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深読みツイン・ピークス③ トレモンド夫人の孫

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

第3章「トレモンド夫人の孫はジャンピングマンの融合体なのか?」

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『The Return』の国内版DVD/BDの発売日が決定しましたので、とりあえず7月まで、ツイン・ピークス関連の記事はゆっくりめに更新していこうかなと思っております。ただ、そうは言っても、前回のトレモンド夫人の考察でかなりジュディの核心に迫ったような気がしましたので(本当に核心なのかはさて置き)、その続きを今回も展開していこうかとは思います。しかし、そんなん言いながら、そもそもこの第4回シリーズは "シーズン2" の深読みのはずで...。いつのまにか『The Return』の核心を考えるシリーズになってしまいました。

まあ、正直に言いますと、前々から言っているようにシーズン2で重要なのはデイヴィッド・リンチが監督した第8話・第9話・第14話・第29話の4話だけではないかと感じているので、それ以外のことについてはあまり深掘りする気は端からございません。逆を言うと、上記の4話以外をツイン・ピークスの醍醐味として楽しんでいた人、例えば、片目のネイディーン怪力話やジェームズ不倫放蕩の旅、物語に関係ありそうで実はそうでもなかったデッド・ドッグ農場事件、ベンジャミン・ホーンの南北戦争ごっこ、裏切りジョシー引き出しの持手に閉じ込められるなど、これらのエピソードを楽しいと思われていた方は、たぶん映画と同様に『The Return』もあまり楽しいものではないのかもしれません。なぜなら、今挙げた数々のエピソードはデイヴィッド・リンチが制作したものではなく、ほとんどがハーリー・ペイトン、もしくはロバート・エンゲルスが拵えたリンチ風ミステリードラマであり、作中でしっかりと起承転結しているのです。そうなんです。リンチ作品はそうはいかないのです。起承転結、もしくは序破急で物語が進むとしたら、リンチ監督は承起結、急序急、こんな感じで物語を進めていきます。困ったことに肝心な "転" や "破" を描かないので、突然物語が終結し、そこに至るまでのプロセスをファンは解読していかなければいけないのです。本当に困った人です。

なので、描かれていない "転" や "破" について、僕がシーズン2で考察、もしくは妄想していくつもりでいるのは「第1章 リンドバーグ事件」「第2章 トレモンド夫人」そして、この「第3章 トレモンド夫人の孫ピエール」になります。このあと「第4章 ホワイト・ロッジ(ブリッグス少佐)」「第5章 ドッペルゲンガー(天使と悪魔)」を半月ペースで更新していこうかとは思いますが、内容によっては今回のようにもう少し時間がかかるかもしれません。いずれも非常に重要視されているキーワードですので、必然的に『The Return』の深読みにもつながっていくと。そんなんで7月までちょいちょい更新していくつもりでおります。

 

1.クリームコーン(ガルモンボジーア)

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ツイン・ピークスの第9話で "痛みと悲しみ" の象徴であるガルモンボジーアことクリームコーンが早々と作品に登場しています。しかし、トレモンド夫人同様、テレビシリーズでクリームコーンが語られたのはこの第9話のみで、その後、映画に登場するまでクリームコーンが何を意味するのか語られることはありませんでした。そして、トレモンド夫人の孫であるピエールは、ドラマ内でこのクリームコーンを自在に操ることができる存在として描かれています。

第9話をもう一度振り返ってみるとしましょう。ローラの代わりに給食サービスの手伝いを始めたドナ。トレモンド夫人に食事を運んでくると、ソファに座っていたピエールが声をかけてきます。夫人しかいないと思っていたドナは突然のことに驚きますが、相手が少年だとわかるとすぐに安堵します。ピエールは「時には、こんなことも起こるんだよ」と指をパチンと鳴らす。すると、クロッシュで覆われたお皿の中にチキンライスと一緒にクリームコーンが盛りつけられているのです。

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それを見たトレモンド夫人は「クリームコーンは要らないと頼んだのに」と訴えます。困惑するドナですが、次の瞬間、「あなた、お皿にクリームコーンが見える?」とトレモンド夫人が囁きます。ドナがお皿に視線を落とすと、たっぷり盛りつけられていたクリームコーンはキレイに姿を消し、なぜかピエールが両手いっぱいにクリームコーンを掬い上げているのでした。さらに困惑するドナを見てずいぶんと楽しんでいるかのようなピエール、いとも簡単に両手いっぱいのクリームコーンを消してしまいます。トレモンド夫人は「私の孫は手品の勉強中なの」とどこか誇らしげで、それを聞いたドナは「なんて素敵なの」と顔を引きつかせます。ピエールは無表情です。

さて、このシーンでわかることは、冒頭でお伝えしたようにピエールがクリームコーンを自在に操ることができるということ、そして、着目すべきはトレモンド夫人がどこかピエールのしもべのような雰囲気を醸し出していることです。訪ねてきたドナをどうするかは、どうやらトレモンド夫人ではなくピエールの一存で全てが決まるように見えるのです。それを裏付けているのが「隣に住むスミスさんに聞いてごらん?」とトレモンド夫人に言われ、ドナは素直に隣のハロルド・スミス宅のドアを叩くのですが、その姿を見て「どうやらいい娘なようだね」とピエールがつぶやいています。言った通りにほいほい動く姿が "いい娘" なのか、それともクリームコーンや「私の魂は孤独」というフランス語の詩にまったく動じなかったから "いい娘" なのかはわかりません。いずれにしても、これらのことからピエールやトレモンド夫人のターゲットはドナの先にあるハロルド・スミスであることがわかり、その結果が第16話に集約されていきます。

旧テレビシリーズから読み取れる情報はこれだけであり、クリームコーン自体がどのような意味を持つのかを推測することはこれ以上できませんので、次に映画『ローラ・パーマー最期の7日間』でのクリームコーンを読み取っていきます。

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まずはフィリップ・ジェフリーズが目撃したとされるコンビニエンスストアの2階にあるミーティングルームに注目します。映画公開時から重要視されてきたこのシーンですが、改めてここに登場しているキャラクターたちを振り返ってみます。

 ◆別の場所から来た男(Man from Another Place)

 ◆ボブ(BOB)

 ◆トレモンド夫人(Mrs.Tremond / Chalfont)

 ◆トレモンド夫人の孫(Mrs.Tremond's Grandson)

 ◆ジャンピングマン(Jumping Man)

 ◆ウッズマン①(Woodsman)

 ◆ウッズマン②(Second Woodsman)

 ◆電気技師(The Electrician)

エンドクレジットで表記されているのは上記の8名になります。まず、ここで注目したいのは "ピエール" の名が消えていることです。デイヴィッド・リンチ作品で名前が与えられないキャラクターというのは、その存在が "象徴的" であるということを現わしています。『ロスト・ハイウェイ』のミステリーマン(Mystery Man)、『マルホランド・ドライブ』のバーン(Bum)、『インランド・エンパイア』のロスト・ガール(Lost Girl)やファントム(Phantom)などと同じ扱いになります。となると、ピエールは単純に "トレモンド夫人の孫" であり、もしかすると何人もいるうちの一人なのかもしれません。トレモンド夫人が3人も存在していたのと同じように、ピエールと呼ばれている孫は手品が得意で、他の孫はまた別人格で存在していると。そう仮定するとテレビシリーズと映画では別々のキャラクターであると読み解くこともできそうなのですが、混乱を招きそうでもあるので、ここではピエールの名前が消されたということだけに留めることにいたします。

さらにこのシーンに登場する小道具を見ていきます。

 ◆フォーマイカのテーブル

 ◆ガルモンボジーア(クリームコーン)

 ◆コンデンサ

 ◆トレモンド夫人の孫が足かけているスチール缶

 ◆電気技師が持っている杖

 ◆ジャンピングマンが持っている枝

 ◆ジャンピングマンが昇り降りするプラスチックケース

『The Return』にも登場していたコンデンサなど、いろいろと考察したい箇所は山盛りではありますが、ピエール同様、ここではガルモンボジーアに焦点を絞って詳しく見ていくことにします。

フォーマイカのテーブルの上にはボールのような大小の銀皿と2つのスープ皿、計4つの皿が並べられ、どの皿にもたっぷりとクリームコーンが盛りつけられています。このシーンで初めて小人の口からクリームコーンが "ガルモンボジーア" であることが明かされます。しかし、それが "痛みと悲しみ" を意味するものだとわかるのは映画のエンディングまで待たなければなりません。

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映画の後半で片腕の男フィリップ・ジェラードは、リーランド(ボブ)の車をしつこいほど煽り、十字路で停まったところで「お前はコーンを盗んだ!オレがコンビニの上で缶詰にしたやつだ!」と叫びます。そして、ローラに向かって「ボブに気をつけろ」と注意を喚起するのですが、結果、彼女は殺害されてしまいます。エンディング、してやったりでロッジに戻ってきたボブに対して、片腕の男は小人と共に再度コーンを返してくれと訴えます。その字幕に "ガルモンボジーア(痛みと悲しみ)" と表記されているのですが、セリフで語られているわけではありません。あえて注意書きのように字幕で説明している辺り、製作者側が鑑賞者にガルモンボジーアの意味を確実に伝えたいという意図があることが窺えます。

苦虫を噛んだボブはリーランドの腹部についた血を全て吸い取り、それをロッジの床にばら撒きます。無事にガルモンボジーア(クリームコーン)を取り戻した小人は、それを旨そうに口に啜り込む。小人が食べる=片腕の男にコーンが戻ってくる、このような等式になります。しかし、この後、闇の中にいるサルが小さな声で「ジュディ」と囁くのです。字幕を見ると、その微かな声の主はフィリップ・ジェフリーズであることが明らかになっています。まるでガルモンボジーアの動向を調査していたジェフリーズが、最終的にジュディを見つけたとでも言わんばかりの演出です。

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このように映画の流れを見てみると "痛みと悲しみ" を求めたボブがテレサ・バンクスを殺害するシーンから始まり、ガルモンボジーアを体現するローラの一週間が描かれ、最終的に片腕の男と小人にクリームコーンを供養することで何かしらの贖罪が得られたと推察することができます。そして、ミーティングルームへの潜入からローラ事件の終幕を迎えたことで、フィリップ・ジェフリーズはジュディに接触することができた、このように読み取ることもできるのです。

ここで再び旧シリーズの第9話に戻り、日本ではあまり馴染みのない丸太おばさんのイントロダクションに着目します。まずは丸太おばさんの解説をそっくりそのまま引用します。

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「"上なる如く、下もまた然り"。人間が位置しているのはその間です。人間の中に広がるのと同じほどの空間が外にもあります。星や月や惑星は、陽子や中性子、そして電子を思い起こさせます。すべての星を包むような大きな存在はあるのでしょうか?我々の思考は我々の内と外の事象に影響するのでしょうか?私はその通りだと思います。クリームコーンの宇宙の営みへの影響はあるのでしょうか?そもそもクリームコーンとはなんなのでしょうか?何かのシンボルなのでしょうか?」

丸太おばさんのイントロダクションは各回の監督によってその重要性が非常に異なるのですが、第9話に関してはこのように既にクリームコーンが "シンボル" であることを視聴者に明かしています。そして、その "シンボル" は、内なる宇宙と外なる宇宙の両方に影響を与えるものだと語られているのです。そこから容易に想像できるのは、『ローラ・パーマー最期の7日間』で描かれていたのは、その "シンボル" の奪い合いだということです。

ここまでの推察を整理すると下記のようになります。

 

  ピエールはクリームコーンを自在に操れる

          ↓

   クリームコーン=ガルモンボジー

          ↓

     痛みと悲しみのシンボル

          ↓

 片腕の男が缶に詰めた(ローラを守ろうとした)

          ↓

    ボブが奪った(ローラを殺した)

          ↓

   小人や片腕の男のもとに帰ってくる

          ↓

  ガルモンボジーア=ローラの痛みと悲しみ

          ↓

 ローラの痛みと悲しみはピエールの手中にある

 

いかがでしょうか。こうして見ていくとやはりピエール、もしくはトレモンド夫人の孫の存在がかなり大きいことになります。そして、シーズン2の冒頭にリンチ監督がクリームコーンを登場させたのは、この "シンボル" がドラマの中枢になると踏んでのことだと推測することができます。しかし、ご存じの通り旧テレビシリーズの物語は予定外だったローラ事件の真相を急遽描かなければならなくなり、第14話以降から物語がシフトチェンジします。そのため予定されていたトレモンド夫人の孫やクリームコーンについてのエピソードがテレビシリーズではほんの障りの部分で終了してしまい、ローラ・パーマーという物語の根幹を描いた映画作品で、リンチ監督が再度登場させたのだと読み解くことができるのです。

さらにはローラ・パーマーという存在が、実は片田舎の謎を纏った女子高生という存在以上の、何か神がかり的な存在であると推測することもできます。旧シリーズの最終話ではドッペルゲンガーとしてクーパー捜査官に悪魔の叫びで牙を剥き、映画ではハロルド・スミスに一瞬だけ悪の表情を見せます。その発展が『The Return』の顔パッカーンであったり、第8章のローラ玉であったり、オデッサのキャリー・ペイジに繋がるのではないかと思うのです。そして、それはジュディとも関係があり、さらにはトレモンド夫人の孫、後述するジャンピングマンとも非常に深い関係があり、ローラママがなぜ新シリーズであのようなオドロオドロしい存在になってしまったのかの説明にも繋がるのです。

 

2.エメラルド・タブレット

ひとまず、クリームコーンがローラの痛みと悲しみであると理解したところで、その "シンボル" が何を指しているのかについて考察していこうかと思います。

『The Missing Pieces』でも描かれていましたが、先ほどのコンビニエンスストアの2階で開かれていたミーティングのシーンでも、登場するキャラクターたちは "シンボル" について語っていることがわかります。小人は「電気。我々は澄んだ空気の血を引く者。上がっては下がる。2つの世界が交わり合う」と語っています。これはまさしく丸太おばさんが語っていた "上なる如く、下もまた然り" が交わったところから "ダグパス" もしくは極めてネガティブな存在である "ジュディ" が出現したことを指しています。これらが意味することは『エメラルド・タブレット』に通じるのです。

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今回の考察で僕も初めて触れたのですが、現代の化学の礎を築いた "錬金術" の基本思想となるのがこの『エメラルド・タブレット』に記された碑文になるそうです。深読みしていくとかなり奥が深く、ヘルメス・トリスメギストスとか、彼の思想を全42巻の本にまとめたヘルメス文書とか、それだけでまた別の考察ができそう...、いやいや、考察だなんて恐れ多い、ここまでくると学者さんにお任せするしかない、とんでもなくディープな領域になってくるのです。エジプトのピラミッドの中から発見されたとか、幻の大陸アトランティス人のトートがこの碑文を記したとか、都市伝説を超えて人類の謎にまで辿り着きそうなスーパーヘビーな内容を、果たしてガルモンボジーアと同等に語ってしまってよいのだろうか?という一抹の罪悪感もございます。なので、ここでは有名とされる "上なる如く、下もまた然り" にだけ照準を合わせようと思います。

