん。クレジットには "The Curious Woman" とあります。直訳すると "好奇心の強い女性" 。実はこれデイヴィッド・リンチ本人ではないかと言われていましたが、どうやら噂で終わったようです。その証拠が下記のサイト。まあ、似てると言えば似てなくもないですけどね。

Curious Woman interview - David Lynch

僕がここでピックアップしたいのは、ピーカー達がひねり出したアナグラムです。氷嚢ばあちゃんを演じた Ingrid Brucato という女優が存在していなかったため、ピーカー達はそこから "c in our drag bit" (我らが女装の男C) とアナグラムしました。この "女装の男" と聞いてピンときた方は、かなりの The Return 中毒者だと思うのですが、そうです、The Return 第15章に登場したあの女性です。

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その名を "Bosomy Woman" (胸の豊かな女性) 。演じていたのは Malachy Sreenan という男優でした。悪クーパーをフィリップ・ジェフリーズの部屋に案内した、この女装した男性が上記の氷嚢ばあちゃんへのリンチ監督からの解答ではなかろうか?と思うのです。あんたら、人のことを女装した女装したって、女装っていうのはこういうのを言うんやで!みたいな。

いずれにしても、氷嚢ばあちゃんもボソミー君もぜんぜん意味がわからないキャラクターという点で共通しています。そして、意味がわからないからこそ、不安感というか拒絶感のようなものを漂わせているのです。そう、意味なんていらないんです。そこに存在している、それだけで十分なんです。

 

◆J・エドガー

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さて、彼は誰だ?と思われるかもしれませんが、アメリカ連邦捜査局の初代長官であるジョン・エドガー・フーヴァーです。クリント・イーストウッドが監督した映画「J・エドガー」でディカプリオが演じていたのが彼になります。なんで急にそんな人が?と思われるかもしれませんが、カット集「The Missing Pieces」の中で彼の名前が出てきます。テレサ・バンクスの遺体をポートランドに移すため、デズモンド捜査官はディア・メドウの怪力保安官ケーブルと殴り合いの対決をするシーンがあるのですが、そこで一言デズモンド捜査官がつぶやきます。「これはJ・エドガーの分だ」

FBI初代長官のエドガー・フーヴァーは盗聴やスキャンダルを利用して歴代の大統領たちを脅迫、マフィアとも裏でつながり、果ては同性愛者でフリーメイソンのメンバーだった人物のようです。こうやって書くと、なんだかスゴイ人のようですが、ここ日本ではあまり知られていない人物です。デズモンド捜査官が「J・エドガーの分だ」と言ったのは、お前らFBIをなめんじゃねえぞという意味と、ケーブル保安官の隠蔽体質がエドガー・フーヴァーのようであり、それに対しての怒りの鉄拳だったのではないかと推測します。

1990年前後は「ツイン・ピークス」や「羊たちの沈黙」などでFBIという組織が広く世間に知られた頃のように思うのですが、いかんせん、それまでのFBIのイメージが先のゲシュタポや秘密警察じみた組織のイメージだったのかはわからないです。

「The Return」の第18章、オデッサの「ジュディの店」で、リチャード捜査官が「私はFBIだ」と言った途端、ウェイトレスの娘はビビっていました。まるで戦時中に「私は憲兵だ」と言われているような感じだと思うのですが、そのイメージを払拭したのが「ツイン・ピークス」であり「羊たちの沈黙」だったような感じもします(ちなみに「ジュディの店」のウェイトレス役はイーストウッドの娘さんでした。J・エドガーつながりではもちろんないと思いますが、リンチ監督のユーモアセンスはいかようにも解釈できるという一つの好例だと言えないでしょうか)。

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さらに、この青いバラ特捜チームと一緒に写っている額に入った写真の人物、誰かわかりますか?僕もいろいろと調べてみたんですが、どうも明確な答えが出てきません。ですが、たぶん、この方ではないかと思います。

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第34代アメリカ大統領 ドワイト・D・アイゼンハワー。不思議なのは「The Return」のラスベガスFBIの壁にもアイゼンハワー元大統領の写真が飾られていたことです。これは何を意味するのか?

遡ること73年前、第二次世界大戦にて日本の敗戦が目に見えて濃厚になった際、それでも原爆投下を計画していた当時の大統領トルーマンに対して、まだ軍人だったアイゼンハワーは断固として原爆投下に反対。大統領就任後もソ連との冷戦を解決するために「平和のための原子力」演説を行い、退任演説で語られた軍産複合体への批判は映画「JFK」の冒頭でも使用されています。ドナルド・トランプが大統領になった今、密かに再評価されつつあるのがアイゼンハワー元大統領の平和的外交への手腕だそうです。

その一方で、ブルーブック計画などMJ-12(宇宙人問題)の主導権をアメリカ主体からロックフェラー家に譲渡してしまった張本人とも言われています。探ろうと思えばいくらでも出てきそうな感じではありますが、僕的にはリンチ監督の平和主義のアイコンとしてアイゼンハワー元大統領を掲げたのではないかと思っています。

 

◆クリス・アイザックとクリスタ・ベル、そしてデヴィッド・ボウイ

歌手であるということ、そしてリンチ監督の大のお気に入り、さらには三人ともFBI捜査官の役という点で、かなりの共通項があります。クリス・アイザックについては、先述したようにカイル・マクラクランのわがままが故に創作されたキャラクターであり、結果的には功を奏したのですが、そのオマージュとして「The Return」に登場したのがクリスタ・ベルになりそうです。リンチ監督的には、せめて "BANG BANG BAR" に登場させたかったかもしれないクリス・アイザックですが、失踪したFBI捜査官が場末のバーで歌を歌った日には、ジェームズ以上の憤懣が飛び出そうではあります。

 

◆"6" の電信柱と "7" のエレベーター

「The Return」でも不吉の象徴、電気の象徴として描かれていた "6" の電信柱。劇場版ではカール・ロッドが管理人を務めるファット・トラウト・トレイラーパーク内にその電信柱が存在します。

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そして、その電信柱の裏には配電ボックスがあり、そこには "7" の表示があります。

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これは "6" から "7" へ分配されていくという意味がありそうなのですが、それを裏付けるのがフィリップ・ジェフリーズが出てきたエレベーターの階表示です。

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「The Missing Pieces」を観るとフィリップ・ジェフリーズはジュディに会うためブエノスアイレスのホテルにチェックインした後、ベルボーイの案内に従いホテルのエレベーターへと向かいます(実際にエレベーターに乗り込むシーンはありません)。そこでシーンは "6" の電信柱のアップになり、そこからコンビニエンス・ストアのミーティングへと流れていきます。実際にフィリップはそのミーティングを目撃した、もしくは参加し、それを報告するため現世に戻ってくるのですが、その出口が "7" のエレベーターになるのです。

"7" という数字は非常に神秘的な数字です。1週間を現わす単位であったり、音階を現わす単位であったり、虹の色の数であったり、"7" という単位がそれだけで "完成" や "完結" を意味することが多いのです。そして、整数を1から順に並べていくと "7" の次は "8" になり無限大を現わし、その先の "9" になると "6" がひっくり返り、無限のさらなる先は摩訶不思議な世界であることを現わしています。

おわかりでしょうか?

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"6" の電信柱から始まり、"7" から出てくる。そして、"8" に向かった先は無限なのです。これは一つのロジックでしかないかもしれませんが、こう定義することはできるかもしれません。ロッジにいる住人たちは "6" と "7" の狭間の世界で暮らし、"8" の先にある世界がオデッサであると。この続きは「第5回『The Return』を振り返る」で語りたいと思います。

 

【第2部:ローラ・パーマー最期の7日間】

◆ローラの1週間を振り返る

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フィリップ・ジェフリーズが突如姿を現わし、デズモンド捜査官が失踪した日のちょうど1年後から、アメリカ北西部の小さな田舎町ツイン・ピークスに住む一人の少女の物語が始まります。まずはその1週間を振り返ってみたいと思います。(青字の項目は「The Missing Pieces」の部分になります)

 

 ----- 1日目 2月17日 (金) -----

 〇自分のことを愚かな七面鳥だと訴える

 〇天使は遥か彼方に行ってしまったと訴える

 〇日記が破かれていることに気づく

 〇母親からスモーカーになっちゃダメと注意される

 〇ハロルド・スミスに日記を預ける

 〇母親から青いセーターを着ちゃダメと叱られる

 〇夕食の席でノルウェー語を練習する

 〇トラック運転手からドラッグを調達する

 ----- 2日目 2月18日 (土) -----

 〇トレモンド婦人から絵を渡される

 〇ボブと父親が同一人物だと気づく

 〇「天使たちは戻ってくる」とヘイワード先生が告げる

 〇自分がマフィンだと認める

 〇絵の中へと迷い込む

 ----- 3日目 2月19日 (日) -----

 〇シーリングファンに不敵の笑みを浮かべる

 〇ロードハウスに繰り出す

 〇クラブ「権力と栄光」でドラッグパーティ

 ----- 4日目 2月20日 (月) -----

 〇片腕の男にあおられる

 〇テレサの指輪と片腕の男の指輪に気づく

 ----- 5日目 2月21日 (火) -----

 〇今日はジョニー・ホーンの誕生日

 〇ボビーとドラッグの取引場所に行く

 〇殺人現場に居合わせ死を目の当たりにする

 ----- 6日目 2月22日 (水) -----

 〇ボビーからお金を貸金庫に入れるよう頼まれる

 〇ジェイムズの夜の誘いを断る

 〇ジャコビー先生から電話がかかってくる

 〇ボブが父親であることを目の当たりにする

 ----- 7日目 2月23日 (木) -----

 〇父親への嫌悪感を露わにする

 〇ボビーからドラッグを調達する

 〇ジェイムズを迎えに寄こす

 〇絵から天使が消える

 〇山小屋へ

 〇ボブに殺される

 

さて、これらの物語から何を読み取ることができるでしょうか?リンチ作品を精神科医の現実的な視点から読み解いている華沢紫苑さんは、統合失調症精神疾患にかかってしまったローラが、父親との近親相姦を認めたくないためにボブという幻を創り出したという説を発表していました。ボブという幻が父親であることを受容していく物語なのだと。これも一つの見方だと思います。

内藤仙人さまは、華沢先生とは逆にボブという脅威からローラが解放されるまでの過程を描いた作品だと言っています。これは男性視点、女性視点の違いでもあるかと思いますが、どちらかというと精神解放を訴えたい内藤仙人さまらしい読みだと思います。死こそが精神や魂の解放であり、その解放をどう迎えるために今をどう生きていくのかという。

では、僕的にはどうなのかというと、冒頭にも書いたように、ただただ悲しいのです。自らをアホな七面鳥だと語り、親友と言っても心を開くわけでもない、母親は小うるさいし、父親は夜な夜なやってくる。同級生はみんな自分とやりたがるし、大人たちだって同じ。心も身体もボロボロな状態になっているところに、ボブなんていう訳のわかんないおっさんまで出てくる。こんな状況なら鬱病になってもおかしくないし、苦しみからの解放を求めるのだって当たり前。そんな姿を僕たちは2時間近くも観ていなければいけないのです。しかも結末を知っている状態で。

ラストの天使が登場するまでの救いのなさは、当時のデイヴィッド・リンチの精神の投影ではないかと思います。リンチ監督はローラ・パーマーの中に自分を見い出し、そこからの救いを模索するために作品を作り上げた。もがき苦しんでいたのはローラ・パーマーだけではなく、リンチ監督も同じようにもがき苦しんでいたのです。なので、テレビシリーズのようなユーモアは鳴りを潜め、どこまでもシリアスで、暗いトンネルを進んでいるような閉塞感に包まれているのです。そして、そこから見い出した解答が天使だった。最後に光を見い出すことによって、リンチ監督も救われたのではないかと思うのです。その精神的な過程を辿るという意味で物語を観ると、なるほど秀逸だとは思うのですが、ただ、その結末が "死" であることには変わりなく、やはり悲しい気分になってしまいます。せめてボニー&クライドのように、何か突き抜けた感じがあれば、まだ観ていて悲しくならないのですが、もがき苦しむだけのローラはやはり観ていて辛いのです。

 

◆ブリッグス少佐の朗読

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さて、辛い辛いと言ってても仕方がないので次に行きましょう。劇場版ではカットされていたブリッグス少佐が登場の場面です。ここで彼は聖書を朗読しています。朗読している箇所はヨハネの黙示録第11章~14章までになります。詳細については下記リンクへ。

Revelation / ヨハネの黙示録-11 : 聖書日本語 - 新約聖書

特に印象的なのが "1260日間" という単語です。この数字は聖書の解説によると悪魔が活動する期間のことを指すらしく、暗にロッジの住人達の暗躍を仄めかしています。さらに聖書の朗読は、血の海が辺り一面300キロに渡って広がると続きます。これらはローラの今後と、その後のロッジの不気味さを際立たせると同時に、ツイン・ピークスという物語が "神と悪魔の戦い" を描く、一種の神話性を孕んでいることをも指し示しているのです。

 

◆アニー・ブラックバーン

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「The Missing Pieces」ではロッジから救出されたアニーのその後が描かれています。「ファイナル・ドキュメント」では、さらにその後のアニーの人生が描かれていますが、劇場版でもローラの夢に登場しています。ですが、ここで気になるのがその服装です。なぜ、キャロラインと同じ服なのでしょうか?

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ツイン・ピークスの最終話では、キャロラインもアニーもわからなくなるほどクーパーは混乱していましたが、「The Return」を経た今となっては一つの仮説が浮かび上がってきます。

キャロライン=アニー=ダイアン=ジェイニーE。

さてトンデモ理論の始まりです。根拠はありません。ただどうもおかしいのです。特にダイアンの存在です。そして、キャロラインがパッと見、ローラ・ダーンに見えるのもあながち狙っているんじゃないかと思うのです。さらには「The Return」でクーパー=ダグラス・ジョーンズという定義が確定したのなら、ダイアンもジェイニーEも、果てはアニーさえも一つの肉体の中に同時に存在していても不思議じゃないような気がするのです。そして、夢の中と言えども、ローラとクーパー、そしてアニーが出会っているという事は、集合的無意識の世界で出会っている、となると、そこにキャロラインの魂もダイアンの魂もあってよさそうに思えてしまうのです。(詳細はツイン・ピークス The Return 考察 第7章 PART.1 失われたローラ・パーマーの日記を徹底解読!次元のゆがみがハンパないっ!

 

◆ジュディ

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さてラストです。冒頭のFAQサイトにも記載されていますが、映画のラスト、無事クリームコーンを手に入れた小人のあとに、猿が登場し、小さな声で「ジュディ」と呟いています。この『ローラ・パーマー最後の7日間』という映画の最後の台詞が「ジュディ」で終わるって、あまりにも面白すぎます!映画公開前は上手くいけばシリーズ化したいと目論んでいた節があるので、「ジュディ」がその伏線であった可能性は十二分にあると言えるでしょう。そして、それは「The Return」にちゃんと継承されていました。

さて、このお猿さんですが、フィリップ・ジェフリーズが登場する一連のシークエンスで、仮面を被ったトレモンド婦人の孫が、一瞬、このお猿さんになってしまうシーンがあります。仮面自体はジャンピングマンを現わしていると言えそうなので、その中身がこのお猿さんになると解釈することもできそうです。

ただ、悪魔の中に猿がいるというのはどうも解せないのです。どちらかと言うと、このお猿さん、どこかに閉じ込められていて、そこから助けを求めるために「ジュディ」とつぶやいたような印象があります。

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そこでコレです。なんでいきなり絵馬なんだ!と思われるかもしれませんが、仏教が伝来してきたインドでは、猿は馬を導く使者であるとされているようなんです。西遊記でも三蔵法師が乗る馬を導くのは孫悟空という猿ですよね。その名残が日本の絵馬にも残っているという。猿と馬。おわかりですか?

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これですよ、コレ。白い馬。「The Return」でも登場していましたが、この馬、完全に "死" の象徴とされているのです。となると、それを導くお猿さんとなれば、"死" を導く、もしくは操る存在と深読みできるじゃないですか。そして、その存在が「ジュディ」になり極めてネガティブな存在になりますと。

さて、ジュディの正体に迫ることができるのか?続きは第2回のインターナショナル版の考察になります!

