that passion once again

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ライフ・イズ・ビューティフル

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「僕たちは夢を見ているのかもな。みんな夢なんだ。朝になると、ママが起こしてくれる。そして、カフェラテとビスケットを用意してくれる。食べ終わったら、パパとママは何度も愛し合うんだ」

このセリフは、映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の中の一節です。

 

去年、2020年の2月、私はテレビの中の豪華クルーズ船に隔離されている人たちを、まるで他人事のように眺めていました。WHOにおいて健康観察の対象期間とされている14日間の隔離。まさか、その1か月半後、日本中が家に隔離されなければならなくなるなんて、当時は誰も予想していなかったと思います。

あれから、もうすぐ1年が経とうとしている。

ステイ・ホーム。

withコロナ。

アフターコロナ。

その間にも卒業式や入学式が取りやめになった学校があり、子供たちは長い間、教室に通うことができず、内定取り消しや入社してもテレワークのみだったりする新社会人の人たちがいたりします。職を失い、家族を支えられなくなっている人たちがいる一方で、休みもなく働きづめになって家族と会えずにいる人たちもいますし、そういう方たちの健康状態と精神状態も危惧されています。誰もが他人との距離を図りながら、誰もが他人との距離を縮めたいとも思っている。でも、それが許されない。

この混沌としている状況が、どこか "精神的な強制収容所" の様相を帯びているように感じてしまい、冒頭で記した映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の一節を思い浮かべてしまったのです。寝て、目が覚めたら、みんな夢だった。寝て、目が覚めたら、昔の今まで通りの朝を迎えられる。そんなだったら、どんなにいいだろう。でも、映画の主人公グイドの目の前に映し出されるのは、目を覆いたくても覆うことのできない悲惨な現実でした。

そして、私の目の前にも、ここにきて、首都圏で再び緊急事態宣言が発出されようとしている現実があります。

 

2020年12月31日、東京のコロナ感染者数は過去最多の1337人。

コロナ感染者数は累計で249,000人に上りました。

ちなみに2020年に交通事故で負傷された方は累計368,601名。

コロナで亡くなられてしまった方は3,472名。

交通事故で亡くなられた方は2,839名となっています。

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出典:コロナ感染者数 2020年 - Google 検索

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出典:2020年の交通事故死者数は2839人、統計開始以来最小を更新し初めて3000人を下まわる - Car Watch

 

この対比でなにが言いたいかというと、どちらも "安全" という個人個人の意識さえあれば、数を減らしていくことができるということ。世の中のルールを無視すれば、当然、事故も増えるし、それによって引き起こされる悲劇も増えていくのは、ここで説明するまでもないことですよね。

ただ、意識をしていても、どうにもならない世界もあります。それが "がん"。

統計データでは、2017年に新たに "がん" と診断された羅患例は977,393例。

2018年に "がん" で亡くなられた方は373,584名と発表されています。

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出典:最新がん統計:[国立がん研究センター がん登録・統計]

 

単純計算で、COVID-19に感染して亡くなられてしまった方は全体の1%に対して、がんで亡くなられた方は全体の38%にもなります。普段から健康に気を使っている人、もしくは健康そのものと思っていた人が、急にがんに患ってしまったというのを今まで幾度も見てきていますし、私自身もいつそのようになってしまうか、決して例外ではありません。コロナ感染も同様ではありますが、WHOが発表しているように、がんのように特別な治療を必要としていない点では(もちろん人工呼吸器が必要になるような超重症者の方々は別です)、病としては軽度と言えるのかもしれません。

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出典:covid-19 - Google 検索

 

話は緊急事態宣言に戻ります。

今の世界、早急な解決が望まれているのはもちろんコロナ感染の収束です。ただ、思うのです。強制収容所での親衛隊員や監視兵やカポーが、自分たちの価値観だけを押し付けて弱者をいいようになじっていたように、このコロナ禍も同じ構造になってしまってはいないだろうかと。補助や給付金だって、強制労働者たちに与えられていた食事のように微々たるもののように感じてしまいますし、これこれをすれば救われると藁をもつかむ思いで我慢をしてきた学生や社会人や経営者たちも、まるでその我慢をあざ笑われるかのような極端な自粛の風潮は、あまりにも報われなさすぎると思うのです。

コロナ感染の収束=コロナによる死者数をなくすということであれば、先述したようにCOVID-19での死亡率というのは1%でしかありません(もちろん、これは日本での話です)。この1%のために、私たちは経済を停め、他者との接触を避け、個人の価値観から見てルールから外れていると思える人たちを凶弾しなければならないのでしょうか。

ちなみに2020年に自ら命を絶った人の数は19,101名。この数はコロナで亡くなられた方の5.5倍にもなります。

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出典:自殺者数|警察庁Webサイト

 

それでも、やはりコロナが終息しない限り、大規模なイベントは永遠に先送りとされてしまいますし、それよりも何よりも、おじいちゃんやおばあちゃんと気軽に会うことさえ許されず、家族は分断されたままになってしまいます。それも、まるで強制収容所のようだと思ってしまうのです。私たちの周りには、目に見えない鉄条網が張り巡らされ、愛する家族と切り離され、最初のうちは2週間耐え忍べば、1ヵ月耐え忍べばと思っていたものが、半年になり、もうすぐ1年を迎えようとしている。

『夜と霧』の作者であるV.E.フランクルは、ドストエフスキーの言葉を借りて「人間はなにごとにも慣れる存在だ」と心の底から言えると記しています。極限の世界にも人間は慣れてしまう。それが恐怖に支配されている世界だとしても慣れてしまうのです。そして、映画『ライフ・イズ・ビューティフル』の主人公グイドは、慣れてしまうことに対して、息子ジョズエにこう語ります。

さあ、ゲームの始まりだ。

お前は1000ポイント貯めなきゃいけない。

もし1000ポイント貯めたら、

大砲のついた戦車を家に持って帰れるんだよ。 

どんな状況下にあるとしても、それを楽しんでしまおう。楽しんでいる限り、その場に慣れてしまうことはないし、ゲームとなれば、その場その場で頭も使わなければならないし、変な話ですが、いつまでも希望をもつことができる。

このコロナ禍でも同じこと。いろいろな方々が頭をひねり、テクノロジーを駆使して、それぞれの人生をそれぞれのやり方で生き抜いている。だから、私もあきらめないで、悲観的にならずに、生きていることを感じながら、生きていることに感謝しながら、この先の未来をまだまだ歩いて行こうと思うのです。そうしていれば、必ずや解放される日はやってくるはずなのです。映画のように家族と再会できる日が必ずやってくるはずなのです。

youtu.be

 

追記として、スペイン風邪の猛威は1918年~1920年までの2年間であり、なんの対策もできずに翻弄されていた世界であったとしても、1920年の半ばに突如、音もなく忽然と消え去ったと言われています。

出典:第一次大戦史から学ぶ:世界を揺るがしたスペイン風邪の発生源は米国だった=板谷敏彦 | 週刊エコノミスト Online