この "上なるナンチャラ..." は原文で "As Above So Below"。一般的には丸太おばさんが語っていたように、外なる宇宙(マクロコスモス)と内なる宇宙(ミクロコスモス)の照応を現わしていると言われています。これだけでもなんのこっちゃという感じなのですが、要は外界にある物的現象は僕たち人間の内なる世界(肉体や精神、魂)の中にも同じように存在することを意味しているそうなのです。これが一般論。それを図式にすると下記のようになります。

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これはイギリスの魔術師であり思想家であるロバート・フラッドが提唱した自然哲学を図式化したものですが、ここで注目したい点が2つあります。まず1つはこの図、どこかで見たことあるなぁと感じることです。そうです、内藤仙人さまが熱く語っていたアレです。

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六道輪廻と十二因縁の図です。国も違えば宗教も時代も違うのですが、ここで描かれていることは非常に似通っているのです。たぶん、それは人類というものがやはり集合的無意識という一種のバベルの塔的な統合意識の場でつながっていると、そう考えても結しておかしくなさそうな気がするのですが、まあ、これについてこれ以上深く語ることは避けたいと思います。いずれにしてもツイン・ピークスという作品は、デイヴィッド・リンチ超越瞑想という精神世界、マーク・フロストの都市伝説的な文化人類学や神話を織り交ぜた作品であり、『エメラルド・タブレット』もその一端を担っているものと推測することができるのです。

しかし、この "As Above So Below" には、もう一つ、マーク・フロストが喜んで飛びつきそうなネタがあります。それがイルミナティ

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ヤバイです。完全にオカルトな話になってきました。ここはサクッと要点だけをまとめてさっさと次に移ることにしましょう。上記の画像は "バフォメット" という悪魔をエリファス・レヴィが描いたものですが、もともとはテンプル騎士団偶像崇拝していたことから、悪魔崇拝の象徴として今ではイルミナティのシンボル神になっています。画像を見てわかる通り、右手の三本指は天を指さし、左手の三本指は地を指しています。これが "As Above So Below" 上なる如く、下もまた然りを表していると言われています。このバフォメットという悪魔は諸説ありますが、一説では「神から悪魔になり、悪魔が神になる者」「もともと羊だったものが山羊に変わった者」とされています。この一種の両性具有のような表裏一体の考え方が "As Above So Below" 、天も地も、神も悪魔も、男も女も、クーパーと悪クーパーも、全ては紙一重だということを現わしています。

先ほどのロバート・フラッドと六道輪廻の図が似通っているのと同じように、このバフォメットのポーズとまったく同じ宗教的な偶像が存在します。それが「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげ ゆいがどくそん)」

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なんだか内藤仙人さまのブログみたいになってきましたが、このお釈迦様の像や世界一の大きさを誇る牛久の大仏さまもどちらも「天上天下唯我独尊」を現わしています。その意味は "世界中でお釈迦様だけが尊い存在" であると、要するに天地合わせて俺様が一番偉いんだぞと、そう解釈されるのが一般的らしいのですが...、ちょっと調べてみると実はそんな自己ちゅうな話ではない事がすぐにわかります。

バフォメットと同じように天と地を指さしているのは "上なる如く、下も然り" と同じように "世界の構図" 、要するに私たちの精神世界までもを内包した、この世の宇宙全体を現わしているということ。そして「唯我独尊」はオレ様イチバンではけっしてなく(それをポリシーにされている方もいるかもしれませんが...)、我々、魂・命を持った全てのものが尊い存在なのだという意味になり、簡単に言ってしまうと「この世に存在しているもの全てが尊い存在」なんだとお釈迦様は伝えたかったそうなんです(内藤仙人さま、この解釈でよろしいですか?)。

となると、クリームコーン(ガルモンボジーア)のシンボルにはダブルミーニングがあることがわかります。一つは神も悪魔も表裏一体であるということ、そして、ここに存在しているものは神でも悪魔でも尊い存在であるということです。ここでもう一度ロバート・フラッドの図に戻り、注目すべき2つ目の点を見てみましょう。

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図の中心でサルが世界を操っています。外なる宇宙(マクロコスモス)と内なる宇宙(ミクロコスモス)は表裏一体で尊い存在ではありますが、それを支配していたのはサルだったことになります。

以前、『ローラ・パーマー最期の7日間』の考察でも語りましたが、そこで出した結論は、サルが馬を導く存在であり、劇中で登場する白い馬は "死" の象徴であるということでした(参照:『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』を考察する)。そして、サルはジャンピングマンの仮面の裏に隠れ、トレモンド夫人の孫と同一的な存在でもあり、映画の最後の最後で「ジュディ」と意味深に呟いていたのはフィリップ・ジェフリーズでした。

白い馬の幻は、旧シリーズの第14話でマデリーンが殺害される前にローラママが幻視しており、映画でも同じようにローラが殺害される前に幻視しています。前回のトレモンド夫人の考察では、ベルゼブブという悪魔がボブの化身であり、女型である悪魔ジョウディは蛇女リリスを現わしていると。さらには、その名はローラママの本名に隠されていたことがわかりました。『The Return』でのローラママは確実にジャンピングマンと同一の存在として描かれ、第8章ではエクスペリメントが吐き出したトビガエルを体内に取り入れたというビギニングまでが明らかにされています。さてさて、この散らばった点を線でつないだ先に、果たしてジュディの存在が炙り出てくるのでしょうか?

 

3.ジャンピングマンの正体

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ガルモンボジーア=ローラの痛みと悲しみ、トレモンド夫人の孫ピエールはクリームコーンを自在に操ることができる存在、シンボルは天地が表裏一体で尊い存在であること、そして、その世界を支配していたのがサルだったことがわかりました。では、なぜトレモンド夫人の孫はジャンピングマンの仮面を被り、リーランド(ボブ)を嘲笑うかのように、雨上がりのモーテルの駐車場をピョンピョンと跳ねていたのでしょうか?

それを紐解くために、先述したコンビニエンスストアの2階のミーティングシーンをもう一度振り返ります。ミーティングルームに集まった8名の中で、注目すべきはトレモンド夫人の孫だけが糸の切れた操り人形のようにソファに寝そべっていることです。そして、『The Missing Pieces』では、激怒しているボブに対して「Fell a victim(犠牲者になれ)」とあろうことか指示まで出しているのです。このテキストの冒頭でトレモンド夫人がどこか孫のしもべのような存在であると指摘しましたが、同じようにここでもトレモンド夫人の孫はミーティングに集まった8名の中で中心的な発言をしているのです。そして、それに呼応するかのように台の上に立っていたジャンピングマンは雄叫びを上げます。

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ここから読み解けることは、ジャンピングマンはトレモンド夫人の孫の身体を借りて、なぜかボブの邪魔をしようとしていることです。リーランド(ボブ)がテレサ・バンクスのモーテルでローラの姿を見かけてしまった時も、ほれ見たことか、ほれ見たことかと駐車場でピョンピョン跳ねていました。トレモンド夫人と共にローラに扉の絵を渡した時も「仮面をした男がページを破られた本を探してる。隠し場所に向かってる。今はファンの下にいる」と、ボブが日記を探していることをローラに忠告し、さらにはリーランドがボブの仮面を被っていることまで明かしています。これらの行為はローラをボブの脅威から助け出そうとしているのか、もしくはローラの痛みと悲しみを助長させようとしているのか、どちらとも読み取れる表裏一体の構造になっています。さらにボブの混乱まで導いているあたり、かなりの策士であることが伺えるのです。

ここで一つ確定できることは、トレモンド夫人の孫はジャンピングマンの化身、もしくは操り人形であるということ。そして、トレモンド夫人の孫ピエールの中身はからっぽであり、旧シリーズ第9話でクリームコーンの手品をしていたのは他でもないジャンピングマンだったと結論づけることができるのです。となると、ジャンピングマンはクリームコーン(ガルモンボジーア)を自在に操ることができる存在であり、ローラの痛みと悲しみを手玉にとることができるということになります。

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では、そのジャンピングマンとはいったいなんなのでしょうか?まずはその容姿に注目してみると、小人(別の場所から来た男)と同じように全身真っ赤なスーツで身を包んでいます。小人は片腕の男の悪の部分を切り落とした存在ですので、それと同義であるとするならジャンピングマンも悪の存在であると読み解くことができます。もっと言うと小人の悪の部分を抽出した存在がジャンピングマンであると。ここまでは世界中のピーカーが考察していることなので別段真新しいものでもなんでもありません。

ジャンピングマン=悪の存在と定義づけるなら、今まで読み解いてきたガルモンボジーアを自在に操ることができたことも、純粋に人々の "痛みと悲しみ" を供物として搾取する超自然的な存在であるからと読み解くことができ、さらには悪であり善でもあるという表裏一体の存在であるとも定義付けることができます。それはイルミナティのシンボルである "バフォメット" に通じ、コンビニエンスストアの2階で箱の上を上ったり下りたりジャンプしていたのは "上なる如く、下もまた然り" を身体全体で体現していた、要するに上の世界にも下の世界にも自由に行き来できる存在であるからと結論できるのです。

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問題は『The Return』でローラママ・セーラがジャンピングマンと同一で描かれていることです。先ほど、旧シリーズや映画でトレモンド夫人の孫の姿をジャンピングマンが利用していたと定義したばかりですが、新シリーズになるとその定義が一瞬で覆されてしまうのです。

上記の画像は『The Return』第15章で悪クーパーがフィリップ・ジェフリーズに会うためコンビニエンスストアを訪れた際、ウッズマンがコンデンサの電源をオンした時に現れるものですが、このシンクロニシティは書籍『ファイナル・ドキュメント』でボブや第8章の「火、あるか?」ウッズマンと意味ありげに同列とされています。さらには『The Return』の第14章でトラック・ユーの首を食いちぎったシーンを振り返ると。

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ローラママが顔パッカーンした際に、まず飛び出てくるのがジャンピングマンの象徴である尖った鼻なのです。ほんの一瞬、まるで電気がほとばしるかのように飛び出てくる辺り、先のコンデンサ、映画で叫んでいた「電気(Eleeeeectricaaaaal)」と同じ意味を持っていると解釈することができます。さらにはこの仮面の取り外し方は、映画でジャンピングマンの仮面を外すトレモンド夫人の孫とまったく一緒です。そして、ローラママがなぜこの鋭利な鼻を手に入れたかというと『The Return』第8章でトビガエルを体内に取り入れたからでした。

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そのトビガエルを見てみると顔らしき箇所にジャンピングマンと同じ鋭利な鼻を携えているのがわかります。これらは既に海外のピーカーたちが発見したものを単になぞっているだけなのですが、肝心なのは、旧シリーズでは "死" の象徴であった白い馬を幻視するに留まっていたローラママが、なぜ新シリーズでは馬を導くサルを仮面で隠していたジャンピングマンと同等の存在になったのかです。そして、その根源である卵を吐き出したエクスペリメント、同時に産み出されたボブ玉、その存在に気づき消防士が産み出したローラ玉、それらの中心にいるのがやはりローラママであるという事実はなんなのか?ということです。

そんなローラママの根底を探る前に、ここで一旦、ジャンピングマンについてまとめると。

 

 ジャンピングマン=悪の存在=悪魔

        ↓

    鋭利な鼻=トビガエル

        ↓

  トビガエル=エクスペリメント

 

このようにジャンピングマンはエクスペリメントから産まれた悪の存在であったことが理解できるのです。そして、特筆すべきはトビガエルのように鋭利な鼻を持つ悪魔が実際に存在することです。それが前回のトレモンド夫人の考察でボブと等式であると結論付けた悪魔 "ベルゼブブ" になります。

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この "ベルゼブブ" については映画『エクソシスト』の考察でも触れましたが、もともと悪魔ではなく恵みの神バアル・ゼブル(気高き主)と崇められていました。それが新約聖書では悪霊の主ベルゼブルと変換され、ハエの王と呼ばれるまでに貶められています。『エクソシスト』の元ネタの一つとされている、実際にフランスで起きた悪魔祓い事件「ランの奇跡」で、16才の少女に憑依した悪魔がこのベルゼブブであるともされています。これらのことは今まで読み解いてきた神も悪魔も表裏一体であるということに通じ、『ファイナル・ドキュメント』でタミー・プレストンFBI捜査官がジュディの起源である男型がバアルであるとされる一翼も担っています。そこから前回、ボブと等式であると定義づけたのですが、するとこんな等式が必然的に導き出せます。

 

ボブ=ベルゼブブ=ジャンピングマン=ローラママ

 

さて、ローラの両親であるリーランドとセーラがここで同列になってしまいました。男型のバアルが "ローラパパ" であるとしたら、女型のジョウディは "ローラママ" であると定義することが容易にできるのです。では、ローラママがゴードン・コールが語っていた "極めてネガティブな存在" であるジュディと同一であるのかをさらに探っていくとしましょう。

 

4.ジュディに至る目的とはいったい何か

ここまでくると旧シリーズを振り返るどころではなく、完全に『The Return』の考察になってくるのですが、いいでしょう、とことん推し進めてみようではないですか。

まずはツイン・ピークスの作品内で "ジュディを求める" もしくは "ジュディ" のことを口にしていた人物たちを整理してみます。

 

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◆フィリップ・ジェフリーズ(Phillip Jeffries)

青いバラ特捜チームの中心的メンバーであり、ブエノスアイレスの潜入捜査でジュディの存在に迫る。シアトルにある "ジュディの店" で何かを見つけたらしいが詳細は不明。1975年に起きた青いバラ事件ではロイス・ダフィーが目の前で消失する瞬間を目撃している。『The Return』では既にジュディと接触している節があり、特殊な力(タイムトラベル、もしくは次元の超越)を手にしている。

 

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◆ゴードン・コール(Gordon Cole)

青いバラ特捜チームの指揮官であり、そのキャリアは1975年の青いバラ事件の解決に費やされている。フィリップ・ジェフリーズやブリッグス少佐からジュディの存在情報を集め、太古の呼び名は "ジャオデイ" であったことを突き止める。ジュディに辿り着くための計画を進めている最中にブリッグス少佐は命を落とし、クーパー捜査官は消息不明となってしまう。

 

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◆クーパーのドッペルゲンガー(Cooper's Doppelganger)

旧シリーズ最終話でクーパーをロッジに閉じ込めたあと、本人に成りすまして現世に現れる。ジュディの存在に気づいたブリッグス少佐を執拗に追い求めその命を奪い、フィリップ・ジェフリーズと名乗る者と共同でニューヨークのペントハウスにエクスペリメント捕獲装置を設置する。僕個人の解釈としては、彼はウィンダム・アールの別の姿であり、"ダグパス" と呼ばれるブラック・ロッジの力を手に入れた彼は、さらなる力を手中に納めるため、ジュディの居場所である "座標" を追い求めている。

 

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◆ガーランド・ブリッグス(Garland Briggs)

旧シリーズでウィンダム・アールにハロペリドール漬けにされたブリッグス少佐は、クーパーら保安官事務所の面々に保護された際、朦朧とした意識の中でジュディのことを口にしている。