 

巡礼の旅シリーズ 第2回「インターナショナル版」

『エクソシスト』と『ツイン・ピークス』の素敵な共犯関係

このまったりな正月を利用しまして、今さらですが、先日WOWOWで放送していた『エクソシスト -劇場公開版-』を初めて鑑賞しました。もちろん『エクソシスト』という作品も悪魔祓いという内容も前から知っていたのですが、なんでしょう、番組予約をしている時になんか気になって、急にちゃんと観たくなったんです。

映画公開は1973年、今から45年も前の作品になります。さすが名作として名高いだけあって、重厚感漂う雰囲気が非常に魅力的な映画でした。映像もリマスターでキレイに処理されているので古臭さを感じないし、イラクやニューヨークの地下鉄など各シーンのカットがどれもカッコいい。究極はやっぱり映画ポスターにもなっているこれ。

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こういう雰囲気、たまらなく好きですわ。なんだろう、昔、映画のチラシを集めてクリアファイルに収納していたのを急に思い出してしまいました。雑誌「ロードショー」の巻末とかにもそういうチラシの通信販売みたいなページがありましたよね。懐かしい。よく集めてたなぁ。

で、去年から完全に頭が『ツイン・ピークス』になってしまっている僕は、この『エクソシスト』に『ツイン・ピークス』との妙な共通点、いや、『エクソシスト』から拝借したであろう点があることに気づいてしまったのです。しかも『ツイン・ピークス』の中でも結構な感じで重要な部分が、この『エクソシスト』で既に描かれていたのです。中には「今さら?」と言われる部分があるかもしれませんが、はい、ホラーとかそういう類の映画は完全に避けて生きてきたので、今さら気づいちゃったわけです。ではでは、マーク・フロストは『エクソシスト』から何を拝借したのか?さっそく語っていきましょうか、姐さん。

 

1.パズズとベルゼブブ

エクソシスト』で悪魔に "憑依" されてしまった少女リーガン・マクニール。彼女に憑依した悪魔はライオンの頭と腕、鷲の脚、背中に4枚の鳥の翼とサソリの尾、更にはヘビの男根を隠し持つという悪魔パズズだと言われています。大神官ハーゴンが産み出した、ザラキを多用し最後はメガンテまで仕掛けてくるあのやっかいな強敵です。...、...、...。すいません、それはバズズですね。その元ネタと言われている悪魔がパズズだそうです。

映画の冒頭で遺跡から発掘されたのがパズズ頭部の彫像であったり、ランカスター・メリン神父がイラクを旅立つ前に対峙したのがパズズの全身像であったりと、物語は、これから出てくる悪魔はこのパズズなんだよと懇切丁寧に教えてくれるのです。

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※男根を隠し持つという割にはどこも隠れていないという...

しかし、Wikipediaを見ても映画ファンのブログを見ても『エクソシスト』に出てくる悪魔はパズズではなくベルゼブブだと言うんですね。どういうこっちゃ?と思うんだけど、要点は三つあって、一つは悪霊のボス的でキング的な存在がベルゼブブであってパズズはそこまで力がないからお役御免だということ、もう一つは原作の元ネタの一つになった1565年に起きた「ランの奇跡」という事件を起こしたのがベルゼブブだからというもの、最後は姿が蝿だとカッコつかないから見かけはパズズにしたというもの。

いずれにしても『エクソシスト』で少女に憑依した悪魔はベルゼブブということになるらしいのですが、これ『ファイナル・ドキュメント』でも同じ悪魔が出てくるのです。しかも「ジュディ」の項目でこれ見よがしに出てくるあたり、マーク・フロストの中では "極めてネガティブな存在" は "悪魔" ということでどうやら決まったみたいなんですね。しかもですよ "シュメール神話" まで出してくるあたり、もう一般の人には到底ついていけない領域にまでぶっ飛んでってしまってるのです。こんなん『The Return』を観ただけで理解しろって言うほうが無理な話で、いくらヘイスティングス校長が膨大な文献を読み漁ったという設定だとしても、一般視聴者は普通に置いてけぼりを喰らうだけなのです。

では、ベルゼブブっていったいどんな悪魔なの?って話なんですが、これがまた難しいところでして。ジュディ(JUDY)が結局はジョウディ(JOUDY)だったように、ベルゼブブも元はバアル・ゼブルという神だったらしいのです。その神がなんの因果かバアル・ゼブブ(蝿の王)と蔑まされるようになり、果ては悪霊たちの王になってしまうという。なんでしょう、『もののけ姫』でいうとタタリ神になってしまった猪神 "オツコトヌシ様" みたいな。毛色が違いますが『ドラクエ9』のラスボス "エルギオス" みたいなとでも言いましょうか。いずれにしても「善」だったものが「悪」になってしまう構造がここに介在していて、その変換点には何かしらのドラマが存在していたように見えるのです。

そういう視点で見ると『エクソシスト』も「善」であるはずのリーガンやカラス神父が「悪」に取り込まれ、ある意味での復讐心を満たしていく姿が垣間見えますし、『ツイン・ピークス』でいうなら「善」であったはずのクーパー捜査官が「悪」のドッペルゲンガーとして群雄割拠していく姿を描いたのが『The Return』であるとも言えるのです。

 

2.悪魔の言葉

女優のクリス・マクニールは一人娘のリーガンを助けるべくデミアン・カラス神父に悪魔祓いの依頼をします。聖職者でありながら精神科医でもあるカラス神父は、悪魔などいないと懐疑的で、変わり果てた少女を現代的な方法で救えないかと模索します。そのうちの一つがただの水道水を聖水だといって降りかけて相手がどう出るかを探るというものでしたが、ものの見事に相手はひっかかり、カラス神父は余計に少女に憑りついているのは悪魔ではないと確信します。しかし、その際に意味不明な言葉を発していたのが気になり、あらかじめ会話を録音していたテープを言語研究所に持っていき分析してもらいます。

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※ローマ字で「TASUKETE!」と書かれているのが当時スゴイ衝撃だったらしい

テープを聞いた分析官はいとも簡単に「これは英語だ」と解読します。意味がわからないでいるカラス神父に「こうすればわかる」と分析官はテープをなんと逆再生します。すると「時間をくれ。彼女を殺せ。おれは誰でもない。神父を恐れろ。メリン」と会話が聞こえてくるのです。

頭が完全に『ツイン・ピークス』になっている僕は驚愕しました。なんやねん!ロッジ言葉って、これが元ネタなんか!と。しかも、悪魔の言葉が逆再生って、これをこのままの意味で汲み取るならロッジの住人たちはみんな悪魔ということになります。いや、そうしてしまうと逆さ言葉を使っていた "消防士" までが悪魔ということになっちまいますんで、そこは "あちらの世界" で留めておいた方がいいかもしれません。いずれにしてもビックリ仰天でした。

エクソシスト』がただのオカルト映画で終わらない魅力がここにあります。カラス神父をはじめ、リーガンを診察する医師たちも、みんながみんな悪魔に対して医学的な方法で解決を試みているのです。レントゲンを取り、脳髄液を採取し、精神療法まで試みる。嘘の聖水を降りかけたり、会話を録音して分析したりする。そして、それらはことごとく覆されてしまう。その最後の頼みの綱が "悪魔祓い" だという構成が見事なのです。

ツイン・ピークス』の旧シリーズを見るとクーパー捜査官の調査方法というのは『エクソシスト』のそれとは真逆の方法でした。石を投げて誰に当たるかで犯人を特定する。夢で見たことをそのまま現実に持ち込む。果ては幻で現れた人物が全てをぶっちゃけてしまうという。FBIの "特別" 捜査官なのに何一つ科学的なことをしていないというこの不条理。この笑っちゃうほど現実離れしていて、行き当たりばったりなおとぼけ具合がクーパー捜査官の最大の魅力だったわけです。そうなんです。これはこれでちゃんと成立していたんです。そして、それは『The Return』でも継承されるだろうと誰もが思っていたはずなのですが、蓋を開けてみたら捜査どころか思考までストップしてしまったというね。

エクソシスト』の原作者であるウィリアム・ピーター・ブラッティも、監督のウィリアム・フリードキンも、この映画をドキュメンタリーのような作品にしたいと思って制作したようなので、そこでもリンチ&フロストの立ち位置とは完全に真逆なわけです。原作者で脚本家でもあるブラッティは1948年に起きた「メリーランド悪魔憑依事件」を基に小説を執筆したそうなので、そのリアリティには並々ならぬものがあるのも頷けます。

 

3.悪魔との戦いの行方

エクソシスト』のクライマックス "悪魔祓い" について、今さら僕がどうのこうの言うあれもないので割愛しますが、妙に『ツイン・ピークス』とリンクするなぁと思うのが、リーガンに憑依した悪魔がカラス神父に乗り移ってしまうというラストです。これ、旧シリーズのラストでクーパー捜査官に憑依したボブと被るような気がするのです。そして、どちらも少女を悪魔から守るために自らを犠牲にしている。いや、そんなキレイなものではないですね。どちらも己の中にある悪魔性(罪悪感)を認めるのです。

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※建物に落書きされている「PIGS」が意味深すぎます

カラス神父はもともと聖職者の仕事を辞めたいとボヤき、お金がないために最愛の母を劣悪な施設に追いやることになってしまい、その結果の母親の死は自分に責任があると思い込んでいました。そんな折に悪魔祓いの依頼が舞い込み、リーガンの身体に現れた "help me" というメッセージに突き動かされ、辞めたかった聖職者の立場で少女を救い出そうとします。そして、最後は自らの罪を悔い改めるかのように悪魔と共に階段を転げ落ちていきます。

自らを犠牲にして少女を救ったという面も確かにありますが、それよりも自らの中にある悪魔性、どこかで少なからず母親を疎ましく思っていた事、施しを求める乞食を見て見ぬ振りした事、果てはどこか厭世的な自分に対する虚無感を、最後の最後に全て自分に対する怒りとして悪魔と対峙した結果ではないかと思うのです。カラス神父は悪魔の中に自分の姿を見たのです。まるで鏡写しのように。

片やクーパー捜査官はと言うと、ウィンダム・アールの妻キャロラインとの不倫から始まり、テレサ・バンクス事件からローラ・パーマー事件を予測していたにもかかわらず未然に防ぐことができなかったこと、オードリーを事件に巻き込んだり、アニーまでが自分のせいで被害者になりかかったことなどが、アールに魂を差し出す決断へとなだれ込んでいきます。カラス神父のそれと比べると、やはりクーパー捜査官のそれは行き当たりばったりな、その場限りな印象を受けますが、相手に対して自分を見るという点では同じだと言えます。その懺悔の巡礼が『The Return』であり、懺悔の最果てがローラ救出、その結果は "HOME" 家までを失う結果になってしまいました。

ドラクエのように悪魔を退治して世界に平和が訪れました的な世界ではなく、悪魔と対峙したことにより自らを一度滅ぼさなければならないという結末が、この二作品のどちらにも描かれています。それは字の如く "死" をもって自らに打ち勝つという意味に読み取れるのですが、その "死" は観念的なものであって、要は過去の自分を一度清算しなければいけないということだと思うのです。ゼロにするとでも言いましょうか。それには何かしらの犠牲が伴うと。

悪魔は向こうにいるのではなく、自分の中に巣食っているのだと。向こうに悪魔が見えた時、それは自分の鏡写しなのだと。それと対峙する勇気があなたにはあるか?そんなメッセージをビシビシと感じてしまったのです。

 

なんか、正月早々、めちゃくちゃ考えさせられてしまいました...。

 

ツイン・ピークス The Return 考察 総論 (第1章~第18章) まとめ解説 これは未来か、それとも過去か?

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WOWOWの放送が終了してから早いもので半月が経とうとしています。海外では既にブルーレイボックスが発売されていますが、ここ日本ではボックス発売もレンタル解禁のアナウンスもなんにもない状態。amazonを見てもDVDボックスしか扱ってないし、WOWOWが終わったらすぐにアナウンスがあるかと思ってたら、なかなかな無風状態が続いています。『The Entire Mystery』みたいにインポートでも日本語字幕があれば言うことなしなんですが、どうもその辺で大人の事情が絡んでいそうな雰囲気です。早く8時間だか6時間だかもあるらしい未公開集を見たいんだけど、簡単に価格が3万円だ5万円だなんて言われると、じゃあ見なくてもいっか、なんかめんどくせぇ国だなって感じにもなりそうです。

12月22日に発売される『ファイナル・ドキュメント』で新たな解釈が判明されるかもしれませんが、それも結局はフロスト論になるので、リンチ的にどう解釈するかは現段階でWOWOW放送分を振り返るしかありません。ていうか、そもそもリンチを解釈することは可能なのか?という大命題がありますが、いいんじゃないですか、自分の好きなように解釈すれば。100人いて100通りの解釈があれば100通りの正解があるんです。それがデヴィッド・リンチの作品ってやつじゃないですか。意味不明で斬り捨てるのも正解だし、ループしてるんだと解釈するのも正解、これは全部 "夢" なんだと腑に落ちるのも正解なんです。まあ、こんな風に言ってしまうと、自分の解釈も正解なんだぜ!って自分で自分を擁護してるみたいでなんとも間抜けな感じもしますが、まあ、好きに語らせてください。正直なところ、毎回毎回他のブログとか見て回るのが結構楽しみだったりしたんですよ。こういう解釈の仕方もあるんだなとか、言われてみるとそのシーンって重要だったねとか、自分の解釈と比べるのが面白かったんです。それが放送が終わった途端に誰も更新しなくなったもんだから、なんか寂しくなっちゃったみたいな。

そんなわけで、姐さん、前々から言ってた総論というやつをちょいと繰り広げてみようかと思います。「総論」なんて言ってしまうとおこがましいというか、大げさな感じもしますが、単純に1章から最終回までをまとめて語ってやろうじゃないかというお話です。では、さっそくいってみましょうか。

 

1.A RANCHO ROSA

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なにげに毎回毎回ワクワクしてたのがオープニング・クレジット。今回は何色だろ?と思って見ていたのですが、1章から18章までを並べてみるとこんなに違います。ちなみに左上から順に始まり右にカウントアップしていきます。この中で明らかに異色なのが、

第14章 真っ黒

第17章 真っ白

第18章 真っ黒

この3つです。特に14章と18章が同じというところに何かヒントが隠されていそうな感じがします。振り返ってみると14章では「青いバラ事件」が語られ、モニカ・ベルッチが "夢見人" を語り、ジャック・ラビット・パレスが(たぶん)ホワイト・ロッジへの入り口だとわかった回でした。他にもダイアンとジェイニーEが姉妹だと判明し、消防士がアンディーに「ツイン・ピークス」という物語の全てを明らかにし、さらにセーラが顔パッカーンしてトラック・ユーを噛み千切った回でもありました(ツイン・ピークス The Return 考察 第14章 根幹)。こうやって書くとなかなかにてんこ盛りな感じですが、それが18章と共通しているというのはどういうことなのか。

素直に解釈するなら最終話で描かれていたものは、

 ①青いバラ事件の顛末

 ②夢見人の夢

 ③ホワイト・ロッジ

以上の3つが描かれていたのではないかと。どれも重要な項目なので詳細については後述しますが、最終話に全てが描かれていると僕が豪語したのにもここに理由があります。

オープニング・クレジットでもう一つ重要なのが17章の真っ白です。一般的な解釈は「17章と18章が対になってるからオープニングも白と黒なんやないの」というもの。確かにそれも一理あると思います。17章がフロストverのエンディング、18章がリンチverのエンディングみたいな感じ。その方がわかりやすいし、物語として見ても17章で終わるとループしてキレイに納まって、あとはリンチ世界!みたいな。ですが、そこは内藤仙人さまと一緒で、僕も "十牛図論" を唱えたいと思います。

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前にも載せましたが、この十牛図というヤツがスゴイのが「八番」です。その名も「人牛倶忘」。意味は全てを忘れてしまうこと。忘れるということさえも忘れてしまうという、なにもかも忘れた真っ白な状態を "円" だけで表現しているのです。昔の人というのはホントにスゴイなぁと思います。考え方も突き抜けてれば、なにも描かないなんていう表現まで突き抜けてます。んでもって、これが17章に当てはまるのではないかと。

17章でなにがあったかというと、

 ①2時53分に保安官事務所に勢ぞろい

 ②ぼんやりクーパー

 ③消えるローラの死体

この3つの項目に共通するのが "忘却" というキーワードです。③の死体が消えるというのがわかりやすいと思いますが、ただ殺されずに済んだというだけではなく、ローラの存在そのものが消えてしまった、要するに "何もかも忘れられてしまった" 状態を現わしているのではないかと。では①と②はどうなのかというと、後述する解釈にも絡んでくることですが、「①に勢ぞろいしているキャラたちはみんな存在していない」「②はそれを必死に思い出そうとしている」と僕は見ています。いずれにしても詳細については後述します。