 

以上の4名が作品内でジュディの発言をし、ブリッグス少佐以外の3名は何かしらの目的を持ってジュディを追い求めていることがわかります。そして、その3名はいずれも青いバラ特捜チームのメンバーであり、青いバラ事件とも関連を持つ人物たちでもあるのです。

ここで先ほどのローラママ・セーラが彼らが追い求めているジュディであると仮定すると、フィリップ・ジェフリーズ以外は既にローラママと作品内で対面していることがわかります(悪クーパーについては、元のクーパーの記憶や人格を全て内包していると捉えます)。ジュディと呼ばれる存在がサルと同じようにローラママという仮面の下に隠れているとしたら、既に対面していたとしてもリーランドの中に隠れていたボブと同じように彼らはそれに気づくことは出来なかったはずです。しかし、逆を言うと、作品内でそれらしい演出も一切されていなかったのです。ローラママはあくまでローラママであり、新シリーズでトラック・ユーへの噛み千切り事件など極めて暴力的な表現があったとしても、それが先の人物たちの目的となるような描かれ方ではなかったのです。

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唯一の仲間外れであるフィリップ・ジェフリーズとローラママの関係についても考慮してみるとします。若かりし頃のローラママがシアトルにあるワシントン大学で既にローラパパと恋人同士の関係であったことが『シークレット・ヒストリー』で明かされていたことから、もしかするとシアトルの "ジュディの店" でフィリップ・ジェフリーズが見つけたものがローラママだった可能性もあります。新シリーズでは唯一ジュディと接触し、先述したように次元を行き来できる特殊な力を身につけているジェフリーズ。この力はまるでジャンピングマンの上の世界も下の世界も行き来できる力と同じように見えますが、しかし、だからと言って、そこから何が見えてくるのか?というと、何も見えてこないのです。

では、彼らはジュディを追い求めることによって何を解決しようとしていたのでしょうか。一つ言えるのは、アメリカ政府が極秘裏に進めていた "ブルーブック計画" から連なる不可思議な事件を解決しようとしていた、と仮定することができます。しかし、その不可思議な事件の一つであるローラ・パーマー殺人事件は、ローラパパ・リーランドが犯人であったと明かされた時点で既に解決しています。マデリーン・ファーガソンテレサ・バンクスも全てリーランドの仕業であったことが作品内で明確にされてもいます。

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『The Return』での被害者であるニューヨークのサム&トレイシーやルース・ダヴェンポート殺人事件を考慮してみても、そこに関わっていたのは悪クーパーであって、決してローラママではありませんでした。ダイアンの化身(トゥルパ)も、ブリッグス少佐が死を偽装した政府施設の火事も、事の発端は悪クーパーによるものでした。ビル・ヘイスティングスの妻も、ビルの秘書を車の爆発で殺害したことも然り。そうなんです、いずれの事件もリーランドであったり悪クーパーであったりしている。要するに不可思議な事件の首謀者とされるのはあくまで "ボブ" であり、決してローラママである "ジュディ" ではないのです。

ならば、彼らはなぜ極めてネガティブな存在である "ボブ" を追い求めず "ジュディ" を追い求めたのでしょうか?なぜフィリップ・ジェフリーズは1989年2月23日の場所でジュディを見つけるだろうとクーパーに予言をしたのでしょうか。

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『The Return』第17章を振り返ると、1989年にタイムスリップしたクーパーは、ジャック・ルノーやレオ、ロネットのもとへ向かおうとするローラの前に突如として現れ、「家に帰ろう」とその手を取ります。このクーパーの行為は世界を一変させ、ローラ・パーマーが死んでいない次元を作り出しました。しかし『ファイナル・ドキュメント』を見るとローラ失踪後も、クーパーはツイン・ピークスを訪れ何かしらの捜査を行い、ローラパパ・リーランドは娘を失った悲しみから1990年2月に自殺をしています。ローラママは次元が変わってもやはり孤独な生活を送ることとなり、結果的にはローラが殺されても失踪をしても状況は変わらないことになるのです。

ここでローラママ=ジュディの仮定に立ち返り、青いバラ特捜チームの行きつく先がローラママであると一度確定してみるとします。すると、そこから見えてくるのは孤独な老婆の成れの果ての姿であり、決して "ブルーブック計画" から連なる不可解な謎の解明には繋がらないのです。しかし、半ば強制的にトビガエルが体内に入り込んだこと、娘も夫も失うという孤独、暴力的な面と穏やかな面の二極性を考慮すると、極めてネガティブな存在の "被害者" 、もしくはトレモンド夫人の孫と同じ "操り人形" であるという見方ができます。そうすると、ローラママ自体がジュディではなく、ローラママを操っている何者か、もっと言うとローラママ内なる宇宙(ミクロコスモス)に存在する何者かがジュディということになるのです。

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となると、もうこれしかありません。女性の乳房をもつこの両性具有の存在であるエクスペリメントがジュディであると確定することができます。1945年のトリニティ実験の際に次元の狭間から姿を現わし、1956年にはニューメキシコのAMラジオ局を襲撃、6分間に渡って不穏な語りを放送している。1975年にはオリンピア青いバラ事件を起こし、1988年にテレサ・バンクスが、1989年にはローラ・パーマーが殺害されています。驚くべきことは、これらの事件が発生した場所の近くに必ずローラママの存在があることです。彼女が事件の首謀者ではありませんが、なぜか彼女の近くで事件が起きているのです。まるでローラママがこのような事件をことごとく引寄せているかのようであり、それによって生じる "痛みと悲しみ" をジュディが貪っているかのようです。

そして、フィリップ・ジェフリーズが予言していた1989年のジュディはなにかと言うと、カリカリ音の正体、ローラを連れ去った者の正体であるジュディ、要するにアルルのヴィーナスということになります。

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前回の考察で、この石像が意味するものはイヴではなく蛇女リリスであると定義づけました。そもそもリリスとはなんぞや?という話かもしれませんが、簡単に言ってしまうと聖書で語られているアダムの最初の妻、アダムと同じように土くれから造られた人類最初の女性がリリスであると言われているのです。いやいやいや、人類最初の女性はイヴなんじゃないの?と思われるかもしれませんが、実はイヴの前に女性は存在していて、アダムがこの女言うこと聞かないからヤダ!って捨ててしまったのがリリスであり、今度は言うこと聞く女がいいといって自分の肋骨から造り出されたのがイヴなのです(すいません、随分と砕けた乱暴的な言い方をしてます)。いい子ちゃんなイヴが気に入らないリリスは蛇となって禁断の果実を食べるようそそのかし、その後、堕天使サタンと婚姻を交わしたとも言われています。

いずれにしてもジュディの原形がリリスであり、その悪意が産み出したものに人類は翻弄されていると、そんな風に読み解けるのではないかと思うのです。

トレモンド夫人の孫から始まり、随分なところまで辿り着きました。次回は、そんなジュディへの攻防を試みたホワイト・ロッジの存在について妄想したいと思います。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「ホワイト・ロッジ」

【コンフィデンスマンJP】弁天水が全てを解き明かす!ドラマ世界の時間軸を勝手に妄想してみた!

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さて初のオケラだった今回のコンフィデンスマン。物語としては美濃部ミカや大沼秀子の、一本筋の通ったアスリート並みの目標意識を貫く姿勢、もしくは人生に対して全身全霊で何かを成し遂げようとする想いに、普段から長いものに巻かれまくってる僕は身につまされる思いだったのですが...。

「美のカリスマ編」ということで、どこか『プラダを着た悪魔』を彷彿させるようなパロディを挟み込みながら(美濃部ミカの出社シーンやダー子が化粧で別人かと思えるほどに変身したりなど)、美の本質は化粧ではなく本来持っている素材そのものなのだという逆説を訴えたり(ぽってり下っ腹のほのかちゃんが容姿同様、思考回路までぽってりちゃんだったことなど)、今回もさりげなく高レベルで楽しませてもらったのですが、それよりも何よりも、この第8話になってやっとこのコンフィデンスマンという世界のパラレル感というか、時間軸がわかり始めたことです。

前々からダー子のフェルメールであったり "ウナギのカレー煮" であったりと、作品内で小道具があちこちで顔を出していたのですが、今回の "弁天水" によってそれらが実はあちこちに散らばった伏線である可能性が見えてきました。脚本の古沢さんは「現場での遊び心」と言っていましたが、実はそれだけではないような気もするのです。なので、まずは第1話からズラーッとその小道具関連を洗い出してみることにしましょう。

 

 【第1話】

◆いわき空港にMIKAブランドのポスターが貼ってある

 

 【第2話】

◆民宿「八五郎の宿」に "うなぎのカレー煮" のダンボー

◆民宿「八五郎の宿」の本棚に『幻を求めて』 

桜田リゾート「鈴の音」にMINOBEの化粧品 "弁天水"

 

 【第3話】

◆伴ちゃんが "うなぎのカレー煮" を食べている

 

 【第4話】

◆ダー子の部屋のテレビに『ドクター・デンジャラス』

 

 【第5話】

◆野々宮ナンシーが猫ノ目八郎の『ヤバイ!』を読んでいる

◆ダー子のフェルメールが野々宮総合病院に飾られている

 

 【第6話】

なし

 

 【第7話】

◆夜桜の麗が経営していた裏カジノの日本刀(柄が色違い)

◆夜桜の麗が経営していた裏カジノの金庫(飾りが多い)

◆銀座カフェバー「スワンソン」のボンボン時計(メーカーが一緒)

◆第70回鎌倉市民花火大会の協賛に「公益財団あかぼし/桜田リゾート/斑井コンサルティング」が名を連ねている

 

 【第8話】

◆MIKAブランドの受付にダー子が作った土偶となんちゃってオジサンの埴輪

 

いかがでしょう。細かく探すとまだ出てくるのかもしれませんが、とりあえずこんな感じで縦横無尽に小道具が行き交っています。その中で着目したいのが第6話、ウッチャンが登場した『古代遺跡編』だけが、どこともリンクしていないのです。ここをゼロ起点として物語を紐解いていくとコンフィデンスマンの時系列が垣間見えてくるような気がするのです。

もともと、このコンフィデンスマンは先に撮影を全て撮り終えており、放映順序も撮影順序も第1話から順繰りに撮り始めたわけではないことが副音声などで既に明かされています。古沢さんも長いストーリーをブツ切りにしたわけではなく、単純に一話完結でそれぞれ脚本を書き始めたと語っていました。来週の第9話、そして最終話で、ここで紐解いたことがひっくり返される可能性は充分にありますが、まずは現段階でわかることを時系列に沿って整理していこうかと思います。

 

①花火大会に協賛の名を連ねていることから時系列として一番古いのが与論要蔵の物語であると仮定します。与論要蔵が毎年楽しみにしていた花火大会に協賛していることから推測するに赤星栄介・桜田しず子・斑井満の3名は与論要蔵と顔見知りの可能性が高い(もう一つ協賛に名を連ねている "モスモス" は詳細不明)。さらにはダー子の子猫ちゃんたちも含めて巣鴨のキンタ・ギンコとの出会いはその後の計画性に何かしらの暗躍を及ぼしているかもしれない。与論宅で食べた卵かけご飯が素晴らしく美味しかったため、山本巌の "天賜卵" を取り寄せるきっかけにもなったのかもしれない。

 

②MIKAブランドの受付に土偶があることから、ダー子たちは与論要蔵の次に斑井満に照準を合わせたと考えられる。そこで大量の縄文土器を捏造し、五十嵐のネット拡散で集まった在野の中にいた誰かがMIKAブランドに就職した、もしくはもともと在職していた可能性が高い。ダー子はなんの変哲もない山を買い取り、それを斑井に譲渡しているが、ここから時が経ち、数年後には映画『立ち上がれ つわものどもよ』の撮影で再度訪れている。

 

③伴ちゃんが "うなぎのカレー煮" を食べていることから、斑井満の次に照準を合わせたのは古美術商である城ヶ崎善三になる。ここでダー子はフェルメールの代表作「真珠の耳飾りの少女」を模した「パール、あるいは、少女」を創作する。この絵はネットオークションで高額取引され、競り落としたのは野々宮総合病院の理事長である野々宮ナンシーだった。

 

④いわき空港にMIKAブランドのポスターが貼られていたことから、城ヶ崎善三の次は赤星栄介がターゲットにされている。ダー子たちは、既に会社を手放し、山で遺跡発掘に勤しむ斑井満に、いわき空港捏造の場所を密かに教わっていた可能性がある。桜田リゾート運営の「鈴の音」にあるMINOBE化粧品 "弁天水" のラベルには日本地図が描かれ、そこに東京・山形・鳥取辺りに意味深な印がついていた。鳥取砂丘に降り立った赤星栄介はそこで何かを発見し、美濃部ミカと何かしらのコラボレーションをしているのかもしれない。

 

⑤先の "弁天水" のブランド名がMIKAからMINOBEに変わっていることから、赤星栄介の次は美濃部ミカがダー子たちと対決していると読み取れる。既に斑井満と懇意になっているダー子たちは山形の人知れない山村を美人村に作り上げる。しかし、美濃部ミカは手強く、さらにはその思想にあろうことか共感までしてしまったダー子たち。だが、ぽってりエスティシャンほのかちゃんのリークで美濃部ミカは社長の座を退くことになる。その後、見事に返り咲いた美濃部ミカはブランド名をMINOBEに変更した。

 

⑥民宿「八五郎の宿」に "うなぎのカレー煮" のダンボールがあることから、美濃部ミカの次のターゲットは桜田しず子。ここでも斑井満の力が働き、もともと斑井万吉のファンであった八五郎さんを利用しながらダー子たちは桜田しず子を貶めていく。経営者が交代しても破竹の勢いが止まらない桜田リゾート。そのリゾートホテルに泊まりに来たダー子たちは "弁天水" を見つけ、遠まわしに美濃部ミカを超一流と褒め称えている。

しかし、懸念すべき点が一つだけある。この時点でボクちゃんはまだ五十嵐を知らないでいる。ダー子の影の存在として暗躍する五十嵐は、桜田しず子編以降、第四の存在としてボクちゃんとも顔見知りになっている。この点をボクちゃんが五十嵐を完全に知らなかったと定義するなら⑥は①よりも前のことということになり、ここまでの理論はご破算になり、数々の小道具の存在ももう一度並べ直す必要がある。

もしくは五十嵐を知ってはいたが、八五郎の島では本気で殺されるかもしれないと思い込み、その後の「お前は誰なんだ!」につながるとしたら、それはそれで首の皮一枚でつながるのかもしれない。

 

⑦ボクちゃんと五十嵐の関係性が継続できるものとして整理していくと、ダー子の部屋のテレビで劇中劇『ドクター・デンジャラス』が放送されていたことから、桜田しず子の次は俵屋勤がターゲットになっていると推測できる。奇しくも美濃部ミカとの出会いで美や色気に興味を示し始めたダー子が、場末の映画館でマリリン・モンローの研究をしていた帰り道に俵屋フーズの工場長である宮下さんと出会っている。ただし、この⑦と⑥は逆の可能性もある。マギー・リンが美濃部ミカの影響により産まれたキャラクターであると定義するなら、桜田しず子は俵屋勤よりも後の事と考慮せざるを得なくなる。そうするとボクちゃんと五十嵐の関係性がより重要視されてくる。

 

⑧現段階で時系列順に見ると野々宮総合病院の野々宮ナンシーが一番新しいことになる。猫ノ目八郎が書いたトンデモ本『ヤバイ!』を熱心に読み耽っていたが、どうやらナンシーはダー子たちがネットに出した紛い物たちに、あろうことかことごとく引っかかっているようである。もしくは密かにユーチューバーを目指していた新琉がネットサーフィンで網にひっかかっていた可能性もある。さらには野々宮ナンシーと美濃部ミカが知り合いであると考えることも充分できる。

 

こんな感じで一つ一つの物語を俯瞰して、コンフィデンスマンという世界の時間軸を大きく捉えることが可能ではないかと。さらには各話での時間経過も簡単に1年後とか数か月後とか出てくるので、いろんなエピソードが同時進行で運んでいる可能性も充分にあります。

こうして見てみると経済ヤクザだった与論要蔵と日本のゴッドファーザーと呼ばれた赤星栄介の二人には何かしらの関係性があるのではないかと憶測できますし、あちこちの土地を転売していた斑井満と日本中にシェアを構える桜田しず子も顔見知りだった可能性があります。今回初めてオケラだった美濃部ミカは他のターゲットに比べて明らかにダー子たちにとって特別な存在であると言い切ることができます。異色なのは城ヶ崎善三と俵屋勤の二人。彼らはダー子たちにとって、ほんの息抜き程度の遊び相手でしかなかったと。そうするとダー子たちのラスボスは巷で噂になっている赤星栄介の再登場、もしくは彼らさえも裏で動かしていた大きな存在であると考察することも可能ではないかと。

まあ、そうは言っても、これらは僕の完全な妄想なので、来週あっさり覆されるかもしれません。そうなったらそうなったで、また別の妄想を広げてみます。

【コンフィデンスマンJP】ダー子は駄々っ子!リチャードはジイジだった!極上のホームドラマが織り成す現代の家族像

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さて、ガッキーネタで盛り上がったコンフィデンスマン第7話「家族編」。今回はかなり特殊な回だったと思うのですが、なにが特殊だったかをまとめてみると。

 1.ほとんどが与論要造の屋敷という一幕劇

 2.疑似家族という現代性

 3.家族の永遠のテーマ "遺産相続" を扱った

そうなんです、今までのハチャメチャでとっちらけ路線を根底から覆すような、非常に上質な物語が綴られているではないですか。場面転換の激しさ(第1話のカジノやマニラ、第4話の京都撮影所や合戦の撮影場所など)も、まるでヒッチコックのロープのような(かなり言い過ぎ)、もしくは三谷幸喜さんの「今夜、宇宙の片隅で」のような、とてもシンプルで、まるで舞台でも見ているような質の高い構成になっていたし。マンガ「3月のライオン」や「マルモのオキテ」のような、疑似家族のほんのちょっとした幸せ像も、このハラスメントだらけのギスギスした現代への緩和剤になっていた。さらにはシドニー・シェルダン(古い!)やアガサ・クリスティのような遺産相続を巡るドンデン返しに次ぐドンデン返しは、古沢っ見事!と喝采を送らずにはいられません。観終わった後にホロリとする感じは、あの今までのエロネタはいったいなんだったんだ!と、日活ロマンポルノの大団円に涙してしまうような解放と浄化を促してくれるではないですか。副音声で古沢さんが「この第7話の設定だけでワンクール作れそう」と仰っていたように、なんでしょう、極上の短編集の中の一番出来のいい作品というか、ここから話を広げて長編が書けそうな、そんな仕上がりになっていたのです。

副音声ではさらに裏ネタを披露してくれて、ダー子・ボクちゃん・リチャード・五十嵐はトランプのクイーン・ジャック・キング・ジョーカーをイメージして設定されたということ。

クイーン=女王=わがまま=駄々っ子=ダー子

ジャック=王子=世間知らず=ボクちゃん

キング=ジイジ=みんなを見守る

ジョーカー=神出鬼没=不思議な奴=五十嵐

もともとは五十嵐がリチャードで、リチャードはジイジの愛称だったようなんですが、小日向さんの配役が決まった時点で、ジイジではなくリチャードの愛称に変わったと。で、もともとのリチャードはイケメンで神出鬼没の設定だったけど、それがシンプルに五十嵐になった(笑)。こういう裏設定をもっと聞きたかったんだけど、どうも数字の話やリーガル・ハイ絡みの話ばかりで、もう五十嵐!もうちょい突っ込んだところ聞いてくれよ!と、妙にじれったい感じではありました。

いずれにしてもボクちゃんがネタバレしてましたが(現実でもボクちゃんはボクちゃんだった)、残り3話、このコンフィデンスマンの世界を楽しめるのも残り少なくなってきてしまいました。来週は美容整形がネタ。なんとなく第2話の桜田しず子、第4話の俵屋勤、第5話の野々宮ナンシーを彷彿させますが、そこを次週の演出家がどう料理するのか?ああ、また三橋さんだったら、いいなぁ。

【コンフィデンスマンJP】自分探しの果てにあるのは充実という名の幸せなのか?

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病院ものをブッ込んで2桁視聴率を目論んだ「コンフィデンスマン」ですが、結果0.1%のアップと、なかなか数字に結びつかないこのドラマ。既に全話分を撮影済のようなので、ちょうど折り返し地点を迎えたところで話題性をかっさらいたいところではあったようなのですが、どうやらハマる人だけがハマっているだけの状態のようです。まあ、しゃあないんやないかなぁ。逆にこれが18%だ23%だと言われた方が世の中おかしいような気もします。(ちなみに今回は8.2%。微妙だ...)

さて、ウッチャンがゲストの第6話は「古代遺跡編」。ターゲットになるのは過疎化する老人地域を巧みに買収する悪徳コンサルタント斑井満(まだらい・みつる)。コンサルで〇井と聞くと、かの〇井を彷彿させるのですが、その創業者〇井氏がオカルティストだったことから、今回の古代遺跡のトンデモ都市伝説に発展したのかと勘繰ってしまいます。しかし、結論から言うと、この斑井さん、そんなに悪人じゃないんですよね。表向きは村おこしの施設開発と謳って、みなさん大好きクリーンで地域貢献度の高いイメージを売りつけていますが(それこそ地域一番店みたいなね)、その裏ではさっさと産廃業者に土地を売り飛ばしてしまうと。要するに相続の関係から維持できない土地を適正価格で取得し、それをオリンピックなどの都市開発で重要となる産廃問題に利用しているだけなのです。至極、真っ当じゃないですか。考えても見てください。今から20年30年前のお台場だって、カラスちゃんたちの "夢の島" だったんです。

どちらかというとボクちゃんですよ。都市生活から離れた山間で、あまりにも普通すぎるラーメンに感動している時点で、既に "ボクちゃん" なんです。おかしいでしょ。超普通のラーメンなんだよ。"素朴" と言えば聞こえがいいかもしれないけど、"味気ない" "地味" って言ったら、ねえ?どうなのよ?ここで既に僕たちは騙されているのです、ボクちゃんに。一般論を疑うことから物語が始まっているのに、いつの間にかその一般論が正解だと思ってしまっている。自然を残すことは大切だ、地域に貢献することは大切だ、老舗の味を残すことは大切だ。果たして、斑井さんとボクちゃん、いったいどっちが悪徳コンサルタントなのかわからなくなる作りになっているのです。まるで第4話の宮下さん状態。あんた、被害者ぶってなんか企んでない?と思ってしまうのです。

いずれにしても今回、斑井さんが己のルーツに立ち返ることが物語の軸になっています。今いる自分は果たして目指していた夢見ていた本当の自分なのだろうか。そんな自問自答をコメディアンであるウッチャンが超大真面目に演じている。このドラマのテンションでウッチャン登場となったら、できればイッテQ並みにはっちゃけて欲しかった気もするのですが、完全にその裏をかいた作りになっているのです。その意図はわかるのですが、う~ん、どうなんだ。なんか妙にマジメで肩透かしを喰らった感じです。

それもたぶん演出の金井紘さんのカラーではないかと思います。第2話の桜田しず子然り、第4話の俵屋勤然り、今回の斑井満も、出てくるゲスト人みんな "本当はやりたくて仕方ない事" を押し殺して、富や地位・名声に走っているのです。それを先週の演出だった田中亮さんのように十歩も百歩も突き抜けたエンターテイメントに料理してもらえると楽しめるのですが、金井さんのようにどこかマジメに描かれてしまうと、妙にシラけてしまうというか、どこに "コンフィデンス(信頼)" を置いたらいいかわからなくなってしまうのです。 そうなると第4話の時に囁かれていた「なんか騙されている俵屋社長が可哀そう...」という善悪逆転の視点が生まれてしまう。

副音声では五十嵐とボクちゃんのコメンタリーが放送されていましたが、小さいネタでいくとレキシの歌とアフロだったり、十色村(じっしきむら)→といろむら→トロイなんていうアナグラムだったり、斑井パパが書いた『幻を求めて』全18巻が第2話の八五郎の宿の本棚に飾られているとか(こんなんわかるわけねぇ!)、最終回の10話では過去が語られるなんて意味深な伏線が張られていたりしましたが、そこで何度も五十嵐が言っていたのが「ウッチャン、ボケないねぇ」という誰もが思った心の声を連発していたこと。うん。五十嵐の言う通り、ボケたウッチャンが見たかったなぁ。

次回は竜雷太さん。「貴族探偵」よりも断然「SPEC」や「ケイゾク」のイメージが強いので、その辺り少しでも触れてもらえると面白いかもしれないけど、どうだろうな。柿の種持って「雅ちゃ~ん」と叫んだら、たぶん二度目の神回です。でも、実際は今週の延長線上でどことなく人間ドラマが描かれそうで、ちょいと不安...。

【コンフィデンスマンJP】伏線がハンパない!今回は医療ものをとことんブッ込んできた神回だ!

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先週のモンモンとした寸止め状態をとことん発射させてくれた今回の「スーパードクター編」!やばいです。密度が違いすぎます。完全に医療ドラマをダシにして極上のミソ汁を作ってくれました。いやぁ、楽しかったなぁ。

このドラマで医療ものと聞けば、誰もが予想するのが「白い巨塔」。その通りにのっけから財前五郎の登場ですよ。素晴らしい!さらには情熱大陸NHKスペシャルと畳み掛けるようにパロディのオンパレード。登場人物も海外のテレビドラマ「コード・ブラック」からニール・ハドソンこと新琉(にいる)を永井大さんが、かたせ梨乃さんが演じる野々宮ナンシーはなんでしょうね?微かにジャニ臭がしてきますけど...、もしかしたら日テレの「名探偵キャサリン」へのあてつけでしょうか?そして、正名僕蔵さんが演じる田淵先生は、まんまテレ朝の「DOCTORS~最強の名医~」の佐々井先生状態!もう笑いが止まんない!今回のコンフィデンスマン、もう全方位を標的にしています。大門未知子まで登場する辺り、もう怖いものなしです。毒も喰らわば皿までってやつです。

前回はダー子主導でイマイチだったストーリーも、ボクちゃんがオサカナを見つけてくる定石の流れに戻り、ここも安定感抜群。やっぱボクちゃんはウブでステレオタイプでなきゃね。リチャードは盲腸の手術で今回は裏方ですが、しかし小日向さん!相変わらず、いったい誰をネタにして遊んでいるんですか!もしかして船越英一郎さんですか?ある時期を境に性格が豹変したという...、そうなんですか?そんななんですか?(笑)

野々宮病院の理事長室には、なんと第3話でダー子が描いたフェルメールが飾ってあるじゃないですか!ネットオークションであんな下手くそな絵を競り落としたのは野々村ナンシーだったのか!あんた、いったいどんだけ騙されてんだ!ていうか、ボクちゃんもダー子もフェルメールにぜんぜん気づいてないんだけど...。しかし、先週の「うなぎのカレー煮」の缶詰も、同じ第3話の贋作作家の伴ちゃんが酒の肴にしてたし、これらのちっちゃい伏線ってどこかで繋がるのか?どうなんだ?

ラストはドンデン返しに次ぐドンデン返しで、おったまげるのは医療ドラマの舞台裏まで暴露しちゃってること。スゲエ、こんなんなってたのか!とまるで工場見学でもしているかのような新鮮さです。そして、そこに登場するのが山田孝之さん演じるジョージ松原(笑)。なんなんだよ、ジョージまで言ったら "ア" をつければええやん!なんでジョージで止めるんだよ!腕をピシピシ叩くのもまんまじゃないか!

エンディングではお決まりのエロネタ。今回はかたせ梨乃さんのランジェリー谷間!熟女好きはサンジのように鼻血で吹っ飛んでいくこと請け合い!

そんなこんなで登場する役者さん全員が古沢脚本を思う存分楽しんでいるのがビシビシ伝わってきた神回。裏テーマとしてあった "視聴率" を「医療」と「2時間ドラマ」の二本立てでブッ込んできたのもスゴすぎです。劇中劇の「ドクター・デンジャラス」もなんかパッと見、田宮二郎さんみたいだし、隅から隅まで遊びつくしています。ブラックジャックを筆頭に前半でなにげなく描かれていた伏線が、後半にいろいろと絡んでくるストーリーも抜群でした。ダー子がさりげなく「私たちは必殺仕事人じゃないんだよ」と言っているのもグッド。そうなんです、勧善懲悪で片づけられるほど人間は単純じゃない。それを百も承知でふざけているところが素晴らしいのです。

次回の敵はウッチャン演じるコンサルタント。さてさて、古代遺跡をネタにして、人生や事業を指南する人をどう貶めるのでしょうか?