こうして見ていくとオープニングから既に意味が散りばめられていそうな感じがします。他も見ていくと2章と7章が赤いのは、どちらにも "進化した腕" が登場しているからとか、4章と11章の青はそのまんま "青いバラ" にまつわるエピソードがあるとか、13章の緑は "翡翠の指輪" が重要になるとか。こじつけと言われてしまうとそうかもしれないけど、そうは言っても相手はリンチ監督です。オープニングであろうと、表現することには何かしらのメッセージが隠されているのではないかと思うのです。

 

2.ダギー・ジョーンズ

『The Return』を振り返ると結局はDVD&ブルーレイのパッケージが全てを現わしていると言えます。

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ボックスのパッケージを開けるとクーパーと悪クーパーの間にダギー・ジョーンズが現れるのです。リンチやフロストがどこまでパッケージ・デザインに絡んでいるかはわかりませんが、この18時間にも及ぶ大作を非常にシンプルにそして端的にデザインした見事なパッケージではないでしょうか。

ここで提起したいのが『ダギー・ジョーンズとはそもそもなんだったのか?』ということです。WOWOW放送を字幕ありで視聴するとセリフが表示されるのはもちろん、キャラクター名や具体的な効果音まで教えてくれるのでとても便利だったのですが、第1章から一貫していたのが悪クーパーのことを "ダギー・ジョーンズ" と表示し続けていたことです。なのでブログ初期は僕も悪クーパーのことを "ダギー・ジョーンズ" と呼んでいたのですが、途中からクーパーも悪クーパーもダギーになってしまうので訳がわからなくなるやんと悪クーパーに切り替えました。それにしても、なぜ悪クーパー=ダギー・ジョーンズなのか?です。吹き替えの際に公式の脚本みたいなものはWOWOW側にも渡っているはずなので、リンチ&フロストからすると悪クーパーは "ダギー・ジョーンズ" になると見てまず間違いないと言えるのではないかと。

では、ラスベガスのダギーはどんな人物だったかを振り返ってみます。

  名前:ダギー・ジョーンズ

  勤務先:ラッキー7保険(勤務年数 12年)

  事故歴:12年以上前に交通事故を経験

  備考:1997年以前の存在証明が一切ない

素直に読み取ると12年前にダギーは交通事故に遭い、それからドクター・ベンのクリニックに通っていたのではないかと思われます。そして、片腕の男が言っていたことを信じるなら、ダギーは12年前に誰かに造り出された。いつジェイニーEと結婚をし、サニージムが生まれたのかはわからないけど、それでもジョーンズ家という "家族" はラスベガスに存在していた。さらに2016年になると遠く離れたサウスダコタ州でブリッグス少佐の体内からダギーの結婚指輪が発見される。

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誤解を恐れずに語るなら、ブリッグス少佐の体内に結婚指輪が仕込まれたのは悪クーパーが原因であることは間違いないと言えます。なぜなら、ブリッグス少佐の首を刎ね飛ばし、ルース・ダヴェンポートを殺したのは悪クーパー以外には考えられないからです。ヘイスティングスが語っていたゾーンで起きた事件の首謀者は悪クーパーであり、その顛末がこの結婚指輪になると思うのです。では、なぜそう言えるのか?ですが、

①ルース・ダヴェンポートの頭部にできた銃痕とヘイスティングスの妻が殺害された時の銃痕が同じ

②第2章でフィリップ・ジェフリーズが悪クーパーに問い詰めた「ブリッグス少佐に会ったらしいな」というセリフはゾーンでの事件をフィリップも把握していることを暗にほのめかしている

③ダギーの結婚指輪をしていたのは悪クーパーだから

三番目が突飛と思われるかもしれませんし、先ほど "仕込まれた" と言ったばかりじゃないかと突っ込まれても仕方がないのですが、僕が言いたかったのはこういうことです。ゾーンでの事件の時に、ブリッグス少佐は「クーパー、クーパー」と言って消えていったとヘイスティングスは語っていました。となると、ブリッグス少佐は何かしらのヒントを残すために、その時何か行動を起こしたはずです。それが悪クーパーがしていた結婚指輪を飲み込んだ。だから、胃に指輪が残っていたのではないかという読みです。

そこから導き出せるのは、もともとダギー・ジョーンズというのは悪クーパーの偽名だったということです。ジェイニーEと出会い、それが偽装であれ造り物であれ、彼女と結婚をしたのも悪クーパーだった。そして、ラッキー7保険に潜り込む時点でトゥルパであるダギーが造り出された。それはアンソニーの手口のように保険金詐欺を工作するためにであり、そこで生まれた利益が悪クーパーの手元に蓄えられていったという流れです。

ここで一つの疑問が出てきます。だとしたらサニージムはなんであんなにいい子なの?ということです。これについては第18章のテキストで語った通りで、ラスベガスの人たちは非現実の住人ではないかという疑惑です(ツイン・ピークス The Return 考察 第18章 存在への祈り。異世界へのドライブ。電気が消えた!)。ちょっと混乱するかもしれませんが、僕の中ではラスベガスで現実に存在していたのはダンカン・トッドだけなのではないかと思っています。では、先ほどの悪クーパーとジェイニーEの結婚話はなんなんだ?ということですが、振り返ってみてください、ジェイニーEと親違いの姉妹だったダイアンはトゥルパでした。となると、ジェイニーEもトゥルパである可能性が非常に高いです。だとするなら、実際に悪クーパーと婚姻を交わしたジェイニーEは別に存在する、もしくは既に死んでいるのではないかと思うのです。

さらに物語の上でラスベガスの舞台というのは、六道輪廻でいう "天国" の世界、そしてクーパーが十二因縁を経験するための舞台であったと言えるのではないかと思います。ミステリー的な要素が強い『The Return』ですが、そこにリンチ的な "説法" を盛り込むためにラスベガスの舞台が用意された。そのために悪クーパーと転送されるはずだったクーパーはダギーと入れ替わってしまった。物語を追っていくと壊れた夫婦関係が修復され、途切れていた親子関係が改善されていく様子が描かれていました。いわゆる "家族愛" や "人情" がラスベガスでは描かれているのです。それはまるで人生の素晴らしさを謳歌した『ストレイト・ストーリー』をアップデートしたようでもあるのです。そのドラマ効果が第16章の歓喜と感動に昇華されていたのは僕が語るまでもないでしょう。そして、最終回での「帰宅」を手放しに喜べないのは、これらが "造られた家族" の結末だと感じたからです。

 

3.ラスベガス

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では、順を追ってラスベガスで何が起きていたのかを振り返ってみたいと思いますが、一つ気をつけたいのが何度も言うようにダンカン・トッドの存在です。先ごろ発売された『ファイナル・ドキュメント』でも言及されていましたが、悪クーパーのラスベガス組織のトップに君臨していたのがダンカン・トッドであり、彼がラスベガス犯罪の全てを牛耳っていました。なので、ダンカンとその周囲の人物たち(側近のロジャー、ラッキー7保険のアンソニー、ラスベガス警察のクラーク刑事、ダギー暗殺を依頼したロレインとその手下たち)は現実の人物たちということになります。他の人物たちが描かれているシーンはほぼ非現実の世界であり、ある意味では現実とシンクロしている状態にあります。それも含めてラスベガスのシーンを振り返ってみたいと思います。

 

【第2章】

◆ダンカン・トッドにダギー暗殺の命令が下される

◆ロジャーを呼び出し、ロレインにダギー暗殺の依頼をする

【第3章】

----- 1日目 (9月24日)-----

◆空き家で逢引きしているダギーとジェイド

翡翠の指輪をしていたダギーが赤い部屋に飛ばされる

◆クーパーがコンセントから転送されてくる

◆ジェイドの車で空き家を後にする

◆ジーン&ジェイクが暗殺失敗

◆シルバーマスタング・カジノに到着

◆メガ・ジャックポットを連発

【第4章】

◆ビル・シェイカーに家の場所を教えてもらう

◆支配人から現金を受け取る

◆リムジンで赤いドアの家まで送ってもらう

◆フクロウが鳴きながら飛び去っていく

◆ジェイニーEの平手打ち、首根っこをつかまれる

◆"3日間も行方不明" だった元ダギー・ジョーンズ

----- 2日目 (9月25日)-----

◆サニージムと対面

◆ホットケーキの朝食(フクロウの置物)

【第5章】

◆ダギー暗殺の失敗がロレインに報告される

◆ジェイニーEに仕事場まで送ってもらう

◆窃盗団が元ダギーの車に目をつける

ラッキー7保険に到着

◆ミーティングが始まり、アンソニーの嘘報告を告発

◆社長室に呼び出され大量の事件報告書を渡される

◆カジノの支配人がロドニーにボコられる

◆キャンディの右手ヒラヒラ

◆窃盗団の3人が車の爆発で焼け焦げる

◆119のヤク中ママが眠りから覚める

◆ジェイドが315号室のホテルのカギをポストに投函

銅像の靴を眺めているクーパー

【第6章】

◆警官に家まで送ってもらう

◆サニージムとのふれあい

◆ジェイドとの不倫がジェイニーEにバレる

◆電話が鳴る

◆借金取りとアポを取り付ける

◆事件報告書に落書きをする

◆ダンカン・トッドに赤いスクエアの連絡が届く

◆爆発した元ダギーの車がレッカーされる

◆スパイクに白い封筒が届く

----- 3日目(9月26日) -----

◆出社するクーパー

◆事件報告書の落書きを理解するブッシュネル社長

◆借金取りに半額の2万5000ドルを払う

◆ロレインを刺殺するスパイク

【第7章】

◆フスコ3兄弟がクーパーの取り調べにやってくる

◆スパイクの暗殺をクーパーチョップで撃退

◆進化した腕が現れる

【第9章】

◆ダンカン・トッドに悪クーパーから電話がかかってくる

----- 4日目 (9月27日)-----

◆ダギーの1997年以前の存在証明がないことがわかる

◆クーパーのDNAを採取するフスコ3兄弟

◆コンセントを意識するクーパー

◆スパイクが逮捕される

【第10章】

◆キャンディがロドニーをリモコンでぶちのめす

◆ドクター・ベンのクリニックで診察を受ける

◆ミッチャム兄弟、テレビでスパイクの逮捕を知る

ジャックポットを出したクーパーの居所が知れる

◆リビングテーブルに黒電話

◆欲情したジェイニーEがクーパーにまたがる

----- 5日目(9月28日) -----

◆クーパーにメロメロなジェイニーE

◆ダンカンに呼び出されるアンソニー

◆ミッチャム兄弟にクーパーをけしかけるアンソニー

◆ミッチャム兄弟、クーパーをぶち殺す決心をする

【第11章】

----- 6日目 (9月29日)-----

◆ミッチャム兄弟のアポを説明するブッシュネル

◆ブラッドリー、一晩中夢を見ていたと語る

◆サイモンズ・コーヒーに行くクーパー

◆迎えのリムジンに乗ってミッチャム兄弟のもとへ

◆ブラッドリー、夢の話を繰り返す

◆ロドニーの左頬の傷が直っている

◆幸福のチェリーパイ

◆バーでジャックポットばあさんと再会

【第12章】

◆サニージムとキャッチボールをする

【第13章】

----- 7日目(9月30日) -----

◆ミッチャム兄弟たちと会社に戻るクーパー

◆アンソニー、ダンカンから見切られる

◆ジェイニーEのもとに新車のBMWと遊具セットが届く

◆「まるで天国にいるみたい」

◆フスコ3兄弟、クーパーのDNA結果をポイ捨て

◆アンソニー、クラーク刑事からトリカブトを入手

----- 8日目(10月1日) -----

◆新車のBMWで会社まで送るジェイニーE

◆アンソニー、クーパー暗殺を断念

◆アンソニー、ブッシュネル社長に懺悔

【第14章】

◆ラスベガスFBIにゴードンからダギー情報収集の命令が下る

【第15章】

◆ラスベガスFBI、別のジョーンズ一家を逮捕

◆ダンカン・トッド、シャンタルに射殺される

◆ハッチ&シャンタル、バーガーを食べて火星を見つめる

◆クーパー、コンセントにフォークを差して感電

【第16章】

----- 9日目(10月2日) -----

◆ラスベガスFBI、クーパーの家に到着

◆入院しているクーパー

◆ハッチ&シャンタル、会計士に殺される

◆クーパー復活

◆ロドニー、黒電話でクーパーの依頼を快諾する

◆新車のBMWで颯爽とカジノに向かう

◆シルバーマスタングでのお別れ

◆リムジンでツイン・ピークスに向かう

【第17章】

◆ラスベガスFBI、クーパーの居場所を突き止める

◆ブッシュネル社長、ゴードンにメッセージを伝える

【第18章】

◆ダギーが家に帰る

 

ちょいと長過ぎてしまいましたが、これでわかり易くなったと思います。クーパーがダギーとして過ごした期間は約1週間であり、映画「FIRE WALK WITH ME」とうまいこと対になっています。そして、それが非現実の世界だと断言できるのが "フクロウ" の存在と "電話" でのやり取りです。この中で携帯やスマホでやり取りをしているのはダンカンとロレインとその手下、ラスベガスFBI、そしてブラッドリーが自家用機をチャーターしている時だけです。フクロウについては『The Return』の中で登場したのはラスベガスのみ。これは明らかにクーパー/ダギーが非現実の世界で仮想家族との愛を経験するためだけに造り出された世界であると読み取れるのです。

非現実と現実が交錯している世界ではありますが、それも『The Return』の特徴であり、内藤仙人さまの理論を拝借するなら「生と死の狭間の世界」であるから、現実が非現実に干渉することが可能なのです。ゴードンの言葉を借りるなら「現れたけど、現れなかった」世界。ローラの言葉を借りるなら「私は死んでいる、でも生きている」ということになります。そして、その理論が最終回のオデッサで爆発します。現実と非現実だけではなく、時も人も滅茶苦茶にミックスされている世界がオデッサなのです。映画「インターステラー」で10次元の世界が視覚化されていましたが、超ひも理論アインシュタイン相対性理論を下敷きにした物語という点で『The Return』も多次元の世界を映像化した作品だと言えるのです。そのヒントはヘイスティングスのホームページ「ゾーンを探して」にもここかしこに記されていました。要は次元の階層が幾重にも重ねられている世界なのです。その中で語られているのは「インターステラー」と同じ "愛" についてでした。

 

4.オデッサ

『The Return』の最大の謎が最終話のオデッサであることは間違いありません。前述したように第17章で終わっていれば上手い具合にループして物語もとりあえずまとまったように見えます。それがそうならなかったのは単純に "それでは物語が終わらない" から。なぜループで終わることができなかったのか。

発売された『ファイナル・ドキュメント』を読むと第17章の保安官事務所に到着した後、タミー・プレストン捜査官は一人ツイン・ピークスに残り、アルバート曰く "超多次元なクソ事件" の後始末をしていたようです。当事者が "超多次元" と言っている時点で、やはりいくつもの次元の階層があるということが明らかになったわけですが、ここで注意したいのが「青いバラ事件」が全ての根幹だということです。

ローラ・パーマー殺人事件、その1年前に起きたテレサ・バンクス殺人事件、そして、今回のルース・ダヴェンポートとニューヨークの殺人事件は全て「青いバラ事件」関連であるとされています。その肝心の事件内容については、タミーをチームに加入後、アルバートからほんのさわりを説明されただけでした。その要約は以下になります。

 ①事件は1975年ワシントン州オリンピアで発生

 ②ゴードンとフィリップが事件を担当

 ③ドッペルゲンガー、もしくはトゥルパが絡んでいる

 ④事件の容疑者はロイス・ダフィーという女性

 ⑤ブルーブック計画との関連性がある

この5つの事象とローラを含む4つの殺人事件の共通項を探ると、ある一つのものが見えてきます。それは "ウィンダム・アール" の存在です。これらをタイムラインに沿って、どうアールに繋がるのかを各項目ごとにひも解いていきますが、それは奇しくも第14章で消防士がアンディーに見せた幻視をひも解くことにもなります。

 

 A.ブルーブック計画

ウィンダム・アールはブリッグス少佐と同じようにブルーブック計画に参加していた人物であり、しかも驚くことにFBIにも同時に在籍していました。『The Return』の中でブリッグス少佐の存在がこれだけ重要視されていたにもかかわらず、それ以上に重要な人物が "失踪" の一言で片づけられているのは明らかにおかしいです。