【コンフィデンスマンJP】これは業界暴露なのか?自虐ネタ満載だけど、ブラック企業を笑いに変えるのは難しいかも

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今回のコンフィデンスマン、ちょいと微妙な回でした。相変わらずの自虐ネタは満載なんだけど、業界ネタが "映画" という、なんでしょう、ドラマ制作陣たちに近いということもあってなんでしょうか、今までの3回と違ってどうも切れ味が悪かったように思えました。

いつもはボクちゃんが釣ってくるオサカナを、今回はダー子が道端で拾ってきたというのも、母性本能でもくすぐられたのでしょうか?それとも下手な正義感に目覚めたのでしょうか?はたまた新手のハニートラップなのでしょうか?いつもと違ってダー子主導で物語が進んでいくのです。この辺りでどうも違和感を覚えてしまい、オープニングからイマイチ乗れなかったのです。

佐野史郎さんが演じるブラック企業の社長「俵屋」から3億円を毟り取るのが今回のミッションでしたが、その動機となる食品偽造もイマイチでした。ていうか、確信犯なのかもしれませんが「国産」と「国内産」ってえらい意味が違うらしいのです。

 国産・・・輸入された食品を国内で加工したもの

 国内産・・・国内で育てた食品を加工したもの

かなり端折った説明ですが、要は「国産」と謳っているものはほとんどが輸入品だということになります。ここに疑問を抱き、僕たちは消費者に嘘をついているんじゃないかとアイデンティティ・クライシスに陥るのが、ダー子が拾ってきた俵屋工場の工場長さんです。ですが、俵屋のダンボールに表記されていたのは「国産」、うなぎは輸入されたものであったとしても、カレー味に加工しているのは俵屋の工場内なので、法的には食品表記に偽りはないのです。

ここで視聴者は既に騙されているのか、それともただのリサーチ不足なのかはわかりません。ただ、僕みたいなパンピーがひょいとググればすぐにわかるようなことを、ドラマ制作の方達が怠るなんてことはしないのではないかと思うのです。そう考えると、今回は、そもそもの食品偽造からして騙しになり、ワンマンで映画オタクな俵屋社長のブラックぶりを説明するための、いわばミスリードということになりそうです。ていうか、近藤公園さんが演じていた工場長の宮下さんが一番の詐欺師ではないかと思えてくるのです。だって「アンナチュラル」の連続殺人犯ですよ。俵屋社長を失脚させて、自分が社長にのし上がるために、なんの問題もない「国産」表記をあえて偽装だと騒ぎ立てたのではないかと勘繰ってしまうのです。

こう書いてわかるように、今回はダー子がいつも以上に俵屋に執着する意味がわからなければ、お決まりと思っていたボクちゃんの一般論も登場しない、リチャードに至ってはいったい誰をモデルに演じているんだ!と小日向さんを問い詰めたい感じでもあります(笑)。そうなんです、ダー子たちが完全に蚊帳の外なんです。

ただ、リチャードのセリフがイチイチ面白い!「山田、長谷川、中井ちゃんは決まりだね」っていうのは、山田孝之さん、長谷川博己さん、中井貴一さんを指しているのは一目瞭然。「長澤をどうするか」というのもダー子演じる長澤まさみさんのこと。本人役で出演の伊吹五郎さんに「ゴルフのやりすぎじゃないのぉ~」とお腹をポンポンとたたく姿は、パチンコや麻雀やゴルフを一切やらないという伊吹さんへのパロディ。その姿を見て疑問に思わない俵屋社長の浅はかなオタクぶりを露呈させています。「リーガル・ハイ」に出演していた助さんこと里見浩太朗さんへのオマージュでもあります。

なかなか3億の出資に食いつかない俵屋を落とすためにダー子が演じた中国の国民的女優マギー・リンは、「ポリス・ストーリー」でおなじみのブリジット・リンとマギー・チャンの掛け合わせ。特に国宝級の美女と謳われていたブリジット・リンへのオマージュが半端ない上に「こんなオーラを出せる女優は私しかいない」と言い切ったダー子に拍手喝采です(笑)

一晩で脚本の直しをしなければならなくなったボクちゃんが、栄養ドリンクやら生卵やらをガブ飲みするシーンは、まんまリアル脚本家の叫びのような気もします。ホテルに缶詰めにされて脚本を書き上げるなんて、今時の原作ありきの脚本家さんたちにあるのかなぁ?なんて勘繰ってしまいますが、逆を言うと、徹夜だろうがなんだろうが、逆さにしてでも絞り出して作品を書くほどの根性ある脚本家がいなくなったからこそ、原作ありきのドラマや映画ばかりになってしまったのかもしれません。

クライマックスの300人による合戦シーンは、劇中で「このシーンだけ撮るのに3000万もかかる...」と嘆いていたように、これは業界暴露の話なのか?と。ピロービジネスも然り、出資を決めた途端に豹変する "冬彦さん" 然り、主演女優を差し置いて男色に走るのも然り、どこからどこまでがホントなのかわからないぐらいオチャらけています。さらに五十嵐!完全に4人目としてチームに同化しています。

いずれにしても、最終的にいつもの通りな展開になっていくのですが、やはり工場長の宮下さんの陰謀論が強く、今回はどうもスッキリしませんでした。次回は病院モノ。今回のブラック企業も、僕も含めてブラックな環境で働いている人にはあまり受け入れにくいかもしれませんし、病院だと病や院内の問題など笑って済ますには重たすぎる問題かもしれません。それをどのように料理するのか?次回も楽しみです。

トンデモ設定だからなんだ、メーターを振り切った面白さ!「コンフィデンスマンJP」を絶対支持!

ツイン・ピークス The Return」と同じように、世の中がついてきてない日本のテレビドラマがあります。それが今期フジテレビで絶賛放映中の「コンフィデンスマンJP」。長澤まさみさん主演、古沢良太さん脚本。月9でコメディという異色の作品として注目を集めていましたが、視聴率が9%と芳しくなく、フジは完全に終わったと既に騒がれています。

ところがどっこいですよ。もともと「リーガル・ハイ」が好きで、そこから古沢ファンになったのですが、そんな古沢ワールド全開なのがこの「コンフィデンスマンJP」なのです。とんでもない作品が世の中に登場しました。

リーガル・ハイ」でも現実の事件をベースにしたり、往年のテレビドラマをとことんパロったりとやりたい放題でしたが、それに輪をかけるように「コンフィデンスマンJP」でもパロディ満載、世の中の "悪人" とされる方々を、これでもかと、とことんおちょくっています。それが見ていてめちゃくちゃ楽しいのです。

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基本は、ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の3人が、各回(各界とも言える)ゲスト人(業界トップ)たちと対決していくストーリー。そこに映画やドラマや時事問題やらの小ネタを満載にして制作されています。

第1話「ゴッドファーザー編」では江口洋介さんがゲスト。日本のドン・コルレオーネとして君臨する赤星栄介をギャフンと言わせるため、騙しの騙し合いが繰り広げられるわけですが、初見では何が何だかわかんない内に始まるこのドラマ。普通の感覚で見始めると、どうして詐欺師になったのか?なんでこの3人は集まったのか?ドラマの主旨はどこにあるのか?など、いろいろと物語のベースというかバックボーンを探してしまいがちなのですが、そんなものは無意味だということが始まって15分でわかります。このドラマに今までのような生真面目さは必要ないのです。

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例えば、ドラマのベースとなっている「ルパン三世」で考えてみると、ルパン、次元、五右衛門の3人がなんで集まったのか?なんてあまり気にしません。彼らのビギニングを掘り下げていくのも面白いかもしれませんが、普通、そこに疑問は抱かないのです。それと同じようにダー子、ボクちゃん、リチャードがどうして集まったのかを探るのも無意味なんです(今後、描かれるかもしれませんが、そんな生真面目な説明は却って作品をシリアスで無意味なものにしてしまうと思います)。

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オープニングのカジノからして映画「オーシャンズ11」へのオマージュ、というか完全なネタバレを起こしているのですが、それを皮きりに映画やドラマパロディがちょいちょい挟み込まれます。副題の「ゴッドファーザー」を始め、「マルサの女」「スチュワーデス物語」「ブラックレイン」。見る人が見れば、まだまだ出てくるのかもしれません。主演の長澤まさみさんに至っては、巨乳や色気を自虐し、七変化どころではないコスプレのオンパレード、完全にふり幅を振り切った女優魂爆裂な姿を披露しています。江口洋介さん演じる赤星栄介も、アンディー・ガルシアを通り越して完全に貴乃花親方になっております。この辺も、僕のツボにドンピシャでハマりまして、ここまで物怖じせずに作品を作っている姿勢に敬意すら感じます。

第1話のラストでは、とんでもないドンデン返しが用意されているのですが、それがドラマファンたちの間で「これがありならなんでもありじゃねぇか!」と大炎上。いきなりのマイナス・スタートとなったわけですが、いやいやいや、そんなん言ったら、マンガなんてこんなことのオンパレードじゃないですか。昨今、マンガ原作のドラマばかりで辟易していたので、逆にオリジナル作品がマンガ界にさえ宣戦布告しているようで、やれやれ!もっとやれ!っと逆に応援したくなるのです。

そもそもこのドラマは完全に視聴者を騙すことに徹しています。視聴者に媚びを売ることもしません。これって面白いだろ?こんなヤツ許せないよな?みんなでやっつけちゃおうぜ!そんな学生サークルみたいなノリで物語は進んでいきます。しかし、水戸黄門半沢直樹みたいに勧善懲悪で終わるわけではありません。物語が終わる頃には、この人もこの人なりに一生懸命だったんだよ、と優しくほんのりと包んでくれるのです。

第2話では吉瀬美智子さん演じるリゾート会社社長桜田しず子がターゲットに。この第2話で「コンフィデンスマンJP」がどういった物語構成になっているのかが明らかになります。

 ①ボクちゃんがオサカナを釣ってくる

 ②ダー子が猛勉強する

 ③ターゲットに詐欺を謀る

この流れが1話完結で毎回毎回繰り広げられます。まるでルパンが物語冒頭にターゲットを定め、危機的状況が訪れ、最終的にはターゲットをゲットし、銭形警部に追いかけられながら物語が終わる流れとまったく一緒です。もう、安心して見ていられるのです。1週間、モヤモヤすることもなく、ブルーマンデーの憂鬱をスキッとして、火曜日からの活力までもらえるのです。

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第2話でも野心まみれの桜田リゾート社長を軸に、リゾート業界の暗部、政界との癒着、セクハラなど、まさに今ドンピシャな時事問題がごっそり詰め込まれています。長澤まさみさんの入浴シーンや、純情女将の湯上りなど鼻血ブーなエロネタもしっかり搭載。オープニングの寿司屋ネタは、まるでコントみたいな仕上がりですが、それも確信犯。あえてコントみたいに作ることで、コンフィデンスマンの世界に視聴者を誘っているのです。

今週放送された第3話では石黒賢さんが演じる美術評論家である城ヶ崎善三が登場。これもまた根っからのエロ親父で金の亡者なわけで、ダー子たちにやいのやいのやられていくわけですが、ここで語られている芸術論はある意味一つの真理ではなかろうかと思うほどです。古沢脚本サイコー!と喝采を上げた場面であります。また、既に話題になっていますが、3.5億円からのダー子の肩の動きからのCMが始まってブルゾン登場はもう神がかり的です。ヤバすぎます。

こんな感じで、1回見ただけではまるで物足りない、2回3回見直してもいろいろ発見がある連続ドラマ「コンフィデンスマンJP」!見逃し厳禁ですよ、姐さん!

ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ BD/DVD BOX 7月4日発売決定&レンタル同時開始!

「The Return」のDVD/BDの発売日が7月4日とやっと決まり、案の定、国内版は高い、特典なさすぎ、amazonリバーシブル・ポスターってなんだよ!と憤懣が吹き荒れています。注目の価格は定価¥21,384!amazonではさっそく¥19,000 ほどまでオフされ始めています。 

 特典映像はブルーレイBOXのみで、なんと数量限定!いかに、ここ日本でデイヴィッド・リンチの人気がマイノリティーであるかを物語っています。発売元は角川かと思っていたらパラマウントだそうで、かなりクールなビジネス判断をされた所以に納得。数出したって売れないんだから、好きな人向けに濃い商品を販売して、あとはライトユーザー向け、それでも需要が少ないから供給コストが高くなってしまうと。ごもっともでございます。逆にそれを安くせい!と騒ぐ方が、なかなかなような気がします。畑が多い郊外の隣町でキャベツが一玉60円で売っているのを見かけて、市街地の駅前スーパーで売っている190円のキャベツを60円にしろ!って騒いでいるような感じです。安く買いたいなら隣町に行けばいいのです。

僕的には軽く¥30,000 超えはするんじゃないかと予想していたので、かなり良心的な価格設定なのではないかと思っています。そりゃ、ヨーロッパ版を¥5,200 ほどで購入できれば、それに越したことはありませんけど...。ちなみに日本語吹き替え、日本語字幕付きのドイツ版が下記リンクになります。これをどうやったら購入できるのかなんて、僕にはさっぱりわかりません...。

いずれにしても、往年のピーカー、リンチフリークは絶対手元に置いておきたいアイテムだとは思いますが、たぶん、普通の映画ファンや、そういやぁ、昔、ツイン・ピークスって見てたなぁぐらいのライトな方は、レンタルで済まして終了ではないでしょうか。そのレンタルも全話見れたら、かなりのスジをお持ちの方です。大抵の人は第3章とか第5章あたりで意味わかんねぇ!と斬り捨てるのが関の山ではないかと。これだけ、ああじゃないこうじゃないと深読みしてる僕が言うのも変な話ですけどね。でも、その昔、デイヴィッド・リンチ=変態って言われてたんですから、このコンプラだクリーンだと騒がれている21世紀で、変態を最高!って言っちゃっちゃぁ、世の中がおかしくなってしまうとも思うのです。

深読みツイン・ピークス② トレモンド夫人

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

第2章「トレモンド夫人」

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さて、トレモンド夫人です。ツイン・ピークスの顔と言ったらご存じ丸太おばさんですが、その双璧を成すのがこのトレモンド夫人ではないでしょうか。それを証明でもするかのように映画『ローラ・パーマー最期の7日間』のエンドクレジットでは、ローラ・パーマーでもデイル・クーパーでもなく、トレモンド夫人と丸太おばさんが仲良く肩を並べ、先陣をきってクレジットされているのです。それだけこの両者の存在がツイン・ピークスに強いインパクトを与えている、もしくはリンチ監督の中でも特別なキャラクターとして位置づけられていると言えそうなのですが、しかし、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、テレビシリーズでトレモンド夫人が登場したのは第9話のたった1話のみとなっています。まるで「お前はもう死んでいる」と言い放ったケンシロウのセリフは、実は『北斗の拳』の中でたった一度しか言っていなかったみたいな感じで、そのインパクトの度合いというか、ファンの認識度の高さは他のキャラクターと比べても群を抜いているのです。

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今回はそんな謎すぎるトレモンド夫人の存在について深読みしていきます。そもそも映画『ローラ・パーマー最期の7日間』で登場していたトレモンド夫人は、実は夫人でもなんでもなく "チャルフォント" である可能性が非常に高いのではないかと思うのです。エンドクレジットでも "トレモンド夫人(チャルフォント)" と表記されていたし、上記の画像を見てお分かりの通り、テレビシリーズでは病床のご婦人だったはずの彼女は、映画ではシャキッと凛々しい立ち姿を披露しているのです。給食サービスを受ける必要なんてどこにもない上に、あろうことか給食サービスに出かけようとしたローラの邪魔をし、そのとばっちりがシェリーに及んでいたりするのです。というか、テレビシリーズでは給食サービスで訪問していたはずのローラですが、映画ではまるで初対面であるかのように描かれています。この辺もトレモンド夫人とチャルフォントの棲み分けになりそうです。さらに今回は『The Return』のラストが、なぜトレモンド夫人に帰結したのかにも迫っていきたいと思います。

 

1.3人のトレモンド夫人

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ツイン・ピークスという作品には3人のトレモンド夫人が登場します。旧シリーズ第9話で初登場するトレモンド夫人、その後、第16話でハロルド・スミスの自殺の真相を探るため再度訪れた際に登場するまったく別人のトレモンド夫人。そして新シリーズ第18章でセーラ・パーマーを訪ねた際に登場するトレモンド夫人です。

ここで注目したいのがトレモンド夫人のその名前です。エンドクレジットなどで表記されている正式名称は "Mrs.Tremond" です。まず "Mrs." ミセスと付いていることから既婚女性だということがわかります。孫のピエールがいるのですから誰かしらと思われるご主人がいて、その間に息子か娘がいて、その子供が孫のピエールになることがわかります。ただし、劇中ではそのご主人や息子や娘が登場することはありませんでした。

さらにトレモンドという名前です。"Tre" はイタリア語で "3" を現わします。"Mond" はドイツ語で "月" を、オランダ語では "口" を意味します。表記は少し変わりますが "Tres Monde" というフランス語にすると "普通じゃない世界" という意味に捻じ曲げることもできるのです。いずれにしても "モンド" という単語は "~の世界" と意味されることが多く、そこから容易に想像できるのが、トレモンド夫人は何かしらの世界の存在を暗喩しているのではないかということです。それが意図的であれ、無意識であれ、彼女の存在はツイン・ピークスという作品に幾重もの階層的な世界があることを暗にほのめかしている。それを体現している不思議な名前であると定義することができるのです。

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旧シリーズでは、ドナをハロルド・スミスのもとに導き、そして彼を破滅に追いやった人物としても描かれています。特筆すべきは第16話です。ダブルRでブツブツとハロルド・スミスの遺言を独りごちていたアンディー、それを聞いたドナがあることに気づきます。初めてトレモンド夫人のところに給食サービスで訪れた際、孫のピエールがつぶやいていた言葉、それがハロルド・スミスの遺言だったのです。ハロルドの死にトレモンド夫人も関わっているのではないか、そう結論づけたドナはクーパー捜査官と共に夫人の家を再訪します。しかし、家の中から出てきたのはまったくの別人でした。

この "再訪したら別人だった" というストーリー展開はサスペンスやミステリーなどでよく見かける展開だったりします。ことツイン・ピークスで語ると、なぜかヒッチコック映画がちょいちょい顔を覗かせるのです。先のハロルド・スミスは『サイコ』の主人公ノーマン・ベイツと妙なシンクロを果たし、ローラとマデリーンの関連性は『めまい』のマデリンとジュディを否が応でも彷彿させます。ジョシーの元旦那であるアンドルー・パッカードが死んだとされるボート事故は『レベッカ』、小さな町で起きた殺人事件のドタバタ劇という見方をすれば『ハリーの災難』、今回の再訪したら別人だったというシチュエーションも『北北西に進路を取れ』と酷似しています。

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特に『北北西に進路を取れ』は、タイトルの "North by Northwest" とツイン・ピークスの原題である "Northwest Passage" が "Norethwest" つながりであったり、有名なアシュモア山の攻防を彷彿させるかのように『The Return』でアシュモア山が(写真だけですが)登場したり、真夜中のドライブであったり、事の発端であるキャプランという人物が架空の存在であったりと、こじつけネタが多いのが特徴です。

スパイ合戦の目くらましとして登場したキャプラン同様、トレモンド夫人(チャルフォント)も、彼女に遭遇したドナやローラ以外の人物からすると架空の存在であると言えます。映画『ローラ・パーマー最期の7日間』では、トレイラーハウスの管理人であるカール・ロッドだけが、テレサ・バンクスのそばにチャルフォントというご婦人と孫が住んでいたことを目撃しています。しかも、そのトレーラーには二人続けてチャルフォントという人物が住んでいたことも明らかになっているのです。そして、チェット・デズモンド特別捜査官が失踪したのも、トレモンド夫人が住んでいたであろうトレイラーの下に "翡翠の指輪" を発見したからでした。

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これらのことからトレモンド夫人は "ロッジの餌食になる人間" のそばに現れる存在と言えます。ローラ・パーマー、テレサ・バンクス、ハロルド・スミスはいずれもトレモンド夫人の監視下にあり悲劇的な最期を迎えました。チェット・デズモンドの失踪については映画以外で語られることはなく、その所在についても『シークレット・ヒストリー』や『ファイナル・ドキュメント』で言及されることはありませんでした(ちなみにデズモンド捜査官に同行していたサム・スタンリーは、テレサ・バンクス事件の後、原因不明の心身衰弱に倒れ休職、今現在も職務に復帰できない状態であることが明らかになっています)。『The Return』に至っては、ローラママに成り代わり、パーマー家の住人としてごく普通に生活しているという離れ業まで見せています。

ここで一つの疑問が出てきます。トレモンド夫人と直接やり取りをしていたドナは、なぜ何事もなく過ごすことができたのでしょうか?厳密に言うと "何事もない" わけではないのですが、ローラやテレサのように命を落とすような悲劇に見舞われることはありませんでした。しかし、トレモンド夫人と接触したことにより、ドナにはある意味で命を落とすよりも悲劇的な状況が訪れたのです。それは『The Return』で登場したトレモンド夫人が、自らの事を "アリス・トレモンド" と語った所以でもあります。それはいったい何かというと「アイデンティティの喪失」です。

 

2.「Who are You?」

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よく言われているのがツイン・ピークスと『不思議の国のアリス』の関係です。海外のTPファンサイトでは、事細かにツイン・ピークスとアリスの共通項を洗い出しているブログがありますが、読んでいると「なるほど」と思うところも多々あります(中には僕のブログと一緒で、それはあまりにもこじつけすぎるんやないか?と思うものもありますが...。たぶん同じように確信犯なのかもしれません)。そんな中でも、やはり重要と思われるのが、この「Who are You?」ではないでしょうか。

不思議の国のアリス』の話をすると、ご存知の方も多いとは思いますが、白ウサギを追いかけて穴に落ちたアリスは、小瓶の飲み物やお菓子を食べて身体が小さくなったり大きくなったりし、訳が分からないと大泣きしたら部屋は大粒の涙で池になってしまい、その池を泳ぎ渡り、濡れた服をコーカス競争で乾かし、白うさぎの家でまた身体が大きくなってしまいフン詰まり状態に、出てけ!と投げられた小石のお菓子を食べたらまた身体が小さくなり、なんなんやこれは...と森を彷徨っていたらキノコの上で水タバコを吸っているイモムシに出会うのです。その場面が上記の挿絵になります。

イモムシは開口一番「あんたは誰だね?」とアリスに訪ねます。しかし、聞かれたアリスは答えることができません。身体が大きくなったり小さくなったりを繰り返して頭が混乱し、もしかしたら自分は頭の悪いメイベルになってしまったのかもしれないと疑い、もう自分が何者なのかもわからなくなっている時に、また気色の悪いイモムシが「あんたは誰だね?」と聞いてくるのです。アリスは正直に答えます。「わたしはわたしがクソみたいにわかりません」

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このイモムシとの問答に限らず、作者であるルイス・キャロルは作品の中で何度もアリスのアイデンティティの危機を描いています。首が伸びたり、チェシャ猫に出会ったり、助けた子供がブタだったり、お茶会に出席したりと、自分の意志や存在がことごとく危機的状況に陥っていくのです。先ほどのイモムシの「Who are You?」に対して、アリスは「あなたにしても、そのうちサナギになって、そのあとで、今度はチョウに変わったら、やはりなんだかおかしな感じがなさいませんか?」と質問返しをしますが、イモムシは「ちっとも、そんなこたぁない」とあっさり否定します。イモムシは自分が今イモムシの状態であることがわかっていて、環境が変わりサナギになったとしても、やはり自分がサナギであることを理解している。イモムシのアイデンティティはしっかり確立して揺るぎないのです。

では、ツイン・ピークスに話を戻します。第9話でトレモンド夫人のもとに給食サービスを届けに来たドナ。そこでトレモンド夫人は、新顔のドナに対して「あなたは誰?(Who are You?)」と質問します。ドナは答えます。「ローラの代わりに来ました」

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なぜドナはトレモンド夫人の質問に対して「ドナ・ヘイワードです」と答えず「ローラの代わり」と答えたのでしょうか?いろいろと解釈はできそうですが、素直に読み解くならドナはローラになりたいという "変身願望" を抱えていたからと仮定することができます。旧シリーズの第8話を見ると、ローラのサングラスをかけ、タバコを吸い、牢屋にいるジェームズに「私じゃ、おっ起たない?」とばかりに迫ります。これらの行動はローラそっくりのマデリーンへの嫉妬が招いたものですが、この時点でドナのアイデンティティは既に崩壊しています。トレモンド夫人を介してハロルド・スミスに出会うと、そのアイデンティティはさらにグズグズになっていきます。ローラの真似事をしてハロルドをたぶらかし、隠された秘密に迫ろうとするのですが、その結果、ハロルドは自殺、マデリーンは殺害されてしまいます。ドナ自身は "ローラごっこ" をすることにより、ローラ事件の何かの役に立ちたいという正義感じみたもの、そして、離れそうになるジェームズの気を取り戻そうとしていました。あわよくば「一番の親友だった私が事件を解決したのよ」という自尊心をも満たしたかったと解釈できるのですが、結果は真逆でした。結局、ドナはドナでしかなく、摸倣だったローラになることができなかった。さらには身近だった二人の人物が死を迎え、ジェームズは放浪に旅立っていく。踏んだり蹴ったりな結末を迎えてしまったのです。

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ドナのアイデンティティはシリーズ後半になるとさらに喪失していきます。屋根裏から出てきたドナママとベンジャミン・ホーンの親しげな写真を発見すると、自分の出生までが何かに隠されたものではないかと疑い始めるのです。今まで信じてきた自分の存在そのものがデタラメであって、アリスのセリフを拝借するなら「わたしはわたしがクソみたいにわかりません」という状態になっていきます。そうなるとジェームズさえもどうでもよくなって、今までずっと騙されていたという被害者意識みたいなものが芽生えてきます。その結果、ヘイワード家は壊滅的な崩壊を迎えます。ドナの疑心暗鬼は最終的に人間不信にまで発展し、それに輪をかけるようにベンジャミン・ホーンの "善い行いをしたい" という、これまた "善人ごっこ" というアイデンティティが、ヘイワード家にとどめの一発をブチ込んだのです。

『ファイナル・ドキュメント』では第29話以降のヘイワード家やドナのその後が綴られています。それを読むと、なぜ『The Return』にドナが登場しなかったのかの理由がわかるのですが、話は単純明快で、ツイン・ピークスにもう住んでいないからでした。ただ、最終的にドナは自らのアイデンティティを確立し、アリス的な物言いをするなら "不思議な夢の世界" から目覚めたことがわかります。この "不思議な夢の世界" というキーワードが『The Return』でかなり重要となり、モニカ・ベルッチが語っていた "夢見人" とも関連してくると僕は考えているのですが、それについては後述いたします。いずれにしても、ツイン・ピークスに登場するためには、この "不思議な夢の世界" に住んでいなければならず、アイデンティティを確立して現実と折り合いをつけてしまった "大人" は、ツイン・ピークスという舞台に立つことはできないのです。

 

3.トレモンド夫人が渡した物

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すっかりトレモンド夫人ではなくドナの話になってしまいましたが、上記の "不思議な夢の世界" への道先案内人のような役目を果たしているのが、このトレモンド夫人ではないかと思います。『不思議の国のアリス』のイモムシと同義であると捉えるなら、身体のサイズを大きくしたり小さくしたりできる "キノコ" を授けたのがイモムシであり(こうやって書くとまるでスーパーマリオですが...)、それによってアリスはハートの女王が住む美しい庭へ進むことが出来ました。では、トレモンド夫人はどんなアイテムを取り出したでしょうか?

旧シリーズの第16話でトレモンド夫人のもとを再訪したドナ。その際に手渡されたのがハロルド・スミスからの手紙であり、その中身は "ローラの日記" でした。そこには2月22日と23日の日記が記されていたわけですが、この日記については『The Return』の第7章のブログで詳しく考察済です(ツイン・ピークス The Return 考察 第7章 PART.1 失われたローラ・パーマーの日記を徹底解読!次元のゆがみがハンパないっ!)。ここで自論をまた繰り返すつもりはありませんが、一つ言及したいのが、このトレモンド夫人から渡されたローラの日記は果たして本物なのか?という疑問が出てくることです。もっと言えば、本当にハロルド・スミスは家から外に出て、この手紙をトレモンド夫人のポストに投函したのだろうか?と。

勝手に妄想を広げようと思えば、ローラの秘密を知られたくない何者かがハロルド・スミスの家に押し入り、彼を自殺に見せかけて殺した挙句、フランス語の遺書やローラの日記を拵えたと想像することもできますが、本編ではそんなトンデモ疑惑は微塵も出てきませんでした。どちらかと言うと、真偽の程は定かではありませんが、この "ローラの日記" によって、クーパーが見た夢を、実はローラも夢で見ていたのだと明かされたことの方が重要なのです。

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ここで語られる夢というのは、旧シリーズの第2話でクーパーが見た赤い部屋の夢、もしくはインターナショナル版のエンディング部分を指します。その夢の中でローラは自分を殺した犯人が誰であるかをクーパーに耳打ちしたわけですが、その夢を二人が共有していたという事実は、今まで何度も語ってきたように "集合的無意識" の世界で二人はつながっていると解釈できるのです。トレモンド夫人が渡したアイテムは、そのことをクーパーに知らせるために登場したものであると。それによって "ボブ" の正体が暴かれ、ローラ事件は一気に解決を見ることになります。この第16話で登場したトレモンド夫人の役割をまとめるなら、ローラ事件の犯人がリーランドであることをクーパーに示唆するため、あえて "ローラの日記" をドナに渡したということになります。

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続いてトレモンド夫人は、映画『ローラ・パーマー最期の7日間』で "扉の絵" をローラに渡します。「壁に飾ると素敵よ」と半ば飾りなさいと強要している感もありますが、その結果、ローラは夢の中でコンビニエンスストアの2階に迷い込むこととなりました。ここでもトレモンド夫人は道先案内人としての役目を果たし、この扉の先にお入りなさいとばかりにローラに手招きをします。その先にはピエールがいて、パチンと指を鳴らすと火の手が上がり、そこから赤い部屋にある台座へと場面は移ります。"翡翠の指輪" が置かれた台座に小人とクーパーが現れ、クーパーは「指輪を受け取ってはいけない」とローラに宣告をします。左腕が痺れた状態で目を覚ましたローラ、その横にはアニーが寝そべり、「私はアニー、デイルとローラと一緒にいるの。善いデイルはロッジにいて、そこから出られない。あなたの日記にそう書いておいて」と告げます。一度視線を外し、再びアニーに目を向けると彼女の姿はなく、痺れた左手には "翡翠の指輪" が握りしめられていたのです。不審がって部屋の扉を開け、家の廊下を眺めても人の姿はありません。ベッドに戻ろうとすると、扉の絵の中に自分の姿を目撃します。それは紛うことなきローラのドッペルゲンガーであり、翌朝目覚めると、ローラは全てが夢だったと悟るのでした。

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映画で渡されたアイテムでも、やはりローラとクーパー、さらにはアニーまでが "集合的無意識" の世界で出会っています。時間軸も、このシーンで出てくるアニーは第29話のロッジから救出された後の状態であり、ローラが生きていた時間軸とはかなりかけ離れています。さらにはアニーが着ている服がキャロラインと一緒ということは、「私はアニー」と言いながら、実はキャロラインであるという穿った見方もできます。クーパーに至っては、小人のことをわからないと言っていることから、ロッジに閉じ込められる前の状態ではないかと推測できますが、もちろん第29話以降のロッジで25年間を過ごしている間のワンシーンであると捉えることも可能です。さらには小人(別の場所から来た小さな男)が自分の事を "腕" であると初めて明らかにしたのも、このローラの夢のシーンになります。「私はこんな音がする」と、まるでインディアンが合図を送るかのように口をアワアワさせるのも然りです。

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驚くべきことは、これらのシーンは『The Return』の第7章でローラの日記として再び登場することです。事の発端は丸太おばさん(厳密には丸太おばさんが抱きかかえているダグラスモミの丸太)から「クーパーに関係する失くし物を探しなさい」という預言がホークに与えられたからでした。この発見された日記から示唆されるのは "クーパーは二人いる" という事実であり、フランク・トルーマンが25年前のクーパー失踪の謎に本腰を入れるきっかけにもなったのです。

ここでもトレモンド夫人は間接的にローラの日記、さらには "ボブ" と一体化している悪クーパーの存在を炙り出す道先案内人の役目を果たしています。この記事の前半で、トレモンド夫人は "ロッジの餌食になる人間" のそばに存在する監視役であると定義しましたが、こうして見ていくと監視役でありながら、ロッジに導く役割も果たしていることがわかります。"不思議な夢の世界" への道先案内人であると。では、最後に登場するトレモンド夫人は、いったい何を渡したでしょうか?