旧シリーズの第27話を振り返ると、ブリッグス少佐はブルーブック計画の資料の中にアールの狂気を発見し夜も眠れなくなったと語っていました。そして、ブルーブック計画の調査を外される結果になった一つのビデオテープが再生されます。そこには若き日のアールの姿があり、彼はビデオの前でこう語っていました。

「これら悪の魔術師はダグパスと呼ばれ、悪のために悪を育む彼らは闇の中の化身で理屈など持たない。悪のみを求める純粋さが、それを培養するための秘密の場所を探り当てた。その結果、邪悪の力はさらに増した。その場所は実在し、中に入ることもその力を利用することもできる。さまざまな名で呼ばれるが最も一般的なのがブラックロッジ。信じないのか?頭がおかしいと?」

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※TWIN PEAKS Episode 27 より

この "ダグパス" という存在が『The Return』でいう "ジュディ" であることは疑いようがありません。そして、その存在の中心にいるのが "エクスペリメント" であることを消防士はアンディーに伝えています。全ての根源は "エクスペリメント" であり、それはマンハッタン計画が開いてしまった別次元への扉でもあったのです。アールはブルーブック計画在籍時にそれを知り、その諸悪の根源がツイン・ピークスにあるゴーストウッドの森にあることを既に調査済みでした。そして、それは "ボブ" を始め、別の世界から来た小さな男やウッズマン(木こり)、さらにはジャンピングマンにトレモンド夫人などの存在を造り出したと考えられます。

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※エクスペリメントが産み出した "恐怖" を象徴する卵は世界各地に散らばったと考えられる

 

 B.1975年の事件

ここが一番難しい所なのですが、第18章が放送された当時、僕はオデッサの出来事は全て1975年の青いバラ事件の再現ではないかと思っていました。リチャード=ウィンダム・アールが、キャリー=ジュディをいかにエクスペリメントが産まれた最南の町テキサス州ニューメキシコ州)から最北の町ワシントン州に運び出したかを描いていたと思っていたのです。しかし、これはあまりにも見当外れでした。

1975年当時、ウィンダム・アールはワシントンはワシントンでもD.C.の方でキャロラインと結婚したばかりであり、活動の拠点はもっぱらフィラデルフィアでした。しかし、ここで疑問点が出てくるのです。まずは『ファイナル・ドキュメント』に記されている問題の箇所をお読みください。

"クワンティコでの研修を歴史的な好成績で修了したアールは、1960年代の中頃に最初の任務に就き、長らくプロジェクト・ブルーブックとして知られてきた組織とFBIを結ぶ連絡係兼セキュリティ担当官を努めた。この間、ご存じのように彼はダグラス・ミルフォードと接触している(さらにこのあと、アールはあなた自身に指名されて青いバラ特捜チームのメンバーになるわけだが、ここで詳述するには及ばないだろう)。1973年、アールはウォーターゲート事件公聴会で..."

おわかりでしょうか。この文面の流れから見るとアールが青いバラ特捜チームに加入したのは「青いバラ事件」が発生する10年も前のことになります。この事から何が導き出せるかというと、アルバートが語っていた「青いバラ事件」は 、この不可思議な事象を調査するチームの一事件でしかなく、全ての発端ではなかったということです。チームの "名称" の発端は「青いバラ事件」で間違いなさそうですが、その本質というか根源はそれよりも10年も前に既に始まっていたのです。それは先述したように旧シリーズの第27話で語られていた "ダグパス" にまつわるものであり、ゴーストウッドの森から発生した何かであることをほのめかしています。

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※ダグパスである彼らには理屈が存在しない

 

 C.テレサ・バンクスとローラ・パーマーの共通点

旧シリーズの出発点が「インターナショナル版」であることは周知の事実であり、デイヴィッド・リンチの傑作と言われているのも、この妙なエンディングが後付された「インターナショナル版」であることも事実です。既にそこでテレサ・バンクスの事件は語られており、クーパーはローラ・パーマー殺害の犯人はテレサ事件と同一犯であると端から確信しています。そして "ボブ" が憑依したリーランド・パーマーが犯人であることもリンチ&フロストの中では最初から構想としてあったことがわかっています。

全てはデイヴィッド・リンチのその場その時の魔法のようなインスピレーションから生まれたものでした。ABCに売り込むためと、資金作りのためにワーナーがソフト化する条件として、急遽、あの病院の地下ボイラー室のシーンと赤い部屋の逆再生が一夜にして撮影されたのは今では伝説として語り継がれています。それは何年も構想を練り続けた結果、突発的にあふれ出た奇跡のような瞬間であったと思います。そして世の中の芸術作品が時として永遠の輝きを放つのは、そうしたどこから来たのかわからないインスピレーションを見事に捉えたものであるのです。

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※長らく絶版だったインターナショナル版は2007年発売の"TWIN PEAKS GOLD BOX"で約20年ぶりに復活した

「インターナショナル版」の魅力はABCに受け入れられ、その後のファースト・シーズンの大ブームは『The Return』を死ぬほど楽しみにしていたピーカーたちには説明不要ですよね。そして迎えたセカンド・シーズン、ウィンダム・アールは第9話でクーパーの宿敵として早くもアルバートの会話の中に登場しています。しかし、世の中はアールなんてどうでもよくて、誰がローラ・パーマーを殺したのかが知りたくてウズウズしていました。リンチ&フロストはギリギリまでそれに抵抗していたようですが、世論の圧力は相当だったようで、その結果が旧シリーズ第17話以降のグダグダ感です。

映画「FIRE WALK WITH ME」は今でいうビギニング系の奔りみたいなものですが、そこで初めて登場したテレサ・バンクスの左薬指には得体のしれない指輪が嵌められていました。そして、ローラ・パーマーもその指輪を巡って "ボブ" との決別を図りました。人それぞれ「フクロウの指輪」「緑の指輪」「翡翠の指輪」と呼び名が違いますが、映画版で明らかになったこの指輪がテレサとローラを結びつける重要なアイテムでした。そして、それは遥か昔、アメリカ北西部に住んでいたインディアンの一部族であるネズ・パース族の曾長からニクソン大統領にまで受け継がれていく指輪でもあったことが『シークレット・ヒストリー』には描かれていたのです。

前述のようにウォーターゲート事件に絡んでいたウインダム・アールが翡翠の指輪のことを知らないわけがありません。そして、チェット・デズモンド捜査官の動きはともかくとして、いちいちダイアンに報告をしていたクーパーの動きは全てアールに筒抜けだった可能性があります。そこからテレサとローラの事件に翡翠の指輪が関係し、"ダグパス" 絡みの存在まで浮き彫りになっていると知れば、旧シリーズの第21話以降のアール登場は必然だったと言えます。

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※ローラは2人の天使によって救済されたというのが映画「FIRE WALK WITH ME」での物語

 

 D.ヘイスティングスが開いたゾーンへの入り口

新シリーズ第18章の「◆赤い部屋(悪クーパーの消滅)」で語ったように、僕は悪クーパー=ウィンダム・アールだと思っています。それを前提としてこの後の話をしていきます。

旧シリーズで "ダグパス" を求め、そしてクーパーの魂と肉体、さらには "ボブ"とまで一体となったウィンダム・アールは巨大な犯罪シンジケートを組織立て、その後の25年を謳歌していたに違いありません。その牙城が崩れたのは、ある男の好奇心でした。ウィリアム・"ビル"・ヘイスティングス。このバックホーンという町の校長先生が、膨大な書物を読み解きインターネットを駆使して異次元の扉 "ゾーン" を開いてしまったことが『The Return』の全ての始まりだったのです。

ヘイスティングスが開いてしまった "ゾーン" という異次元の扉は、それだけでは意味を持ちません。彼ヘイスティングスが最も罪深いのは、25年前の悪クーパー/アールの襲撃から身を隠していたブリッグス少佐を "冬眠" から叩き起こしたことです。ヘイスティングスは第9章の号泣会見でこう語っていました。「彼は隠れていた」。単なる好奇心から、25年もの間ひたすら隠れていた少佐を叩き起こし、それが瞬時に悪クーパー/アールの網に引っ掛かったのです。そして、それはルース・ダヴェンポートの悲劇へとつながり、果てはエクスペリメントまで呼び起こしてしまったのでした。

その頃、フィリップ・ジェフリーズは悪クーパーと共にニューヨークのペントハウスにガラスの箱を設置していました。それは "ジュディ" の確保という共通の目的があったからであり、それ以外の事についてはお互いにそ知らぬふりをしていたようです。フィリップは時空を行き来できるということを悪クーパー/アールに明らかにせず、悪クーパー/アールも方々でブリッグス少佐を追い求めていたこと(ペンタゴンに報告された15回もの少佐の指紋は全て悪クーパー/アールによるもの)をフィリップには黙っていました。

ヘイスティングスの行動はロッジなどのあちら側の世界にも影響を及ぼします。ブリッグス少佐の存在が明らかになったことにより、フィリップは悪クーパー/アールと共にいる "ボブ" をロッジに呼び戻そうとしますが、これは跳ね除けられました。次にレイ・モンローを使い "ボブ" の始末を企てます。しかし、この結果も『The Return』で描かれていた通りです。

ロッジ内では長らく閉じ込められていたクーパーを現世に戻してまで、悪クーパー/アールの始末を企て始めますが、その行為はエクスペリメントを解放することになってしまいました。しかもダギー・ジョーンズによってドッペルゲンガー回収計画までが阻止されてしまったのです。

クーパーの現世回帰により解放されたエクスペリメントは、ニューヨークのサム&トレイシーを殺害し、その後の行方はまったくわからずじまいになっています。その前に、なぜクーパーがエクスペリメントを解放してしまったのか?ですが、ここで新シリーズの第2章を振り返ってみます。事の発端は赤い部屋が二重に乖離し始めた事と、進化した腕が「存在しない」と叫びながらクーパーを次元の海に突き落としたことです。次元の海を落ちていくクーパーが辿り着いたのがニューヨークのガラスの箱でしたが、この時にエクスペリメントが現世に現れる道筋を作ってしまったのではないかと思うのです。

このようにヘイスティングスの行動はあらゆる方向に影響を与え、結果として25年ぶりにクーパーが現実に帰還、悪クーパー/アールは業火に焼かれることとなったわけです。ヘイスティングス自身も悲劇に見舞われ、彼の周辺人物たちもことごとく悲劇的な最期を遂げています。そして、物語は時空と魂が混沌とするオデッサへとなだれ込みます。

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※『The Return』で語られた英雄はこの "純真な心" を持つ夫婦であった

 

先述したように第18章の放送時、僕はオデッサのシーンは青いバラ事件の再現だと思っていました。とは言っても、時代も違えば場所も違うのはもちろん重々承知なのですが、それでもなぜそう思ったのかはラスベガスの項目で説明したように、ここで描かれていることが一つの次元ではないからでした。

そこで消防士がアンディーに見せた幻視に立ち返りたいと思うのですが、エクスペリメントの誕生からブレナン夫婦の活躍までを時の流れに沿って一直線で消防士は描いていました。

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この流れがツイン・ピークスの全てであり、これが正式なタイムラインとなります。とすると、やはりキャリー・ペイジの家の庭に立つ電信柱が物語の帰結地点になるのです。

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では、この6の電信柱が意味するところはなんなのか?というのが論点になりそうなのですが、よくよく見ると、もともとはモノクロだった6の電信柱は徐々に色づいていき、最終的にカラーの映像に切り替わります。この切替わりは全部で3段階になります。6が3つは素直に考えると「666」になりますので、聖書で言う悪魔を現わすことになります。さらにモノクロ・カラー・ハイビジョンと捉えると、これは3つの時代を表現しているのではないかとも思うのです。この3つの時代、ウッズマンが奇怪な事件を起こした1960年代、ローラ・パーマーを巡る1990年代、クーパーが精神的巡礼をした2010年代が混然としている世界、それがオデッサではないかと。

全ての時代が並行して存在しているため、キーレスの高級車とブラウン管のテレビが同時に存在し、新聞には風力発電の開発が報じられ、ダイナーの壁には古びた70年代の看板がさも最新の流行のように掲げられているのです。オデッサの標識には2010年の国勢調査による人口数が表示され、キャリー・ペイジの家に置かれているスティックタイプの掃除機は1990年代の最新型のようです。この「時代が混然としている世界」を "夢" の具現化と片づけるのはとても容易いのですが、リンチが描こうとしていたのはそういう画一的なものではないと思います。夢であり現実でもある世界。もっと言えば、そんな夢とも現実ともつかない世界が僕らが今生きている "現代" ではないのか。そんな強烈なメッセージが作品から聞こえてくるのです。

そこではクーパーはクーパーでなくなりリチャード捜査官として、ダイアンはリンダとして自ら身を引いた世界。ローラはキャリー・ペイジとして腐敗し始めた死体と生活し、セーラ・パーマーの存在は消滅、トレモンド夫人が取って代わって何事もない一般的な生活を過ごしていました。ここには魔術的な存在はなく、風にざわめく不気味な森の姿もありません。僕らは "電気" という名の "火" に骨の髄まで浸かりながら生活をしていて、それなしで生きていくことは今や不可能なのです。『The Return』のラストシーンはリンチのそんな現代に対しての一つの解答なのではないかと思うのです。

 

5.オードリー・ホーンの物語

『ファイナル・ドキュメント』が発売される前は未だ昏睡状態から覚めていないオードリーが、ロードハウスに行くことによって昏睡状態から目覚めた、そんな流れが妥当ではないかと思っていました。しかし、マーク・フロストの裏設定によると、半分は合っていて半分は間違っている、そんなニュアンスに取ることができます。何が合っていて、何が間違っていたのか。

【間違っていた点】

①銀行爆発事件の3週間半後には目覚めていた

②ジャックとの記憶を一切なくしている

③チャーリーとの結婚は事実

【合っていた点】

①リチャードを産んだ

②未だに消息不明

③ロードハウスが何かからの目覚めであった

オードリーについては第12章の考察で触れましたが(ツイン・ピークス The Return 考察 第12章 不機嫌な薔薇たち)、その後もあまりにも情報が少なく途方に暮れてはいました。そこでの『ファイナル・ドキュメント』ですが、これはもう『The Return』で描かれていたのはあちらの世界としか言いようがありません。また、先の第12章の考察で取り上げた三人の登場人物、セーラ・パーマー、ダイアン・エヴァンス、オードリー・ホーンには自分でもビックリするぐらいの共通点がありました。それは「アルコール依存症」。つまり常に酩酊状態にあり、現実から乖離した存在であるということ。そして、何かしらの精神疾患を抱えているのではないかということです。さらにはセーラはトビガエルが、ダイアンとオードリーは悪クーパー/アールに何かしらの危害を加えられた疑いがあります。これはスター・ウォーズ的に言えば "ダークサイド" に落ちた、もしくは故意に引きずり落とされたということになります。その結末についてリンチはいつものごとく多くを語らず、全権を視聴者の想像に委ねています。

そんな訳で僕的な解釈をするならオードリーの物語は以下になります。

銀行爆発事件の後、昏睡状態から目覚めたオードリーは自分が妊娠していることを知る。その父親は明らかにジャックことジョン・ジャスティス・ウィーラーなのだが、オードリーは彼の記憶を失くしており、夢見ていたクーパー捜査官がその父親であると確信している。その後、グレート・ノーザンを離れ、オードリーはひとりでリチャードを産んだ。その後、シングル・マザーとしての人生を謳歌していたが、あるタイミングで一人の男が現れる。彼はチャーリー、職業は会計士だった。タミー・プレストン捜査官の調査により、彼女らの結婚は明らかに金銭目的であったとされている。夢見がちな少女であったオードリーが、シングル・マザーという現実に疲れ果てた結果が、愛のない結婚生活ではなかったかと想像する。その荒みきった生活が『The Return』で描かれていたものであり、思春期を迎えたリチャードにも多大な影響を与えた。そして、今から4年前、突然この夫婦は消息を絶ってしまう。僕が思うに、見るに見かねたチャーリーが、オードリーを施設に預けたというのが筋ではないかと思う。アルコール依存症の患者は、それ以上悪くならないようにすることはできるが、良くなることはまずないという。そんな施設の中でアルコールを絶ったオードリーは幻覚に悩まされるようになり、それはいつ終わるともしれない悪夢だった。憧れのクーパー捜査官を想いながら音楽に身を委ね、幻覚から目覚めて現実に失望し、また幻覚の世界に逃げていく。オードリーは幻覚の中で永遠にビリーを探し求め、永遠にクーパーに憧れ続け、永遠に現実に失望し続けている。しかし、その悪夢でさえ、オデッサの消灯により全てが無に帰ったのだった。

ツイン・ピークス The Return 考察 第18章 存在への祈り。異世界へのドライブ。電気が消えた!