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ご存じの通り、彼女は何も渡しませんでした。しかし、今まで見てきた二つのキーワード "ロッジの餌食になる人間" と "不思議な夢の世界" を彼女に当てはめてみると、ぼんやりと見えてくるものがあります。

まずは誰が "ロッジの餌食" になったのか?ということですが、これはローラママであるセーラ・パーマーではないかと仮定することができます。元々この家に住んでいたローラママが消えた、もしくは失踪してしまい、その後釜にトレモンド夫人が住んでいる事実は、今までのハロルド・スミスやテレサ・バンクス、チェット・デズモンドと通じるところがあります。さらには、後日アップする予定のピエールの章でも触れますが、『The Return』でのローラママは完全にジャンピングマンと同一であるとされています。詳しいことは後日になりますが、トレモンド夫人の孫であるピエールがジャンピングマンの化身であり、そのジャンピングマンが憑依したのがローラママであるなら、そのローラママに成り代わってトレモンド夫人が登場したということは、ジャンピングマンが不要になった、もしくはジャンピングマンの目的が達成されたことを意味しています。つまり前者の解釈だとトレモンド夫人はジャンピングマン、如いてはロッジから解放されたと定義することができますし、後者の解釈なら、全てが完遂されたことを伝えるためにトレモンド夫人が現れたということになります。

"不思議な夢の世界" を当てはめてみるとどうなるか?ですが、まずは "アリス・トレモンド" という名前が全てを物語っています。この部分だけを『The Return』に当てはめてみるとします。『不思議の国のアリス』のラストは、襲い掛かってくる女王に対して「あなたたちなんて、ただのトランプじゃない!」と言い放ち、舞い上がるトランプに叫び声を上げると、川べりに座っているお姉さまの膝の上でアリスが夢から覚めるという物語になっています。『The Return』では、「ローラ」というセーラ・パーマーの呼び声に、キャリー・ペイジがけたたましい叫び声を上げると、全ての電気が消え、物語は終幕を迎えます。

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『The Return』のオチ解釈の一つとして有力な候補として上がっているのが『不思議の国のアリス』と同じ "夢オチ" ではないかとする意見です。しかし、だとするなら、夢である意味がどこにあるのか?という疑問が僕にはあって、どうも釈然としないのです。確かに、映画『ローラ・パーマー最期の7日間』では、フィリップ・ジェフリーズが「オレたちは夢の中で生きている!」と叫んでいました。それと同じセリフを『The Return』第17章のぼんやりクーパーもつぶやいています。これらのことから容易に想像できるのは、白ウサギやイモムシやチェシャ猫や帽子屋たちが "夢見人" であるアリスが創り出した不思議なキャラクターなのと一緒で、ツイン・ピークスの世界も "夢見人" である誰かが見ている夢の世界ということになるのです。となると、単純に考えて、アリスと名乗るトレモンド夫人が "夢見人" なのか?ということになるのですが、では、その意味はなんなのか?と考えると、どうもうまく説明がつきません。

仮にトレモンド夫人が見ている "夢" がツイン・ピークスの物語であるなら、それは『The Return』での話であって、旧シリーズとは別物であると考えなければいけません。でなければ、ローラ・パーマー事件もマデリーン・ファーガソンの殺害もハロルド・スミスの自殺も、果てはミス・ツイン・ピークスの大騒ぎや銀行爆破事件も、全てが夢だったことになってしまいます。これは物語としてはあまりにも横暴ですし、極論を言ってしまえば全てのフィクションが夢で片づけられてしまいます。では『The Return』だけがトレモンド夫人の夢なのか?と結論づけてみても、結局は総論で僕が妄想したように、ラスベガス以外も夢(もしくは幻)だったことになり、物語は根も葉もない空論になってしまいます。

なので "夢見人" がトレモンド夫人である可能性は極めて低いと結論づけても差支えないと思うのですが、ここで "夢" から発想の転換をして "現実に戻る" と仮定してみるとどうでしょうか?特に『The Return』では、例えばヘイスティングス校長が作っていたブログ「ゾーンを探して」が実際に我々が住む現実の世界にも存在していたり(The Search For The Zone)、書籍『シークレット・ヒストリー』が実際の歴史をなぞりながら、あたかもツイン・ピークスや "翡翠の指輪" が現実に存在しているように描いていたり、第14章でローラママが "Truck You" の首を噛み千切った "エルクス #9 ポイント・バー" のフェイスブックまで存在します(Elk's #9 Point Bar - Facebook)。グレート・ノーザン・ホテルやスノコルミーの滝、ダブルRダイナーが現実の観光地として有名なのはご存じの通りです。果ては、ここで登場するアリス・トレモンド夫人を演じたのは、実際にこの家に住んでいるご婦人であったりもするのです。

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第18章の後半、リチャード捜査官とキャリー・ペイジが真夜中のドライブで立ち寄る "VARELO" というガソリンスタンドも現実に存在する企業です。こうやって見ていくと『The Return』はミズモトアキラさんが考察していたように、メタフィクションとして虚構と現実が曖昧になっていく過程を描いていると読み解くことができます。というよりも、フィクションであるツイン・ピークスという虚構(テレビの中)から、2017年の現実の世界にキャラクターが飛び出してきたという印象さえ受けます。ある意味、貞子みたいな感じとでも言いましょうか。

このように捉えると "アリス・トレモンド" という存在は、『不思議の国のアリス』で、夢の中の不思議な体験をがっつりとネタバレしている "アリスのお姉さま" みたいな存在と言えるのかもしれません。草がガサガサしていたのは白ウサギが走ってきたからではなく単に風が吹いていたから、キチガイなお茶会のカチャカチャした食器の音は羊の首からぶら下がった鈴の音がしたからとか、にせウミガメが泣いていたのは遠くで牛が鳴いていたからとか、アリスのお姉さまはことごとく「そんなものは全て夢じゃ!」とばかりに不思議な世界をぶった切っていきます。同じようにアリス・トレモンド夫人も、FBIだからなんぼのもんじゃいと微塵も物怖じせず、ローラママなんて知ったことか、貸家だと?ふざけるな立派な持家じゃい!、チャルフォント夫人じゃ、チャルフォント!と、ママに会わせてあげるよとはるばるオデッサから連れてきたキャリーの目の前で、リチャード捜査官をことごとくぶった切るのです。

そういう意味で見ると、アリス・トレモンド夫人が渡した物は "現実" という見方が出来るのかもしれません。最後の最後で突き付けられたものが "現実" であり、それは当然メタフィクションという見方ができます。しかし、アリスによってリチャード捜査官(クーパー)が現実に目覚めたのか?と問うと、決してそうではありません。どちらかというと却って混乱を招いた結果になっているのです。いや、そんな生易しいものではないかもしれません。ここで描かれているのは "世界の終わり" であって、それは極めてネガティブな力によって引き起こされた現象なのかもしれません。

 

4.アリス・トレモンドはジュディなのか?

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今までトレモンド夫人を介して "夢" という集合的無意識の世界でしか意志を共有することができなかった二人ですが、『The Return』のクライマックスでは、無意識という虚構の世界を飛び出し、リチャード捜査官(クーパー)は、キャリー・ペイジ(ローラ)をセーラ・パーマーのいる "家" に送り届けることが最大の目的となりました。ローラとセーラを引き合わせることによって、いったいどんな化学反応を起こそうとしていたのかは定かではありませんが、兎にも角にもクーパーはローラを "家" に連れて帰ることしか考えていません。そして、そこで待ち構えていたのがトレモンド夫人になります。

『The Return』第17章では、フィリップ・ジェフリーズに1989年2月23日に飛ばしてもらうよう願い出て、難なくタイムスリップしたクーパーですが、その際にジェフリーズは「ここで君はジュディを見つけるだろう。おそらく誰かがいる」と忠告をしています。その "ジュディ" がこの後の1989年の森でローラをさらった何かなのか、もしくは第18章のこのアリス・トレモンドなのか、それとも、そのどちらでもないのか、というところを、これから整理していこうかと思います。

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そもそも僕は『The Return』第18章の考察で「ジュディ=アルルのヴィーナス=トレモンド夫人」であると一度結論づけました。"JUDY" は "JOUDY" であり、"JOUDY" は "JUDY" であるということから、トレモンド夫人はチャルフォントであり、チャルフォントはトレモンド夫人であるということとイコールではないかと思ったのが一点、手鏡と林檎を持つ大理石のヴィーナスが "カリカリ音" の正体で、このヴィーナスがローラをさらった張本人であるからイコール "ジュディ" であるというのが二点目、いずれも見た目と本質は違うものであり、それはジェフリーズが発見したシアトルのジュディ、リチャードが発見したオデッサのジュディも包括するという考察でした。三点目は、そうは言っても結局はリンチ作品の話だし、『ファイナル・ドキュメント』やDVD/BDが発売されないことにはなんにもわかんないんや、とそのまま放置したことです。

DVD/BDの特典映像はまだ拝見していないので何とも言えませんが、既に発売されている『ファイナル・ドキュメント』を見ると、"ジョウディ" というのはシュメール神話に登場するウトゥックの中の一つであるということが明かされています。映画『エクソシスト』で言うところのパズズ、もしくはベルゼブブを指します。

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"ジョウディ" は女型で、"バアル" は男型であるとされていますが、それが意味するところは、海外の熱心なピーカー達が議論していたように、バアル=ベルゼブブ "Beelzebub" =BOBが男型であり、それと同じ女型を象徴する何かがあるのではないかという等式に辿り着きます。もちろん、これは完全なる後付ではあると思いますが、Ba'al=Be'zebub=BOBの等式はかなり信憑性があるのではないかと。では、ジョウディ=〇〇〇=〇〇〇には何が入るのか?

僕の結論をこの等式に当てはめると、ジョウディ=アルルのヴィーナス "Venus of Arles" =トレモンド "Tremond" となり、完全に不等式になります。アルルをアリスと言い換えることも可能かもしれませんが、今まで見てきた "ロッジの餌食" と "不思議な夢の世界" というキーワードから考えても、トレモンド夫人が女型の悪魔であると定義づけるにはあまりにも突飛です。前述したように、ジェフリーズは「ここでジュディを見つけるだろう」と忠告をしてはいましたが、それはトレモンド夫人ではなく別の誰かを指していることになり、僕が結論づけた考察は見当違いということになるのです。

では、先ほどのジョウディ等式には誰が当てはまるのか?ということになりますが、海外のピーカーもそこまではまだ煮詰まってはいないようです。シュメール神話やバビロニアアッカド神話、ギルガメシュ叙事詩なんて言われると、僕みたいな母国日本の歴史さえもままならない人間が、今から4000年~5000年も前の海の向こうの話を理解できるわけがなくて、もう到底ついていけるレベルではないんですが、それでもなんとなく思い当たる節が一つだけあるのです。それが先ほどの "アルルのヴィーナス" (Venus of Arles) です。

『The Return』第18章の考察でも "アルルのヴィーナス" は聖書のイヴを暗喩しているのではないか、そしてイヴをそそのかした "蛇" がジュディに該当するのではないかと妄想しました。そこからさらに妄想を膨らましてですね、"蛇" = "蛇女リリス" と拡大解釈してみると、なんとなくジュディの姿が見えてくるのです。

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これです。この画像は『バーニーの浮彫』と言われ、イギリス、ロンドンにある大英博物館に展示されています。ここで描かれている女性のモデルとされているのがリリス、イナンナ、イシュタル、エレシュキガルのどれかではないかと今でも議論されているレリーフなのです。書籍『シークレット・ヒストリー』では "大淫婦バビロン" として紹介されていました。ここで描かれているのが "蛇女リリス" であるなら、イヴをそそのかした蛇ということになり、さらには両脇にフクロウまで従い、極めてネガティブな存在であると定義することができるのです。となると、ジョウディ "JOUDY" =リリス "Lilith" になり、さらにその先に誰が来るのか?ということになります。そこで書籍『ファイナル・ドキュメント』で明らかにされたローラママの本名が出てきます。

セーラ・ジュディス・ノヴァク・パーマー (Sarah Judith Novack Palmer)

完全にジュディが入ってます。もう間違えようがありません。まるで今まで "D" を隠すためにゴールド・ロジャーと呼ばれていた海賊王みたいなもんじゃないですか!ビックリです。

 

そんなわけで、このローラママとジュディ、さらにローラママに憑依したジャンピングマン、その化身であるトレモンド夫人の孫ピエールについて、次回、さらに深読みしていきたいと思います。なんだか、次回のテキストも濃くなりそうな予感でいっぱいです。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「トレモンド夫人の孫」

深読みツイン・ピークス① リンドバーグ事件

「The Return」を解読するための旧ツイン・ピークス巡礼の旅シリーズ

第4回「ツイン・ピークス シーズン2を深読みしてみる」

 

【作品情報】

タイトル:TWIN PEAKS: season 2

『ハロルド・スミス編(巨人の予言)』

第8話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト&デイヴィッド・リンチ

第9話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / ハーリー・ペイトン

第10話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ロバート・エンゲルス

第11話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ジェリー・スタル、フロスト&ペイトン&エンゲルス

第12話:監督 / グレアム・クリフォード 脚本 / バリー・プルマン

第13話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

『リーランド・パーマー編(ローラ事件の真相)』

第14話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト

第15話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / スコット・フロスト

第16話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

『エブリン・マーシュ編(南北戦争ごっこ)』

第17話:監督 / ティナ・ラスボーン 脚本 / トリシア・ブロック

第18話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / バリー・プルマン

第19話:監督 / キャレブ・デシャネル 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第20話:監督 / トッド・ホーランド 脚本 / ハーリー・ペイトン

第21話:監督 / ウーリ・エーデル 脚本 / スコット・フロスト

第22話:監督 / ダイアン・キートン 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

ウィンダム・アール編(ミス・ツイン・ピークス)』

第23話:監督 / レスリー・リンカ・グラッター 脚本 / トリシア・ブロック

第24話:監督 / ジェームズ・フォーリー 脚本 / バリー・プルマン

第25話:監督 / デュウェイン・ダンハム 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第26話:監督 / ジョナサン・サンガー 脚本 / マーク・フロスト&ハーリー・ペイトン

第27話:監督 / ステファン・ジレンハール 脚本 / ハーリー・ペイトン&ロバート・エンゲルス

第28話:監督 / ティム・ハンター 脚本 / バリー・プルマン

第29話:監督 / デイヴィッド・リンチ 脚本 / マーク・フロスト、ペイトン&エンゲルス

 

大まかなあらすじについては下記の映画.comへ。

ツイン・ピークス シーズン2 : エピソード - 海外ドラマ 映画.com

 

「The Return」のDVD/BD発売までの時間潰しシリーズ第4回目です。この連続コラムを思いついた当初は、この序文じみた冒頭に「とうとう発売日決定!」と書いてですね、第5回目をDVD/BD発売後にでもアップできればと目論んでいたのですが、まあ、ご存じの通りびっくり仰天な展開です。このまま永遠に発売されないんじゃないかと思うほど、云とも寸とも言わないシカト状態が続いているわけでして、10年前のシーズン2DVDボックスの悪夢が再び!みたいな感じです。それとも、とんでもないサプライズがこのあと用意されていたりするのでしょうか?だとしたら嬉しいんですけどね。

てなわけで、シーズン2です。前回同様、監督&脚本のリストを上記に挙げてみましたが、それだけではイメージしづらい部分もありますので、勝手に〇〇編みたいに区切ってみました。これが適当かどうかは脇に置いておくとして、ある程度の目安になればとは思います。で、この中で "エブリン・マーシュ編" が本当に退屈で、今でもあまり好きになれません。それもそのはずで、ABCテレビの重役から早くローラ殺しの犯人を描きたまえ!と迫られたリンチ&フロストは、たぶん伝説の第16話で完全に燃え尽きた、もしくは完全にヘソを曲げてしまい、第17話からは作品をドブに捨てた状態になっていたのではないかと思うのです。そんな中でも「ツイン・ピークス」らしさを損なわなかった、もしくは後々につながる謎が散りばめられていたのは、ひとえにハーリー・ペイトンの功績が大きいのではないかと。

シーズン1のブログ同様、今回もあまり触れられていない部分に焦点を当てながら「The Return」と比較をしていくつもりでいます。さらに今回は「The Return」もしくは「ツイン・ピークス」の根幹というか核心にまつわる自論も展開していこうかと思っています。なので、いつも以上に重要なネタバレが含まれております。いつも以上に妄想が激しくなっております。いつも以上に文字数も増えております。そんなわけでして、この第4回目については、各テーマごとに記事を小分けにしてですね、その分、DVD/BD発売までのカウントダウンができればいいなぁ、なんて目論んでおります。

では、姐さん。もうこうなったら「The Return」のインポート版を買っちゃおうかななんて思ってたりもしますが、買った途端に国内版が出るのもイヤなので、とりあえずシコシコまた過去を振り返ることにいたします。

 

第1章「リンドバーグ愛児誘拐事件」

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シーズン1第1話の冒頭でケネディ兄弟とマリリン・モンローについて語っていたクーパー捜査官ですが、シーズン2の前半でも彼はある実際の事件について口にしています。それが「リンドバーグ愛児誘拐事件」。クーパーはこの事件について「できれば僕が事件を解決したかった」とダイアンに語っています。このたった一言のセリフを今回は拡大解釈していこうかと思います。

 

1.事件の概要

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1932年3月1日、ニュージャージーにあるチャールズ・リンドバーグの自宅から生後20ヶ月の息子が何者かに誘拐されるという事件が発生します。もぬけの空になった子供部屋には犯人からの置手紙があり、そこには身代金として5万ドルを支払えば子供を返すという旨が書かれていました。リンドバーグと警察は子供の安全を第一とし、要求された5万ドルもの身代金の支払いに応じます。しかし、誘拐から2か月後の5月12日、リンドバーグ宅から程近くの木立ちの中に息子の遺体が発見されてしまうのです。

犯人の行方がわからぬまま時が過ぎ、誘拐事件発生から2年後、1934年9月に突如、容疑者としてリチャード・ハウプトマンというドイツ人が逮捕されます。身代金として支払った5万ドルには通し番号がつけられ、ハウプトマンはその番号がついたお金をガソリンスタンドに支払っていたのが逮捕の決め手になったのです。

まだ1才半にしかならない子供が殺されたというセンセーショナルな事件は、当時の壮絶なマスコミの追及を正義の鉄槌と許し、わずか半年後の1935年2月に殺人罪の有罪判決と死刑が確定。無罪を主張するも控訴はことごとく棄却され、逮捕から2年後の1936年4月、ハウプトマンは電気椅子にて処刑、事件は解決したとされています。

 

2.なぜ「リンドバーグ事件」なのか?

シーズン1の考察で語ったように、ケネディ暗殺やマリリン・モンローの自殺は何らかの陰謀によって引き起こされた事件ではないかという見方が、50数年経った今でも言われ続けています。同様にリンドバーグ事件も表と裏がある事件だと言われています。もちろん事の真相については闇の中ですが、根強く言われているのがオズワルドと同じようにハウプトマンも冤罪であった可能性がある説、さらにはリンドバーグの自作自演だったのではないかという説まで浮上しているのです。

シーズン2の冒頭にクーパーがリンドバーグ事件について言及した理由には下記の三点が推察できます。

 ①FBIの管轄が拡大した "リンドバーグ法" 施行のきっかけになった重要な事件だから

 ②冤罪説や自作自演説など真犯人が定まらない難事件だから

 ③当事件をベースにした「オリエント急行殺人事件」と同義にすることで自身を名探偵ポアロと同列にしようとしたから

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1974年公開の「オリエント急行殺人事件」は40年以上経っても名作として輝きを失わない

ここで取り上げたいのは、やはり「オリエント急行殺人事件」です。つい先日もケネス・ブラナージョニー・デップとタッグを組んでリメイクをしていましたが、この極上のミステリー映画が世界に残した足跡はあまりにも巨大です。そのネタバレをここで語るつもりはありませんが、ただ、映画内で語られているリンドバーグ事件は、あからさまにハウプトマン以外の真犯人がいることが大前提になっていて、さらにマスコミに翻弄された事件関係者たちの悲劇までをも浮き彫りにしているのです。

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これらのことから浮かび上がってくるのが "冤罪" というキーワードです。それはツイン・ピークスにも当てはめることができます。ローラ殺しの犯人として真っ先に逮捕されたベンジャミン・ホーン。どう見たって彼は真っ黒ですが、ローラを殺めた訳ではありませんでした。ここにも冤罪のキーワードが隠れています。さらにローラパパ、リーランド。彼は第16話で涙ながらに娘をどれだけ愛していたかを語っていましたが、しかし、その行為を "ボブ" のせいにしたところで世間は納得しません。シーズンを継続させるため、ローラパパが犯人じゃなくて、あくまでも "ボブ" が犯人だと押し通した制作陣ですが、その効果は儚いものでした。それと同じことが「The Return」のロイス・ダフィーにも起こっています。「青いバラ」と言い残し姿を消したロイスが本物だったのか、無実を叫び続け獄中で自害してしまったロイスが本物だったのかは、本編や「シークレット・ヒストリー」で語られることはありませんでした。いずれにしてもどちらかが冤罪であり、どちらかがしてやったということになります。ルース・ダヴェンポート殺害容疑で拘留されていたビル・ヘイスティングスも然りです。彼の真実の叫びは妻に届くこともなく、彼女は悪クーパーによって闇に葬られました。

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オリエント急行殺人事件」との共通点はこれだけではありません。乗客12人全員が容疑者という至極のプロット同様、ツイン・ピークスの住人全員が容疑者というプロットも往年の名作をしっかりと踏襲しています。登場人物それぞれが際立っているという点も同義に見ることができます。名探偵ポアロとクーパー捜査官の対比も然り(もちろんシャーロック・ホームズも忘れてはなりません)。それらのことから言えるのは、ツイン・ピークスが今までにない極上のミステリー・ドラマだと自ら宣言しているということなのです。第16話までは...。

 

3.見え隠れするJ・エドガーの影

上記のケネディ暗殺やモンロー自殺、そして、リンドバーグ事件に共通する或る人物がいます。それが初代FBI長官ジョン・エドガーです。

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彼については映画「ローラ・パーマー最期の7日間」の考察でも触れましたが、このJ・エドガーとツイン・ピークスの共通点は、これまたいろいろと深読みしがいのある所が満載になっているのです。

 ①エドガーを免職しようとしたケネディは暗殺された

 ②ケネディとモンローの関係を盗聴盗撮していた

 ③ロバート・ケネディのFBI締上げ政策にエドガーは憤怒していた

 ④リンドバーグ事件を利用してFBIの管轄を拡大した

上記の①と②はシーズン1のクーパーのダイアローグの暗喩として、④については今回の暗喩として(クリント・イーストウッドの映画「J・エドガー」でも同様に描かれています)、いずれもJ・エドガーを指しているのではないかと深読みすることができます。さらには、

 ⑤服装倒錯者だった

これがツイン・ピークスの何につながるかと言うと、これしかありません。

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女装DEA捜査官デニス・ブライソン。彼、いや...、彼女が「The Return」でどんな立場になっていたかというと、ご存じの通り、FBI首席補佐官というゴードン・コールよりも上の立場に出世しているのです。これは暗にJ・エドガーのパロディであるとしか言いようのない描き方をしています。というのも、エドガーもデニス(デニース)も元は司法省からキャリアをスタートしているという点で共通し、さらには警察機関であるFBIに出世しているというのも全く同じキャリアアップを果たしているのです。

まだ、あります。

 ⑥フリーメイソンのメンバーだった

言わずと知れたフクロウです。この秘密結社がどこまで世界を牛耳っているのかなんてパンピーの中のパンピーである僕にわかるわけがないのですが、ただ、フリーメイソン関係でツイン・ピークスと共通していそうな写真があります。それが先ほどのこの写真。

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このJ・エドガーの写真、海外のツイン・ピークス関連のツイッターでも話題になっていたのですが、その時にピーカーたちが注目していたのが彼のネクタイです。

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なんか見たことあるマークではないですか?そうです、これです。

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さらには、

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フクロウのマークとも酷似しています。ここで注目したいのはフクロウのマークではなく、プルトニウムの記号を匂わせるブリッグス少佐の首筋にあるアザ、そして、ツイン・ピークスの2つの山を現わす丸太おばさんのふくらはぎにあったアザです。

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この2つのマークをクーパーがああじゃないこうじゃないと組み合わせたのが上記のマークであり、「シークレット・ヒストリー」ではツイン・ピークスの2つの山の丁度中心に第三の目が存在していることを仄めかしています。その位置は、

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ホークが示したこの地図とぴったり符合するのです。となると、エクスペリメントが第三の目、要するにフリーメイソンの言う "全てを見通す目" であると定義することができます。ただ、そうなると困った問題が出てくるのです。結局、エクスペリメントは陰で世界を支配する悪い奴なのか?、それとも人類をどこかに導こうとする "神" みたいな存在なのか?という、なんともあやふやなイメージしか捉えることができないのです。神になることもできるし、悪魔になることもできる。善と悪という側面が共存しているとでもいいましょうか。それがJ・エドガーの存在とも共通しているのです。しかし、この定義は僕みたいな深読みをして楽しむファンには通用するテーマなのですが、ことライト・ユーザーになると、なんだかよくわかんないで片づけられてしまう非常に "オタク" 的な考え方なのです。まだ旧シリーズのように「ボブ=悪」という単純明快な図式があればいいのですが、んん、この辺の面白みが少しでも伝わるといいのですが...。

 

4.メビウスの環

リンドバーグ事件に話を戻します。事件の概要にも記載しましたが、リンドバーグの息子を誘拐した際、犯人は手紙を部屋に置いていきました。それがこれです。

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ここで注目したいのが右下に描かれたマークです。犯人は誘拐してから身代金の受け渡しまでの指示書にはこのマークを記載する、故にこのマークのない指示書は偽物であると言い渡しています。

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上記のように犯人からの指示書にはどれも2つの円を重ねた中心に黒い円が塗り潰され、両サイドと黒円の中心に穴があけられているのです。拡大すると下記のような図になります。

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ここまでは実際にあった事件のお話ですが、これ以降は本当に僕の妄想なので、決してリンドバーグ事件の真相であったり、このマークの真の意味を語っている訳ではない事をご了承ください。

 

去年、「The Return」が世界で放映され、フィリップ・ジェフリーズがフクロウのマークをメビウスに変換した際、あるピーカーが "ジュディの軌道" というピクトグラムを発表しました。それが下記になります。

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消防士とジャンピングマンの攻防が赤い部屋を中心に多岐に影響しているという図です。ホワイト・ロッジとブラック・ロッジは表裏一体の関係にあり、緑の点で表示されているジュディは、先述したJ・エドガー同様、善にも悪にも影響を及ぼしているというピクトグラムです。

このマーク、完全にリンドバーグ事件のマークと符合します。そこから何が導き出せるかというと、ここで内藤仙人さまの理論がまた登場するのですが、生と死の狭間の世界がツイン・ピークスの世界であるということです。片腕の男の言葉を借りるなら「2つの世界の狭間から声が放たれる」わけです。

リンドバーグ事件のマークは2つの円が重なっていますが、こちらの方がより象徴的のような気がします。僕らは生と死が重なり合っている世界で生きている、もっと言うなら夢と現実が重なり合っている世界で生きている。意識と無意識が両立している世界で生きている。その世界を映像化したのが「The Return」であり、僕らは自分たちの意志でどちらに転ぶこともできるのだと。シュレディンガーの猫のように、常にどちらの可能性も重なり合っている状態なのだと。

 

そんなわけで旧ツイン・ピークスの第8話、「リンドバーグ事件は僕が解決したかった」の一言からここまで拡大解釈してみました。かなりの力技でこじつけた感もありますが、逆を言うと、ここまでこじつけられるだけの作品もなかなかないと思います。

では、次回はトレモンド婦人の謎に迫ります。

 

巡礼の旅シリーズ 第4回「トレモンド夫人」