最終回です、姐さん。25年ぶりに復活した我らがツイン・ピークス。長い沈黙を破り、まさかの続編が制作されると発表された時はどうなることかと思いましたが、いざ蓋を開けてみたらデイヴィッド・リンチの集大成で終わりました。とにかくスゴイです。巷でシーズン4の制作を待ち望んでいる声が多いのももちろん頷けますが(それだけ宙ぶらりんな謎がてんこ盛り!)、仮にそれが制作されたとしても謎が増えるだけでなんの解決にもならなさそうな感じもします。ていうか、僕的にはシーズン3の謎はこの第18章で全て解決できそうな気がするんですよね。それぐらいリンチ作品としては非常に珍しくキレイに納まっていると思うんです。放送当時はグワーッと書き連ねて終わり!みたいな感じになってしまいましたが、それを再度一つ一つゆっくりブラッシュアップしていこうと思います。

 

◆赤い部屋(悪クーパーの消滅)

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『悪クーパーが燃えています。燃やしても燃やしても燃えきれない感じ。もう完全に銅像と化してます』

最終回の冒頭がいきなり "業火に焼かれている悪クーパー" というのがぶったまげてしまいます。前回の第17章でクーパーに翡翠の指輪を嵌められ、カランカランとロッジ送りになったその後のシーンになるみたいですが、これには下記の三通りの感じ方があるようです。

Aさん「やった!とうとう悪クーパーが滅びたぞ!」

Bさん「悪クーパー!てめぇ、結局なにがしたかったんだ!」

Cさん「あのソファは燃えないの?」

燃えているのは悪クーパーの魂なので、家具が燃えて赤い部屋が火事になったりすることはなさそうですよ、Cさん。とまあ、そんなわけで僕は完全にBさんの方なんですが、イマイチ悪クーパーが新シリーズで何をしたかったのかがわかりません。そもそも悪クーパーってドッペルゲンガーですよね。だとすると、

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こんなだったり、

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こんな風に消えるのが今までだったはずです。んでもって、最後に残るのは "金の種" のみ。なのに悪クーパーはオニのように "赤い炎" で燃えています。ここで思い返したいのが第11章でホークが語っていた "黒い火" です。

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ホークが語るところによると、焚き火のように見えるものは "火" の象徴であり、炎の一種ではあるがそれよりも "現代の電気" に近いものであるということ。そして、"黒いトウモロコシ" は「病・異常・死」が肥沃であることを示していて、この二つの象徴を足すと "黒い火" を意味することになる、そんなお話でした。要約すると下記のような式になります。

火(電気)+黒いトウモロコシ=黒い火

ダギー・ジョーンズもダイアン・エヴァンスも "黒いトウモロコシ" の状態であり、赤い部屋で "電気" に触れたことにより "黒い火" となって消えていきました。ここで明らかになるのは、ダギーもダイアンも既に死んでいる状態、もしくは病に犯された異常な状態であるということです。では、悪クーパーはどうなのかというと "黒い火" になっていません。ということは、彼は "黒いトウモロコシ" ではないということです。だったら、いったい悪クーパーはなんなんだ?という話ですが、前半考察にも書いたように彼はウィンダム・アールなのです。

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旧シリーズの最終回でボブに魂を抜かれてしまったウィンダム・アール。その時、初めて赤い部屋で "炎" が立ち上がります。旧シリーズ、映画、新シリーズ、いずれも赤い部屋で炎が立ち上がるのは、このウィンダム・アールが魂を抜かれた時と、アールの魂が宿った悪クーパーが消えていく今のこのシーンだけです。となると、このことから容易に想像できるのは「新シリーズでの悪クーパーの行動は全てウィンダム・アールの企みによるもの」という見方ができます。そうすると、悪クーパーが新シリーズで何をしたかったのかが自ずと見えてきそうではないですか。まあ、その辺の振り返りは、また "総論" の時にゆっくりと語りたいと思います。

 

◆赤い部屋(ダギー・ジョーンズの再誕)

『ソファの上に種とクーパーの髪が置かれる。片腕の男が「電気、電気」と呟き、指先でバチッバチッと4回スパークすると、あっという間にダギーが出来た。なんなんだ、これ...。こんなB級的な発想が普通に許されている時点で既に神』

悪クーパーが燃えているシーンからいきなりこのシーンにつながるので、一瞬、ソファに置かれた "金の種" が悪クーパーの種ではないかと思えてしまうのですが、もちろんこれはダギー・ジョーンズの種。そして、電気を帯びた一房の髪を "種" は食べるようにして吸収していきます。ここで一つ頭に入れておきたいのは、片腕の男が "電気" を操ることができるということ。そして、"進化した腕" は常に放電していたということです。この二人の関係は以下の写真の通り。

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ピーカーには今さら説明不要だと思いますが、もともとこの二人は一つでした。ニューヨークの謎に関するテキストでも少し触れましたが、片腕の男は "神" と出会い、ボブと悪事をすることをやめることにしました。その時に自分の悪の部分を切り落としたのが "左腕" であり、その "左腕" が実体となり意識を持ったのが "小人" もしくは "別の場所から来た小さな男" でした。そして、二人とも "電気" を操ることができる。それは "火" を操ることができると言いかえることもできます。

ドッペルゲンガー、もしくは "トゥルパ" はこうして作られるという「種明かし」になっているシーンがこのダギー再誕になるのですが、さて、この "化身" を作り出せるのは、電気を操ることができるこの二人だけなのでしょうか?仮にそうだとすると、ダギーであったりダイアンであったりのドッペルゲンガーを作り出したのは "進化した腕" ということになりそうです。となると、そこから導き出せるドッペルゲンガーの存在理由は下記の二通りになります。

 A."ガルモンボジーア" を搾取するために産み出された存在

 B.ボブの手助けをするために産み出された存在

Aの方向で考察すると "進化した腕" はガルモンボジーア(痛みや悲しみ)を味わうためにダギーやダイアンが住む世界を作り出したと考えられます。その視点で見ていくと、お酒とギャンブルが大好きだったという元ダギーに、ジェイニーEは随分と悩まされていたようですが、その苦しみは映画でのローラ・パーマーのような役割に見えてきます。そして、真意の程は定かではないですが、片親違いの姉妹であるダイアンも、ストーリーでは描かれていない部分でなにかしらの辛酸を舐めていたのではないかと思われます。

Bの方向で見ていくと、旧シリーズの最終回でウィンダム・アールと共に現世に解き放たれたボブを、何かしらの理由で手助けするためにダイアンとダギーを産み出したと考えられます。そうするとダギーの存在よりもダイアンの存在の方がボブもしくはアールにとっては重要だったのではないかという勘繰りが出てきます。FBIの情報であったり、クーパーからの情報であったりを手に入れるためにダイアンを利用したと考えられるのです。さらに拡大解釈をするなら、悪事のための資金繰りのためにダギーの存在を作り、ラスベガスのトッドであったりミッチャム兄弟であったりを動かすことに成功した。

どちらの方向でもこじつけようと思えばいくらでもこじつけられそうですが、いずれにしてもダイアンの存在、そして、ダギー・ジョーンズ周辺の存在というのは "造られた世界" と言えそうな気がするのです。

 

◆ダギー・ジョーンズの家(ダギーの帰宅)

『チャイムが鳴り、玄関ドアを開けるジェイニーE。そこにはダギーの姿が。サニージムも喜んで駆け寄ります。ダギー、チャイムが押せるようになったね...』

先ほどダギーとダイアンが住む世界は "造られた世界" であると仮定しました。その仮定をもう少し推し進めてみると、ちょっと考えたくない世界が見えてきます。それはジェイニーEとサニー・ジムも "造られた存在" なのではないかという仮説です。さらにそこから見えてくるのはラスベガス自体が "造られた世界" なのではないかという疑惑です。

『The Return』の中でラスベガスのストーリーというのは、本編のミステリーとは完全に切り離された世界が描かれていました。ちょっと振り返ってみると、そもそもラスベガスの舞台は第3章のこれが入口でした。

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ナイドが電圧を落としたであろう大きなコンセントからそもそも転送されてきたわけです。このどこかの画用紙にとりあえず『3』と書いたようなデマカセ的な部分からクーパーはラスベガスにやってきた。ここからして、ただでさえ普通じゃないツイン・ピークスの世界で、さらに異色の世界へ "転送" されていることを象徴しているのではないかと思うのです。

またラスベガスに登場するキャラクターはツイン・ピークスの住人に引けを取らない曲者ばかりが、ここぞとばかりに揃っています。ジェイニーEを筆頭にブッシュネル社長とラッキー7保険の社員たち、ミッチャム兄弟にキャンディー、119のヤク中ママ、フスコ3兄弟、アイク・ザ・スパイク、極めつけは進化した腕や片腕の男が普通に登場!どのキャラクターも愛すべき存在であり(特にジェイニーEとミッチャム兄弟!)『The Return』を大いに盛り上げてくれたキャラクター達ばかりです。そんな彼らや彼女らがいわゆる "幻" の世界の住人だったなんて、思うだけで寂しくなってしまうのですが、物語を追っていくとどうも幻の世界ではないかと思えて仕方がないのです。その理由は、

 ①進化した腕や片腕の男がちょいちょい登場する

 ②ミッチャム兄弟の家に "黒電話" がある

 ③ランスロットコートに住人がいない

 ④「シカモア通り」が存在する

 ⑤「ここは天国」というセリフが登場する

 ⑥シルバー・マスタング=白銀の馬

 ⑦ラッキーセブン=過去・現在・未来・東西南北

 ⑧赤いドアとフクロウ

 ⑨誰もツイン・ピークスとつながらない

 ⑩ラスベガス="肥沃" の土地

とりあえず10項目挙げてみました。他にも細かく観ていくと出てきそうですが、とにかく条件はいろいろと揃ってしまいそうなのです。そんなラスベガスでのラストシーンが、このダギー・ジョーンズの帰還。しかも "赤い部屋" からダイレクトに "赤いドア" まで辿り着いてしまうのです。それでも例え幻の世界であっても、ここは "天国" であり、ジョーンズ一家は幸せな時をこれから過ごしていけそうではあります。そういう意味ではラスベガスがハッピーエンドな世界でホッとします。本当に短いシーンですが、ダギーの「家(Home)」というセリフも泣けてきます。

このセンテンスを読んで「あれ?ミスター・トッドが抜けてない?」と思った方、かなり鋭い方だと思います。安心してください、忘れているわけではありません。ラスベガスのキャラクター達の中で唯一「第2章」に登場していた彼は "現実" のキャラクターになります。その辺については "総論" の時に思う存分語りたいと思っています。

 

◆ゴーストウッドの森(ローラの消失)

『ローラを連れて "森の心臓" に向かうクーパー。カリカリ音がしてローラが消える。森に響き渡るローラの絶叫。どうしたもんじゃろのぉ...と困り顔のクーパー。先週のシーンの繰り返し。困った顔をしたいのは見てるこっち側なんだけどな』

このシーンの解釈として一般的に定着しそうなのが「ローラママの時空を超えた攻撃によってローラ救出は失敗した論」ではないかと思います。その根拠となるのが第17章のこのシーン。

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鬼気迫るローラママが酒瓶で「こんにゃろう!こんにゃろう!」と凄まじい怨念でローラの写真を叩きつけています。これが "1989年2月23日" の夜にまで影響していると思えば思えなくもない解釈ではありますが、どうでしょう?いくらリンチだからと言って、そればっかりは突飛すぎやしないでしょうか。どちらかというとクーパーの時空転送によって、あるはずのローラの死体が歴史から消えてしまったことへの怨念・悔しさみたいな、そんな印象の方が強いような気がするのです。だから、いくら酒瓶で叩きつけても写真にはキズひとつ付かなかった。逆にローラママの攻撃をことごとく跳ね返し、お前の負けだと微笑んでいるようにも見えるのです。

ではこのカリカリ音でローラを連れ去ったものはなんなのか?ですが、音響から辿ると "炎" が燃え盛る音とローラの絶叫が第2章のローラの絶叫とほぼ同じです。となると、あの第2章のクーパーに耳打ちをした後にローラをどこかに連れ去った何者かがカリカリ音の正体になりそうな気がします。そのシーンはこの後にもリフレインされるのです。

では、そのカリカリ音の正体はなんなのか?という話ですが、たぶん、こいつです。

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アルルのヴィーナス。

あの "こすれる" ようなカリカリ音は大理石が擦れる音ではないかと。第1章で消防士は大理石の擦れる音をクーパーに聴かせ「今それは我々の家に」と呟き、クーパーも「そうだ」と応えていました。それはアルルのヴィーナスが消防士とクーパーの家 "ホワイトロッジ" に侵入していることを現わしているのではないかと思うのです。とは言っても、このアルルのヴィーナスがヒョイヒョイと動いているわけではなく、あくまでもヴィーナスは象徴であります。では、何を象徴しているのか?ですが、それはもう言うまでもなく "ジュディ" です。なので、ローラは "ジュディ" にさらわれた、もしくは消滅させられたということになるのではないかと。

あまり伝わらないと思うので順を追って説明をしますが、まず "ジュディ" は「極めてネガティブな存在」であると第17章でゴードンが語っていました。ここまでは誰でもわかると思います。では、なぜそれが "アルルのヴィーナス" とつながるのか?ですが、『The Return』に登場しているヴィーナスは復元前の状態であり、現在ルーブル美術館に展示されているヴィーナスには両腕が復元されています。

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復元された彫刻の右手には "林檎" が、そして左手には "手鏡" が握られていたのではないかと言われています。この二つのキーワード、まず "鏡" はリンチ・ファンでしたら説明するまでもないですよね、あっちの世界への入り口です。問題は "林檎" です。話は聖書に飛びますが、アダムとイブが楽園から追放されたのは "禁断の果実" を食したからでした。それは悪魔の化身である "蛇" がイブをそそのかしたからであり、そそのかされたイブやその子孫であるすべての女性は "産みの苦しみ" を課せられてしまいます。

なんとなく伝わるでしょうか?"アルルのヴィーナス" は罪深いイブを象徴しているのではないか。そして、イブをそそのかした "蛇" が「極めてネガティブな存在」なのではないか。フィリップ・ジェフリーズも暗に "蛇" の象徴である「8」を提示していましたし、第17章では「ここでジュディを見つけるだろう」とも語っていました。

さらにリンチ監督はあえて復元される前の "アルルのヴィーナス" を赤い部屋に配置しています。この時空にまつわる考察は赤い部屋にあるもう一つのヴィーナスである "ミロのヴィーナス" と共に総論で語りたいと思います。

 

◆赤い部屋

突然、第2章にフラッシュバック。

片腕の男「これは過去か、それとも未来か」

しかし、現れるはずのローラの姿がない...。

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過去改変の影響がさっそく現れているけど、

だとしたらクーパーがここに居るのもちょっと変。

 

部屋の向こうで、こっちさ来いと片腕の男。

ついていくと "進化した腕" がいる部屋へ。

完全に第2章の繰り返し。

違うのは "腕" が語るセリフ。

"通り沿いの家に住んでいたあの少女の物語なのか?"

これはオードリーがチャーリーに確認した話題。

それをなぜ "腕" が語っているのだろう?

 

またもや突然に場面が切替わり、

ローラがクーパーに耳打ちをする。

第2章の時は「ああ...」と納得していたクーパー。

今回はそれが「はあん?」に変わっています。

いやいやいや、

はあん?って言いたいのはこっちですけど!

 

悲鳴と共に宙に消えていくローラ。

目線を戻すクーパーの先にクーパー。

またドッペルゲンガーか?

と思いきや、ソファにはリーランド。

「ローラを捜せ」

言われて、何かを決心するクーパー。

赤いカーテンの向こうに行くと、

右手をヒラヒラヒラヒラさせます。

それに呼応するかのように先のカーテンが開く。

 

この右手ヒラヒラ、

第5章でロドニーが支配人をボコってる横で、

キャンディも同じようにヒラヒラさせていました。

また先週の第17章でも、

悪クーパーが保安官事務所に辿り着くと、

急に怯え始めたナイドが右手をヒラヒラしていた。

 

話が飛びますが『インランド・エンパイア』では、

誰かに殺される!とバーに逃げ込んだニッキーを、

赤いカーテンの向こうへ案内したカロリーナが、

サヨナラとばかりに左手をヒラヒラさせていました。

 

一見すると "念" を送っているような印象を受けます。

となると、

クーパーはこの短期間で

ジェダイ並みにフォースが操れるようになったと。

驚異的な覚醒ですな!

 

グラストンベリー・グローブ

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赤いカーテンの先はグラストンベリー・グローブ。

これが正規の出口なんかな?

外ではダイアンが待っていました。

...、...、...。

んん、嘘っぽい、嘘っぽいぞ。

 

◆山間のハイウェイ

ドライブ・タイム。

景色は段々と配電線が立ち並ぶ山間になる。

鉄塔の姿形がフクロウのマークに見えるのは、

もう完全に頭がイカれてしまった証拠かもしれない。

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 「ちょうど430マイルの地点だ」

そう言って車を止めるクーパー。

外に出ると、電気のジリジリ音と時間を確認する。

そして、ウンウン、そうだ、間違いない、と納得。

またジェダイですか?

いったいフォースは何を感じてるんですか?

 

「ここを超えれば全てが変わるだろう」

そう言ってキスをせがむクーパー。

...、...、...。

第8章のあの少年もキスをせがんでいたな...。

今まで逃げ腰だったダイアンは、

クーパーとキスすると「行きましょう」と急に決心。

 

車を動かし、430マイルの地点を超えると電気が走る。

するとクーパーとダイアンの席があべこべになる。

もう右も左も関係ないということかな...。

時は急激に進み、道は暗闇に変わる。

フォースの次はデロリアンか...。

もうBTTFはいいでしょう...。

 

◆どこかのモーテル

車を駐車場に入れ込むと、

チェックインを済ませに行くクーパー。

その間、車中で待っているダイアンは、

建物の向こうに自分の姿を確認する。

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だけど、ダイアン、微動だにせず...。

ねえ、ドッペルゲンガーだよ、ダイアン?

少しは驚いたら?

ダイアンに "死" のフラグが立ってしまいました。

 

◆モーテルの7号室

部屋に入り、抱き合うクーパーとダイアン。

しかし、どうもさっきからクーパーの様子が威圧的。

で、The Plattersの "MY PRAYER" が流れる。

これ第8章で "森の男" がブチ切った続きになります。

なんでしょう、ちょいちょい第8章が顔を覗かせます。

抱き合っているのにクーパーは無表情だし、

ダイアンは何か救いを求めるように天を仰ぐ。

そして、何も見ないでとばかりに、

クーパーの目を両手で覆います。

 

翌朝、目が覚めるとダイアンの姿がない。

部屋の中を見回しても、

古いテレビに古くさいチェスト。

ベッド脇にはダイアル式の電話と1枚のメモ。

起き上がるクーパーはメモを読み上げる。

 

"リチャードへ

私は出ていきます

捜さないで

もう あなたが分からない

私たちが共有したことは終わった

リンダより"

 

クーパーはリチャードとリンダに違和感を感じる。 

 

部屋の外に出ると、昨夜のモーテルとは違う建物。

キーレスで車のロックを外す。

この車も昨夜の古びたクーペとは明らかに違う。

リンカーンのコンチネンタル。

クーパーは建物を振り返り、違和感を感じている。

が、何食わぬ感じでその場から走り去っていく。

 

さて、駆け足でここまできましたが、

一旦、ここまでのクーパーの足跡を

ストーリー順におさらいしてみようかと思います。

 

1989年2月23日 ローラを助けようとするが消失

  ↓

2016年 赤い部屋で右往左往(第2章まで戻る)

  ↓

1970年代 グラストンベリー・グローブに出てくる

  ↓

1970年代 インペリアル・クーペで430マイル先へ

  ↓

1970年代 モーテルに泊まる

  ↓

1991年 モーテルで目覚める

 

実際はどこまでかわかりませんが、

登場している車の車種から、

ほぼこの年代で移ろっているのではないかと妄想。

もう次元というよりも時空がめちゃくちゃです。

 

以前、オードリー関連でも考察しましたが、

スマホだ、タブレットだ、という時代に、

モーテルの部屋にダイアル式の電話があるってのは、

もうそれだけで疑ってかかるべき小道具ですね。

 

さらに消防士のメッセージが一挙に登場。

"430" は "430マイル地点" のことみたいですが、

これは、どこから430マイルなのかイマイチです。

ジャック・ラビット・パレスから235ヤードのように

何かしらの基準になるものがありそうですが、

んん...、そこは想像して楽しみなさいということかな。

 

"リチャードとリンダ" は、

もう全ての人の想像を覆す展開で登場。

このシーン以降のクーパーは、

完全にリチャードの人格に入れ替わっています。

見た目はクーパーだし、

本人もクーパーだと思ってるようですが、

これはリチャードとシンクロした状態ではないかと。

それを念頭にこの後のシーンを見ていきます。

 

オデッサ

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テキサス州オデッサ

クーパーは "ジュディのコーヒーショップ" に赴く。

 

◆ジュディのコーヒーショップ

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店内では老夫婦がブレックファースト。

まるで『マルホランド・ドライブ』の老夫婦みたい。

店に入ってきて誰かを探しているクーパー。

いや、リチャード捜査官。

いないとわかると席に着きます。

「他にもウェイトレスがいるだろ?」と聞かれ、

なぜか一瞬固まるクリスティというウェイトレス。

何か事情を知ってそう。

「今日は休みだし、もう3日も休んでる」と言い残し、

カウボーイ3人組の方におかわりを注ぎに行きます。

ていうか、どんだけコーヒー飲み放題なんだろ?

 

クリスティにちょっかいを出すカウボーイたち。

リチャード捜査官、その手をはなせっ!と一喝。

なんだろ、昔の刑事ドラマを見てるみたい...。

んだと、こんにゃろ~とカウボーイたち。

リチャード捜査官、一人を金蹴り、

もう一人のつま先を拳銃で撃ち抜く。

ていうか、金蹴り!

やっぱ、昔の刑事ドラマみたいだよ...。

彼らの拳銃を奪うと、それをフライヤーの中に入れる。

しかも、銃を構えたままです。

この銃の構え方も、随分と前時代的です...。

「心配しなくていい、私はFBIだ」

逆にそう言われると嘘っぽく感じるんですけど...。

リチャード捜査官、

住所のメモを受け取り店を後にします。

なんかチャールズ・ブロンソンの方が似合いそう。

 

◆キャリー・ペイジの家

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メモの住所に到着。

荒れ果てたピンクい平屋の家。

驚くことに家の脇にはリアルな "6の電信柱" 。

これはカールが幻視していた電信柱です。

 

ノックするとキャリー・ペイジが出てくる。

リチャード捜査官は彼女がローラだと思っている。

キャリーは捜し人が見つかったと思いドアを開けたが、

どうやら的外れだったみたい。

訳の分からないことを聞くFBIを追い出そうとするが、

「母親の名前はセーラじゃないか?」と聞かれ、

急に動揺を隠せなくなる。

「一体、どういうこと?」と聞き返すキャリーに、

リチャード捜査官はまた訳の分からないことを言う。

ひとまずキャリーが心配していたことではなさそう。

「君を母親の家に連れて行きたいんだ」という誘いに、

キャリーはある計画を思いついたみたい。

このFBIを名乗るちょいとお頭が足りない男を使って

ここから逃げ出そうとするらしい。

リチャード捜査官は、それにぜんぜん疑問を抱かない。

 

家の中に入ると、ソファで男の死体が硬直していた。

額を撃ち抜かれ、腹が膨れて膿んでいる。

死後数日経っているのか蝿もたかっている。

見た目はキラーボブのよう。

長髪でジーパン姿、腹にあるのはボブ玉だろうか?

しかし、リチャード捜査官、なにをするわけでもない。

 

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視線は暖炉の上にある馬の模型と青い皿に移る。

床にはライフルが一丁転がっている。

この様子から男の死体の経緯が推測できるけど、

リチャードもキャリーも、そんな事にはお構いなし。

電話が鳴りだすがそれもほったらかし。

ワシントン州って寒いの?

コートがあるから持って行かなきゃ。

食料がなにもない!

途中で調達すればいいのね、最高じゃない!

なんか今からピクニックでも行くような雰囲気です。

さあ、行きましょ行きましょ。

そう言って外に出る二人。

去り際に憎々しげに男の死体をにらむキャリー。

ヤバイ、あの男を殺したの、あんたでしょ。

ということは、母親のセーラも殺してるね!

 

◆ドライブ・タイム

今回、二度目のドライブ・タイム。

テキサス州からワシントン州まで車で移動って、

もろにアメリカ縦断じゃないですか!

なのに一回ガソリンを給油しただけ。

しかもひたすら夜道を走っていきます。

まるでトワイライト・ゾーンですね...。

 

橋を渡り、ツイン・ピークスに入りました。

ダブルRダイナーがある交差点を曲がります。

今まであった "RR2go!" のロゴも消えています。

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ツイン・ピークスに見覚えがあるか?と聞かれるが、

もちろんキャリーにあるわけがない。

彼女はただオデッサから出られればそれでよかった。

逆に途中でよく逃げなかったなぁと思う。

 

◆アリス・トレモンドの家

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かつてパーマー家が住んでいた家に到着。

リチャードとキャリー、

なぜか仲良く手をつないで玄関に向かいます。

あんた達、途中でなんかあったでしょ。

 

長年のピーカーからすると、

これってとんでもないパラドックスですよね。

先週もそうだけどクーパーとローラが手をつなぐって、

普通じゃ考えられないシチュエーションですよ。

 

ドアをノックすると見知らぬ婦人が出てきます。

アリス・トレモンドさん、だそうです。

リチャード捜査官、しきりにセーラ・パーマーを連呼。

知らないものは知らないんだって。

ちょいと変質者気味です。

トレモンドさんの前に住んでたのは、

チャルフォントさん、だそうです。

この2人の名前、説明不要ですよね。

皆さんご存知の、あのご婦人です。

 

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ジャンピングマンの化身である孫を従えていた

あのトレモンド婦人が "ジュディ" なのでしょうか?

いや、なんか違うような気がします。

婦人は "ガルモンボジーア" が大嫌いな人でしたから。

まあ、その辺はまたゆっくり妄想したいと思います。

 

な~んだ、セーラ・パーマーの家じゃないのか...と、

明らかに肩を落として車に引き返すリチャード。

そんなに落ち込むなよ...。

テキサスからは遠かったかもしれないけどさ。

で、ふと何かに気づいたように振り返ります。

「今は何年だ?」

そう問われて、なぜかキャリーも答えられない...。

 

そんなんしている内に、どこからかセーラの声。

「ロォ~ラァ~~~!」

随分と明るいセーラの声です。

それを聞いたキャリー、殺した母親の記憶が蘇った?

急に叫び声を上げます。

リチャード、めっちゃビクッ!となっています。

で、全ての電気が消える!

要するに "火" が消えた!

すげぇ!

 

◆エンドクレジット

ローラの耳打ちに切ない表情を浮かべるクーパー。

まるで何かを諦めてしまったかのよう...。

バダラメンティの重々しい旋律が、

さらにクーパーの諦めを助長します...。

 

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そして、いつもはビシュンビシュンとスパークする

"LYNCH/FROST PRODUCTIONS" のクレジットも、

無音。

 

完全に電気が消えてしまったみたいです...。

 

そんなわけで、終わってしまいました。

今回の『The Return』最高だったなぁ。

リンチ監督の集大成っていうのが、とにかく最高。

やっぱ映画館で観たいよね、全部とは言わないけど。

せめて第1章と第8章、そして第11章かな。

それでもう3時間になっちゃうんだけど。

 

結局は夢オチなの?ループなの?って感じですが、

んん...、僕的には "覚え書き" みたいな感じがします。

リンチの覚え書き。

いろんな映画のオマージュが詰まっていて、

映画だけじゃなくて絵画であったり音楽であったり、

セルフ・パロディまで含めて、

とにかくリンチ監督の全てが詰まった作品。

いや、これで全てじゃないだろうから、

余計にリンチ監督の底知れないクリエティブに、

畏怖の念すら感じます。

 

マーク・フロストは、

そこに "アメリカ" という歴史と社会のスパイスを、

本当に都市伝説的に物語に組み込んでいました。

今さらUFOだもんなぁ。

本当、そういうの好きなんだろうな。

僕も好きだけど。

 

もともとは今回の第18章、

総論として一つの記事を書いたら、

もう終わりにしようと思っていたのですが、

まあ、2~3日でまとめられる量ではないので、

いつもの簡易バージョンを急遽、こしらえました。

 

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 昨今の映画やテレビドラマなんてまったく観てなくて、映画館なんてそれこそ軽く4~5年は行ってないオッサンが、何をとち狂ったか毎週毎週テレビにかじりついている生活もとうとう終わりです。この半年近く、楽しかったなぁ...。デイヴィッド・リンチ監督、ありがとう。やっぱり僕はリンチの世界観が大好きなんだなと痛感しました。そして、その世界観の "行間" を読む作業のなんと楽しいこと楽しいこと。説明台詞やテロップがやけに目立つこの頃のテレビドラマに比べたら、今回の『The Return』は取説や工具なしで車のエンジンを組み立てるようなものです。目の前に部品は転がっているけど、どれがどう組み合わさるのかさっぱりわからない。とりあえず大枠のカバーでこんな形のものっていうのはわかるけど、その中身をどう組み立てれば動くようになるのかが、いろいろ想像したり他の機械を参考にしたりしないと紐解いていけないみたいな。その紐解いていく中で "ハッ!" となる瞬間がたまにあるんだけど、それがたまらなく気持ちいいんですよね。正解なのか見当違いなのかは別として。

 その "ハッ!" となった閃きみたいなものを、この数か月間ブログに書き連ねてきました。それも今回でひとまず区切りをつけようかと思います。各章ごとにまとめたり前半後半でまとめたりしてきたので、最後に総論としてまとめようと思っていたのですが、なかなか時間を作るのが難しくなってきました。

 

 最後に僕なりの『The Return』の解釈をズラズラズラーッと書き連ねていきます。

 総論としては、前にも書いたように "リンチの覚え書き" というのが、今回の『The Return』だと思います。とにかく毎回毎回、短編ドラマのように1時間ごとにテーマがあって、それに沿ってキャラクターが動いている。もしくはドラマが起きていました。第6章の親子であったり、第8章のニューメキシコであったり、第10章の愛であったり、なんでしょう、出てくるキャラクター達が変わらない18編ある短編集のような形、そんな風に僕には見えます。

 『インランド・エンパイア』でデジタルカメラを手にしたリンチ監督が、なんとなく撮りためた映像を後付けで編集したように、今回の『The Return』も同じ手法を逆からしていたのではないかと思います。このテーマだったら、これが使える。こっちのテーマだったら、これが使える。それがキューブリックであったり、ホッパーであったり、自らの過去の作品群であったり。そんなリンチ監督のインスピレーションやイマジネーションが詰まった作品というのが、全体的な印象です。

 

◆結局、オチはなんなの?

 最終的なオチは "クーパーが現実に戻ってきた" というのがオチだと思います。それがあの第16章のありえないぐらいの高揚感ではないかと。現実に戻りボブとドッペルゲンガーをロッジに戻した。ここまでが大筋の流れ。その後のローラ救出は名の通り "別次元" の話のような気がします。

 

◆ラストシーンの意味は?

 それがわかればみなさん苦労しないと思いますが、僕が思うところでは、あのセーラが「ローラ」と呼ぶ声は、旧シリーズの序章、寝坊しているローラを呼ぶセーラの声と同じだと思います。その声を聞いてキャリーが絶叫したというのは、まだ1回や2回見ただけでは理解できないのかもしれません。

 

◆"ジュディ" ってなんなのさ?

 第17章で突然カミングアウトされた "ジャオデイ" というネガティブな存在。はっきりしたことはもちろんわかりませんが、なんとなくこんな感じではないかと思うのが、新シリーズの随所に織り込まれたゴードンのダジャレにヒントが隠されてるっぽいなぁと。

 映画『FIRE WALK WITH ME』でフィリップ・ジェフリーズはゴードンの「メーデーメーデー!」を "MAY" と "DAY" に分け「5月?」と言っていました。同じように "ジャオデイ" を "JOW" と "DAY" に分けると "揺れ動く日" になります。(関係ないと思いますが "ジャオ" って中国語だと "叫び" という意味みたいです。ニュアンス的には叫びの根源、要するに恐怖の根源みたいなイメージにもとれるのですが、まあ、これは僕の妄想でとどめておくことにします。)揺れる、安定しない、そんなイメージが "ジャオデイ" から導かれるのですが、なんかしっくりきません。

 綴りが違うのですが "GEORDIE" という言葉があります。ジョーディと読むのですが、ちょっと調べてみると、これはイギリス北西部の訛りのことを言います。この訛り、例えば "Today" が "The dayah" になったりと同じ意味でも見た目がぜんぜん違うようです。またイギリス "England" の名前の由来は "Angele-land" 天使の国という意味みたいなので、フレディー君、君は天使の国から来たのか?みたいな感じもするのです。ちょいと話がズレましたが、要するに "ジュディ" もしくは "ジャオデイ" は見た目と本質が違うのではないかと思うのです。フィリップが遭遇した若い女性然り、テキサスにあった "ジュディの店" 然り、それは提示されているものとその本質が違う。

 そこから何が導き出されるかというと "ジュディ" = "トレモンド夫人" ではないかと。ジャンピングマンを従い、あちこちのトレーラーハウスなどに幻のように現れては消えていく。彼女が何をしようとしているのかはイマイチわかりませんが、現時点ではローラをどこかに導こうとしている存在であるということしかわかりません。これも何度か『The Return』を繰り返し観ることによって、おぼろげに理解できるのかもしれません。

 

◆セーラ・パーマーはどうしちゃったの?

 大方の感想を見ていると第8章でトビガエルを飲み込んだ少女=ローラママというのが一般的な見解になっていますが、僕的には釈然としません。そもそもトビガエルが孵化するのに11年もかかっているのが不思議だし、タイミングが "森の男" が闇から出現するのと同時というのも図ったような感じです。それよりも仮にローラママがトビガエルを飲み込んだためにあのような非存在的なキャラクターになったというなら、旧シリーズでの彼女のキャラクターが全て崩壊するような感じがします。

 Youtubeで面白い見解があったので貼りますが、

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 まるでマーティーに時空の歪みを説明するドク・ブラウンのようですが(笑)、新シリーズの第1章から既にクーパー改変前と改変後を同時に描いていたという見解です。これおもしろいなぁと思ったのは、今回の新シリーズ、明らかに "現実" を描いているシーンと "非現実" を描いているシーンに分かれていると思うんですね。その違いはエキストラがいるかいないか、道を走っている時に対向車とすれ違うかどうか、そして、リンチ作品の黄金の小道具 "黒電話" があるかどうかなんですが、ローラママが登場するシーンは全て "現実" バージョンになっています。逆にダギーが住むランスロットコートや、ツイン・ピークスでいうとグレート・ノーザン・ホテルや保安官事務所というのは、どこか現実と離れ小島のような印象があります。改変後でわかりやすいのが、最終章のクーパーデロリアンだったりモーテルだったりというのは、明らかに "非現実" バージョンだと思うのです。その棲み分けがこの改変前と改変後だとしたら面白いなぁと、BANG BANG BAR のあの意味不明なシーンも納得できるなぁと。

 ただ、それだけでローラママが変貌するのはやはり腑に落ちません。第15章ではジャンピングマンとローラママがダブっていましたが、ここから読み解けるのがジャンピングマンを従えていたトレモンド夫人=ジュディに操られていたのではないか、というのが一つの見解です。それは旧シリーズの最終回でブリッグス少佐にメッセージを伝えているシーンにもつながります。

 では、第8章でトビガエルを飲み込んだあの少女は誰なのか?ですが、僕的な見解は第14章の考察で語ったように "青いバラ事件" の被害者、もしくは加害者でもあったロイス・ダフィーではないかと思っています。その謎は「ケネディ暗殺の真相」や「マリリン・モンロー自殺の真相」と同じで永遠に解明されないのではないかと思っています。逆にだからこそ、ミステリアスで僕たちの興味を麻薬的にそそるのではないかと思うのです。

 

 いずれにしても、最後の最後に "電気" が消えてしまいました。これは完全に終わったというリンチ監督からのメッセージだと思います。どこで聞いたか見たか忘れてしまいましたが、カイル・マクラクランはこのエンディングが数あるうちの一つだったことをインタビューで答えていました。また、撮影された総時間は180時間分もあるなんてこともどこかで聞いたような気がするので、この18時間で納まりきれなかった数々のエピソードが裏設定として存在していたことを証明しています。

 12月に発売される『ファイナル・ドキュメント』やDVD/ブルーレイなどで、埋もれてしまったエピソードが明らかになると嬉しいですが、それまではWOWOW放送分で、このリンチ集大成クロニクルを存分に味わいたいと思います。

ツイン・ピークス The Return 考察 第17章から見えてきたニューヨークの謎

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 新シリーズがスタートしてからずっと気になっていたのが "ニューヨーク・シティ" だったのですが、今週の第17章で、おぼろげながら、その意味が少しわかったような気がしてきました。そのきっかけはフィリップ・ジェフリーズの存在。ゴードンはフィリップの事を「通常の意味ではもはや存在していない」と語り、フィリップは「ゴードンの記憶に残るのは非公式版だ」と説明していました。これが何を意味するのかとずっと妄想していたのですが、どうやら "フィリップの姿は一つではない" のではないかと思い至ったのです。第14章のモニカ・ベルッチの夢の時でも、2月16日の午前10時10分(今思うと完成された数字が2つも並んでいます)フィラデルフィア支部に現れたフィリップのことを「その日彼は現れた、いや現れなかった」とゴードンは語っていました。放送当時はゴードンの妙な言い回しにひっかかりながらもスルーしていたのですが、それも現時点から見ると、デヴィッド・ボウイの姿が本来の姿ではなかったから "現れたけど現れなかった" という曖昧な表現になったと読めます。では、それらが何につながるのかと言うと。

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 この悪クーパーと一緒に写っている男がフィリップ・ジェフリーズの非公式版の姿ではないかと。第10章でタミーから写真を受け取ったゴードンは「なんてことだ!これは大変なことだ。本当に大変なことだ」と今まで見たことないくらいに驚いていました。カメラは悪クーパーのアップになっていたので、当時はニューヨークの凄惨な殺人事件と悪クーパーが絡んでいることにゴードンは驚いていると思ったのですが、今観なおしてみるとフィリップと悪クーパーが一緒にいることに驚いているようにも見えるのです。また、この写真のフィリップの姿も一見すると宙に浮いているように見えるし、なんだか脚の高いイスに座っているようにも見える、なんとも不思議な構図をしています。いずれにしても、この写真から悪クーパーよりフィリップの方が立場が上という印象を受けます。

 第2章では悪クーパーとフィリップが通信機を通して会話をしていますが「遅いぞ。ニューヨークで会いたかったんだ。まだバックホーンなのか?」というフィリップの問いに対して、「お前はどこでもない場所にいるのか?」と悪クーパーが質問返ししています。この "どこでもない場所" とはコンビニエンス・ストアの2階だというのはすぐに想像できますが、なぜフィリップが ”ニューヨークで会いたかった” のかは最終回直前になってもはっきりした理由が出てきません。

 では、この2人はニューヨークで何をしようとしていたのでしょうか?それが第17章でゴードンが語っていた "極めてネガティブな存在" = "ジュディ" に関係するのではないかと思うのです。映画「FIRE WALK WITH ME」で描かれていたようにフィリップは独自の捜査で "ジュディ" の存在に気がつきました。そして、僕らの知らないところでブリッグス少佐も "ジュディ" の存在を知り、その情報をクーパーとゴードンに知らせていました。では、ブリッグス少佐はどこで "ジュディ" を知ったのか?

 

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 突然、旧シリーズに戻りますが、第27話でブリッグス少佐を拉致したウィンダム・アール。彼はフクロウの洞窟に描かれていた謎を解明するために少佐をハロペリドール漬けにし自白させます。そこから出てきたワードは「木星土星が出会う時、彼らは受け入れる」。それを聞いたアールは、ブラック・ロッジへの入り口は "ある場所のある時刻" に行かなければならないことに気づき、洞窟の絵が "地図" になっていることを知ります。まるで新シリーズのバックホーンで聞いたようなエピソードですが、当時はこの辺りの謎解きのスピード感に相当シビれまくったもんでした。

 ただ、僕がここで言いたいのは、さらにその続きです。レオのファインプレーでアールのアジトから逃げ出したブリッグス少佐は、たまたま通りかかったホークに発見され保安官事務所に保護されます。何があったのかクーパーとハリーから質問されたブリッグス少佐は、旧シリーズの第28話でとんでもないことを言っていたのでした。

ガーランド?妙な名前だな。ジュディ・ガーランド

 25年前、既にガーランドは "ジュディ" のことを口にしていたのです。さらに語りは続きます。

「あれは神だった」

 森の奥深くでブリッグス少佐は "神" と面会していた。それは片腕の男マイクが "腕" を切り落とすきっかけになった "神" と同じような気がするのです。

 その発端はクーパーと山にキャンプに出掛けた時でした。突然、森の暗闇にまばゆいばかりの光が現れ、ブリッグス少佐はどこかへ連れ去られてしまったのです。

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 その時、光の先に現れたこの人影。ブリッグス少佐は "番人" と呼んでいましたが、この恰好、先ほどのニューヨークのペントハウスで悪クーパーと一緒に写っていた男の服装とどこか似ています。

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 森の奥に潜む "神" を守る "番人"。もしかしたら、これもフィリップ・ジェフリーズだったのかもしれません。旧シリーズの第27章でウィンダム・アールはブリッグス少佐に「久しぶりだな!」と語りかけていました。新シリーズではアールのアの字も出てきませんが、彼が "青いバラ特捜チーム" の一員だった可能性があることを『シークレット・ヒストリー』は仄めかしています。ならば、チームリーダーであるフィリップがブリッグス少佐を知らないわけがありません。25年前、フィリップは森の奥にブリッグス少佐を招き入れ、"神" と対面した証である "3つの三角の痣" を首筋に入れた。それは "ジュディ" に対抗する勢力を組織立てるためだった可能性があるのです。

 

 新シリーズに戻り、"番人" であるフィリップが、なぜ悪クーパーと手を組んでニューヨークのペントハウスにガラスの箱を設置したのでしょうか。それは "ジュディ" を炙り出すためではないかと。今一度振り返ります。"ジュディ" = "極めてネガティブな存在" です。強大な負の力。旧シリーズ的に言うなら "強大な悪の力" 。第8章では、その根源が "トリニティ実験" にあったと描かれています。世界を "恐怖" に陥れた核爆弾。そこでエクスペリメントが産まれた、もしくは引寄せられた。では、ニューヨークで起きた極めてネガティブな "恐怖" と言えば、もう明らかです。やはりニューヨークの舞台は "9.11" を描いていたのです。

 建物の中と外に設置された縦横3.0m四方の強化ガラスの箱。その中は、たぶん真空状態になっていそうです。影を作らないように両サイドからLEDライトを当て、ガラスの周囲に6台、箱の真正面に1台設置されたデジタルカメラが24時間回りっ放しで一部始終を録画しています。サムとトレイシーの性行為に引寄せられるかのように(もしくはそうなるように仕向けて)、その箱の中に現れたのは "エクスペリメント・モデル"。彼(もしくは彼女)は強化ガラスを突き破りカップルの頭部(鼻から上部)だけを無残な状態にしてしまいます。まるで卵を殻ごと貪るように "人間の脳" を貪ったように見えます。

 "ジュディ" を炙り出そうとした結果、エクスペリメントが現れ、極秘だった場所がニューヨーク警察、そしてFBIに知られるようになってしまった。そもそも新シリーズを通してフィリップは悪クーパーをどうにか始末しようとしている節がありました。穿った見方をすると、クーパーや消防士が言っていた "一石二鳥" というキーワードは、このフィリップの行動に当てはまるような気がするのです。

 一つの石(ガラスの箱)で、"ボブ" と "ジュディ" という二羽の鳥を捉えようとした。

 結果としては、この事件を機にゴードンたちが悪クーパーと接触することとなり、ゴードンとフィリップの原点でもある "青いバラ事件" にもつながる流れの起点にもなったのです。それは "時" を操ることができるフィリップの何度目かの挑戦だったのかもしれません。

 

【小ネタ】

◆「119」と叫んでいたヤク中の母親は、もしかしたらロッジの住人、もしくはロッジの誰かが憑依したキャラクターかもしれない。アメリカの110番の番号は "911" 。"もてと" と同じ原理。

ツイン・ピークス The Return 考察 第17章 保安官事務所に勢ぞろい!ピートが釣りしてる!すごいもん見たなっ!

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まるで霧深い森に迷い込んだような第17章。

ダンテの『神曲』のオープニングのようです。

"正しい道を踏み迷い、

はたと気づくと暗黒の森の中だった"

 

姐さん、どうしたらいいですか?

カオスに続いて崩壊が始まりました...。

時と空間の秩序の崩壊です。

宇宙の破滅ですわ!

ね?エメット・ブラウン。

 

◆メイフェア・ホテル 1827号室

ダイアンを撃つ事ができなかったと嘆くゴードン。

そもそも撃つ気がなかったように思いますが...。

なんか、いじけたおじいちゃんみたい...。

ワシも撃ちたかったのぉ。

あんたら二人でバン!バン!って撃ちよるさかい、

なんかワシ 仲間外れみたいやのぉ...。

ワシもカッコ良く撃ちたかったのぉ...、みたいな。

ごめんね、ゴードン。

 

ゴードン・コールは、

この25年間、アルバートに隠していたことを告白。

長いモノローグなので要所で分割します。

 

A-1 ブリッグス少佐はある存在を発見した

A-2 それは極めて "ネガティブな力"

A-3 遠い昔は "ジャオデイ" と呼ばれていた

A-4 時を経て呼び名は "ジュディ" に変わった

 

B-1 ゴードン達は "ジュディ" へ辿り着く計画を練った

B-2 その後、ブリッグス少佐に何かが起きた

B-3 クーパーにも何かが起きた

 

C-1 フィリップ・ジェフリーズはこの世に存在しない

C-2 フィリップは "ジュディ" に気づいたと言っていた

C-3 そして、彼も姿を消した

 

D-1 クーパーの最期の言葉

「もし僕が消えたら、

あらゆる手を尽くして見つけ出してほしい

僕は一石で二羽の鳥を狙う」

 

E-1 今抱えている二人のクーパー問題

 

F-1 レイから暗号メッセージが届いていた

F-2 悪クーパーが座標を探している

F-3 その座標を知っているのはブリッグス少佐

 

まずはA項目について。

ジュディ=ジャオデイ。

ていうか、そもそもジュディって女性だったはず。

それがとんでもない存在に変わり始めてます。

極めてネガティブって、どんな?

あ...。

ローラ・ママ?

 

B項目。

アルバートが知らない計画を僕らが知る訳がない。

B-2 ツインピークス郊外で起きた政府施設の火災

B-3 ドッペルゲンガーの誕生

 

C項目。

ジュディが女性だと言っていたのはフィリップ。

彼はシアトルにある "ジュディの店" まで行った。

さらにブエノスアイレスではホテルで待ち合わせ。

彼が接触したのは "化身" だったのだろうか?

フィリップと少佐は同じ存在の事を指してる?

 

D項目。

第1章の消防士のお告げがお目見え。

だけど、それってクーパーが自分で言ってたらしい。

25年も経ったから忘れちゃったん?

それで消防士が念押しで告げたってこと?

いずれにしても "二羽の鳥" は何を指すんだろ?

 

E項目。

暗に "青いバラ事件" を示唆しています。

 

F項目。

このくだりが一番ショッキングかもしれない。

レイって情報屋だったの!みたいな。

しかも刑務所からの送信。

なんか、いろいろとつじつまが合わないんだけど。

でも思い返してみると、

第8章で悪クーパーを撃ち殺した後、

フィリップに報告してる姿はなんかFBIっぽかった。

ていうか、レイは座標を知ってたんだから、

それを教えてもらえばよかったんやない?

あ、でも「金になる」って言ってたから、

もしかしたらゴードンに売るつもりだったんかな?

 

いろいろと謎が解明したようで、

なんだか煙に巻かれたようなゴードンのモノローグ。

真相はいかに?

 

FBIラスベガス支部のヘッドリーから連絡がきます。

ダギーを見つけたけど居場所がわからない。

それを聞いたアルバート

マルクス兄弟か?と斬り捨てます。

いやいや、アルバート

それを言うならフスコ三兄弟の方だよ。

ヘッドリーは優秀なんだよ、たぶん。

 

そこへブッシュネル社長が登場。

クーパーの伝言を伝えます。

トルーマン保安官のもとへ向かう

〇ラスベガスは2時53分

〇3つの数字を足すと完全数字 "10" になる

感謝の意を伝え、電話を切るゴードン。

ブッシュネル、ヘッドリーに電話を渡さない。

この小芝居、マルクス兄弟

 

2:53のそれぞれの数字を足すと "10" になるって、

言われて初めて全部 "素数" だったことに気づいた。

ただ、クーパーの言う "完成された数字" の意味が、

どうも理解できません。

それを言うなら "6" の方がよっぽど完全数字です。

黙示録では逆に不完全な数字とされていますが...。

で、"10" で完全と聞くと思いつくのが「十牛図」。

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自己の悟りに至る10の段階を10枚の絵にしたもの。

前にも "牛" 関連で少し触れましたが、

クーパーの言わんとする所は10枚目「入鄽垂手」、

再び俗物の世界に入って、

人々に安らぎを与え、

悟りへ導く必要がある状態に辿り着いた、と。

詳しいところは、また後日。

 

ツイン・ピークス保安官事務所:留置所

チャド、なんか企んでいます。

ていうか、酔っ払い。

なんか彼に妙な愛着が湧いてきちまいました。

 

◆伝播する何か

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第14章以降、ちょいちょい出現するこのイメージ。

電気を通して何かが伝わってるのはわかりますが、

いったい何が伝播しているのでしょう。

そして、悪クーパーが次の目的地へ向かっています。

 

ツイン・ピークス保安官事務所:留置所

ナイドが何かを感じます。

また鳥の合唱。

のた打ち回るチャド。

ふと思ったんだけど、

二羽の鳥ってナイドと酔っ払いのこと?

 

◆グレート・ノーザン・ホテル

ジェリーが保護されました。

ワイオミング州ジャクソンホールで...。

彼、完全にアイダホを縦断しています。

どんだけの脚力やねん!

しかも保護された時、素っ裸だったみたい。

 

◆伝播する何か

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...、...、...。

もしかして、ジェリー...、

悪クーパーにすっ飛ばされた?

 

◆ジャック・ラビット・パレスの先

悪クーパーが座標の位置に到着。

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この "溜まり" が何なのかイマイチわかりません。

『シークレット・ヒストリー』では、

丸太おばさんが "森の心臓" と呼んでいました。

何か地下から湧き上ってる感はあるんだけど...。

なにはともあれ、

悪クーパー、ワームホールに吸い込まれます。

もう2時53分とかも関係ないみたい...。

 

◆時をつかさどる劇場

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悪クーパー、即行で捕まってるやん!

しかもブリッグス少佐の首もありました。

それ以外は第8章と変わらず。

 

劇場のスクリーンに映し出されている "森の心臓" 。

消防士が宙に浮いています。

この人、浮かぶの好きやなぁ。

 

次にパーマー家が映し出されます。

消防士、何かをスライドさせるジェスチャー

するとスクリーンがどこかの道に切り替わります。

劇場の奥の部屋には大量の梵鐘が!

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なんだ、これ。

まるで発電所やないか!

...、...、...。

発電所

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なんか気づいちゃった?

梵鐘って原子炉の形に似てる!

これもまた後日ゆっくりと。

今週はヤバイ。

まだ始まって15分も経ってないのに既に2800字。

 

でもって、悪クーパーがボン!と弾ける。

なんだ?イレイザーヘッドのヘンリーみたい。

髪が逆立ってますよ。

で、スクリーンの向こうに飛ばされました。

 

ツイン・ピークス保安官事務所

飛ばされた先は保安官事務所。

ちょうどよくアンディがいます。

クーパー捜査官だ!と喜んでいます。

頼む、アンディ。

何かが違うってことに気づいてくれ!

そんなんだからチャドに茶化されるんだぞ。

 

ナイドが不穏な空気を感じて騒いでいます。

それが子守唄に聞こえたのか酔っ払いが寝落ち!

マジか!

どうした酔っ払い。

お前、どんなタイミングで眠気に襲われたんだよ!

そのタイミングを狙っていたチャド。

靴底からカギのスペアを取り出した。

随分と用意がいいじゃねぇか、チャドさんよ。

 

ルーシーまで呑気に喜んでいます。

まあ、この夫婦じゃ仕方がないか...。

ていうか、なんか悪クーパーが朗らかだ!

なんなんだ?気持ち悪いぞ。

トルーマン保安官とオフィスに向かう悪クーパー。

タニタしてるアンディ。

ふと消防士に教わったイメージが脳裏に浮かぶ

 

牢屋のカギを開けるチャド。

抜け出ると武器保管庫に向かいます。

何を企んでるんでしょ?

 

お互い席に着くトルーマン保安官と悪クーパー。

アンディがコーヒーを用意すると言うと、

「いらない」

マジか!

ツイン・ピークスの中で初めてじゃないか。

いや、数あるリンチ作品の中でも初だぞ!

この人、コーヒーを断りやがった!

もう一度、言います。

この人、コーヒーを断りやがった!

スゲエ。

革命的だ。

さすがにアンディも何かに気づいたみたい。

ホークを呼んでくるとバタバタ走っていきます。

 

ルーシーに一大事だ!と叫ぶアンディ。

当たり前だよ、コーヒーを断ったんだ。

もう世界がひっくり返ったっておかしくないさ。

 

で、ホーク!って呼びに来たのが、

なんで留置所なんだよ、アンディ!

あったま、おかしいだろ!

ほら、チャドが拳銃構えて待ってるやん。

酔っ払いはなぜか左頬の絆創膏を剥がしたよ。

何か起きるかと思ったけど、なんも起きないよ。

ただ痒かっただけみたい...。

アンディに詰め寄るチャド。

ナイドと酔っ払いの鳥の合唱を聞かされ続け、

相当に溜まってるっぽい。

で、そこへフレディが園芸手袋パンチを一発。

開いた牢屋にノックアウトされるチャド。

なんか、見たことあるなぁ、こんなシーン。

あの人チキン呼ばわりされてムキになってたよね。

 

電話を取るルーシー。

相手はクーパー。

すかさずトルーマン保安官につなぎます。

チカチカしてるボタンだそうです。

彼はクーパーが二人いることを事前にわかってます。

それに勘付いた悪クーパー。

すかさず発砲!

トルーマン保安官の帽子がフワッと浮く!

...、...、...。

なんか、見たことあるなぁ、こんなシーン。

あの人、パイ皿投げて危機を救ってたよね。

 

倒れる悪クーパー。

トルーマン保安官を救ったのはルーシー。

銃、撃てるんだね...。

なんかビックリ...。

やっと携帯電話ってのがどんなかわかったんやって。

よかったよかった。

アンディと留置所の面々も上がってきました。

って、お~~~い!!!!!

酔っ払いはどうした?

全員、上に行くぞって言ってたよね?

...、...、...。

もしかしてさ、チャドにしか見えてなかったの?

あの酔っ払い。

 

ホークも到着します。

クーパーは悪クーパーに触るなと忠告します。

すぐに到着するから、それまで待てと。

そうしている内にやってきました。

"木こり" が3人、またワサワサしてます。

どういう原理なのかイマイチわからないけど、

復活の儀式なんだろうね、これは。

そこへクーパーも到着。

でもって、悪クーパーのお腹から、

まるでエイリアンのようにボブ玉が出てきました。

クーパーを見つけるとボブ玉アタック!

んん...。

微妙...。

微妙だ...。

誰かがやられてるのを見ると、

急にしゃしゃり出たくなるのがフレディー。

ボブ玉に向かっていきます。

ていうか、

クーパー、なんでフレディー知っとるん?

あらかじめ消防士から教えてもらってたん?

いずれにしてもボブ玉 VS フレディーの始まり。

んん...。

微妙...。

リンチ先生にはアクションは無理なのかなぁ...。

とりあえずボブ玉を蹴散らすフレディー。

クライマックス感は半端ないぐらいあるけど、

それと同じくらい違和感も感じるという...。

 

フレディーの園芸手袋って、

なんとなく "超人ハルク" みたいと思ってました。

ホント、短絡的な発想なんですけど...。

でもね、ハルクの奥さんの名は "ローラ" だし、

超人ハルクに登場する敵って "電気系" が多い。

ボブ玉みたいな敵 "Galaxy Master" もいる。

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まあ、どこまで関連性があるのかわかりませんが、

なんとなく共通点があるなぁ...と。

閑話休題

 

悪クーパーに "翡翠の指輪" を嵌めるクーパー。

ロッジ強制送還、完了です。

んで、トルーマン保安官に315号室の鍵を求めます。

どうやらブリッグス少佐が教えてくれたらしい。

 

ナイドの姿に目をやるクーパー。

ここからしばらく、

ずっとクーパーの顔が画面いっぱいに映り込みます。

 

部屋に現れるボビー。

クーパーはブリッグス少佐の功績を称えます。

そして、ゴードンたちも到着。

いつの間にかクーパーの独白状態です。

「我々はこうして導かれた」

「これから変わりゆくものもいくつかある」

うなづくホーク。

暗に丸太おばさんの "変化" に言及しています。

「過去が未来を決める」

なんか、聞いたことあるなぁ、こんなセリフ。

未来は白紙だって、自由に描いていけって。

 

キャンディたちがサンドウィッチを運んでくる。

なんだろ、キャンディがシャキッとしてます。

すると突如ナイドが騒ぎ始める。

クーパーと手を合わせると頭が黒い炎に包まれ、

そして、赤い部屋で何かの殻が割れていきます。

そこから現れたのは赤髪のダイアン。

クーパーと熱い口づけを交わします。

全て覚えていることを伝えると時計に目をやります。

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時刻は "2時53分" ちょうどを何度も指しています。

 

そして、画面に映り続けていたクーパーが口を開く。

「僕らは夢の中に生きている」

 

保安官事務所に集った人達に別れの挨拶をする。

突然、辺りを暗闇が襲い掛かる。

クーパーはゴードンに呼びかける。

もう...、世界の崩壊や...。

 

とりあえず、

みんながいきなり拍手をし始めて、

「おめでとう」と言いださなくてよかった...。

 

◆グレート・ノーザン・ホテル:ボイラー室

相変わらず画面いっぱいにクーパーの顔。

暗闇の向こうからクーパー、ダイアン、ゴードン。

ベン・ホーン曰く "修道院の鐘の音色" が響いてる。

クーパーは315号室の鍵でボイラー室の扉を開く。

もう...、全てが滅茶苦茶で何がなんだかだ...。

去り際にクーパーが一言。

「カーテンコールで また会おう」

意味深すぎるだろ!

 

◆次元の狭間

リンチ・ブラックから現れるクーパー。

向かいからは片腕の男が現れる。

 

"未来における過去の暗黒を通して

魔術師は見たいと乞い願う

1つの声が放たれるのは2つの世界の狭間

火よ 我とともに歩め"

 

このセリフはインターナショナル版で、

片腕の男マイクが病院で語っていたセリフ。

この後、病院の地下室にボブがいると教えられ、

クーパーとハリーは刑事ドラマさながらで向かう。

ここで、このセリフが登場したということは、

たぶん、今この場面が25年前であり、

クーパーが夢で見ている世界ということなのか...。

 

◆コンビニエンス・ストアの2階

クーパーと片腕の男が、

ゴーストウッドの回廊を進んでいく。

階段を上り、扉の向こうに消えると、

ジャンピングマンが電気と共に階段を下りてくる。

 

どこかのモーテル。

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前回と同じように8号室の明かりが灯っている。

"木こり" たちの姿はない。

邪悪なものは消滅したのだろうか?

 

フィリップ・ジェフリーズを訪ねるクーパー。

前回の時はあまりよく見えなかったけど、

蒸気の先にはハロ現象のような日暈があります。

一種の "虹の環" みたいなものですが、

どうもフィリップは、

その日輪の向こうから語りかけてくるみたい。

蒸気も "虹の環" を造る為にあるようです。

 

クーパーはフィリップにある日付を伝えます。

"1989年2月23日"

これはローラが殺された日。

ということは、

フィリップがフィラデルフィアのFBIに現れたのは、

やはりその1年前の "1988年" ということになります。

前回、ここに悪クーパーが訪れた時、

なんでそれを "1989年" って言ったんだろう?

 

フィリップはクーパーに忠告します。

「ここは滑りやすい」

「ここで君は "ジュディ" を見つけるだろう」

「恐らく誰かがいる」

そして、君はこれを頼んだか?と、

フクロウのシンボルを吐き出します。

やがてそのシンボルは "8" に変化する。

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∞(無限大) とも読めるこのシンボル、

ループ、メビウスという意味も含んでいそうです。

"8" がひっくり返るというのも意味深です。

そして、片腕の男が "電気だ、電気" と叫ぶと、

クーパーは1989年のあの時にタイムスリップする。

まるで "雷" に打たれた、あの時計塔のように。

確かに何千ワットもある "電気" だね。

 

◆パーマー家の前

ジェームズがローラを迎えにくる。

その様子をリーランドが見つめている。

 

◆21号線の信号

途中、森の中で語り合うローラとジェームズ。

その様子をクーパーが森の中から覗いている...。

なんか、見たことあるなぁ、こんなシーン。

あれは次元の切替わる重要な場面だった。

 

そんなクーパーがボブに見えたのか、

ローラが悲鳴を上げます。

これは映画「FIRE WALK WITH ME」でも同様、

見事なシンクロです。

 

信号の前でローラがバイクから飛び降りる。

泣きながら森の中に消えていくローラ。

赤信号と共にジェームズが走り去っていく。

森の先ではジャック、レオ、ロネットが待っている。

 

気持ちが治まり、3人のもとに行こうとした時、

ローラの前にクーパーが現れる。

 ...、...、...。

夢の中でクーパーに会っていた事を思い出すローラ。

「どこに行くの?」と問いかける彼女に、

「家に帰ろう」と森の中に引き連れていくクーパー。

モノクロだった世界が色づいていく...。

 

ただ、なんとなくだけど、

ここで話しているローラは、

ローラに似ているけどローラじゃない気がする。

なんか違和感が...。

 

湖畔に横たわるビニールに包まれた死体が消える。

なんか、見たことあるなぁ、こんなシーン。

あれはどこかの新聞記事が入れ替わったんだっけ。

 

◆マーテル家

翌朝、ジョシーがハミングしながら化粧をしている。

ピートは釣りに出かけた。

寂しく鳴る霧笛の音を聴きながら...。

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ヤバッ。

ピートの哀愁が凄まじいんだけど...。

 

◆パーマー家

セーラが何やら唸っている。

そして、ローラの写真をひっつかむと、

酒瓶でおもむろに写真を何度もたたきつける。

しかし、写真は傷一つ付くことがなかった。

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まるで『ワイルド・アット・ハート』のマリエッタ。

そういえば、

彼女も娘がいなくなってから気が狂ってしまった。

 

◆ゴーストウッドの森

たぶん、"森の心臓" に向かっているクーパー。

途中、電気の音が木霊する。

掴んでいたはずのローラの手が消えてしまう。

そして、森の中に彼女の悲鳴が響き渡る。

...、...、...。

さて、何が起きてるのか、さっぱりわかりません。

 

◆「The World Spins」 by Julee Cruise

相変わらずの刹那、相変わらずの天使の声。

若かりし日のローラと相まって、

なんとも言えない切なさが込み上げてきます。

 

で、来週はとうとう最終回。

前評判通り、この回で終わってもいいような出来。

ロスト・ハイウェイ』のラストみたいな感じ。

それがもう一話あるんでしょ?

メビウスの先にいったい何が待ち受けてるん?

 

そして、とうとう "8" が出てきました。

これは "蛇" を現わしていることが確実。

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これは仏教の "三毒" の一つ "瞋" を意味します。

人間の煩悩の一つ "怒り" を現わします。

今週、ブチ切れていた人が数人いましたよね。

あと出てきてないのは "豚" なんですけど。

出てくるのかなぁ...。

 

仏教つながりで、

内藤仙人さまが急にBTTFの話題を振りまいたので、

今週、頭がマーティ・マクフライになりまくり。

確かに共通項がありすぎるような気がします。

片や、超がつくエンターテイメントですけどね。

 

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フクロウのシンボルがメビウスに変化しましたが、

上のシンボルも、

ツイン・ピークスの世界を端的に表しています。

来週、それが明らかになるのか?

なんだかんだで、あと1回。

毎週末のリンチ・タイムも来週で終わりかぁ。

寂しいなぁ。